マレーシアご訪問に際し(平成29年)

皇太子殿下の記者会見

ご訪問国:マレーシア

ご訪問期間:平成29年4月13日~4月17日

会見年月日:平成29年4月11日

会見場所:東宮御所

記者会見をなさる皇太子殿下
記者会見をなさる皇太子殿下
<宮内記者会代表質問>
問1 日本との外交関係樹立60周年を迎えたマレーシアを初めて訪問されるにあたり,抱負とマレーシアへの印象をお聞かせください。天皇皇后両陛下は皇太子時代を含め,これまでに3度マレーシアを訪問されていますが,両陛下からお聞きになっているお話があればあわせてご紹介ください。
皇太子殿下

この度,日・マレーシア外交関係樹立60周年という節目の年に,マレーシア国からのご招待により,同国を初めて訪問できることを大変うれしく思います。ご招待いただいたマレーシア国に対して,心からお礼を申し上げます。

私が初めてマレーシアという国に接したのは,昭和45年の当時皇太子,皇太子妃であった両陛下のマレーシアへのご訪問ではなかったかと思います。その時,両親からマレーシアについてどのような話があったかははっきり記憶しておりませんが,子供心に王様がいるマレーシアという国を意識したことは確かです。また,私は,子供の頃,日本や外国の切手を集めることが好きで,その中に,MALAYAという文字と,人の顔と虎がデザインされたものがありました。これはどこの国の切手だろうかと思い,両親に尋ねたところ,それはマレーシアができる前のマラヤ連邦の切手であることを知り,興味を覚えたことを記憶しています。今回,マレーシアを訪問することが決まり,その切手帳をもう一度めくって,その切手が,私が生まれた1960年の6月10日に発行され,切手に描かれた方は,マラヤ連邦ジョホール州のスルタン・イスマイルであることが分かりました。

今のマレーシアの印象としては,多様性と寛容性という言葉が頭に浮かびます。マレーシアは国内においてマレー系,中国系,インド系といった複数の民族や,異なった宗教,文化など,多岐にわたる背景を持った人々が暮らす中で,それぞれの違いを尊重しながら,共存することによって,活力を生み出し,一つの国として発展してきたと承知しております。そして,そうした考え方や姿勢は,国の発展だけにとどまらず,ASEANという地域の枠組みを通じても,活かされていると思います。1960年代後半以降,ASEANの成立と共に東南アジア諸国全体が大きく発展を遂げましたが,各国が協力しながら,開発を進める過程で多様性と寛容性という特徴を持ったマレーシアが果たした主導的な役割は極めて大きかったと聞いております。そして,こうしてマレーシアが培ってきた経験や見識は今後アジアにおいて,さらには世界全体の中でも,一層重要性を増していくものと考えます。

また,マレーシアが1982年以降,国を挙げて進めてきた「東方政策」も同国の発展の上での印象深い点の一つだと思います。これが,日本との友好親善関係促進においても,極めて大きな役割を果たしてきたと承知しております。

天皇皇后両陛下には,3度にわたってマレーシアをご訪問になられておられますが,両陛下からは,今回,マラヤ大学でお会いする予定のマレーシア副国王でマラヤ大学の学長でもある,ナズリン・シャー殿下やその父君に当たる故アズラン・シャー国王陛下をはじめ,ご面識のある国王陛下や王族方のお話などを伺っております。ことに,アズラン・シャー国王陛下は,平成3年に両陛下がマレーシアを訪問された時の国王で,ご親交も深く,この時,山火事の煙により飛行機が飛ばなかったため,国王陛下のご出身のペラ州にいらっしゃれなかったことを両陛下はとても残念に思っておられましたので,3回目のご訪問の時にペラ州にお立ち寄りになることができ,既に国王ではいらっしゃいませんでしたが,ペラ州のスルタンとしてのアズラン・シャー殿下とナズリン・シャー殿下にお会いになれ,安()されたお話などを記憶しています。マレーシアでは,州の長であるスルタンが,輪番で国王に選出されることなども,だいぶ以前に両陛下から伺って知ったことです。

本年は,日本とマレーシアが外交関係を樹立して60周年を迎えます。歴史的には両国の関係は密なものがありました。例えば,16世紀に遡れば,東西貿易の中継点として繁栄していたマラッカ王国と琉球王国が交易していましたし,その後も,日本から,朱印船に代表されるように数多くの商船がマレー半島に寄港していました。また,日本にキリスト教を布教したことで有名なフランシスコ・ザビエルは,日本人と共にインドのゴアからマラッカを経由して,1549年に鹿児島に上陸しました。明治以降も,日本からマレー半島に多くの日本人が渡り,貿易に携わったり,ゴムや鉄鉱石関連産業,漁業に従事するなどして,生活の根を下ろしました。そして,戦後になると,戦争の荒廃から目覚ましい発展を遂げた日本の経験を学ぼうという「東方政策」によって,1万6千人もの優秀なマレーシア人が日本で勉学に励み,あるいは研修を受けました。

