主な式典におけるおことば(令和7年)
秋篠宮皇嗣妃殿下のおことば
「第76回結核予防全国大会」大会式典
令和7年2月5日(水)(盛岡グランドホテル)
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「第29回結核予防関係婦人団体中央講習会」開講式
令和7年2月26日(水)(KKRホテル東京)
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第57回愛育班員全国大会
令和7年4月22日(火)(明治記念館)
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筑波大学附属聴覚特別支援学校創立150周年記念式典
令和7年5月22日(木)(筑波大学附属聴覚特別支援学校)
【おことばは、手話でも述べられています。】
本日、筑波大学附属聴覚特別支援学校の創立150周年記念式典にあたり、お集りの皆さま方にお会いできましたことを大変うれしく思います。
筑波大学附属聴覚特別支援学校の歴史は、明治8年に楽善会が結成されたときに遡ります。楽善会のもとに、東京の築地で訓盲院として始まり、名前や場所がたびたび変わる中、開校以来、日本の聴覚障害教育の研究と実践に力を注いでこられました。そして多くの子どもたちがこの学び舎で過ごし、その後、様々な分野で活躍されてきました。これまで学校が歩まれてきた長い道のりと、耳が聞こえない・聞こえにくい子どもたちの教育に力を尽くされてきた方々に思いをはせ、感謝と敬意を抱きながら、皆さまと共に今日のよき日をお祝いしたいと思います。
私はこの学校をたびたび訪れる機会に恵まれました。ある日は、幼稚部で子どもたちと家族が遊ぶ輪の中に入って、一緒に楽しみました。あるときは、小学生が算数や音楽の授業を熱心に受ける姿や、中学生が弁論大会で堂々と自分の意見を述べる姿を見て、子どもたちの成長を頼もしく感じました。また、高校生たちが、フランスの国立パリ聾学校の生徒たちと、日本の手話、フランスの手話、ジェスチャーや筆談と工夫しながらコミュニケーションをとる場面に見入ったこともありました。校舎に隣接する寄宿舎では、故郷や家族から離れて暮らす高校生の生活を支える方々の大切なお話を伺うこともありました。そして本日は、この式典の前に専攻科の生徒たちの美術作品を鑑賞し、心動かされました。
こうして私は、この学校で、子どもたちが学びを深め、考える力、感じる力を伸ばし、一緒に課題に取り組み、気づきや発見、「わかる」という経験を重ね、自分の世界を広げている姿にふれることができました。豊かな学びをしながら成長していく子どもたちを見守り支えてこられた教職員とご家族、多くの方々に深く敬意を表します。
この学校の校庭には、樹齢350年ほどの大きな欅の木があります。私は、この学校で学んだ方々から、この欅のもとですごした時間が思い出深く、懐かしいという話をお聞きしました。ここにおられる幼稚部、小学部、中学部、高等部の皆さんも、欅の木々に抱かれて、学んだり、遊んだり、行事や活動に参加したりと、さまざまな経験をされていることでしょう。これからも、興味を持っていること、好きなことを深め、広げ、自分らしい道を歩んで行かれますよう希望しています。
筑波大学附属聴覚特別支援学校の教育の積み重ねが、これからの聴覚障害教育の一層の発展につながっていきますよう心から願い、式典に寄せる言葉といたします。
筑波大学附属聴覚特別支援学校の歴史は、明治8年に楽善会が結成されたときに遡ります。楽善会のもとに、東京の築地で訓盲院として始まり、名前や場所がたびたび変わる中、開校以来、日本の聴覚障害教育の研究と実践に力を注いでこられました。そして多くの子どもたちがこの学び舎で過ごし、その後、様々な分野で活躍されてきました。これまで学校が歩まれてきた長い道のりと、耳が聞こえない・聞こえにくい子どもたちの教育に力を尽くされてきた方々に思いをはせ、感謝と敬意を抱きながら、皆さまと共に今日のよき日をお祝いしたいと思います。
