インドネシアご訪問に際し(令和5年)

天皇陛下の記者会見

ご訪問国:インドネシア

ご訪問期間:令和5年6月17日~6月23日

会見年月日:令和5年6月15日

会見場所:宮殿 石橋の間

記者会見をなさる天皇陛下
記者会見をなさる天皇陛下

<宮内記者会代表質問>

問1 即位後初めての国際親善を目的とした外国訪問について、抱負をお聞かせください。訪問先のインドネシアにはどのような印象をお持ちでしょうか。
天皇陛下

この度、インドネシア国からの御招待により、日・インドネシア外交関係樹立65周年、また、日本ASEAN友好協力50周年という節目の年に、同国を初めて訪問できることを大変うれしく思っております。御招待いただいたインドネシア政府に対して、心から御礼を申し上げます。

インドネシアは、東西約5,000キロメートルという、アメリカ合衆国の本土の東西の長さに匹敵する広大な国土に、多数の島々が連なり、多種多様な民族と多彩で豊かな文化、そして、イスラム教を主とするものの、キリスト教やヒンズー教、仏教などの各種宗教が信仰される、極めて多様性に富んだ国という印象を持っております。

古代には、スマトラ島のシュリーヴィジャヤ王国や、ボロブドゥール寺院を建設したことで知られるジャワ島のシャイレンドラ王国といった仏教国が栄え、13世紀頃にスマトラ島にイスラム教が伝来した後、インドネシアの多くの地域においては、イスラム教がもたらした文化が現地の文化と融合しながら徐々に広がっていき、現在に至るまで多様な文化が共生する社会が形成されていると聞いています。このような多様性に富み、ASEANで最大の人口と経済規模を有するインドネシアは、今後とも、国際社会において重要な役割を果たしていくものと思います。

上皇上皇后両陛下には、平成3年に国賓としてインドネシアを御訪問になったほか、皇太子・皇太子妃でいらっしゃった昭和37年にも同国を御訪問になっており、その際の訪問先のことや、心温まるおもてなし、お会いになった人々の優しさなどについて、折に触れて両陛下より伺っております。

また、以前に、ヒレナガゴイを御覧になった上皇陛下の御発案により、ヒレナガゴイと日本のニシキゴイの交配でヒレナガニシキゴイという新しい品種が誕生したという話も伺いました。平成27年にジョコ大統領御夫妻が我が国を訪問された際、私が皇居東御苑に御案内して、そのヒレナガニシキゴイを御一緒に鑑賞しましたが、この時のことは、昨年7月、雅子と共に御夫妻とお会いした際に話題に上り、当時の思い出をお話しすることができました。また、私たちも、東御苑を散策する折には、これらの美しいヒレナガニシキゴイを見て楽しんでおります。また、両陛下がお持ちの、インドネシアのジャワ島由来の楽器と言われる竹製のアンクルンで、私たちも、両陛下と御一緒に合奏したことも懐かしく思い出します。

このような背景の下、今回のインドネシア訪問において、特に私が関心を払っていきたいと思っている点についてお話ししてみたいと思います。

第一に、今回の訪問を通じて、我が国とインドネシアとの間に培われてきた交流の歴史に思いをはせたいと思います。両国では、長きにわたり、様々な交流が積み重ねられてきました。15世紀初頭には、スマトラ島のパレンバンから出航したと思われる船が、室町幕府の将軍への贈り物として、生きた象や孔雀(くじゃく)、オウムなどを乗せて、現在の福井県の小浜市へやって来たことが史料に載っています。日本人が本物の象を見たのは、この時が初めてと言われています。その後の江戸幕府は、いわゆる鎖国の状態となった後も、長崎の出島を窓口としてオランダと交易を続けており、当時オランダ領であったバタヴィア、バンテン、アンボイナには日本人居住地がありました。また、南米原産のじゃがいもが、バタヴィア、すなわち現在のジャカルタ経由で、当時日本に伝わったと言われています。

