昭和25年歌会始お題「若草」

御製(天皇陛下のお歌)
もえいづる春のわかくさよろこびのいろをたたへて子らのつむみゆ
皇后陛下御歌
とりがねもとほくきこえてあけそむるみそのうつくし若草のいろ
皇太后陛下御歌
鶯のこゑにひかれていで来ればうめさく庭に青しわかくさ
雍仁親王殿下お歌
わかくさのもゆる野山にかぎりなきわかき力を見出すわれは
宣仁親王殿下お歌
若草のもゆるいきほひ春ごとに緑一色(みどりひといろ)()とよみがへる
宣仁親王妃喜久子殿下お歌
雪の富士見ゆる岬の枯生(かれふ)にてひときはめだつ若草の色
崇仁親王殿下お歌
やけ跡にいつたび春はめぐりきてわかくさもえぬいしずゑのかげ
崇仁親王妃百合子殿下お歌
おほきなる春ののぞみをさながらにはやもえそめしわかくさに見る
召歌 日本芸術院会員 金子雄太郎
大御代(おほみよ)の若草山に平和満つ枯骨(ここつ)も春にめぐりあふ日か
従三位勲三等 鳥野幸次
をとめらがつむ野となりてなつかしくもえしを(ぐさ)の花もつもりあり
選者 日本芸術院会員 尾上八郎
古草に新草(にひくさ)まじる野を行きて帰れる人に逢ひにけるかも
選者 日本芸術院会員 齋藤茂吉
若草のいぶきわたらふ頃ほひに大野(おほの)を越えてわれ行かむとす
選者 日本芸術院会員 窪田通治
浅緑色(あさみどりいろ)すがしくも若くさの現れ出づる時とはなりぬ
選者 日本芸術院会員 吉井勇
京住みに年を()れども春来ればいまもなつかし武蔵野(むさしの)の草
選者 折口信夫
志づかなるむらに()()つ日おもてのひろばあかるきわかくさのいろ

選歌(詠進者氏名五十音順)

愛知県 浅野梨郷
(あま)たらしくだるひかりの春にあひて浅茅ケ原(あさぢがはら)に萌ゆる若草
大阪府 荒牧善平
たらちねを光のなかにすゑまをし()らとわがつむよもぎいたどり
茨城県 内山巌
()を売るとわが()し村の山べには出づる水あり(せり)さはに萌ゆ
兵庫県 内山こずゑ
萌えいづる若草の野を縁遠く見るのみにして日々を(きぬ)縫ふ
岡山県 尾崎住一郎
めもはるに野辺の若草もゆるなりうまし此国(このくに)いくさせぬくに
東京都 嵯峨野英子
ものおもふ月日もいつかわかくさの萌え(いづ)る春となりてゆくらし
三重県 柴原恵美
若草の匂ふいのちをあらしめよ(をみな)()れて吾がくやみなし
岐阜県 杉山敏也
雪消えて若草もゆる高原(たかはら)に牛を放つは幾月(いくつき)ぶりか
群馬県 関口儀三郎
日はのびてくむ茶の味のよきほどにひとむら見ゆる庭のわかくさ
静岡県 田中長三
春の野に光みなぎり若草をまさぐれるわが瞼明るき
和歌山県 知久一
母子寮の庭の若草萌えそめて春は来にけりその母と子に
石川県 中江為之
奥能登の輪島のおきの七つ島わかくさもゆる色になりたり
埼玉県 中村儀雄
やすらかに土よりもゆる若草をふめばしたしもひのぬくみあり
大阪府 仁礼常子
弟は還らぬものか若草はさ庭にもえてひそかなる日々
熊本県 松本不二子
阿蘇が()千里(せんり)が浜の朝明けの若草原は海の如しも
アメリカ合衆国カリフォルニア州 吉橋宗平
ふるさとに露をふくめる若草を見るはいつぞも加州に老いて