皇太子殿下 スペインご訪問を終えて

皇太子殿下のご感想

(平成25年6月16日)
スペインご訪問を終えて

この度,スペイン国からご招待を頂き,「日本スペイン交流400周年」(以下交流年)の開幕に合わせて交流年の名誉総裁として,私にとって6回目となるスペイン国訪問を行いました。今回の訪問を通じ,4世紀にわたる交流の歴史があるスペインとの友好関係が,歴史の積み重ねの中で,より一層緊密で強固なものとなっていることを確認でき,大変うれしく思いました。

まずは,スペインで心のこもった,温かいおもてなしをしていただいたフアン・カルロス国王王妃両陛下,フェリペ皇太子同妃両殿下,そしてラホイ首相を始めとする政府関係者の方々に,深く感謝の意を表します。また,訪れましたマドリード州,カスティージャ・イ・レオン州,アンダルシア州,ガリシア州,いずれの地におきましても,州知事や市長を始め多くのスペイン国民の皆様に大変温かく迎えていただいたことを心からうれしく思っております。特に慶長遣欧使節団が当時滞在したコリア・デル・リオでは,炎天下沿道にあふれんばかりの市民の方々に歓迎していただき,また,訪問した小学校では,子どもたちから東日本大震災からの復興の願いを込めた日本の歌の合唱をプレゼントしていただき,多くの子どもたちと交流できたことは,心に残る思い出となりました。

今回,フェリペ皇太子殿下には,妃殿下とご一緒に公式晩餐会を主催していただいたほか,交流年の開幕となる諸行事にご一緒いただき,楽しくまた有意義な時を過ごさせていただいたことに感謝したいと思います。天皇皇后両陛下が培われてこられた長年のスペイン王室との交流を踏まえて,これからも世代を超えてスペイン王室との友情を深めていくことができれば幸いです。

今回の訪問は,日本スペイン交流400周年という意義深い年に行われました。今回の訪問では,マドリードやセビリアで支倉常長に関する展示を訪れるなど,当時の慶長遣欧使節団の足跡をたどり,当時を(しの)ぶ古文書などを目にしました。また,現在,様々な分野で両国間の交流に携われている多くの方々とお会いしました。この訪問を通じ,これまでの先人たちの熱い思い,さらに現在に続く交流の歴史の深さや裾野の広がりを実感いたしました。特に,セビリアやコリア・デル・リオでは,スペイン語で日本を意味する「ハポン」姓の方々と交流し,皆さんの日本に対する熱い思いを感じることができました。

マドリードでは,スペインにおける種々の交流事業のオープニングに出席しました。「サムライ支倉の大いなる旅」と題する交流年開幕記念音楽会では,日西の音楽家が熱演するなど,各事業において多くの関係者の交流にかける強い思いを感じました。日西経済合同委員会開会式では,環境やエネルギーなど新たな分野での協力やグローバルな協力など将来への展望が語られ,両国間の交流が今後更に強化されるものと意を強くしました。また,今回は,サッカー場やフラメンコ博物館も視察しましたが,文化,観光,スポーツなど日本人を魅了してやまないスペインの魅力の一端に触れることができ,うれしく思いました。また,日本食や若者文化を含めスペインでの日本への関心も高く,最近では,日本語を学ぶ人々が増えているとお聞きしました。交流年を通じ,幅広い分野で国民相互間の交流の機運が高まることを期待します。

今回の訪問でも多様なスペインの新たな魅力を発見し,また,多くの新たな出会いと交流がありました。特に,今回,改めてスペインにおいて文化と伝統がいかに大切に保護,振興されているかを実感しました。日本のオルガン製作者により修復されたサラマンカ大聖堂のパイプオルガンは,中世当時の音色を聞いているかのようでした。サンティアゴ・デ・コンポステーラにおいては,歴史が刻まれた大聖堂を訪れ,また,先月の熊野古道に引き続き,熊野古道と姉妹道の関係にあり,共に世界遺産であるサンティアゴ巡礼道を歩く機会を得,大自然の中で己を見つめて歩いた多くの方々の気持ちを少し感じることができたのではないかと思います。熊野でもサンティアゴでもそれぞれの古道に関わる方々から保存への取組とお互いから学びたいとの期待についてお聞きしました。日西両国は文化的魅力を持つ国であり,今後,両国間の文化交流が更に進展することを期待したいと思います。

サラマンカは,私自身2度目の訪問となりましたが,市長より,「いつでも来訪を歓迎します」との意味を持つ市の鍵を頂いたことに感謝いたします。また,これまでの両陛下のご訪問についてのお話を各所で伺いうれしく思いました。サラマンカ大学は,欧州最古の大学の一つであり,長い間スペインの学術や文化において中心的な役割を果たしたと伺っていましたが,当時を(しの)ばせる講堂や図書館,古くから所蔵される古文書に強い印象を受けました。また,同大学は,日西間の学術交流の拠点として,多くの日本人留学生が学び,また大学間の交流も含め,一つのモデルを提供しているように思われます。今後,こうした交流がスペイン各地の大学に広がることを期待するとともに,日本の大学等の取組にも期待したいと思います。

「水の問題」につきましては,サラマンカ大学において研究者や学生の方々と意見交換し,古文書も見ましたが,スペインの長年にわたる水の問題への取組や歴史的とも言える経験の蓄積に改めて強い印象を受けました。また,マドリードの上水道の管理システムは,先端技術を駆使したもので,非常に参考になりました。水の問題は,災害,貧困や衛生状況の改善,環境の保護を始め様々な視点から極めて重要な問題です。今後ともスペインとのこの分野での交流が深まることを期待しています。

サラマンカやコリア・デル・リオなど今回訪れた各地で東日本大震災に際して連帯と支援の活動が行われたと伺い,大変有り難く思いました。また,マドリードやセビリアでは,東日本大震災に関する写真展を訪れましたが,スペインの多くの方々が,我が国の震災からの復興に向けての動きに引き続き強い関心と共感を持たれていることに感銘を受けました。私としても,フェリペ皇太子同妃両殿下主催晩餐会などの機会に,多くの方々からの支援に対する感謝の気持ちをお伝えし,両国の国民レベルでの(きずな)を改めて確認できたと思います。こうしたスペインとの友情をこれからも大切にしていきたいと思います。

今回スペインを訪問し,改めてスペインと文化,学術,経済,科学技術、観光やスポーツなどを始め多くの分野で交流や協力を発展させていく余地が大きいことを確信しました。この6月から始まった日本スペイン交流400周年を契機に400年前に始まった日スペイン間の交流が,世代を超えて受け継がれ,発展していくことを祈念するとともに,今年の10月からは,日本でも事業が行われますので,私自身,引き続き名誉総裁としてお役に立てればと思います。

なお,今回の訪問に雅子が同行することができなかったことは残念でしたが,本人もスペイン国よりのご招待を大変有り難く思っております。また,スペイン王室の皆様はもとより,現地にてお目に掛かった多くのスペイン国民の方々から雅子に対し,温かいお言葉を頂いたことに厚く御礼を申し上げたいと思います。