近代以降、両国の関係には難しい時期もありましたが、1945年のインドネシアの独立後、我が国とインドネシアは、特に貿易や投資などの経済分野で良好な関係を築いてきました。今回視察する予定のジャカルタの都市高速鉄道やプルイット排水機場、ジョグジャカルタの砂防技術事務所についても技術協力が行われていると聞いています。

両国は、大きな地震の発生に際しても互いに支援を行ってきました。平成16年のスマトラ島沖地震では、インドネシアで非常に多くの方が亡くなったり、被災されたりしたことは、大変心の痛むことでした。甚大な被害が出たインドネシアに対し、我が国は、国際緊急援助隊の派遣を始めとする支援活動を実施しました。そして、平成23年の東日本大震災に際しては、インドネシア政府から支援物資として毛布と非常食が送られたほか、インドネシアの救助隊と医療従事者が宮城県気仙沼市、塩(がま)市、石巻市などで活動し、多くの被災者の力になりました。また、同年6月に日本を訪問されたユドヨノ大統領が気仙沼を訪れ、アチェの子どもたちから日本の子どもたちへの励ましのメッセージを伝えるとともに、先ほどもお話しした竹製の楽器のアンクルンやジャワ更紗(さらさ)の人形などを子どもたちに贈っていただくなど、とても有り難い支援を頂きました。

このような交流の積み重ねを踏まえながら、今回の訪問では、在留邦人や、日本とゆかりのあるインドネシアの方々などから、両国の交流の歴史と現在の状況などについてお話を伺えればと思っております。

第二に、今回の訪問を契機として、我が国とインドネシアの若い世代の交流が、より一層活発になり、今後の両国間の交流と友好親善が更に深まることを期待しております。

私が東宮時代の平成元年から9年にかけて、インドネシア少年少女代表団事業によって来日したインドネシアの少年少女たちと東宮御所でお会いしておりました。当時、私たちとお会いした子どもさんたちの中には、現在、国会議員や大学の助教授などとして活躍されている方もおられると聞いています。このような方々と、今回ジャカルタで再びお会いすることを楽しみにしています。

また、今回の訪問では、ダルマ・プルサダ大学や職業専門高校に行き、日本語を勉強している若い学生さんともお会いする予定です。現在、インドネシアにおける日本語の学習者数は世界第2位で、日本への国費留学生の人数は世界第1位となるとともに、多くの看護師や介護福祉士が日本に来てそれぞれの現場で活躍していると聞き、うれしく思っています。こうした人たちが、日本との関わりの中で、豊かな経験を積み、活躍していかれることや、日本の同世代の人たちとの交流を深めていかれることを期待しております。

最後に、私が個人的に関心のある水問題に関して述べますと、今年の2月に政策研究大学院大学で開催されたシンポジウムにおいて、インドネシアの公共事業・国民住宅省の大臣上席顧問であるアリ氏の講演が行われ、インドネシアの水管理の歴史についてのお話をお聞きしました。今回の訪問において、ジャカルタではプルイット排水機場、ジョグジャカルタでは砂防技術事務所を訪れ、我が国とインドネシアの協力関係により、それぞれの施設において、水問題に対して、どのような取組が行われてきたかなどについて理解を深めたいと思っています。また、国立博物館では、5世紀のタルマ国のプルナワルマン王時代に行われた治水工事について記録されたものと言われているトゥグ石碑を見ることを楽しみにしています。

問2 インドネシアは、先の大戦で日本が占領下においた歴史があります。戦後生まれの天皇陛下が訪問される意義についてどのようにお考えでしょうか。
天皇陛下

先の大戦においては、世界の各国で多くの尊い命が失われ、多くの方々が苦しく、悲しい思いをされたことを大変痛ましく思います。先ほども述べましたとおり、インドネシアとの関係でも、難しい時期がありました。亡くなられた方々のことを忘れず、過去の歴史に対する理解を深め、平和を愛する心を育んでいくことが大切ではないかと思います。

