主な式典におけるおことば(平成10年)

皇后陛下のおことば

平成10年全国赤十字大会
平成10年5月13日(水)(明治神宮会館)

本日,全国赤十字大会に出席し,日ごろ赤十字の活動に,たゆみない努力を続けておられる皆さまとお会いいたしますことを,大変うれしく思います。

赤十字は,国際的な強い絆で結ばれ,人道的事業を通じ,広く世界の人々の福祉を増進し,平和な国際社会を築くために大きな力となっておりますが,日本赤十字社が,大勢の関係者の尽力のもと,日々その使命を果たしていることを,誠に心強く思います。

昨年,創立120周年を迎え,青少年赤十字の活動においても75周年を記念した日本赤十字社にとり,本年は,更に奉仕団活動の50周年をお祝いするという,大切な節目の年となりました。

世界の各地において,今なお多くの人々が,自然災害や紛争,疾病,高齢など,さまざまな状況下で苦しみ,あるいは介護を求めている今日,皆様が,従来にも増して赤十字の尊い使命に思いを致され,更に活き活きとした活動を,国の内外において進められるよう,切に希望いたします。

聖心女子大学創立50周年記念式典
平成10年10月23日(金)(聖心女子大学)

私共の母校,聖心女子大学の創立50周年に当たり,皆様方と,お祝いを共に出来ますことを,心より嬉しく思います。

私は,この大学に昭和28年に入学し,その4年後,昭和32年に,第7回生として卒業いたしました。入学した頃には,今,式典の行われているこのマリアン・ホールは,まだ建っておらず,校庭の一部には,兵舎のような半円筒の形をした建物があったことが,印象に残っております。当時,大学の学生数は非常に少なく,4学年を合わせても,400名に満たなかったのではないかと,記憶いたします。

4年間の在学期間を通じ,修道女の方々は,聖心会創立者の望みに添い,又先生方も皆そのお気持ちを尊重され,私共一人一人の学生が,少しでも真理と愛に目覚め,これを求めてくように,又,自分たちの自由を知り,これを生かすと共に,集団生活の中で,他者の自由にも思いを向けること等,事に当たり,心を込めてお教え下さいました。また,私共が生涯にわたり学び続けていけるよう,学問の方法を教えて下さると共に,学問を愛する心と,自らの考え,判断する力を養うための,様々な助力を与えて下さいました。

第二ヴァチカン公会議以前のその頃,聖心には,こうして学生の教育に当たって下さる修道女とはお別に,労働専門に従事なさる,シスター方も,おいでになりました。お名前も存じ上げない方々でしたが,その方々が祈りつつ働き,労働のひまひまにも祈っていらしたご様子は,今もはっきりと目に浮かべることが出来ます。卒業後,家庭で,社会で,働く時,この方々のお姿がよく思い出され,その都度,労働の根底にあるべきものに,思いを巡らせております。

4年間には,同学年と否とを問わず,その後の長い年月を共に支え合うことになる,大切な友人にも多く巡り会うことが出来ました。在学中シスター方は,私共に度々に競い合う機会を与えられ,お互いの切()(たく)磨の大切さをお教えになりましたが,それにも増して,学生同士が共に働き,協調して事を成し遂げる訓練を重視なさり,度々にその機会を,私共にお与えになりました。それぞれが責任を分担して共に働き,一つずつ事を成した後の喜びが,どんなに快いものであったか,今も友人との間で,度々に話し合います。

50年を振り返り,この学舎でお教えを受けた,大勢の方々のお上を思います時,言葉に尽くせぬ感謝の思いが,胸を満たします。創立以来今日まで,様々な形で大学のためにお働き下さった,全ての方々のご苦労を深く多とし,明日から始まる大学の新しい日々が,恵み多く,実り多くあることを願い,お祝いの言葉とさせて頂きます。

社会福祉法人日本点字図書館新館披露の式典
平成10年11月12日(木)(社会福祉法人日本点字図書館)

昭和15年,700余冊の点字本を備えて発足した「日本点字図書館」が,半世紀余にわたる着実な歩みを続け,その発展の下に,この度新館の完成を見ましたことに対し,心からお祝い申し上げます。