私はこの学校をたびたび訪れる機会に恵まれました。ある日は、幼稚部で子どもたちと家族が遊ぶ輪の中に入って、一緒に楽しみました。あるときは、小学生が算数や音楽の授業を熱心に受ける姿や、中学生が弁論大会で堂々と自分の意見を述べる姿を見て、子どもたちの成長を頼もしく感じました。また、高校生たちが、フランスの国立パリ聾学校の生徒たちと、日本の手話、フランスの手話、ジェスチャーや筆談と工夫しながらコミュニケーションをとる場面に見入ったこともありました。校舎に隣接する寄宿舎では、故郷や家族から離れて暮らす高校生の生活を支える方々の大切なお話を伺うこともありました。そして本日は、この式典の前に専攻科の生徒たちの美術作品を鑑賞し、心動かされました。
こうして私は、この学校で、子どもたちが学びを深め、考える力、感じる力を伸ばし、一緒に課題に取り組み、気づきや発見、「わかる」という経験を重ね、自分の世界を広げている姿にふれることができました。豊かな学びをしながら成長していく子どもたちを見守り支えてこられた教職員とご家族、多くの方々に深く敬意を表します。
この学校の校庭には、樹齢350年ほどの大きな欅の木があります。私は、この学校で学んだ方々から、この欅のもとですごした時間が思い出深く、懐かしいという話をお聞きしました。ここにおられる幼稚部、小学部、中学部、高等部の皆さんも、欅の木々に抱かれて、学んだり、遊んだり、行事や活動に参加したりと、さまざまな経験をされていることでしょう。これからも、興味を持っていること、好きなことを深め、広げ、自分らしい道を歩んで行かれますよう希望しています。
筑波大学附属聴覚特別支援学校の教育の積み重ねが、これからの聴覚障害教育の一層の発展につながっていきますよう心から願い、式典に寄せる言葉といたします。
第100回日本結核・非結核性抗酸菌症学会学術講演会 ―学術講演会100回を祝う記念式典―
令和7年6月6日(金)(パシフィコ横浜)
本日、第100回日本結核・非結核性抗酸菌症学会学術講演会が開催され、お集まりの皆さまにお会いできましたことを大変うれしく思います。
学術講演会は、1923年に北里柴三郎博士らにより「日本結核病学会」が設立された年に初めて開催され、今回で第100回を迎えました。本学術講演会で発表された最初のテーマは、「初感染発病論」でした。基礎研究だけでなく、臨床に関連した研究も進展し、胸部レントゲン検診車による集団検診方法の確立や、長期保存可能なBCGワクチンの開発などに活かされてきました。また、近年では最新の研究成果に基づいて、結核の検査・診断・治療における各種の提言やガイドラインの作成がおこなわれていると聞いています。
我が国では、こうした研究を背景に、長年にわたり結核対策が着実に実施され、2021年には、罹患率が十を下回り、低蔓延国となりました。しかし、多剤耐性結核、リスクの高い高齢患者の増加や、免疫が低下する疾病の患者が結核に罹患することへの対処など、新たな課題が生じています。
国連の持続可能な開発目標・SDGsの3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ためのターゲットの一つとして、「2030年までに結核を終息させる」という課題が掲げられています。世界に目を向けると、1年間に約1,080万人が結核に罹患し、125万人が亡くなっているとWHOが推定しています。コロナ禍が落ち着き、人の往来も再び盛んになる中、海外から来日して発症する患者への対応も増加してきました。国内の感染対策の点においても、国際協力の観点からも、結核の終息を目指すために、患者の発見、診断、治療、さらには患者の心のケアや社会的支援など数々の分野で、日本の結核研究の進展が期待されています。
