雅楽

日本には上代から神楽(かぐら)歌・大和歌・久米(くめ)歌などがあり、これに伴う簡素な舞もありましたが、5世紀頃から古代アジア大陸諸国の音楽と舞が仏教文化の渡来と前後して中国や朝鮮半島から日本に伝わってきました。雅楽は、これらが融合してできた芸術で、ほぼ10世紀に完成し、皇室の保護の下に伝承されて来たものです。その和声と音組織は、高度な芸術的構成をなし、現代音楽の創造・進展に対して直接間接に寄与するばかりでなく、雅楽それ自体としても世界的芸術として発展する要素を多く含んでいます。
雅楽には、日本固有の古楽に基づく神楽・倭(やまと)舞・東游(あずまあそび)・久米(くめ)舞・五節舞(ごせちのまい)などの国風(くにぶり)の歌舞のほかに、外来音楽を基として作られた大陸系の楽舞すなわち中国系の唐楽と朝鮮系の高麗楽、そして、これらの合奏曲の影響で平安時代に作られた催馬楽(さいばら)と朗詠の歌物とがあります。演奏形式は、器楽を演奏する管絃と舞を主とする舞楽と声楽を主とする歌謡とに分かれています。使用される楽器には、日本古来の神楽笛・和琴などのほかに、外来の笙(しょう)・篳篥(ひちりき)・笛などの管楽器と、箏(そう)・琵琶(びわ)などの絃楽器と、鞨鼓(かっこ)・太鼓(たいこ)・鉦鼓(しょうこ)・三の鼓(つづみ)などの打楽器があります。
雅楽は、宮中の儀式、饗宴、春・秋の園遊会などの行事の際に演奏されています。また、昭和31年から文化団体や広く一般に公開するため、皇居内の楽部において毎年春秋2回演奏会を催しており、春季は文化団体や在日外交団を中心に3日間、秋季は新聞・ラジオ等により広報して一般からの参観申込者のために3日間、公開演奏しているほか、地方公共団体等の要請により毎年2回程度、全国各地で地方公演を行い、また、年1回程度、国立劇場において公演しています。
一方、外務省などの要請により、昭和34年にはニュー・ヨーク国連総会議場で初めて海外公演を行い、引き続いて米国内7都市で33回、45年にはウイーン国際音楽祭(100年記念)参加を機会にヨーロッパ8か国14都市で16回、51年にはヨーロッパ8か国12都市で19回、62年には皇太子同妃両殿下の米国ご訪問を機会に同国2都市で2回、平成元年には、ベルギー国における「ユーロパリア日本祭」開会式とドイツ連邦共和国ケルン日本文化会館20周年記念事業に際し、両国3都市で5回、平成12年には、天皇皇后両陛下のオランダ・スウェーデンご訪問を機会にヨーロッパ3か国3都市で5回及びエジプト国で2回の公演を行い、平成14年には大韓民国において日韓宮中音楽交流演奏会韓国公演を同国2都市で公演、平成24年には英国エディンバラ国際芸術祭に参加、併せて、オランダ国際園芸博覧会フロリアード2012に際し、アムステルダムで2回、平成30年にはフランス国において日仏友好160周年に際し、パリ及びストラスブールで公演を行いました。
昭和30年、宮内庁楽部の楽師(がくし)が演奏する雅楽は、国の重要無形文化財に指定され、楽部楽師は重要無形文化財保持者に認定され、千数百年の伝統ある雅楽を正しい形で保存するよう日々研さんしています。さらに、宮内庁楽部の演奏する雅楽は、平成21年、ユネスコ無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載決議がなされ、これにより、今後伝承されていくべき我が国の伝統文化として、我が国のみならず国際的にも認知され、歴史的、芸術的にも世界的価値を有することとなりました。
また、これらの職員は、洋楽も修得しており、皇室の行事の際には演奏を行っています。ちなみに、宮内庁の楽部は、我が国の洋楽演奏団体のうちでも最も古い歴史を持つものの一つです。