主な式典におけるおことば(平成26年)

皇太子殿下のおことば(仮訳)

「日本・スイス国交樹立150周年」オープニング・レセプション
平成26年2月4日(火)(スイス大使公邸)

ブルカルテール大統領閣下,令夫人,
ご列席の皆様

本日,ブルカルテール大統領閣下,ご列席の皆様と共に,日本・スイス国交樹立150周年の開幕を祝うことができることを大変うれしく思います。

日本とスイス両国は,共に風光明()な名峰に囲まれるなど,美しい自然に恵まれています。その中で両国民には伝統的に培われてきた高度な職人技に裏打ちされた精密な製品が広く認められるなど多くの共通点があり,お互いに好感を持っています。スイスの山並みの美しさは日本でも有名であり,日本の中央を貫く山脈も「アルプス」の名前を頂いています。私自身も登山を愛好しております。日本の美しい山々を見て,約30年前のオックスフォード修学時代にスイスを訪れた際に楽しく眺めた,アイガー北壁などのスイスアルプスの秀麗な姿を思い出すことがあります。当時,私は,ベルン,ジュネーブ,グリンデルワルドなどを訪れ,また,スイスの美しい山々でスキーを楽しみました。両国の山間地にある市町村の間で姉妹関係が多く結ばれているのは,美しい自然が両国を結び付けている好例と言えましょう。

今から150年前,両国の間で修好通商条約が調印され,正式な外交関係が始まりました。当時,スイスから多くの時計が日本に輸出され,日本からはスイスに生糸が輸出されるなど活発な貿易が行われました。その後,両国民の共通性もあり,両国関係は大いに多様化しました。経済分野では,科学,医薬,金融,精密機械等,両国の技術力が高い分野で多くの企業が相互に進出しています。また,科学技術分野,学術分野での協力も進展し,両国の研究機関,大学,民間企業の間では数多くの提携合意が結ばれています。

このように両国は一度も途絶えることのない友好の歴史を紡いできましたが,これはお互いの国民を思いやり,必要なときにお互いを助け合ってきたからだと考えます。東日本大震災の際には,スイスの救助隊が日本に駆けつけ,また,「女川町地域医療センター」もスイスの義援金により再建されました。2005年のブリエンツの水害のときには,水害対策施設を整えるために姉妹都市である静岡県島田市の義援金が充てられました。このように,両国が苦境に直面したとき,相互に助け合い,(きずな)を一層深めてきました。

この150年の間に,日本とスイス両国を取り巻く環境は大きく変化しました。両国は基本的価値を共有するパートナーであり,国際社会においても緊密に協力しています。これからも,両国がこれまで築き上げた150年にわたる友好関係を基礎に,直面する課題に共に取り組んでいくことが重要です。

これまでの友好関係を更に深めるための端緒として,これからの1年,日本とスイスの各地で,政治,文化,学術,経済などの幅広い分野において交流事業が行われることをうれしく思います。本年の周年行事を契機として,両国国民の相互理解が一層進み,友好関係が更に発展することを心より祈念し,私の挨拶といたします。

2014年世界水の日記念式典「水とエネルギーのつながり」
平成26年3月21日(金)(国際連合大学)

ご列席の皆様

世界水の日の記念式典に皆様と共に出席できることを喜ばしく思います。

本年の世界水の日のテーマである「水とエネルギー」は密接な関係にあります。水の重力エネルギーは水力発電のように再生可能エネルギーとして利用され,水力発電は世界の総発電量の16%を占めています。また,開発途上国などで展開される小水力発電は地域の貴重なエネルギー源となっています。さらに,水は,火力発電などの冷却水としても用いられています。

その一方で,上下水道の集配水や処理には多くのエネルギーが消費されています。水はエネルギー源であるとともにエネルギーを消費する物質でもあるのです。国際社会において気候変動の緩和策,適応策が集中的に議論されている中,水資源とエネルギーの統合的管理を推進するため,水とエネルギーの関係の議論を深めることは,時宜を得ており大変意義深いことだと思います。

水は生命の源であるとともに,洪水,渇水やその他の水災害という形で生命の脅威となります。東日本大震災における津波を始め,世界各地で起こった最近の大規模水災害により多くの生命と財産が失われました。