そうした交流が続いた背景には,両国の間に,人と人の関係を大切にする,相手を思いやりお互いを助け合う,そして,対立ではなく協調を重んじる,といった共通点があるからではないかと思います。日本では,協調や譲り合いの精神などが重要視されますが,マレーシアにも「ゴトン・ロヨン」という言葉があり,それは「相互扶助」を意味するそうです。まさに,多様性を抱えるマレーシアの人々が,相手を思いやり,お互いに助け合って,合意を目指すという理念を持っていることの表れだと思います。「東方政策」が大きな成果を上げているのも,その根底には両国間にこうした共通点があったからではないかと思います。

このような背景の下,今回のマレーシア訪問において,特に関心を払いたいと考えている点についてお話ししたいと思います。

まず,今回の訪問を通じて,我が国とマレーシアの間に培われてきた長い交流の歴史に思いをはせたいと思います。今回の訪問中,国立博物館を訪問し,マレーシアの歴史などに関する展示を見る予定ですが,その中には,日本との交流についても紹介されていると承知しています。また,日本に留学をし,マレーシアに戻って活躍している方々や,かつてマレー半島に移住し,両国関係の強化に尽力された日本人のご家族との面会も予定されています。こうした展示を見たり,多くの方々からお話を伺う中で,両国間の交流の歴史を振り返ると共に,先ほど申し上げたような両国の共通点を再確認できればと思っています。

第二に,この1年,両国の政府間の協力と,多くの方々の自発的な参加により,様々な交流行事が計画されていると聞いており,さらには,交流が深まることを期待しております。特に,この訪問中,これから日本に留学するために日本語を勉強している若い学生や,日本語弁論大会に参加した高校生とお会いする予定です。こうした日本に関心を持ち,日本との関係に強い意欲を持った若い世代は,今後の日・マレーシア間の友好関係強化のためのとても重要な基盤です。このような人たちが,これからの日本との関わりの中で有意義な経験を積み,そして活躍されることを楽しみにしています。また,日本の若い人たちもマレーシアに更に関心を持ち,マレーシアの若い人々との交流を深めていってもらえるよう期待しています。

第三に,私の専門である「水」問題や防災・減災についても,両国はお互いの経験から学ぶことが大きいと思います。マレーシアの各州の基となった王国は,それぞれ大きな川の河口を拠点として発展してきたそうです。日本でも,水は人々の生活に根ざし,水とどう向き合うかは人々にとって大きな課題となってきました。私は一昨年,国連本部で開催された「水と災害に関する特別会合」で行った基調講演の中で,マレーシアのSMARTトンネルを良い実践例として取り上げました。これは,交通渋滞の緩和と洪水時の排水という二つの課題に同時に対処するという,世界的にもとても珍しい施設なのですが,今回このトンネルを視察する予定になっています。こうしたマレーシアの取組から日本が学べる部分もたくさんあると思いますので,「水」を含む環境問題や,防災分野でも,日本とマレーシアの間で幅広い交流が進むことを期待しています。

最後になりますが,今回の私のマレーシアへの訪問が,マレーシアと日本の相互理解と友好関係の増進,特に若い世代の交流の促進に少しでもお役に立つのであれば幸いです。

問2 殿下は皇室の外国訪問や国際親善についてどのようにお考えでしょうか。皇位継承者として,両陛下が果たされてきた国際親善をどのように受け継いでいきたいかについてもお考えをお聞かせください。雅子さまが今回訪問を見送られたことについてのお気持ちと今後の見通しについてもあわせてお教えください。
皇太子殿下

公務としての外国訪問は,訪問先の国と我が国との相互理解と友好親善を増進する上でとても良い機会であり,皇室の役割の一つとしても,極めて重要であると考えます。

両陛下も,外国訪問に当たっては,相手国と我が国との歴史を心にとどめられ,将来を見据えて両国間の相互理解と友好親善をどのように促進していくのが良いのか,ということを常に深くお考えになりながら,ご訪問先での諸行事に臨んでこられていると思います。こうした両陛下のなさりようを拝見してまいりましたので,私としても,両陛下のお気持ちを大切にして国際親善に努めていきたいと思っています。

