天皇皇后両陛下 ブラジル・アルゼンチンご訪問(ルクセンブルク・アメリカ合衆国お立ち寄り)時のおことば

ルクセンブルク

平成9年5月31日(日) 
ルクセンブルク大公同妃両殿下主催午餐会(大公宮)における天皇陛下のおことば

Your Royal Highness

It is a great pleasure for the Empress and I to have this opportunity to visit Luxembourg and renew the long-standing friendship with Your Royal Highness and Her Royal Highness the Grand Duchess. We are most greatful to the warm and personal hospitality you have extended to us.

As Your Royal Highness just pointed out, we first met more than forty years ago. I was still a young man of nineteen, and was in the midst of my first travel abroad.

Since then, the Empress and I had a number of opportunities to see Your Royal Highnesses. We particularly remember with a deep sence of gratitude that Your Royal Highnesses came to attend my enthronement ceremony and shared your time with us on that occasion. I am also very pleased that His Royal Highness Prince Henri travelled extensively in my country in his youth and came to have a deep understanding of it. He has since been devoting himself to the pomotion of relationship between our two countries with his frequent visits to Japan leading econotic missions.

Having talked to the leaders of Luxembourg and the Japanese residents here, I am very encouraged to feel that the relationship between us has been much deepened during the fourteen years since I last visited this country.

I share with Your Royal Highness the sense of satisfaction with the development of cooperation and friendship between our two countries. It is my earnest hope that this happy relationship will be expanded further on the basis of our common goals and interests.

We will have to leave this country soon. But the beautiful landscape of Luxembourg in early summer and the kindness we received here during this short but pleasant stay will long remain in the memory of the Empress and myself.

May I now propose a toast to the health of Your Royal Highnesses, the happiness of the people of Luxembourg and the promotion of ever stronger friendship between our two countries.


ブラジル

平成9年6月2日(火)
ブラジル大統領夫妻主催晩餐会(イタマラチ宮)における天皇陛下のおことば

大統領閣下,令夫人並びに御列席の皆様

今夕は,私どものために晩餐会を催してくださり,また,ただ今は大統領閣下から懇篤なお言葉を頂き,厚く御礼申し上げます。

大統領閣下並びに令夫人には,昨年3月国賓として我が国を御訪問になりましたが,この度ブラジリアにおいて再びお目にかかる機会を得たことを誠に喜ばしく思います。

貴国と我が国が1895年,日伯修好通商航海条約を締結し,両国並びに両国民の間に,「永久堅固ノ和親アルヘシ」と約して以来102年の歳月が経ちました。一昨年は修好100周年を記念する行事が両国で行われ,両国の関係にとり,誠に意義深い年でありました。

貴国との交流の歴史を振り返りますと,遠く離れた地球の反対側に位置する両国を深く結び付けましたのは,1908年より始められた日本人移住者のブラジルへの渡航でありました。日本人移住者とその子孫の日系ブラジル人は現在130万人に達し,貴国は世界で最も日系人の多い国となりました。日本人移住者を迎え入れ,活動の場を与えられたブラジルの人々の温かい心に,深い感謝を覚えるものであります。今日,日系ブラジル人は様々な分野で貴国の社会に尽くしており,また我が国民との重要な接点となっておりますことを心強く,また,喜ばしく思っております。

貴国と我が国の関係は,第二次世界大戦後,両国の経済発展と共に深まり,近年は科学技術の開発や地球環境保全に関する協力にまで幅広く及んでおります。また多数の両国民が様々な形で両国関係の発展に関与していることは意義深いことであります。

大統領閣下には,社会的公正に配慮しつつ,ブラジル経済の安定的な発展と社会の近代化のための諸改革を目指して真摯な努力を重ねていらっしゃいますが,そのような中で,常日頃,我が国との友好関係の増進にも心を配っていらっしゃることに,深い敬意を表したいと思います。

私どもの貴国訪問はこの度が三度目になります。初めて貴国の土を踏みましたのはちょうど30年前,当時のブラジリアは赤土の荒野の中に都市計画に沿って建物が建てられていく真新しい首都でありました。二度目の訪問は1978年,日本移民70年祭記念式典出席の機会であり,ブラジリアは11年の間に大きく発展しておりました。この度の訪問でブラジリアの更なる発展を心に留めることになることと思います。

私どもはこれまでの貴国訪問を通じて,貴国の広大な土地,豊かで多様性に富む自然環境,寛容な国民性に深く印象づけられ,また,各地において,人々の温かい歓迎を受けてまいりました。今回の訪問においても,訪れる各地において,大きな変貌を遂げ,未来に向かって伸びようとしている貴国の姿を知るとともに,貴国国民との交流を深めたいと思っております。

ここに,貴国と我が国の国民が,世界の人々と相携え,平和で豊かな世界を目指して努力していくことを願い,大統領閣下並びに令夫人の御健勝と貴国国民の幸せを祈り,杯を挙げたいと思います。

平成9年6月5日(金)
サンパウロ在留邦人・日系人歓迎行事(イビラプエラ体育館)における天皇陛下のおことば

この度,再びサンパウロを訪れ,皆さんとお会いすることを誠にうれしく思います。19年前のこの同じ季節に,ここサンパウロの地において行われた,移民70周年記念の式典を懐かしく思い起こしつつ,今日の歓迎に対し,深い感謝を表します。

