昭和30年歌会始お題「泉」

御製(天皇陛下のお歌)
みづならの林をゆけば谷かげの岩間に清水わきいづる見ゆ
皇后陛下御歌
おひしげるを草わけつつわきいづる岩間の清水立ちよりて見つ
皇太子殿下お歌
すみとほる泉の底は苔青みわき出づる水音なく流る
雍仁親王妃勢津子殿下お歌
音もなくわきてはたまる水の面に松の葉ごしの雲もうつれり
宣仁親王殿下お歌
夏汲めば水のつめたく冬くめば水温けき泉なつかし
宣仁親王妃喜久子殿下お歌
わらぐつのあとも見えたり山路のいづみのもとに雪の残りて
崇仁親王殿下お歌
信濃路のつめたき泉下りたちてとちの実ひろふ子らたのしげに
崇仁親王妃百合子殿下お歌
わきいづる泉のもとにおのづからいこはむほどの石もありけり
召歌 日本芸術院会員 川合芳三郎
厳窪の泉ひとつをまだきより汲みきそひつつなごむひとむら
召歌 日本芸術院会員 柳田國男
にひ年の清らわか水くみあげてさらにいづみの力をぞおもふ
選者 日本芸術院会員 尾上八郎
ひたしおく山の花ぐさ束とけてにはの泉の湧くにしたがふ
選者 日本芸術院会員 窪田通治
遠世びと住みし跡ある泉なりゆたに湧く水もろ手に掬ぶ
選者 日本芸術院会員 吉井勇
比叡山路のぼりて来ればいづこにか水湧く音す泉あるらし
選者 土屋文明
国のなか泉は今に流るれどさらし苦しむをとめ等を見ず
選者 尾山篤二郎
天の門を開く明雲顕かに映して泉さゆらぎもせず

選歌(詠進者氏名五十音順)

千葉県 飯田秀眞
沖縄の与那原みちのふる泉みづ清かりき今もあらむか
茨城県 大貫亮
家人ら田草とる日は子を背負ひ山の泉にひとり遊びき
大阪府 大野武
山すそに湧きつぐ泉村人は石を畳みて清くたもてり
茨城県 加藤木甲司
栗の実の風に落ちくる山奥の径をし行けば湧く泉あり
高知県 川添憲治
風うごく竹むら透しさせる日にすみ極まれりあさの泉は
秋田県 佐々木忠雄
新しく農にぞ生きむ高原の泉湧く辺に家建つるなり
千葉県 佐野光雄
山かげのいづみに粗朶の井桁していとなみかそけく人住みにけり
東京都 關山鳥之助
むかしよりたゆることなきこの泉田植うるころ水かさの増す
北海道 高岡成善
ダムとなるピリカコタンの森の泉に名残りを惜しむ人等集へる
アメリカ合衆国カリフォルニア州 高柳勝平
防人の歌思ひつもロッキーの駅の泉をひとり掬びて
新潟県 中野正吾
湧きいづる山の泉を引きいれて先生も生徒も大切にのむ
岐阜県 日置廣雄
すし圧すと朴の若葉を濯ぐなり澄みてゆたけき背戸の泉
アメリカ合衆国イリノリ州 松本登美子
木の間がくれ湧く真清水に月光のすがしきさまはこの国に見ず
愛知県 本居芙志子
汲みあぐる泉いや澄むふる里のしづけきたつきおもふ此頃
東京都 山口恭代
萱原の茂みの中におのづから泉へかよふ径はつづけり