文仁親王殿下お誕生日に際し(平成15年)

文仁親王同妃両殿下の記者会見

会見年月日:平成15年11月20日

会見場所:秋篠宮邸

文仁親王同妃両殿下のお写真
記者会見をなさる文仁親王同妃両殿下
(写真:宮内庁)
問1 殿下にお尋ねいたします。皇族として初めてトンガ,フィジー,サモアの太平洋諸国を公式訪問されるなど,この一年も様々なご公務を務められました。一年を振り返り,国内外の出来事やご公務を含む身の回りの出来事で印象に残ったことをお聞かせください。
殿下

この一年でいろいろなことがあり,印象に残ったことも多数ありますけれども,そのうちの幾つかをお話するといたしますと,まず,自然に関することでは気候が不順であり,特に(国内では)冷夏によりお米が不作であったこと。またヨーロッパの方では大変な猛暑がありました。そして三陸南,それから宮城県北部,十勝沖の地震が続いて起こったということがあります。

また,海外の方に目を移しますと,ここのところテロが非常に多いことが強く印象に残っています。それと関連しますが,バグダッドにある国際赤十字の事務所がテロの対象となり,バグダッド,それからバスラの国際赤十字の事務所が一時閉鎖になるということがありました。このような人道支援活動も行えないような状況になっているということを大変残念に思っております。

それ以外で思い付くままに申しますと,トキのキンですね。日本産の最後のトキが10月に絶滅いたしました。これは,今年9月23日に私が総裁をしております研究所(山階鳥類研究所)が主催し,今年の山階芳麿賞(鳥学に貢献のあった人に贈る賞)を受賞されたトキの研究をされている方の記念シンポジウムを行ったすぐ後ということもあり,強く印象に残っております。

一方,明るい話題として水泳の北島選手とか,テニスの杉山さんとか,非常に素晴らしい成績を残されたスポーツの世界での日本人の活躍というのがかなりあったと思います。

それから,ユネスコの無形文化遺産として,文楽が指定されました。これは確か,お能と狂言に続いて・・・。(妃殿下に確認されて)

妃殿下

一昨年の能楽に続いてですね。

殿下

一昨年の能楽に続いてですね。大変良かったことだと思います。たまたま私たちも,その発表があって少し後になりますかね,大阪の文楽劇場で観る機会があり,大変楽しく観ることができました。

もう一つ,先ほど外国の公式訪問のお話がありましたが,フィジーと,トンガと,サモアと三か国を9月から10月にかけて訪問いたしました。今,太平洋地域に関心が高まっている中,日本の皇族としては初めてこの地域を訪れることができたのは大変良かったと思います。また,日本に何度もお越しになっているトンガの国王陛下,それから,サモアの国家元首殿下にも再びお目にかかれたことを大変うれしく思っております。

それから,今朝(11月20日)の新聞に載っていましたけれども,90年ぶりに鯨の新種が発見されました。あれぐらい大きいものでも,まだ分からないことがたくさんあるという非常に良い例だと思います。

問2 両殿下にお尋ねいたします。この夏,ご一家はタイを訪問されました。眞子さまと佳子さまにとっては初めての海外旅行で,外国の文化に直接触れ,貴重な経験をされたと伺っています。タイにお子さまをお連れになろうとした理由,また実際にご訪問されて,お子さまにとってどのような意義や変化があったと感じていらっしゃいますか。眞子さまと佳子さまがタイご訪問のご感想を両殿下にお話になっていましたら,併せてお聞かせください。
殿下

以前からタイの王室の方とは,お目にかかってお話する機会はよくありまして,タイの国王陛下,王妃陛下とお話をしていた時も私たちの子供たちのことについて大変関心を示してくださいましたし,いつか連れてくればというお話もいただいておりました。今回そういうお招きもあり,タイに連れて行ったわけです。もう一つは,外国に行って日本と違う文化に触れる,これは大変良いことだと思います。日本とは全く違う文化に触れ,そこで日本との違いというものを感じることができると思います。しかし,一方で同じアジアの国で日本と非常に似ている点,共通している点にも気が付くのではないか,そのことによって,更に日本の文化を理解する一つの契機になるのではないかと思いました。(妃殿下を振り向かれて)