一方、結核に代わるように感染者が増加している非結核性抗酸菌症は、病態や診断・治療の方法など解明されていない部分が多く、予防・診断・治療ともに多くの課題が残されていることから、今後の研究の発展が求められています。本学術講演会における非結核性抗酸菌症に関する研究発表数も、1970年代から増えてきました。そうしたなか、「日本結核病学会」は2020年に、「日本結核・非結核性抗酸菌症学会」と学会名を改めました。
先月、結核研究所を訪ね、非結核性抗酸菌症の治療や研究の現状と課題についての説明を受けました。非結核性抗酸菌症は、菌に感染していても症状が顕在化しない人から、酸素投与を必要とする重症の人まで病態が幅広く見られ、薬剤の投与には、常に最新の研究動向を参考にしながら、患者の状態を見極めて対応する必要があると聞きました。感染源となる菌が土や水など身近な生活環境に広く存在することをはじめ、この感染症の特徴を患者やその家族に理解してもらうことにも難しい面があるとの話でした。
また、結核研究所と隣接する複十字病院で働く、重症者の肺切除をおこなう外科医、菌に対応した適切な投薬にあたる薬剤師、長引く通院に不安を抱える患者に寄り添う臨床心理士、免疫力をつけるための生活指導をおこなう栄養士など、多様な職種の人たちが協力して、チーム医療の向上に日々努めているということも聞きました。日本の各地で、こうした多職種による連携がおこなわれていることを知り、皆さまの取り組みをありがたく心強く思っております。
今回の学術講演会にも、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、保健行政の関係者など、多職種の皆さまが参加されています。これまで先人たちが積み重ねてきた歩みをさらに進めるために、研究・医療・ケアなどの情報を幅広く交換し、所属機関や職種を超えて連携し、これからの学会を担っていく若い参加者も共に、結核および非結核性抗酸菌症対策に資する研究に取り組んでいかれるよう、期待しております。
大きな節目を迎えられた本学術講演会において、参加されている皆さまが、実り多い時間をすごされ、結核と非結核性抗酸菌症の研究がより一層発展していきますよう心より願い、式典に寄せる言葉といたします。
学術講演会は、1923年に北里柴三郎博士らにより「日本結核病学会」が設立された年に初めて開催され、今回で第100回を迎えました。本学術講演会で発表された最初のテーマは、「初感染発病論」でした。基礎研究だけでなく、臨床に関連した研究も進展し、胸部レントゲン検診車による集団検診方法の確立や、長期保存可能なBCGワクチンの開発などに活かされてきました。また、近年では最新の研究成果に基づいて、結核の検査・診断・治療における各種の提言やガイドラインの作成がおこなわれていると聞いています。
我が国では、こうした研究を背景に、長年にわたり結核対策が着実に実施され、2021年には、罹患率が十を下回り、低蔓延国となりました。しかし、多剤耐性結核、リスクの高い高齢患者の増加や、免疫が低下する疾病の患者が結核に罹患することへの対処など、新たな課題が生じています。
国連の持続可能な開発目標・SDGsの3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ためのターゲットの一つとして、「2030年までに結核を終息させる」という課題が掲げられています。世界に目を向けると、1年間に約1,080万人が結核に罹患し、125万人が亡くなっているとWHOが推定しています。コロナ禍が落ち着き、人の往来も再び盛んになる中、海外から来日して発症する患者への対応も増加してきました。国内の感染対策の点においても、国際協力の観点からも、結核の終息を目指すために、患者の発見、診断、治療、さらには患者の心のケアや社会的支援など数々の分野で、日本の結核研究の進展が期待されています。
一方、結核に代わるように感染者が増加している非結核性抗酸菌症は、病態や診断・治療の方法など解明されていない部分が多く、予防・診断・治療ともに多くの課題が残されていることから、今後の研究の発展が求められています。本学術講演会における非結核性抗酸菌症に関する研究発表数も、1970年代から増えてきました。そうしたなか、「日本結核病学会」は2020年に、「日本結核・非結核性抗酸菌症学会」と学会名を改めました。
