天皇陛下のおことば
第211回国会開会式
令和5年1月23日(月)(国会議事堂)
本日、第211回国会の開会式に臨み、全国民を代表する皆さんと一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。
国会が、国民生活の安定と向上、世界の平和と繁栄のため、永年にわたり、たゆみない努力を続けていることを、うれしく思います。
ここに、国会が、国権の最高機関として、当面する内外の諸問題に対処するに当たり、その使命を十分に果たし、国民の信託に応えることを切に希望します。
2023年 日本国際賞(Japan Prize)授賞式
令和5年4月13日(木)(帝国ホテル)
2023年日本国際賞の授賞式に、皆さんと共に出席できることをうれしく思います。この度の授賞式に当たり、「エレクトロニクス、情報、通信」分野で中沢正隆博士、萩本和男氏、「生命科学」分野でゲロ・ミーゼンベック博士、カール・ダイセロス博士が、それぞれ受賞されたことを心からお祝いいたします。
日本国際賞は、世界の科学技術の発展に資するという我が国政府の構想により、民間からの寄付を基に創設されたものです。この賞は、世界中の科学技術者を対象とし、科学技術の進歩に大きく寄与するような独創的で飛躍的な成果を挙げ、人類の平和と繁栄に著しく貢献したと認められる人に贈られるものです。
この度受賞された皆さんの研究は、様々な科学技術の発展や人類の健康の増進に大きく貢献するものであり、ここに、深く敬意を表します。
我が国を含む世界の人々が、社会、経済、環境などにおける多くの課題に直面する中で、科学技術が果たす役割は、ますます重要になってきています。近年、世界の人々が新型コロナウイルス感染症対策に取り組んできたように、様々な分野の叡智を結集し、互いに力を合わせることにより、希望に満ちた未来が築かれていくことを願っています。
この日本国際賞が、人々に幸福をもたらす科学技術の発展に一層寄与するとともに、人類の平和と繁栄に貢献することを希望し、式典に寄せる言葉といたします。
第31回日本医学会総会開会式
令和5年4月21日(金)(東京国際フォーラム)
第31回日本医学会総会が、多くの医学関係者の参加の下に開催されることを誠に喜ばしく思います。
明治35年にこの総会の第1回に当たる日本聯合医学会が開かれて以来、総会はほぼ4年ごとに行われ、今回が第31回に当たると聞いています。
医学や医療の進歩は、21世紀に入ってからも目覚ましいものがあり、我が国では、人生100年時代とも表現されるように、多くの国民が長寿を享受できるようになりました。一方、少子高齢化が進む中で、介護を始めとした日本社会が直面する諸課題についても、医学会との連携の下、豊かで人間らしい人生100年時代を目指して、社会全体で取り組んでいくことが求められています。
AI、ロボティクスなどの技術革新や、ビッグデータに体現されるデジタル革命により、医学・医療も大きく変わろうとしていますが、未来の医学と医療は、人の一生を通して、人々の自立を支え、生き生きとした豊かな人生に寄り添うものとなることが期待されます。そのためには、医療技術革新の更なる進展と、その基盤となる基礎医学を含む基礎科学の一層の発展が望まれます。
同時に、医学・医療の進歩に伴う様々なリスクや倫理的な課題への取組も大切なことだと思います。医学の進歩が、これまで人類にもたらした計り知れない恩恵に改めて思いを致すとともに、医学・医療に携わる人々が、進歩に伴う課題とも誠実に向き合いつつ、人々の健康な生活のために大きな力となることを期待いたします。
この3年間、新型コロナウイルス感染症が社会に大きな影響を与えました。そのような中にあって、この感染症の症状や治療法、感染対策などの研究を鋭意進めてこられた医学関係者の皆さん、そして患者さんの命を救うために多大な尽力を続けてこられた医療従事者の皆さんに、改めて心からの敬意を表します。
我が国で、医学、医療、社会の連携と連帯が求められている状況の中で、この度の総会が「ビッグデータが拓く未来の医学と医療~豊かな人生100年時代を求めて~」をメインテーマに、開かれた議論の場として開催されることは大変意義深いことと考えます。これまでの医学・医療の発展に力を尽くしてこられた関係者の皆さんに深く敬意を表するとともに、本総会が、医師を始めとする医療従事者や研究者の皆さん、更には、学生や一般市民の参加によって実り多いものとなるよう願い、私の挨拶といたします。
