昭和50年歌会始お題「祭り」

御製(天皇陛下のお歌)
我が庭の宮居に祭る神々に世の平らぎをいのる朝々
皇后陛下御歌
星かげのかがやく空の朝まだき君はいでます歳旦祭に
皇太子殿下お歌
神あそびの歌流るるなか告文(つげぶみ)の御声聞え来新嘗の夜
皇太子妃殿下お歌
三輪の里狭井(さゐ)のわたりに今日もかも花(しづ)めすと祭りてあらむ
正仁親王殿下お歌
幼なかる姪と連れだちて訪れし葉山の祭の市し思ほゆ
正仁親王妃華子殿下お歌
幼子も花笠かぶり母の背に金魚ねぶたをうち振りてゆく
雍仁親王妃勢津子殿下お歌
新嘗のみまつりも今ははてけむとあふぐ夜空に星のまたたく
宣仁親王殿下お歌
空晴れてみたま祭の神遊び太鼓のばちの冴えわたりつつ
宣仁親王妃喜久子殿下お歌
御告文(おつげぶみ)のりますみ声きこゆなりかしこどころの御まつりのには
崇仁親王殿下お歌
沖の島森のしげみの岩かげに千歳ふりにし神祭りのあと
崇仁親王妃百合子殿下お歌
我もまた祭に酔ひぬ獅子の山車兜の山車と続きゆく見て
寬仁(ともひと)親王殿下お歌
祭の夜若者たちの輪に入りて郡上踊りに興ずる我は
容子内親王殿下お歌
レマン湖に沿ひて山車行くジュネーブの夏の祭の賑はしきかな
召人 坂口謹一郎
いそしみていや()み継がむにひなめのまつりのにはのしろきくろきを
選者 木俣修二
父も母も若く(いま)しき幼くて祭太鼓をうちし日(こほ)
選者 佐藤佐太郎
(すゑ)ものにもゆる庭燎(にはび)()のまつり神遷りますときのま暗し
選者 山本友一
曠野(ひろの)越えて鄂博(オポ)の祭につどへりきまぼろしに今黄なる砂雲(すなぐも)
選者 香川進
一夜経し篝火のあとしろじろしまだ明けずして人はうごかぬ
選者 宮肇
帯締めて祭に行きし少年を老いて思へばなべて過ぎたり

選歌(詠進者生年月日順)

富山県 黒田政次
篝火を中にベルンの大寺院建国祭の斉唱起る
滋賀県 横井時常
歳神(としがみ)は今帰らすか左義長の青竹はぜて高く燃え立つ
福岡県 中村學
宗像(むなかた)の神の祭の氏子船幡ひるがへし()つ宮へ漕ぐ
大分県 木本義雄
祭礼に供奉する馬をひき入れて秋立つ朝の海にみそぎす
愛知県 明石太郎
注連(しめ)はりて火鳴(ひなり)絶えたるこしき炉へふいご祭の神酒(みき)たてまつる
長崎県 立石卓
われ等打つ鯨祭の太鼓の(おと)寒の潮鳴る方へとよもす
滋賀県 對月彗見
みそぎせし夜営まゐりの若者の膚あかあかとかがり火に映ゆ
大阪府 阿佐まさ子
杉木立あかあか照らしたいまつのかけのぼりくる鞍馬火祭
群馬県 佐藤久子
家毎に橋わたる村夕づきて明日のかぐらの灯籠ともる

佳作(詠進者生年月日順)

香川県 山本三郎
往診の島はたまたま祭なり診察終へて船渡御を見む
北海道 大塚盈
われのみが届く高さの神棚に朝朝の飯供へて祀る
奈良県 藤岡信雄
御酒(みき)かもし神まつりけむ酒船の巌の窪に木洩陽あそぶ
岐阜県 梅田和市
機械化に飼ふ家なくて木の馬に祭の花を飾り曳きゆく
奈良県 亀多亀雄
おほみわの繞道(ねうだう)祭の火をうけて大和国原火縄()す見ゆ
熊本県 西村行夫
祭幡はためく磯に潮満ち来よべ不知火(しらぬひ)の燃えし沖より
兵庫県 森喜代
海の神祀る宮居の木の間より沖はるかゆく油船(あぶらぶね)みゆ
静岡県 成瀬幸平
まぐろ船サーチライトを交錯しみなと祭に海より応ふ
富山県 大坪きみ
県境に(なな)戸残りし杣人も祠を祭りひと日安らふ
滋賀県 藤野重藏
あきらかに雪の鈴鹿の嶺見えて節分祭の月の明るし
東京都 鈴木忠正
大鳥居再び建ちてよろこびの斎場(ゆには)寿詞(よごと)いまきこえあぐ
大阪府 唐川次夫
亥の子まつり祝はぬ者は鬼生めとうたひききみと吹く風の中
大阪府 田中ナツエ
きほひゆく暴れみこしのうしろより子供みこしが長ながとゆく
岩手県 中村とき
引船の祭囃子は海おほふ霧の中よりひびきて聞こゆ
茨城県 小野迪夫
供奉船団()旗なびかせ宗像(むなかた)御座船(おざせん)まもり海を掩ひ来
富山県 安念修一
わせの穂に夕風渡る砺波(となみ)野に土用祭の太鼓響きぬ
埼玉県 富樫共子
菅笠の父もおはしぬ野薔薇咲く堤より見し祭の列に
宮城県 板橋瑞夫
水の神祀る根方の石清水母なる川はここに始まる
兵庫県 日下フサヱ
稲刈の地下足袋のまま(ぬか)づきぬ祭終りて灯の残る宮
大阪府 里田美惠子
かるがると(へさき)に人のをどりつつ光る海面を祭船来る
青森県 道合千勢子
富士山の小屋より見下ろす火祭の火はおぼろなりはるか低きに
大阪府 中野町子
涼風に祭囃子が吹かれくる三輪山入りの山の辺の道
茨城県 野村喜義
君がためいく度捨てむとせし村か今夜(こよい)祭の笛を吹きつつ