先月、結核研究所を訪ね、非結核性抗酸菌症の治療や研究の現状と課題についての説明を受けました。非結核性抗酸菌症は、菌に感染していても症状が顕在化しない人から、酸素投与を必要とする重症の人まで病態が幅広く見られ、薬剤の投与には、常に最新の研究動向を参考にしながら、患者の状態を見極めて対応する必要があると聞きました。感染源となる菌が土や水など身近な生活環境に広く存在することをはじめ、この感染症の特徴を患者やその家族に理解してもらうことにも難しい面があるとの話でした。
また、結核研究所と隣接する複十字病院で働く、重症者の肺切除をおこなう外科医、菌に対応した適切な投薬にあたる薬剤師、長引く通院に不安を抱える患者に寄り添う臨床心理士、免疫力をつけるための生活指導をおこなう栄養士など、多様な職種の人たちが協力して、チーム医療の向上に日々努めているということも聞きました。日本の各地で、こうした多職種による連携がおこなわれていることを知り、皆さまの取り組みをありがたく心強く思っております。
今回の学術講演会にも、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、保健行政の関係者など、多職種の皆さまが参加されています。これまで先人たちが積み重ねてきた歩みをさらに進めるために、研究・医療・ケアなどの情報を幅広く交換し、所属機関や職種を超えて連携し、これからの学会を担っていく若い参加者も共に、結核および非結核性抗酸菌症対策に資する研究に取り組んでいかれるよう、期待しております。
大きな節目を迎えられた本学術講演会において、参加されている皆さまが、実り多い時間をすごされ、結核と非結核性抗酸菌症の研究がより一層発展していきますよう心より願い、式典に寄せる言葉といたします。
「第72回産経児童出版文化賞」贈賞式
令和7年6月12日(木)(明治記念館)
本日、「第72回産経児童出版文化賞」の贈賞式が開催され、皆さまにお会いできましたことを大変うれしく思います。これまで児童出版の分野で力を尽くしてこられた皆さまに、深く敬意を表します。
昨年は、4000点以上の児童書が誕生し、その中の9冊がこのたび「産経児童出版文化賞」に選ばれました。受賞された皆さまに心からお祝いを申し上げます。
この行事には、1993年に開催された第40回贈賞式以来、25年以上にわたり出席いたしました。6年前から、娘の佳子が出席するようになりましたが、今年は開催日が娘のブラジル公式訪問と重なったため、私が出席することになりました。
式典に先立ち、主催者より今年度のすべての受賞作品の説明を受ける機会がありました。その後に一冊ずつ、表紙をゆっくりと開き、見返しの質感やデザインを味わい、続けて扉のページをめくり、本の世界へ入っていきました。
大賞を受けられた大西暢夫さんの写真と文による本『ひき石と24丁のとうふ』。山奥に暮らす90歳を超えたミナさんが、わずかに見える色や形と音、手の感覚や匂いを頼りに豆腐を作る姿を追い、大豆が豆腐になるまでの様子をさまざまな視点から撮影しています。読み終えた後もしばらくその場にいるような余韻が残り、そっとカバーをめくると、静寂な雪景色とミナさんの日々の営みとがつながり、心に染み渡っていきました。
美しい色調の作品『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』は、以前にスペイン語の原作を見たことがあり、星野由美さんの和訳による作品が受賞されたと聞いてうれしくなりました。娘と父親が手をつなぎ、通学路をジャングルに見立てて、会話を楽しみながら探検していく様子、そして二人の深い絆に心動かされます。見えないからこそ感じるものがあり、視覚以外の感覚によって広がる豊かな世界もあることを教えてくれる絵本です。
カン!カン!カン!