私たち自身は、戦後生まれであり、戦争を体験していませんが、上皇上皇后両陛下からも折に触れて戦時中のことについて伺う機会があり、両陛下の平和を大切に思われる気持ちをしっかりと受け継いでまいりたいと思っております。

戦後、我が国は、インドネシアを含むアジア各国と共に、国際社会の平和と繁栄のために力を尽くしてきました。先ほど述べましたように、我が国とインドネシアが外交関係を樹立して本年で65周年を迎えます。これまでに重ねてきた両国の交流の歴史を踏まえながら、今回の訪問を契機として、両国間の友好親善が更に深まることを願っております。

問3 両陛下そろっての外国訪問となったことについてどう思われますか。訪問に向け、皇后さまはどのようにご体調を整えられていますか。成年皇族としての愛子さまの外国訪問をどのようにお考えですか。
天皇陛下

国際親善のための外国訪問については、訪問先の国と我が国との相互理解と友好親善を増進する上で非常に良い機会であり、国際親善推進のため皇室が果たすべき役割の中でも重要な柱の一つであると考えています。上皇上皇后両陛下も、外国訪問に当たっては、相手国と我が国との歴史を心にとどめられ、将来を見据えて両国間の相互理解と友好親善をどのように促進していくのがよいかということを深くお考えになりながら、御訪問先での諸行事に臨まれたと思います。こうした両陛下のなさりようを拝見してきましたので、私たちとしても、両陛下のお気持ちを大切にして国際親善に努めていきたいと考えており、今回、雅子と共にインドネシアを訪問できることをうれしく思います。

雅子は、これまでも申し上げているとおり、いまだに快復の途上で、依然として体調には波がありますが、工夫を重ねながら、特にそれぞれの公務に向けて体調を整えるよう努力してきており、外国からの賓客とお会いすることや、国内で開催される国際的な行事への出席、さらには昨年の英国訪問など、これまでもいろいろな形で国際親善に努めてきています。今回の訪問でも、雅子は、インドネシア政府より御招待を頂いたことを大変有り難く思っており、できれば二人そろって全ての訪問先を訪れたいという気持ちでおりましたが、訪問中の諸行事や現地での移動を含む日程などを総合的に勘案した結果、今回は、一部については私一人で訪問することになりました。雅子には、暑さの中、また、本人にとっては初めての東南アジアへの公式訪問となることもあり、引き続き体調に気を付けながら、今回の訪問を無事に務めてくれればと思っております。

愛子は、大学生活を通じて知識や経験を広げながら、自分の関心を深めていく中で、今後の進路について考えていくことができればと思っているようですので、将来の公務の方向性などについても、引き続き必要なときには相談に乗りながら、見守っていきたいと考えております。

<在日外国報道協会代表質問>

問4 日本とASEAN の友好協力50周年の大事な年に、その議長国であるインドネシアを訪問なさるにあたりまして、両国の親善のためにどのようなメッセージをお伝えになりたいとお考えでしょうか。
また、今後、インドネシアにどのようなことを期待されているでしょうか。
天皇陛下

冒頭にも申し上げましたように、日・インドネシア外交関係樹立65周年、また、日本ASEAN友好協力50周年という節目の年に、インドネシア国からの御招待により、同国を初めて二人で訪問できることを大変うれしく思っております。御招待いただいたインドネシア政府に対し、心から御礼を申し上げます。

我が国は、ASEAN諸国と対等なパートナーとして心と心の触れ合う関係を構築するよう努めてきており、1977年には他国に先駆けて日・ASEAN首脳会議を開催し、協力関係を進展させてきました。本年12月には、日本ASEAN友好協力50周年を記念して、東京で日・ASEAN特別首脳会議が開かれる予定と聞いています。

今回の訪問では、我が国とインドネシアを含むASEAN諸国との間に培われてきた交流の歴史に思いをはせつつ、両国間の協力によって進められてきている様々な取組の現在の状況も視察し、両国間の交流について理解を深めていきたいと思っています。