今回の訪問は,日・マレーシア外交関係樹立60周年という記念すべき年に行われますが,両国の間では,15世紀に成立したマラッカ王国の頃から長きにわたり,様々な分野で,そして様々なレベルでの交流が行われてきております。今回の訪問により,日・マレーシア関係の(きずな)が更に強固なものになるよう,そして両国,国民間の交流,中でも若い世代間の交流が一層進むよう,少しでもお手伝いができればと思っています。

また,雅子も,今回,マレーシア国よりご招待をいただいたことを,大変有り難く思っており,できれば訪問したい気持ちでおりましたが,外国訪問になりますと,訪問中の諸行事や,訪問期間,さらには,その前後の国内での行事日程なども勘案する必要があります。そういったことを考慮した結果,今回は私一人で訪問することとなりました。雅子はマレーシアを訪れたことがありませんので,今回お伺いできないことを,私はもとより,雅子も大変残念に思っております。

これまでも申し上げたとおり,雅子は,治療を続ける中で,体調に気を付けながら,努力と工夫を重ね,公私にわたってできる限りの務めを果たそうとしております。その結果,公的な活動を,少しずつではありますが,増やしながら,一つ一つを着実に積み重ねてきており,それがまた本人の自信にもつながり,活動の幅が広がってきていることを,私としてもうれしく思っております。一方で,依然として体調には波もありますので,すぐに外国訪問を含む活動の幅が広がるわけではありません。引き続き,焦ることなく,慎重に少しずつ活動の幅を広げていってほしいと思います。

両陛下には,雅子の体調をお気遣いいただいていることに心より感謝を申し上げております。また,国民の皆様に温かく心を寄せていただいておりますことに心より感謝しております。

<在日外国報道協会代表質問>
問3 初めてのマレーシア訪問というふうにうかがっております。マレーシアに対してのお持ちのイメージ,初訪問を通じてお知りになりたいこと,そして,その知識を今後の皇太子さまの皇室外交にどのように活かしていきたいと思われていますでしょうか。
皇太子殿下

マレーシアに対してのイメージという点については,先ほどお話ししたとおりですが,今回の訪問を通じては,民族,宗教,文化などの多様性を維持しながら,寛容性を持ってその違いを克服し,国の発展につなげてきたマレーシアの事例が,依然として様々な理由で対立に直面する国際社会にとって,今後の世界のあり方の一つのモデルとなり得るのではないか,という観点から,いろいろなものを見,また,マレーシアの方々からお話を伺いたいと思っております。また,現在の国際社会においては,地域協力も重要な課題ですから,ASEANの創設,発展,強化に率先して貢献してきたマレーシアの経験についても,お話が伺えるものと思います。

また,私,個人としては,長らく「水」問題に関わってきたこともあり,先ほども申しましたが,マレーシアの人々の生活が水とどのように関わってきたのか,また,洪水といった水に起因する災害にどう取り組んできたのか,治水のための森林保護はどうあるべきか,さらには生態系や環境保全のための取組などについて我が国を始め世界が学ぶべき点は何か,といった点についても,今回の訪問の中で理解を深めたいですし,それを今後の自分の活動に活かしていければよいと思っています。

<関連質問>
問 先ほど国際親善のあり方について,若い世代の交流という話をお話しになられましたが,それに関しまして,先日愛子さまが中学卒業に寄せられて,「世界の平和を願って」という作文をお書きになりました。その中で,現代の世界の情勢についての言及もございましたし,真摯に世界の平和について考察されている姿を拝見させていただきました。殿下は,若い世代の愛子さまがどのように,今,国際感覚というのを身に付けられているというふうに殿下として把握されていらっしゃいますでしょうか。また,その国際感覚を今後どのように伸ばしていきたいと,これは殿下並びに妃殿下はお考えになっていますでしょうか。お考えをお聞かせください。
皇太子殿下

愛子も小さい時ではありましたがオランダを訪問し,オランダの王室の方々などいろいろな方とお会いする機会がありました。今後とも愛子には,できるだけ若いうちに国際感覚を身に付けていってもらいたいと思っております。そのためには,いつになるかは分かりませんけれども,実際に外国に行ってみるということは極めて大切だと思います。今お話がありましたような,広島に修学旅行で行ったことは,愛子にとってもいろいろな面で大変良い勉強になったと思いますし,また本人も,この時の経験や見たことを今後いろいろな面で活かしていきたいという気持ちを非常に強く持っており,私もそういった点をとてもうれしく思っております。いずれにしましても,今学校の授業でも,英語の授業で外国のネイティブの先生方からも教えをいただいておりますけれども,そのような方との交流を通じて,少しずつではあっても国際感覚を身に付けていってもらえればと思っております。