第50回戦没・殉職船員追悼式
令和5年5月24日(水)(戦没船員の碑広場)
第50回戦没・殉職船員追悼式に臨み、先の大戦において海上輸送などの業務に従事し、志半ばで船と運命を共にすることとなった数多くの船員と、戦後、職務の遂行中に殉職した船員の御霊に、深く哀悼の意を表します。
かけがえのない家族の尊い命を海に失われた遺族の皆さんの悲しみと長年にわたる御苦労は、いかばかりであったかと思います。
先の大戦の記憶が薄れようとしている今日、我が国の平和と繁栄が、戦没・殉職船員を始めとする多くの人々の尊い犠牲の上に、国民のたゆみない努力によって築き上げられてきたものであることを、決して忘れてはならないと思います。そして、戦後の我が国の発展に、海運や水産業に携わる船員の果たした役割にも、誠に大きなものがありました。
これまで多くの困難を克服してこられた遺族の皆さんが、体を大切にされ、深い悲しみを乗り越えながら、日々を健やかに過ごしていかれるよう切に願っております。
終わりに、皆さんと共に、御霊の安らかならんことを祈るとともに、改めて人の命の尊さに思いを致し、平和な世界と安全な海の実現を心から願い、追悼式に寄せる言葉といたします。
第73回全国植樹祭
令和5年6月4日(日)(高田松原津波復興祈念公園)
第73回全国植樹祭に当たり、東日本大震災からの復興の象徴である「奇跡の一本松」が立つ、ここ「高田松原津波復興祈念公園」において、全国から参加された皆さんと一緒に植樹を行うことができることをうれしく思います。
東日本大震災では、岩手県においても甚大な被害が発生しました。この震災によって亡くなられた方々に対し、深く哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた全ての方々に対し、改めて心よりお見舞いを申し上げます。
震災発生から今日に至るまで、数多くの被災者が共に助け合い、また、国内外から多くの支援を受けながら、復興への歩みが進められてきました。震災を乗り越えて、この度、全国植樹祭が開催されることは誠に意義深く、復興に向けた地域の人々のこれまでのたゆみない努力と大会関係者の尽力に深く敬意を表します。
岩手県においては、昭和49年に第25回全国植樹祭が当時の松尾村で開催され、今回で2回目の開催となります。当時の会場は、昭和天皇と香淳皇后がお手植えになった南部アカマツを始め、多くの参加者によって植樹された木々が立派に育ち、「岩手県県民の森」として、多くの人が訪れ、地域の人々に親しまれていると聞いております。私自身、学生時代に、この県民の森から、岩手山に登ったことを懐かしく思い出します。
岩手県では、古くから、豊富な森林資源を活用した木炭や漆の生産が行われており、今もなお、多くの人が森林づくりに携わり、木が人々の生活に密接に関わっていることを喜ばしく思います。
我が国は、国土の3分の2を森林が占める世界有数の緑豊かな国です。健全な森林は、木材を始めとする林産物の生産だけでなく、人間が生活する上で欠かすことのできない水源の涵養や国土の保全、さらには地球環境や生物多様性の保全にも大切な役割を果たすなど、私たちに様々な恩恵をもたらしてくれる、国民の、ひいては人類共通の財産と言えます。
こうした、かけがえのない森林の大切さを思うとき、苗木を植え、大切に育て、そして、未来を担う若い世代に健全な森林を引き継いでいくことは、私たちが果たすべき大切な使命であると考えます。
本日表彰を受けられる方々を始め、日頃から各地域において森林や緑づくりに尽力されている全国の皆さんに敬意を表します。宮沢賢治の童話に登場する虔十がコツコツと杉を植えていった野原が、後に多くの人に愛される公園になったように、そうした活動が、今後も多くの人々によって支えられ、更に発展していくことを期待いたします。
終わりに、この大会のテーマである「緑をつなごう 輝くイーハトーブの森から」にふさわしく、かけがえのない財産である森林を守り、育て、次の世代につなげていく活動が、岩手の地から全国へ、そして未来に向けて大きく広がっていくことを願い、私の挨拶といたします。