今回の訪問により、両国間の交流と友好親善が更に深まるのであれば、とてもうれしく思います。特にインドネシアの若い世代が、これからの日本との関わりの中で、様々な経験を積み、活躍していかれること、また、日本の同世代の人たちとの交流を深められることを期待しております。

問5 このところ、いわゆるグローバル・サウスといわれる新興国、途上国との連携の重要性が強調され、G7広島サミットでも注目されました。一方でこれらの国の多くはG7諸国に支配された過去があり、日本も例外ではありません。例えば日本とインドネシアのさらなる友好や連携を深めるうえで、先の戦争にかかわる両国間の歴史をどのように考えればよいでしょうか。
天皇陛下

先ほども述べましたように、先の大戦においては、世界の各国で多くの尊い命が失われ、多くの方々が苦しく、悲しい思いをされたことを大変痛ましく思います。インドネシアとの関係においても、難しい時期がありました。亡くなられた方々のことを忘れず、過去の歴史に対する理解を深め、平和を愛する心を育んでいくことが大切なのではないかと思います。

戦後、我が国はインドネシアを含むアジア各国と共に、国際社会の平和と繁栄のために力を尽くしてきました。我が国とインドネシアが外交関係を樹立して本年で65周年を迎えます。また、我が国はASEAN諸国と対等なパートナーとして心と心の触れ合う関係を構築するよう努めてきました。

現在、気候変動、エネルギー、食料などの地球規模の課題に取り組むに当たっては、新興国、途上国との連携がますます重要になってきており、そのためにも、我が国とインドネシアとの協力関係が進展することを期待しております。

これまでに重ねてきた我が国とインドネシアとの交流の歴史を踏まえながら、今回の訪問を契機として両国間の友好親善が更に深まり、両国の人々の交流や協力によって相互理解が一層深まっていくことを願っております。

<関連質問>

問1 3問目のお答えに関連して伺います。しばらく国際親善の訪問は陛下お一人でなさることが続いてきましたけれども、皇后さまが快復に向かわれる中で、今回本当に久しぶりにお二人での親善訪問となります。そのことへの陛下の率直な御感想と共にお一人での御訪問と皇后さまとお二人での親善訪問と陛下が1番違うなと思われるところはどんなところかお聞かせいただければ幸いです。
天皇陛下

しばらく、御指摘のように、私単独での親善訪問が続いておりましたけれども、今回は二人で行くことになったことを、私も大変うれしく思っております。二人での訪問としてまず思い浮かべるのは、私たちが結婚して最初に訪れた湾岸諸国への旅だったと思います。イスラム諸国という、今まで私自身もモロッコには行ったことがありますけれども、あまり経験したことのないような地域で、イスラムの文化、社会をかいま見ることができましたけれども、また、男性と女性がそれぞれ晩餐会などでも分かれて行われるということで、雅子も私もいることによって、二人でいろいろと聞くことができて、ある意味では湾岸諸国に対する理解をより深めることができたと思いますし、そういう意味でも、大変充実した訪問になったのではないかと思っています。今度も、先ほどもお話ししたように、雅子にとっては、公式訪問としては東南アジアでは初めての訪問となりますけれども、是非、二人で行くことによってそれぞれの視点というものを総合して、そして二人でいろいろと話をしてインドネシアに対する理解をより深めていくことができればと思っております。

問2 この度の即位後初の公式親善訪問は1か国ということになりました。平成の天皇陛下は最初の公式訪問で3か国、インドネシア含めて訪問されました。今回は、皇后陛下の御体調のこともあり、色々な要因があって1か国になったと思いますけれども、今後ですね、こうした公式訪問の機会に、より多くの複数国を巡られるとか、そういったお考えはございますでしょうか。
天皇陛下

そのことにつきまして、私たちの訪問は、外国の政府からの御招待、そしてまた日本の閣議決定、そういった過程を経ながらの話でありますので、今後のことについては、今、私から特に申し上げることはないと思います。ただ今回、インドネシアという非常に大きな国でありますので、その1国を見るということであっても大変充実した訪問になるのではないかというふうに思っております。