ゴォーン ゴォーン
これらの音が聞こえてくるのが、今回受賞した2冊の歴史絵本です。
最初の音は鎌田歩さんの『巨石運搬! 海をこえて大阪城へ』の本から。これは400年ほど前の瀬戸内海の島で石工が鳴らしていた音です。石工が切り出した巨石を村人が総出で舟に積み込み、大阪に旅する様子が、ページごとに展開します。働く人々、楽師から子どもたちまで村人の姿や表情、そして使う道具まで丹念に描き込まれています。大阪城を作る石一つ一つにこうした人々の力と知恵があると知ることで、建物や歴史の見方が一段と深まるように思いました。
もう一つの音は小林豊さんの『えほん ときの鐘』から。江戸の日本橋に時刻を知らせる鐘の音です。「鐘役」の孫の新吉と、長崎からやって来たオランダ人のヤンとの出会いの物語です。新吉がヤンと舟にのり、江戸の掘割や川を進んで広がる風景に目を輝かせたように、私たちも江戸の町並みや人々の暮らしに一緒に見入ることができます。江戸を出発するヤンに贈られた日本の鐘の音が、今もオランダの運河沿いの町で、いつもの時間に「きこえる」ようです。
絵本は、時間をさかのぼることも、離れた場所へ旅することも可能にしてくれます。長男が小学生のとき、学校の図書ボランティアの一人として、子どもたちに本を通してアフリカの自然や文化を紹介したことがありました。その当時、また機会がありましたら、遠い国や地域を描いた作品を読んでみたいと思っていましたが、今回の受賞作でその願いが叶いました。
『おはなしはどこからきたの?』は、大昔のアフリカの小さな村から始まります。主人公のマンザンダバは、家族と焚火を囲んでいるときの会話をきっかけに「おはなし」を探しに旅に出ます。動物を訪ねてまわっても「おはなし」がみつからず、ウミガメの背に乗って海の底へ。旅から帰ったマンザンダバは、焚火を前に自分の家族や村人、動物たちに、海の底まで出かけた冒険を語ります。保立葉菜さんによる多色刷りの木版画は、この物語を力強く色鮮やかに表現しています。
よしいかずみさんが訳された『まぼろしの巨大クラゲをさがして』では、青く深い北の海や真っ赤な調査船に乗る研究チームと乗組員の旅の様子がこまやかに描かれ、まるで一緒に船で北極に出かけたように、本の世界へ引き込まれていきました。先日訪れた奥能登の図書館では、私が持っていたこの本に子どもたちが近づき、ページをめくりながら、イッカクやシロイルカの群れに心を弾ませ、なかなかクラゲを見つけられない調査員に向かって「いるいる」「ここにいるよ」と声をあげ、最後まで物語を楽しんでいました。
2人の子どもが表紙を飾る小型の本が2冊ありました。それぞれ子どもの表情や装丁の色使いは違っていて、どのような物語が始まるのだろうかと思いながら読み始めました。
1冊は安東みきえさんの『ワルイコいねが』。主人公の美海は、自分の意見を言ったり考えを伝えたりするのが苦手な小学6年生。一方、秋田から転校してきた同級生のアキトは、思ったことを素直に言葉にします。美海はアキトの言葉や行動に戸惑いながらも親しみを感じていきます。二人の心の交流を通して、相手の気持ちを想像すること、自分の思いに正直であることの大切さに気づかされる物語です。また、美海の祖母のあたたかさや語る言葉も、物語に深みを与えているように思いました。
もう1冊は清水晴木さんの『トクベツキューカ、はじめました!』。1年に1日、好きな日に好きな理由で休むことができる「トクベツキューカ」。この日をどのようにすごそうかと小学生の子どもたちが、それぞれ迷いながらも友情を育み、成長していく姿と、四季の変化とを重ねあわせた短編集です。小学生たちの心情がこまやかに描かれるこの本を手に取った子どもたちも共感する場面があるのではないでしょうか。ページをめくりながら出会った子どもたちや担任の先生がこの先歩む道を見守りたくなるような本でした。
シシシシ チチチチ
耳を澄ますと、林から親鳥と幼鳥の鳴く声が聞こえてきます。『いつも仲間といっしょ エナガのくらし』からでしょうか。エナガの姿や成長を江口欣照さんの写真がはっきり捉え、東郷なりささんの平易で親しみやすい文章でエナガの生態が書かれています。小さいエナガが群を作って助け合って暮らし、ねぐらとなる枝に並んで休む理由も知ることができました。エナガを身近に感じ、林に暮らすエナガとその仲間の鳥のことをさらに学びたいと思いました。
