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わが国の絵巻の歴史において,中世後期以降の作品は,平安から鎌倉時代にかけて上層階級に支えられて制作された芸術的作品としての絵巻と比べて,これまではあまり評価されてきませんでした。しかし,この時期には,能や狂言,さらには浄瑠璃などの芸能が発展し,説話や昔話などの様々な素材を基にして,御伽草子などの物語も多く成立しました。これらは,貴顕から庶民までの広範な階層の人々に親しまれて普及し,冊子や絵巻などの題材としても盛んに取り入れられて,また新たな展開を示したのです。 これらの絵巻などの制作は,狩野派や土佐派といった正統派の絵師によってももちろん行われたが,これらには属さず,名前も残っていないものの,この時期に登場した多くの新興の絵師たちによっても手掛けられたのです。その中の一人に,江戸時代初期,「小栗判官絵巻」などの大作を制作し,異彩を放ってその名を残した岩佐又兵衛がいました。そしておそらくは大名家からの依頼にもとづいて,華麗で緻密な描写の「酒伝童子絵巻」を手掛けた絵師がいたのです。 今回の展覧会では,これら近世初期の優れた作品を中心に,文学や芸能と互いに影響し合いながら,親しまれる物語りを絵画化して急速に普及していった近世絵巻の展開を紹介するものです。様々な〈物語り〉絵の表現を通して,この時期に親しまれた物語りに接していただけることでしょう。 展覧会図録(PDF形式:43.8MB) |