皇居におけるタヌキの果実採食の長期変動

天皇陛下が共著者と執筆されたタヌキの食性に関する論文「Long-term Trends in Food Habits of the Raccoon Dog, Nyctereutes viverrinus, in the Imperial Palace, Tokyo」(英文論文)(「皇居におけるタヌキの果実採食の長期変動」)が,8月22日発行のBulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A (Zoology), Volume 42, Number 3(国立科学博物館研究報告 A類(動物学)第42巻 第3号)に掲載されましたのでお知らせします。

著者: 明仁(※1),酒向貴子(※2),手塚牧人(※3),川田伸一郎(※4)

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概要

2009年1月から2013年12月までの5年間にわたり,皇居吹上御苑内の同一のタヌキの溜糞場において毎週日曜日午後2時に調査を行い,採集した糞の内容物を分析して,含まれる種子からタヌキの季節的な果実採食の変動を把握した。

261回の調査で164個の糞を採集し,その内容物から95分類群の植物種子が検出された。1回のみ検出され常食性がないと考えられるものを除くと35分類群で,そのうちタヌキの主要な食物として考えられる上位8分類群の植物について季節変動を明らかにした。

ムクノキの種子は1月と9月から12月,イイギリは2月,クサイチゴは5月から7月,サクラ属は5月,6月,クワ属は6月,タブノキは7,8月,イヌビワは9月,エノキは12月に多く出現した。

クサイチゴやタブノキなど果実が軟弱で多汁質のものは,結実期と直後の落果期に高い頻度で出現し,その時期の主要な餌資源となっていることが分かった。ムクノキやエノキなど熟すと果肉が柔らかくなるが,比較的固い果皮をもつ果実は,結実期と落果した後の数ヶ月間餌資源として利用されていた。中でも,ムクノキの果実は皇居のタヌキの主要な餌資源となっている。

イイギリは2月以外にも様々な時期に出現するものの1回当たりの種子数が少ないことから採食する際に副次的に混入したものと考えられる。

果実の結実,落果が少ない3月,4月には,イチョウ,シイカシ類の種子片が見られることから,タヌキは栄養分を補うために,それらの胚乳を採食していると考えられる。

2010年6月から2013年12月までに実施した補足的な研究では,鳥類,昆虫類など動物性食物の出現割合も3月,4月に多くなった。人工物の出現率は低かった。

主要な果実採食の変動傾向は5年間ほぼ変わりはなかった。

皇居には,複数のタヌキが生活を維持できる餌資源が長期にわたり安定的に供給されているものと考えられる。

なお,1箇所のタヌキの溜糞場を5年間にわたり継続して調査した研究論文は内外を通じ初めてである。

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