妃殿下

二人ともだんだんに成長してきて,国内・国外のこと,そこで暮らす人々について考えるようになってきています。そのような中で,国内旅行をしたり,外国を訪問して人々の生活や文化にふれたりすることは,自分の国への理解を深めることにつながり,若い時にそのような経験をすることは大切ではないかと考えております。

今,宮様が話されましたような理由で,今年の夏にタイを家族で訪れ,行く先々で温かく迎えていただきました。滞在中,娘たちは幾つもの貴重な体験をさせていただき,皆で有意義な時間を過ごすことができましたことを感謝しております。

タイの東北にあるウボンラーチャターニーでの数日間も心に残る滞在になりました。名誉学位の授与式に娘たちが出席しましたが,大変緊張しておりました。無事に終わりました後,ほかの場所に移り,その部屋にはたくさんの水槽が並べて置かれ,宮様と一緒に娘たちは熱心に説明を聴き,また泳いでいる魚を一つ一つ,どういう泳ぎ方をしているか,どんな色か形か,話し合いながら楽しそうにしていました。ウボンラーチャターニー付近は宮様が魚類の調査をされた大河メコンや支流ムーン川があり,娘たちが多くの人々の生活を支えるこの川を近くで見たことも意義深いことであったと思います。そのほか,パーテーム国立公園には約三千年前の人々の暮らしの様子や生き物を描いた壁画があり,それにも大変興味を持ち,朝早くに出掛けたにぎやかな市場では新鮮な魚,野菜や果物などを見てまわり,日常生活の場に接する良い機会になりました。

また,バンコク市内の小学校を訪れまして,家庭科の授業に参加し,同年代の子供たちと一緒に伝統的なお菓子や花飾りなどを作り,スコータイやシーサッチャナーライではタイの歴史を学び,カオヤイ国立公園では豊かな自然の中で生き物と触れるなど,思い出深い旅行になりました。

殿下

本とか写真とかではいろいろなものに触れる機会はあると思いますけれども,私自身の経験からいっても実際にそのものを見るという,そのことが非常に大切なことだろうと思っております。また,国王陛下,王妃陛下,シリントーン王女殿下,王族の方々とお目にかかってお話をしたという経験も本人たちにとって大変大事な経験だったと思っております。

印象は何か言ってましたかね。(妃殿下に尋ねられて)

妃殿下

先ほどの小学校での。

妃殿下

二人とも何か作ったりするのが好きですので,小学校での体験がとても楽しかったように感じられました。

問3 殿下にお尋ねいたします。天皇陛下が前立腺がんの手術を受けられてから10か月がたちます。この間,殿下はどのようなお気持ちで事態を受け止め,どのような形で陛下を支えてこられましたか。また,今後どのような形で陛下を支えていこうとお考えですか。
殿下

現代は医療というものが非常に進歩しております。本当に日進月歩の世界だと思いますが,そういう時代であってもやはり,がんという言葉の響きというものは,やはり特別なものがあると思います。そういうことで,陛下のご病気ががんであったということを,私たちも皆非常に心配いたしました。今質問にありました,どのように支えてきたか,どのようにこれから支えていくかということについてですが,これは私自身が直接支えるということはできませんけれども,やはり手術後は,寂しかったり心細かったりすることが多々あると思いますので,できるだけ側にいていろいろな話をする機会を作るようにいたしました。また,これは今後も同じつもりでおりますけれども,前からも私が会見でも申しておりますが,皇族の役割というのは,公務を通じて国民の期待にこたえ,また,天皇陛下をお助けする,そういうことが最も大切な役割であります。そうするためにも,様々な機会のコミュニケーションを大事にして円滑な意思疎通を図れるようにしていくことが私は大事だと思っております。もう一つは,そういう機会に様々な話を聴くこと自体が,私にとっても大切なことになっていると思っております。

