昭和38年歌会始お題「草原」

御製(天皇陛下のお歌)
那須の山そびえてみゆる草原にいろとりどりの野の花はさく
皇后陛下御歌
見わたせば広野がすゑは山につづく君がめでます那須の草原
皇太子殿下お歌
アフリカの大き草原つづくなかをオリックス追ひかがみて進む
皇太子妃殿下お歌
耕耘機若きが踏みて草原の土はルピナスの花をまぜゆく
正仁親王殿下お歌
かすみたつ那須の草原ひそやかにたちつぼすみれの花咲きにほふ
雍仁親王妃勢津子殿下お歌
若ものの口笛のせてさはやかに牧のくさ原風わたりゆく
宣仁親王殿下お歌
草原のところどころに株たちてすすきの若葉まるく生ひたり
宣仁親王妃喜久子殿下お歌
草原は冬の日ざしに霜とけて風なきあした不二もかすめり
崇仁親王殿下お歌
夏草を蹄にかけて兄宮と駒走らしし那須の高原
崇仁親王妃百合子殿下お歌
うすく濃く霧は流れて八千草の咲く草原を今とざしゆく
召歌 高田保馬
白白と末はみそらの雲に入る波野の原のほすすきのむれ
召歌 土屋文明
あしたより越え来し道のたむけすぎ草原がある休みて行かむ
選者 太田みつ
土曜日の職場を終へて来し子らかキャンプふえゆく山の草原
選者 松村英一
ミヤマアカネむらがり出でぬゆふ日さす蓼科山のふもとくさはら
選者 五島美代子
浅間おろし雪吹き散らす草原の枯草まじりひかる新草
選者 木俣修二
くれなゐの霜葉をたもつ草原にきはまる冬のひかりたゆたふ
選者 鹿児島寿蔵
大うみにせまりかたむく草原に還暦すぎし我ら遊べり

選歌(詠進者氏名五十音順)

岡山県 赤沢実
夕食の合図送れば草原の吾子(あこ)はグローブ高くさしあぐ
神奈川県 海東幸次郎
操車場となる草原に鍬入れのブルドーザーを乗り入れんとす
千葉県 桑垣伝衛
農機具の展示はじまり春浅きこの草原の今日もにぎはふ
愛知県 塩見玲子
計算機たたき疲れし指組みておもふはまぐさ刈りし草原
神奈川県 田口たかの
代々木の原青山の原日比谷の原草原なりきはるけし明治
長崎県 立石卓
草原にほす網のした虫鳴きて島は飛魚の漁期近づく
石川県 鶴巻礼子
亡き祖父の(かま)跡も空し草原にゆふべ人来て測量はじむ
神奈川県 南部伸清
艦橋のめがねにうつる都井(とゐ)(みさき)青草原に馬駈くるみゆ
三重県 西山時雨
夜をこめてすきたる海苔を霜光る草原踏みて干し並べゆく
宮崎県 浜砂広
草原に牛を放ちぬ親牛の見ゆる範囲を仔牛は走る
長野県 細谷明徳
草原に一杯水の石碑あり草刈り人らつどひて憩ふ
熊本県 吉岡文子
療養しつつ学ぶ少年ら草原のかげるをまちて飛行機とばす

佳作(詠進者氏名五十音順)

福島県 会田ハツ子
開拓の子も乳牛(ちちうし)を引きにきぬ草原に夕日ながく射すところ
静岡県 飯島重子
穂すすきを聖火の如くかかげもち少年は日暮の草原を帰る
アメリカ合衆国ハワイ州 泉覚性
飛行機は着陸姿勢にうつりたり草原にくろき滑走路見ゆ
福島県 遠藤トシ子
雲の様きはめゐる児らそれぞれの位置占めてをり青き草原
茨城県 大川栄寿
地つづきのひろき草原手に入れて乳牛二つまた買ひ足しぬ
三重県 大河内文子
霜枯れの緑とぼしき草原に日のにほひもつ海苔かへしゆく
神奈川県 小形重雄
髪洗ふ妻にたし湯をしてやりぬ草原ひかり月のぼるとき
埼玉県 荻原治雄
利根の洲の草原にあるわが畑へ店終へしゆふべ来るはたのしき
岐阜県 加藤時雄
をさなわれをなだむる時にいつもきてこの草原に母はうたひき
埼玉県 小久保佐一郎
夕映えのしばしあかるき草原に明日の授業の草みつけおく
静岡県 塩谷喜子夫
炭窯の火止をはればしろじろと草原ゆれて朝明けそめぬ
福岡県 角忠太
朝焼の山よりおよぶ草原に搾乳終へし牛追ひ放つ
長野県 竹内章
入学をまぢかに吾子(あこ)の足癒えて萌ゆる草原けさ歩みゆく
東京都 田林三和子
空襲に逃げのびし日の草原の夜目にも青くしめりもちゐし
滋賀県 轟田鶴
草の原刈り伏せ行けば余呉(よご)湖夫(うみつま)が漕ぐ舟見えてたのしも
福岡県 中野登
三十年経しボタ山の草原となりて試植のアカシヤ育つ
神奈川県 中野義明
ゲート閉めて十万噸の船つくるバースにつづく愛宕草原
長野県 藤松陸可
草原に牧夫の笛がつたはりて塩くれ岩に牛のむらがる
秋田県 古井庫三
露ひかる宵も霜枯れゆく朝も油井(ゆせい)見まはりて通る草原
京都府 堀江このゑ
草原をわが刈りをれば失ひしままに逝きたる母の櫛出づ
千葉県 町田真作
籠坂の霧おし迫る草原へ泥にまみれし砲車みちびく
高知県 安岡正隆
まちわびし始動をあすに揚水機草原の日をあつめしづもる
千葉県 依田由美子
ジェット機の始動ひびけば草原の赤とんぼ皆いちどきにたつ
北海道 若松久
移り来てひと夜明かしし草原に蜂の巣箱を妻と見まはる
福島県 渡辺保
御神旗の花火あがれば五百騎は夏草原をけりてきそへり