2013年3月にニューヨークで開催された国連「水と災害に関する特別会合」では,私は「人と水災害の歴史を辿る」と題した基調講演を行いました。この中で,私は,日本の大規模な水災害とその歴史上の記録について触れ,歴史から学ぶことの大切さをお話ししました。災害に備えるためには,先人の経験から学ぶことが極めて大切です。

人類は太古の昔から水を身近なエネルギー源として活用し文化や文明を発達させてきました。こうした水とエネルギーの関係を通じて発展してきた歴史の礎のもとに今日の人類の繁栄と発展があることを思い起こすことは意義あることと思います。

私は,国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁を務めています。国連では2015年までに安全な水にアクセスできない人の数を半減させるなどのミレニアム開発目標達成に取り組んでいます。また,国連では,2015年以降の新たな開発目標を精力的に議論していると伺っています。今なお安全な水に恵まれない約7億7千万人の人々がおり,また,水災害の脅威の下にある多くの人がいます。これらの人々が1日でも早く,水へのアクセスを享受でき,また水災害の脅威から守られるよう願います。私も,その実現のため,皆様と共に努力していきたいと思います。

本日の議論を契機として,水に関する多面的な議論が深まり,関係の人々の連帯の輪が広がり,水について具体的な行動が加速され,21世紀が水問題解決の世紀になることを願ってやみません。

第34回国際眼科学会開会式
平成26年4月2日(水)(東京国際フォーラム)

ご列席の皆様

本日,第34回国際眼科学会開会式に,129の国と地域から参加された多くの眼科医療の研究者・臨床医の皆さんと共に出席できることを,うれしく思います。

150年以上の長い歴史を持つ国際眼科学会が,1978年の京都以来36年ぶりに日本で開催され,「眼科医療の進歩と世界の失明予防への貢献」をテーマに議論を深められることは,大変意義深いことです。

人間は外界の情報の約80パーセントを,視覚を通じて得ていると聞いています。特に近年,世の中はますます情報化社会となり,視覚情報の重要性は更に増し,視機能が健康であることは,生活の質を大きく左右することとなります。しかしながら世界の開発途上国の中には,十分な眼科医療を受けることができずに,視力に大きな障害のある方がたくさんおられることは,大変残念なことです。

世界の人々の目の健康を守るために,()と視機能に関する研究を日々行い,世界水準の眼科医療を全世界へ広めるよう,皆さんが尽力しておられることに,深く敬意を表します。

現在,社会は科学技術の発展を受け,大きく変化しています。新規技術の臨床応用や移植治療,再生医療など,眼科学の進歩発展は今後,より重要となります。今回の会議が実りある成果をあげ,眼科学の進歩及び眼科研究・臨床の発展を通じ,世界の失明予防と人々の幸せに大きく貢献することを切に願い,開会式に寄せる言葉といたします。

第3回スルタン・カブース学術講座シンポジウム「持続的発展に向けた水資源の管理」オープニング・セレモニー
平成26年10月2日(木)(東京大学伊藤国際学術研究センター)

ハイサム殿下
ご列席の皆様

本日,ハイサム殿下,ご列席の皆様と共に,「持続的発展に向けた水資源の管理」に関する第3回スルタン・カブース学術講座シンポジウムに出席できることを大変喜ばしく思います。

東京大学における本学術講座は,カブース・オマーン国王陛下からの寛大な寄附により,世界の13大学の講座の一つとして開設されました。この度の本邦でのシンポジウム開催は本学術講座が順調に進んでいることのみならず,研究者を含めた日・オマーン両国関係の裾野の広がりを表すものとして大変うれしく思います。

私は20年前に皇太子妃と共に初めてオマーンを訪問し,カブース国王陛下を始めオマーン王室及び国民の皆様に大変温かくお迎えいただきました。オマーンは歴史的・文化的な伝統や遺産に富む美しい国であり,伝統的なラクダと馬のレースを観覧し,マスカットの美しい町並みを海上から眺めたことを懐かしく思い出します。また,両国は,2012年には外交関係樹立40周年を迎え,両国の親善と協力は一層進展してきています。