このような魅力あふれる9冊の本を読む機会をいただいたことをありがたく思います。
毎年、産経児童出版文化賞では多様なジャンルの良質な本が選ばれてきました。ふりかえると、これらの作品は長年にわたり私と本との豊かなつながりをもたらしてくれました。
子どもたちが小さかった頃、受賞した絵本を家で一緒に楽しみ、その内容に驚いたり、感心したり、不思議がったり、新たなことを学んだりして過ごしました。子どもが学校へ通うようになってからは、わが子が図書室から借りてきた本が受賞作だったり、ボランティアとして小学校の図書室の書架の整理をしているときに受賞作を見つけ、その本を紹介したりすることもありました。
式典に出席し、受賞した方々とお話をしたことは、皆さまの本作りへのこだわりを感じたり、手がけられた他の作品に親しむきっかけになったりしました。また、賞の運営を担当されている方々や選考委員の皆さまとお会いし、本への熱い思いについて語り合う貴重な機会になりました。
本日、受賞された皆さまにお祝いと感謝の気持ちをお伝えいたします。今後も、産経児童出版文化賞において児童出版に携わる方々が顕彰され、その作品が高い関心を得て、より多くの人たち、子どもたちの手に届き、読み継がれていきますことを願い、式典に寄せる言葉といたします。
昨年は、4000点以上の児童書が誕生し、その中の9冊がこのたび「産経児童出版文化賞」に選ばれました。受賞された皆さまに心からお祝いを申し上げます。
この行事には、1993年に開催された第40回贈賞式以来、25年以上にわたり出席いたしました。6年前から、娘の佳子が出席するようになりましたが、今年は開催日が娘のブラジル公式訪問と重なったため、私が出席することになりました。
式典に先立ち、主催者より今年度のすべての受賞作品の説明を受ける機会がありました。その後に一冊ずつ、表紙をゆっくりと開き、見返しの質感やデザインを味わい、続けて扉のページをめくり、本の世界へ入っていきました。
大賞を受けられた大西暢夫さんの写真と文による本『ひき石と24丁のとうふ』。山奥に暮らす90歳を超えたミナさんが、わずかに見える色や形と音、手の感覚や匂いを頼りに豆腐を作る姿を追い、大豆が豆腐になるまでの様子をさまざまな視点から撮影しています。読み終えた後もしばらくその場にいるような余韻が残り、そっとカバーをめくると、静寂な雪景色とミナさんの日々の営みとがつながり、心に染み渡っていきました。
美しい色調の作品『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』は、以前にスペイン語の原作を見たことがあり、星野由美さんの和訳による作品が受賞されたと聞いてうれしくなりました。娘と父親が手をつなぎ、通学路をジャングルに見立てて、会話を楽しみながら探検していく様子、そして二人の深い絆に心動かされます。見えないからこそ感じるものがあり、視覚以外の感覚によって広がる豊かな世界もあることを教えてくれる絵本です。
カン!カン!カン!
ゴォーン ゴォーン
これらの音が聞こえてくるのが、今回受賞した2冊の歴史絵本です。
最初の音は鎌田歩さんの『巨石運搬! 海をこえて大阪城へ』の本から。これは400年ほど前の瀬戸内海の島で石工が鳴らしていた音です。石工が切り出した巨石を村人が総出で舟に積み込み、大阪に旅する様子が、ページごとに展開します。働く人々、楽師から子どもたちまで村人の姿や表情、そして使う道具まで丹念に描き込まれています。大阪城を作る石一つ一つにこうした人々の力と知恵があると知ることで、建物や歴史の見方が一段と深まるように思いました。
もう一つの音は小林豊さんの『えほん ときの鐘』から。江戸の日本橋に時刻を知らせる鐘の音です。「鐘役」の孫の新吉と、長崎からやって来たオランダ人のヤンとの出会いの物語です。新吉がヤンと舟にのり、江戸の掘割や川を進んで広がる風景に目を輝かせたように、私たちも江戸の町並みや人々の暮らしに一緒に見入ることができます。江戸を出発するヤンに贈られた日本の鐘の音が、今もオランダの運河沿いの町で、いつもの時間に「きこえる」ようです。
絵本は、時間をさかのぼることも、離れた場所へ旅することも可能にしてくれます。長男が小学生のとき、学校の図書ボランティアの一人として、子どもたちに本を通してアフリカの自然や文化を紹介したことがありました。その当時、また機会がありましたら、遠い国や地域を描いた作品を読んでみたいと思っていましたが、今回の受賞作でその願いが叶いました。
