昭和24年歌会始お題「朝雪(あしたのゆき)」

御製(天皇陛下のお歌)
庭のおもにつもるゆきみてさむからむ人をいとどもおもふけさかな
皇后陛下御歌
あさひかげうららにさしてみほりべの松のこずゑのゆきぞかがよふ
皇太后陛下御歌
早咲の梅が香のみを残しおきてゆきのうづみしけさの庭かな
雍仁親王殿下お歌
ここちよしただひとすぢのあとのこし朝日まばゆきゆきをすべれば
雍仁親王妃勢津子殿下お歌
珍しきゆきにみとるるあさ窓に餌をやまつらむ山羊の声する
宣仁親王殿下お歌
咲く梅も残るおち葉もおしなべて今朝はましろき雪にうもるる
宣仁親王妃喜久子殿下お歌
吹上(ふきあげ)のみそののまつにふりつもる雪にかがよふ朝日まばゆし
崇仁親王殿下お歌
はるかなるふじにのみ見し白雪をけさはふみゆくまなびやへのみち
召歌 正四位勲五等 武島又次郎
とりどりのすがたもみえてうめやなぎ雪おもしろきけさのにはかな
召歌 従四位勲五等 遠山英一
おきいでてたたへぬ(ひと)ぞなかりけるおもひもかけぬけさのはつゆき
選者 日本芸術院会員 尾上八郎
みちなむとしてたゆたへるあさぞらのひかりにふれてゆきはこぼるる
選者 日本芸術院会員 齋藤茂吉
まどかにもふりたる雪かためらはず降れるものかも今朝のはだれは
選者 日本芸術院会員 窪田通治
あさひかげさすにしづるるささのゆきこのさやけさのうちつづくみむ
選者 日本芸術院会員 吉井勇
京にすむことのたのしさ思ひつつ真くずが原のあさのゆきふむ
選者 従三位勲三等 鳥野幸次
ひらひらとあさゆくみちに散りそめておもしろきかなとしのはつゆき

選歌(詠進者氏名五十音順)

愛知県 天野良吉
さえざえし一夜しづかに降り足りて晴れたる雪に朝日かがよふ
岐阜県 今津喬
朝庭の雪を握ればやはらかし見えぬ瞼に景色浮びて
東京都 織田信恒
天ぎらふ雲畑山の丈夫(ますらを)は雪ふみちらし朝かりにゆく
岐阜県 大島久
朝ぼらけ火入れし(すゑ)(かま)の屋根にふりしきる雪のしづくし流る
群馬県 大塚貞守
あさぞらに火を噴く山もかくろひて毛野(けぬ)の国原ゆきふりしきる
愛媛県 尾崎安太郎
ふりつみし(あした)のみ雪眼にしみぬ三勤終へて鉱坑(しき)をいづれば
千葉県 川久保俊一
朝光(あさかげ)のさやかに映ゆる那須山の五つの(たけ)に蒼む白雪
大阪府 神内美代子
この朝の眼ざめさやけき心もて雪降る窓を明け放ちけり
大阪府 近藤眞須子
朝の()のさしとほりたる山峡(やまかひ)の雪のそこひに水の音する
アメリカ合衆国カリフォルニア州 田名ともゑ
ふるさとの朝つむ雪のすがしさを加州にととせこひてやまずも
愛媛県 西澤信太郎
行きなづむ雪のあしたの道にしておきかへる竹の力をぞ見し
滋賀県 西山伊豆子
新らしく生きむよろこび覚えつつ今朝ふる雪に出で立つ吾は
滋賀県 丹生藤
わがひらく小田のあしたにつむ雪はみかどの庭にふりやつづかむ
愛知県 野々山茂作
降る雪の光ゆくてにみなぎりてこの朝戸出のおほき楽しさ
和歌山県 宮本孝學
つつがなきわが現身(うつしみ)よ帰りきて年立つ朝の雪にしたしむ
東京都 山川正子
まなびやにきほひゆく子らの声のしてあかるきまちに雪ふりやまず