本シンポジウムのテーマである「持続的発展に向けた水資源の管理」は,大変重要な課題です。オマーンを含め中東地域においては,水資源が希少である一方で人口増加が著しく,水資源の適正管理が重要な課題であると認識しており,オマーンの経験と課題には大変関心があります。

国連を始めとする国際社会は,「水の問題」を含め国連ミレニアム開発目標に取り組んでおり,安全な飲料水を持続的な形で利用できない人々の割合を半減させるとの水に関する目標は達成されましたが,今なお安全な水に恵まれない人々が約7億5千万人いると言われています。また,自然災害の約90パーセントは水に関連した災害であるとも聞いています。本日の議論が,水資源の管理に関する多面的な考察につながり,また,今後,国際社会において水問題の解決に向け連帯の輪が一層広がることを願ってやみません。

最後に,改めまして,このシンポジウムを契機として,日・オマーン両国国民の相互理解と友好関係が更に深まることを心より祈念し,私の挨拶といたします。

ご静聴ありがとうございました。

科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)第11回年次総会閉会式
平成26年10月7日(火)(国立京都国際会館)

ご列席の皆様

本日まで3日間にわたり,世界中から尊敬すべき多くの参加者の方々が一堂に会し,実りある討議が行われ,ここに科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム第11回年次総会が,成功()に閉会することを大変喜ばしく思います。

今回は,2004年にこのフォーラムが開設されて以来,私自身4回目の参加となります。これまで10年にわたり科学技術の「光と影」や人類の持続可能性に関わる諸問題について活発な討議が行われましたことは,大変意義深いものと思います。このフォーラムの開催に携わってこられた多くの関係者の尽力に深く敬意を表します。

このフォーラムでは,気候変動への対応など環境問題,エネルギー利用方法,国際保健に関わる問題など人類が直面する喫緊の課題が議論されてきています。こうした課題の解決に向けて,国際社会は,将来の社会の在り方を多面的に議論し,国際的なネットワークや規範作りなど国際協力を進めることが求められています。こうした観点から,様々な分野の世界的な有識者が学際的なネットワークを構築しつつ,議論することがますます重要となっています。

人類の将来に目を向けると,20年,30年後のみならず,より長期的な展望の下に,環境,エネルギー,食糧や水の問題を含め,国境を越えて生活する地球上の全ての人々のため議論を行うことが重要です。今後さらに,世界の指導者たちの英知を結集し,地球の未来のために,そして人類の持続的発展に向けて,科学技術を最大限にいかす方法を模索する努力が続けられることを望みます。

最後に,改めまして,ここ京都において毎年開かれておりますこの会議が,今後とも科学技術の健全な発展と,世界人類の将来にとって有益なものとなることを心より願い,私の挨拶といたします。

ご静聴ありがとうございました。

国連「水と衛生に関する諮問委員会」第23回会合 水循環・水と災害特別セッションオープニング
平成26年10月29日(水)(三田共用会議所)

ウシ・アイト国連「水と衛生に関する諮問委員会」議長
ご列席の皆様

本日,国連「水と衛生に関する諮問委員会」特別セッションに,名誉総裁として出席できることをうれしく思います。この委員会は,故橋本龍太郎議長の下2004年に創設されて以来,世界の水と衛生の向上に大きく貢献してきました。その成果として,オランダ国国王陛下が議長をお務めの際に実現した国際衛生年や,アフリカ連合水サミット,水事業体パートナーシップなどを思い起こされる方も多いと思います。

この委員会に2006年以来副議長として貢献し,今も議長をお務めのウシ・アイト博士に感謝したいと思います。また,委員会の責務である水と衛生に関する国連目標達成支援のためにこれまで貢献してきた全ての委員の方々に敬意を表したいと思います。

水は,蒸発,降水,流出,取水,排水という循環過程を通じて古くから私たちの生活と社会を支えてきました。主要な古代文明は水が豊富に利用できる地域で発達してきました。一国の歴史を訪ねると,その国の文化と社会を形作ってきた人と水との関係があることが分かります。