問4 両殿下にお尋ねいたします。研究や趣味など,最近新たに取り組まれていること,又は取り組みたいと思われていることがありましたら,是非お聞かせください。
殿下

先ほど今年の夏にタイに行った時のことが話題になりましたが,今回,タイに行きましたのには,幾つかその理由があります。そのうちの一つとして,私はずっとニワトリのこととかその野生原種のことを調べているんですけれども,そのことについて,タイの研究者の人たちと共同で,いわゆる,ニワトリという一つの生き物を多面的にとらえた仕事をしたいと思いまして,つまり共同研究ということになるわけですが,それで向こうに行って,何回か話合いの機会を持ちました。恐らく,今後,何年かにわたって共同作業が続けられることになると思っております。

もう一つは,これは本当に新たなことになるのかもしれませんけれども,この5月に,生き物について,いわゆる生物ではなくて生き物についての様々な智ですね。知識とか。これが,日本全国,それから世界,あらゆる所に,その地域における様々な生き物に対する智というものがあります。そしてそれはまだ知られていないものが,本当に山ほどあると私は思います。そのような生き物に対する知識を集積していく,生き物を多面的に理解するということを目的として,「生き物文化誌学会」という学会が立ち上がりまして,私もそれの発起人の一人に加えてもらいました。

(11月)8日と9日に三重県の鳥羽でその大会がありましたが,そのような学会の活動を通して,また新たに自然の大切さとか,そういうものが広く伝わっていけばいいと,考えております。私の方は以上でしょうか。

妃殿下

最近,取り組んでいること,これから取り組みたいことについてですが,昨年お話をしました民俗音楽について,今も関心を持ち続けております。これからもゆっくりした進み方になると思いますが,広い視点から民俗音楽について理解を深めていきたいと考えております。

問5 両殿下にお尋ねいたします。眞子さまは来春に中等科に進まれ,佳子さまも間もなく9歳になられます。一般的に思春期と呼ばれる時期に差し掛かるお子さま方ですけれども,父親として,また母親として,子育てにどのような点に配慮されておりますでしょうか。また,昨年の会見で「眞子さま,佳子さまにごきょうだいは?」という質問をさせていただきましたら,殿下が「今後のことはまた相談しながら」とお答えになりましたけれども,3人目のお子さまについてのお考えを是非お聞かせください。
殿下

思春期に差し掛かるころということを聞いて,もうそれぐらいの年齢になるのかなというふうに思います。私としては子供たちが,これも以前にお話していますが,それぞれが興味を持っている分野で,それぞれの興味を伸ばし膨らましていってくれればと思っております。これは以前お話ししたことと同じですが,だんだん学校から帰る時間も,小学校の低学年から高学年になるにつれて遅くなっていきます。もともと話をするのは夜が多いわけですが,そのような時にできるだけ学校の話も含めていろいろな話をする機会を多く持って,そしてまた話しかけてくることをできるだけ時間をかけて聞く,そのように心掛けております。

3人目の子供については去年と同じ状況で,新たにお話することは今のところありません。(妃殿下を振り向かれて)

妃殿下

宮様が話されましたように,私も,もうそのような時期になってきたのかと娘たちの成長を振り返る思いでございます。

今月の上旬,先ほどお話されていらっしゃいました「生き物文化誌学会」の学術大会が鳥羽で開かれまして,そちらに私と一緒に娘(眞子)も行きました。公開シンポジウムの記念講演を聴いたり,国崎(くざき)という場所で海女の方々が漁をしていらして,その漁や御料(あわび)調製所を見学しました。娘もふだんは接する機会が少ない海の文化について学ぶことができまして,喜んでおりました。

