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四季山水に恵まれたわが国では,古来より人々は和歌の中に特定の地を歌枕として詠み込み,そうした場所は名所と呼ばれ風雅なイメージが形成されていきました。そして歌に詠まれた名所を題材にした名所絵や歌絵は,その後も様々な変遷を遂げつつ,現在の私たちが親しむ風景画へと発展していきました。本展では日本人の自然観の形成と深く関わる名所絵から,身近な光景に情緒や景趣を見出そうと試みた風景画まで,近世から近代にかけて描かれた作品を中心に紹介します。 名所絵や歌絵が日本の風景画の原点と言えるならば,鎌倉から室町時代にかけて日本に伝わった中国の山水図は,そこに一石を投じ風景描写の幅を広げたと言えるでしょう。日本では見られない懸崖な山容や神仙思想に基づく崇高な山水の姿は絵師や文人たちの心を動かし,見ることのかなわない東洋の風景は憧憬の対象となり,一種の理想郷として描き継がれることとなります。 江戸時代に入ると,交通網が整備され,諸国の遊歴が盛んになったこともあり,これらの概念的な名所絵,山水図とは別に実景描写に基づく真景図が登場します。絵師たちは名所として和歌に詠まれていた地に足を運び,また新たな名勝地と遭遇し,実感をともなった真に迫った描写を行うようになりました。 そして明治時代以降,新たに流入した西洋画を目にした画家たちは伝統的な名所や有名な景勝地でなくても,自然の明暗や大気そのものが十分に画題となり得ることを知り,わたしたちが思い浮かべる風景画に近い絵が登場することとなります。 人の心に映る風景,そしてそれを写す人の心情。こうして描かれた景観は,豊かな人間性が培ってきた文化の奥深さです。本展をご覧いただき,美しい景色に心を託すことの歓びを再認識していただければ幸いです。 展覧会図録(PDF形式:63.8MB) |