ここ日本においても,ため池や堤防,水路など数百年以上,場合によっては千年以上も前に作られた多くの水に関する施設が今なお人々によって使われています。古都である奈良では二千年以上前の弥生時代の環(ごう)集落に,水利用や排水,洪水などに対応するための施設があったことが分かります。古代の日本で「国」という意識が初めて芽生えた際,環(ごう)集落という形で人と水との関わりが見られたことに興味を覚えます。健全な水循環は国の形成の時代から人々の関心事であったのです。

私は,昨年3月,国連事務総長と本日ご出席のハン・スンス博士の共同議長の下で開催された国連水と災害に関する特別会合において,基調講演を行いましたが,その中で私は,水問題の解決のために歴史を知ることの重要性をお話ししました。歴史上の記録や記述は,災害の詳細を知るためだけでなく,災害と社会の復興の関係を分析する上でも有用です。私は基調講演において,歴史上の文献が災害事象を極めて正確に記述していることを示し、またそれがいかに将来の防災対策の改善に役立つかを示しました。現代の災害対策の手段と歴史から学んだ知恵を併せ活用することによって,災害に対して柔軟な社会を創っていくことができると言えます。災害による被害の連鎖を,備えと復興の連鎖に替えていくことができるのです。そして,そのためには強い意志が何よりも必要です。

水災害に関しては,近年我が国でも頻発しており,今年も8月に広島市で大雨による土砂崩れで多くの人命が失われました。昨年,私は,三重県の大台町(旧宮川村)を訪れ,2004年9月の大雨により大規模な地滑りが起き,幾多の人命が失われた現場を目の当たりにしました。崩落の大きさに驚くとともに,当時の宮川村の村長(現在の大台町長)から,4キロメートル離れた村役場では災害当時,雨はさほどひどくはなかったこと,災害後,より多くの場所にモニターを設けて雨量の観測をするようにしているとのお話を伺い,局地的な大雨への対策が今後ますます大切になってきていることを肌で感じました。

国連「水と衛生に関する諮問委員会」は,水と衛生に関して提言を行うだけでなく,具体的な地球規模の行動を実現するグループとして,世界に貢献してきました。本日の会議が,健全な水循環,より良い災害対策と安全な水と衛生を世界中にもたらすための,関係する全ての人による行動につながることを祈念し,私の挨拶といたします。

持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議開会全体会合
平成26年11月10日(月)(名古屋国際会議場)

ボコバ事務局長
ララ・ハスナ王女殿下
ご列席の皆様

国内外から多くの参加者を迎え,持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議が開催されることを誠に喜ばしく思います。

我々の住む地球上では,経済成長と人口増加に伴い,気候変動,生物多様性の喪失,資源の枯渇,貧困の拡大等が進んでいます。将来にわたって,恵み豊かな生活を確保するための基盤となる環境を守り,地球上の限りある資源を大切にして,持続可能な形での発展を達成していくために,私たち人類は,英知を結集し,力を合わせて取り組んでいかなければならないと感じています。

このような状況の中,1992年のリオ・サミットから20年を経た2012年6月に,再びリオデジャネイロにおいて,「国連持続可能な開発会議」が開催され,世界188か国により,「我々の求める未来」という文書が合意されました。今,私たち一人一人が,私たちの望む持続可能な未来に向けてどのように行動するかが問われています。

「持続可能な開発」の達成のためには,私たち一人一人が,世界の人々や将来世代,また,環境との関係性の中で生きていることを認識し,国際的な視野を深め,地球上の様々な問題について考えることが必要です。教育はそのための基礎となるものです。

「国連ESDの10年」として,この10年間,世界各国で様々な形でESDに取り組まれてきたことと思います。その最終年に当たる本年,提唱国日本のここ名古屋でESDに関するユネスコ世界会議が開催されることは,大変意義深いことです。

また,本世界会議に先立って,岡山市において,世界各国から集まった高校生や若者などがESDの推進に関して熱心に議論を重ねたと聞いております。こういった若者たちが持続可能な社会の担い手として,未来の地球を支えていってくれるものと期待しています。

終わりに,本世界会議の開催に関わった全ての方々の努力に心から敬意を表するとともに,この会議において,ESDを推進するための活発な議論が行われ,今後,その成果を踏まえ,持続可能な社会の構築に向け,教育分野での具体的な取組が更に進むことを願い,私の挨拶といたします。

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