昭和36年歌会始お題「若」

御製(天皇陛下のお歌)
旧き都ローマにきそふ若人を那須のゆふべにはるかに思ふ
皇后陛下御歌
上野毛のわこのひやに訪ひくればやぬちことごと若さみちみつ
皇太子殿下お歌
見るごとに若芽のびゆく白樺に春深まるを目にしみ味はふ
皇太子妃殿下お歌
若菜つみし香にそむわが手さしのべぬ空にあぎとひ吾子はすこやか
正仁親王殿下お歌
火の気なき研究室に若きわれら顕微鏡見つつけふもくれゆく
雍仁親王妃勢津子殿下お歌
心さへ身さへわかやぐ雪ぎえの山路あかるく木々の芽ぶきて
宣仁親王殿下お歌
春待ちて芽ぐむわか葉のごとくにも力蓄へ走らむとぞ思ふ
宣仁親王妃喜久子殿下お歌
雪ふかくけはしき峯にいどまむといさむ人々眉わかくして
崇仁親王殿下お歌
アフリカの歴史大きく動きをり古き大陸に若さよみがへる
崇仁親王妃百合子殿下お歌
幼しと思ひゐし吾子のこの日ごろ若者めけることにおどろく
召歌 中川一政
わかき日は馬上に過ぎぬ残る世を楽しまむと云ひし伊達の正宗あはれ
召歌 佐藤達夫
ふか谷に春は至れりたくましき羊歯の若芽のこの群立ちを
選者 土屋文明
時ゆけば時に再びわかき国ささへむと立つわかき声をきく
選者 太田みつ
湿原に鶴の白羽の舞ふが見ゆ国まだ若し道つくりして
選者 松村英一
いくたびか父かなしますこともして思ふに恋ひし吾の若き日
選者 五島美代子
羽ばたかむつばさ暫くためらへり巣離れ近きこの若鳥は
選者 木俣修二
若くして究めえざりし究めむと書庫に灯ともす寒きこの夜も

選歌(詠進者氏名五十音順)

鹿児島県 東光二
癩いえて園を去りゆく若者を楽ならしつつわれら見送る
三重県 石川良夫
若き日は過ぎてゆかむか放課後も図書室の本にラベル貼りつつ
大阪府 植田多重子
この街の人にならむと若草の野を嫁ぎ来し遠き日思ふ
神奈川県 上田芙美子
地下足袋を洗ひつつ思ふ選炭婦となりて働きし若き日のこと
広島県 沖田正三
夜目白くライン引かれしグラウンドは朝につどふ若人を待つ
アメリカ合衆国カリフォルニア州 古賀智野
うら若く渡りきたりしアメリカにいつしか二人の祖母と吾がなる
北海道 柴田久男
若きらが明日の世界を論じ合ふ籾すり終へし夜の安らぎに
埼玉県 武井征夫
はひり来る汚れし電車まち受けて洗ふは若きわれらが仕事
埼玉県 常木金雄
柿若葉かげさやかなる庭先きに春蚕支度の糠を焼きをり
新潟県 外川春夫
一団になりて晩稲を刈り急ぐ若きは紅き襷を掛けて
愛知県 鳥井かね子
夜もすがら作業つづけし工場に若き等きほふ朝の交代時
岡山県 鳥越典子
愛ふかく秘めて事務とる若きらの眼やさしく触れ合ふを見つ
富山県 中村義一
若芽吹く柿をうつして手狭なる工場を少しひろげむと思ふ
長野県 堀博行
山に来て山に遊べば楽しくて楽しくてならぬ若き我等よ
北海道 松宮広
旗高く鮭鱒船団かへり来ぬ手をふりて若き漁夫らたくまし
茨城県 吉川出善
砂山の砂しづめむと植ゑつぎし若松の上に鹿島灘照る