1908年,日本から最初の移住者が笠戸丸でサントス港に到着して以来,移住者の長年にわたる並々ならぬ努力により,現在,日系の人々がブラジルの社会で信頼され,高い評価を得ていることをを,喜ばしく思っております。また,新しい世代がたくましく成長し,サンパウロを始め,各地で様々な分野において,活躍するに至っていることも,うれしく,心強いことに思います。このような今日の日系社会の発展をもたらした各世代の人々の,それぞれの時代における努力に対し,深く敬意を表します。同時に,日本人移住者を迎え入れ,その活躍を可能ならしめたブラジル国民の寛容さを,私どもはこれからも長く心にとどめていきたいものと思います。一昨年,日本が戦後50年を迎えた折には,復興の苦難の日々,はるかなブラジルに住む日系人から寄せられた支援に対し,深く思いを致したことでありました。

近年,日系ブラジル人を含め,日伯両国の人々の間に新たな交流が盛んになってきております。こうした交流が,両国民の間の友好を深めると共に,相互の言語や文化の理解を通じ,両国社会への更なる貢献に資するものとなることを願っております。皆さんには,今後ともどうか体を大切にし,元気でブラジルの発展に貢献されるよう,また日本とブラジルの友好のため,引続き尽くしていかれるよう切に希望しています。

アルゼンチン

平成9年6月10日(火)
ブレノス・アイレス在留邦人・日系人歓迎行事(日本庭園内文化会館)における天皇陛下のおことば

この度,30年ぶりに再びアルゼンチンを訪れ,皆さんとお会いすることを,誠に喜ばしく思います。ただ今の,歓迎の言葉に対し,深く感謝いたします。この日本庭園は私どもの前回の訪問の機会に日系社会の人々によって造られました。その後,この庭園が立派に維持され,現在では,ブエノス・アイレス市民に親しまれる場所となっていることを,うれしく思います。今,この地を再訪し,30年前,ブルサコ協和園で多くの日系人にお会いしたこと,日系コロニア花卉展示会を見たこと,アセライン農場を立つ時,遠くマル・デル・プラタから日系人が見送りに来てくれたことなど,懐かしく思い起こされます。

アルゼンチンは,ブラジル,米国,ペルーに次いで日系人の多い国であり,現在3万人を越える人々が住んでいると聞いております。地球のほぼ反対側に位置し,文化も異なるこの地において,日系の人々が多くの困難を乗り越え,花づくりをはじめ,様々な職業に従事し,アルゼンチンの社会に寄与してきたことを,うれしく,誇らしく思っております。

皆さんには,今後とも体を大切に,元気に過され,アルゼンチンのため,また,日本とアルゼンチンの友好のために尽くしていかれるよう切に希望いたします。

平成9年6月10日(火)
アルゼンチン大統領主催晩餐会(アルベアール・パレス・ホテル)における天皇陛下のおことば

大統領閣下,御列席の皆様

今夕は,私どものために晩餐会を催してくださり,また,ただ今は大統領閣下から懇篤なお言葉をいただき,厚く御礼申し上げます。

大統領閣下には,私の即位の礼に御出席くださり,また,4年前にも我が国を公式に御訪問になりました。この度ブエノス・アイレスで再びお目にかかる機会を得ましたことを,誠にうれしく思います。

私どもがこの前貴国を訪れましたのは,ちょうど30年前になります。その時の訪問では,この国の蓄積された文化の豊かさと共に,ブエノス・アイレスがその名にふさわしく澄んだ空気に包まれ,街中に緑豊かな公園のあることや,アセライン農場訪問に際し,飛行機から広大なパンパスを見たことなどが,農場での思い出とともに心に残るものでありました。貴国訪問の折,日系の人が育てていた1本のオンブーを持ち帰りましたが,それは私の庭で元気に育ち,この木を見るたびに当時の貴国への旅を思い起こしております。

明年は,1898年日亜両国の間に修好通商航海条約が締結されてから100年目に当たります。この100年を振り返る時,貴国から我が国に示された好意が感謝の気持ちとともに思い起こされます。条約が締結された5年後,イタリアで建造中の,貴国の最新鋭の軍艦2隻が我が国に譲渡されました。我が国をめぐる当時の切迫した国際情勢のもとで,当時の我が国関係者の安堵の気持ちが深く察せられます。また,第二次世界大戦後,ペロン大統領夫人はリオ・イグアス号に救援物資を満載して,当時物資の欠乏していた我が国に送られました。このような貴国との関係は,ブエノス・アイレスの美しい街や広大なパンパスに展開する豊かな農牧地と共に,我が国の人々の貴国に対する親しみを深めていることと思います。この上に立って,近年,両国民の間の友好の絆がますます強化されていることは非常に喜ばしいことであります。

貴国には,日本からの移住者も多く,今日移住者とその子孫は3万人を超え,貴国は世界で4番目に日系の人々の多い国となっています。今日,日系の人々が様々な分野で貴国の社会に尽くしていることを心強く,また,うれしく思っております。

貴国は,近年,開放経済の実現と民主化の達成に向けて目覚ましい進展を遂げ,国際的な場においても多くの積極的な貢献を重ねております。私は,大統領閣下が,御就任以来,国民のために絶えず払っていらっしゃった御努力に対し,深い敬意を表します。

この度の貴国訪問に当たり,大統領閣下を始め,関係者の心のこもったおもてなしをいただいたことに対し,深く感謝の意を表します。この度の訪問が日亜両国民の間の相互理解と友好関係の増進に資することを切に願っております。

ここに,貴国と我が国の国民が,世界の人々と相携え,平和で豊かな世界を目指して努力していくことを願い,大統領閣下の御健勝と貴国国民の幸せを祈り,杯を挙げたいと思います。