昭和44年の夏の日に,この図書館を初めてお訪ねした日のことが,今,懐かしく思い出されます。日本における点字図書館の設立を発想され,これを創立された本間理事長から,事業内容の説明を受け,一般の図書館と異なり,ここでは図書館自体が図書を作るということ,また,本はほとんどが郵便局を通じ,全国の希望者の家庭に届けられること等を教えていただきました。これ以前,昭和29年に,厚生省の英断をもって,この点字図書館の仕事を国の事業として認知しており,図書館では,それまでの個人による点訳奉仕に加え,国の委託事業としての出版事業も,既にその業務に組み込んでおりました。昭和33年に併設されたテープライブラリーでは,録音図書が製作されており,盲人用具の開発と普及を目指して設置された用具部では,ちょうどそのころ完成されたという,サーモフォームを用いた立体地形図を見せていただきました。図書館が,中途失明者の社会復帰を助けるための点字教室を備えていること,ハンセン病による視覚障害者のために,録音テープのコピー送付が行われていること等も,心強く伺ったことでした。

当時から30年近く経た今日では,パーソナル・コンピューターによる点訳システムも導入され,また,点訳書,録音書の貸し出しの管理や,情報提供にもコンピューターが使用される等,図書館の様子も,きっと大きく様変わりをしたことでしょう。平成5年からは,アジア地区の点字図書館との交流も始められています。図書館の事業内容の発展,建物の増改築のその都度に,きっと計り知れぬ御苦労があったことと思いますが,理事長始め館の関係者の方々が,常にその一つ一つの節目を,誠意と人の和をもって越えてこられたことに,深い敬意を覚えます。

思えば,ブライユが,一つの升目の中で6つの点を組み合わせる点字書記法を考案したことは,人類の文化史上の実に大きな業績でした。これにより視覚障害をもつ人たちは文字と書物を得,自己実現のより確かな可能性を得ました。ブライユの発明からほぼ60年,日本に到達したこの書記法から,石川倉次は日本の点字を制定し,それから50年後の昭和15年に,この点字図書館が建てられています。図書館が初期より果たしてきた役割は,直接には読書の機会の拡充でしたが,それは視覚障害者にとり,同時に自立への自覚,社会復帰への道につながるものであったと思われます。

平成2年にできた図書館制度50周年記念誌,「われ播きし一粒の麦は」には,失明後図書館を訪れたお一人の体験談として,当時終戦後の厳しい社会情勢の中で,視覚障害者に関心を寄せ,点訳奉仕に励む一群の人たちのあったことに,人生観の変わるほどの思いであった。と記されてあり,点訳奉仕という,この地味なお仕事に携わる方々の存在が来館者にどれほどに大きな,無言の励ましとなっていたかを察することができます。朗読奉仕の加わった今日では,朗読者の声が,同様の励ましと喜びとを聞く人々に与えていることでしょう。

この度,新館が立派に完成し,50年余の長きにわたり,社会に尊い貢献を果たしてきたこの図書館に,更なる活動の場が開かれました。今後,館への要望は更に幅広く,高度なものになってまいりましょう。お仕事に携わる方々の健康を切に望み,この図書館を,今日まで育ててこられたすべての方々に感謝の意を表し,お祝いの言葉とさせていただきます。

アジア婦人友好会30周年記念式典
平成10年11月18日(水)(第一ホテル東京)

Address Delivered by H. M. Empress Michiko
on the occasion of the 30th Anniversary Ceremony
of The Asian Ladies Friendship society

November 18, 1998

at Dai-ici Hotel Tokyo

Princess Hitachi, Mrs.Miki, Mrs. Chew, dear friends,

May I first of all congratulate you on the 30th anniversary of your Asian Ladies Friendship Society. Over the years, news has often reached me of your splendid work, both cultural and charitable, and your annual fund-raising event, now well-known to the public by the name of ‘Asian Festival’. I very much appreciate the great efforts you have been making so selflessly down the last thirty years.

I am delighted that this society has chosen to name itself a ‘Friendship Society’. You gather together so that you can come to know more about the people of other Asian countries and their respective cultures. I always think it is good to learn about other countries, not only through books and mediatic sources of information, but by direct human contact with their people themselves. It is a genuine pleasure to develop a love for another country because we know people there whom we may truly call our friends.

On this occasion of your Society's 30th anniversary, I once again congratulate you on your past achievements, and in the same spirit as yourselves, pray for peace among all our nations. My best wishes to you all, and for the future of your fine Society.

Thank you