また,今年の夏,先ほどもお話いたしましたが,タイを旅行して様々な史跡や博物館を見学しました折,眞子も佳子も熱心に説明を聴いたり,また,タイの舞踊や音楽なども興味深く鑑賞しました。日本におります時も,機会を見つけては一緒に博物館の展覧会に行きましたり,美術展にでかけましたり,また一緒に運動するようになりました。このように関心や趣味などを共有することができるようになってきたと思っております。また一方で,眞子も佳子もそれぞれ異なる対象に対して興味を抱くようにもなり,娘たちの成長をつくづくと感じます。

来年の春,眞子は小学校から中学校へ移り,一つの段階を上がることになりますが,そのような中で希望を持って通学できるように願っております。佳子は4年生になり,授業数も増えますが,引き続いて充実した生活が送れるようにと思っております。これからも家族で一緒に過ごす時間を大切にし,互いの関心や興味,また感じていること,考えていることなどを大事にして,親として二人が心身ともに健やかに育っていくよう,心配りをしてまいりたいと思います。

関連質問1 両殿下にお伺いいたします。陛下のご病気や高円宮殿下の昨年の突然の薨去などで,皇族殿下のご健康の維持管理について我々注目しているのですが,両殿下ご自身のご健康維持管理についてそれぞれどのようにお考えになってどのように取り組まれ,また今後どのように取り組まれたいのか,また夫として妻の,妻として夫のご健康維持管理にどのような形で心掛けられているか教えていただけませんでしょうか
殿下

健康の維持管理というのも,これは皇族としていつも気を遣っていなければいけないことだと,私は思っております。私自身それほど丈夫な方ではないですけれども,例えば定期的な健康診断がありますね。それは毎年するようにしています。それ以外に心掛けていることは,どうしても移動する時に車で移動することが多いので,玄関を出て車に乗って次の場所に着く,ですから歩かなくなるんですね。3,4年前からかなり運動不足を痛切に感じてきましたので,できるだけ1日1回はある程度の距離を歩くようにしています。また,夫として妻にということについては,私が家内に勧めましたのは,毎年私が健診をするときに一緒に病院に行くように,ということですね。最初は大分嫌がったけれど。

妃殿下

確かに今おっしゃいましたように,以前,私は余り大きな風邪も引かず,比較的元気に過ごしていたので,健康診断など関心を持っている方ではございませんでした。それは大学生の時でございますが。(今は)年齢とともに風邪を引きやすくなり,ある時は体力が落ちたりする中で,宮様のご配慮もありまして,定期検診を一緒に受けさせていただいております。

私ができることを考えますと,宮様の,また家族の食事を始め,生活全般にわたって健康にすごすことができるように配慮したいと思っております。

殿下

大人になってからの病気というのは,年がたつにつれてその確率が低くなるということはなくて,必ず高くなるわけですから,何かちょっと具合が悪かったりすれば,できるだけ早くお医者さんに診てもらうようにはしております。

関連質問2 先ほど,陛下をお助けするというお話の中で,側にいていろいろなお話をする機会を作るようにいたしましたと,これは例えばどういう場面でどのようなお話をされたのか,もしよろしければ教えていただきたいのですが。
殿下

余りここで具体的にお話するものではないと私は思いますけれども,内容としてはかなり多岐にわたっていたかなとは思います。

記者

最後に様々なお話をすること自体がご自身にとっての大切なことと思うとおっしゃいましたが,これはもう少し具体的にお願いできませんでしょうか。

殿下

もともとの経験の量が違うわけです。もちろんそれは年齢も違うわけですから,例えばこういう時にはどうした,こういうことをしたとかそういう話をですね,これもやはりいろいろな場面があると思われますが,そういう話を聴くことによって,私もそうですし家内もそうですけれども,覚えてきたものというのはたくさんあるわけです。そういう意味で様々な話を聴くことは,私たちのためにも大事だとお話しました。