『おはなしはどこからきたの?』は、大昔のアフリカの小さな村から始まります。主人公のマンザンダバは、家族と焚火を囲んでいるときの会話をきっかけに「おはなし」を探しに旅に出ます。動物を訪ねてまわっても「おはなし」がみつからず、ウミガメの背に乗って海の底へ。旅から帰ったマンザンダバは、焚火を前に自分の家族や村人、動物たちに、海の底まで出かけた冒険を語ります。保立葉菜さんによる多色刷りの木版画は、この物語を力強く色鮮やかに表現しています。
よしいかずみさんが訳された『まぼろしの巨大クラゲをさがして』では、青く深い北の海や真っ赤な調査船に乗る研究チームと乗組員の旅の様子がこまやかに描かれ、まるで一緒に船で北極に出かけたように、本の世界へ引き込まれていきました。先日訪れた奥能登の図書館では、私が持っていたこの本に子どもたちが近づき、ページをめくりながら、イッカクやシロイルカの群れに心を弾ませ、なかなかクラゲを見つけられない調査員に向かって「いるいる」「ここにいるよ」と声をあげ、最後まで物語を楽しんでいました。
2人の子どもが表紙を飾る小型の本が2冊ありました。それぞれ子どもの表情や装丁の色使いは違っていて、どのような物語が始まるのだろうかと思いながら読み始めました。
1冊は安東みきえさんの『ワルイコいねが』。主人公の美海は、自分の意見を言ったり考えを伝えたりするのが苦手な小学6年生。一方、秋田から転校してきた同級生のアキトは、思ったことを素直に言葉にします。美海はアキトの言葉や行動に戸惑いながらも親しみを感じていきます。二人の心の交流を通して、相手の気持ちを想像すること、自分の思いに正直であることの大切さに気づかされる物語です。また、美海の祖母のあたたかさや語る言葉も、物語に深みを与えているように思いました。
もう1冊は清水晴木さんの『トクベツキューカ、はじめました!』。1年に1日、好きな日に好きな理由で休むことができる「トクベツキューカ」。この日をどのようにすごそうかと小学生の子どもたちが、それぞれ迷いながらも友情を育み、成長していく姿と、四季の変化とを重ねあわせた短編集です。小学生たちの心情がこまやかに描かれるこの本を手に取った子どもたちも共感する場面があるのではないでしょうか。ページをめくりながら出会った子どもたちや担任の先生がこの先歩む道を見守りたくなるような本でした。
シシシシ チチチチ
耳を澄ますと、林から親鳥と幼鳥の鳴く声が聞こえてきます。『いつも仲間といっしょ エナガのくらし』からでしょうか。エナガの姿や成長を江口欣照さんの写真がはっきり捉え、東郷なりささんの平易で親しみやすい文章でエナガの生態が書かれています。小さいエナガが群を作って助け合って暮らし、ねぐらとなる枝に並んで休む理由も知ることができました。エナガを身近に感じ、林に暮らすエナガとその仲間の鳥のことをさらに学びたいと思いました。
このような魅力あふれる9冊の本を読む機会をいただいたことをありがたく思います。
毎年、産経児童出版文化賞では多様なジャンルの良質な本が選ばれてきました。ふりかえると、これらの作品は長年にわたり私と本との豊かなつながりをもたらしてくれました。
子どもたちが小さかった頃、受賞した絵本を家で一緒に楽しみ、その内容に驚いたり、感心したり、不思議がったり、新たなことを学んだりして過ごしました。子どもが学校へ通うようになってからは、わが子が図書室から借りてきた本が受賞作だったり、ボランティアとして小学校の図書室の書架の整理をしているときに受賞作を見つけ、その本を紹介したりすることもありました。
式典に出席し、受賞した方々とお話をしたことは、皆さまの本作りへのこだわりを感じたり、手がけられた他の作品に親しむきっかけになったりしました。また、賞の運営を担当されている方々や選考委員の皆さまとお会いし、本への熱い思いについて語り合う貴重な機会になりました。
本日、受賞された皆さまにお祝いと感謝の気持ちをお伝えいたします。今後も、産経児童出版文化賞において児童出版に携わる方々が顕彰され、その作品が高い関心を得て、より多くの人たち、子どもたちの手に届き、読み継がれていきますことを願い、式典に寄せる言葉といたします。