平成19年歌会始お題「月」

御製(天皇陛下のお歌) <英文へ>
務め終へ歩み速めて帰るみち月の光は白く照らせり
皇后陛下御歌 <英文へ>
年ごとに月の()りどを確かむる歳旦祭(さいたんさい)に君を送りて
皇太子殿下お歌 <英文へ>
降りそそぐ月の光に照らされて雪の原野の木むら浮かびく
皇太子妃殿下お歌 <英文へ>
月見たしといふ幼な子の手をとりて出でたる庭に月あかくさす
文仁親王殿下お歌
モンゴルを走る列車の車窓より見えし満月大地照らせり
文仁親王妃紀子殿下お歌
月てらす夜半の病舎にいとけなき子らの命を人らまもれり
正仁親王殿下お歌
望月の光あまねき草生(くさふ)よりかねたたきの声しづかに聞こゆ
正仁親王妃華子殿下お歌
をとめらは夏の祭りのゆかた着て月あかりする山の路ゆく
崇仁親王妃百合子殿下お歌
ならび立つ樹氷を青く照らしつつ蔵王(ざわう)の山に月のぼりたり
寬仁(ともひと)親王妃信子殿下お歌
澄みわたる月の光をあふぎみて今の世思ひ次の世を思ふ
憲仁親王妃久子殿下お歌
知床の月のひかりに照らされて梢にとまるしまふくろふ見ゆ
召人 大津留 温
天の原かがやき渡るこの月を異境にひとり君見つらむか
選者 安永蕗子
湖に浮きていさよふ円月を遠く見てゆく冬ふかきかな
選者 岡野弘彦
望月は海原たかくまかがやき伊豆の七つの島さやかなり
選者 岡井 隆
月はしづかに天心に浮き足早に歩くわれらを見守らむとす
選者 篠 弘
路上なる古本祭りつづきゐて夕空は朱の月をかかげつ
選者 永田和宏
夕月を肩に押し上げ静かなる雪の比叡を見つつ帰らな

選歌(詠進者生年月日順)

岡山県 高原康子
有明けの月照る畑に総出して出荷のアスター千本を切る
愛知県 奥村道子
黒板に大き三日月吊されて園児らはいまし昼寝のさなか
徳島県 金川允子
台風に倒れし稲架(はさ)を組みなほし稲束を掛く月のあかりに
秋田県 田村伊智子
月光をたよりて屋根の雪をきる音かすかして子の丈みえず
広島県 杉田加代子
弓張の月のかたぶくころほひに携帯メールはひそやかに来ぬ
北海道 藤林正則
サハリンを望む丘のうへ放牧の牛千頭を照らす満月
秋田県 山中律雄
映像に見し月山の朝のあめ昼すぎてわが町に移り来
東京都 藤田博子
月の庭蒼き梢に目守られて昨日となる今日今日となる明日
東京都 一杉定恵
実験のうまくゆかぬ日五ヶ月の胎児動きてわれを励ます
大阪府 吉田敬太
帰省した兄とボールを蹴りに行く土手一面に月見草咲く

佳作(詠進者生年月日順)

東京都 塩谷 勇
大利根に白波立てばウスリーの月下に裂きし雷魚を思ふ
東京都 久保田 仁
富士見坂月見坂へとうつりゆく谷中(やなか)いとほし老い深むほど
徳島県 近藤恵美子
山羊売りてひそけき小屋の敷藁に十日の月が深々と差す
兵庫県 林彌榮子
月の名の夜毎に変るを書き留めしノート出で来ぬ人恋ひてゐし
香川県 森安文士
目に見えぬものの何かにぽつかりと押しあげられて出でし月なる
宮城県 武田治一
幼子とわが息足して膨みし黄の風船は月に触れたり
奈良県 山根良子
三輪山を今し離りて昇りゆくほのぼのと紅き十五夜の月
長野県 小林勝人
モンゴルの黄砂あらしも夜は凪ぎて植林隊のゲルに月照る
埼玉県 清水久世
水底に月のしづみてゆるる川小さき橋を渡りて帰る
大分県 南 静子
種付を終へし海苔場に照る月を恵みの如く浴びて帰りぬ
千葉県 粕谷征三
産み月の迫りし牛か涙ため痛がる乳をなだめつつ拭く
奈良県 東田泰代
月澄みて水張田てらすふるさとの新しき地名をまだ呼び慣れず
神奈川県 中川紀子
微笑めば微笑み返す君とゐて名も無き今日の月ぞ涼しき
石川県 黒崎恵未
しんしんと夜の空気が降る中の一人子同士の月と私
東京都 神屋良五郎
宿題の月の観察ノート持ち東の空の月の出を待つ