皇太子殿下 タイ,カンボジア及びラオスご訪問を終えて

皇太子殿下のご感想

(平成24年7月1日)
タイ,カンボジア及びラオスご訪問を終えて

今回私は,タイ,カンボジア,ラオス3か国政府のお招きにより,私にとって初めての公式訪問を行いました。私の訪問に当たり,ご準備いただいた各国王室,政府を始め様々な関係の方々に御礼申し上げたいと思います。

今回は,それぞれの国との友好親善関係を深めるという目的での訪問でしたが,訪問の期間を通じ,良好なそれぞれの国との関係を更に深め,強化することに,私として何ができるのかということが常に頭にありました。これはくしくも,カンボジアで訪問した王立プノンペン大学の日本語学科の学生が,日本とカンボジアとの関係という文脈で熱心に議論をしていたテーマでもありました。

3か国訪問の日程を終え,まず思い浮かぶことは,友好親善関係の強化には,それぞれの国のことをよく知ることが何よりも大切であるということです。今回訪問した3か国は,メコン河流域の国として,言わば河と共存して発展してきたという共通点があるかと思います。その観点から,今回,3年前のベトナム訪問の際に続き,ラオスにおいて,メコン河を船上から視察でき,河と人との結び付きについて理解を深めることができたのは大変良かったと思います。また,これらの国は,ASEANの一員として,2015年の統合を目指し,様々な面からの「つながり」が強くなってきています。

こうした共通性はあるものの,今回タイ,カンボジア,ラオス3か国を訪問し,それぞれの国は,言語も含めそれぞれ異なる独自の文化を持ち,今日までの歴史も様々であるということを改めて認識いたしました。今回,各国が誇る世界文化遺産などを訪れ,専門家の方々にお話を伺い,この地域の各国の何世紀にもわたる興亡の歴史に思いを()せることができました。また,ラオスでは日程の最後に,ラオスの方々が人生の節目節目で行うバーシー式という伝統的儀式に参加し,私の無事の帰国をお祈りいただきました。

今回の滞在を通じ,各国の史跡や伝統文化に触れ,各国の成り立ちを学ぶことができたのは,大変良かったと思います。と同時に,カンボジアのアンコールワットやバイヨン寺院に見られるように,それぞれの国が誇りに思う文化遺産の修復や保存に,永年にわたり日本の技術がいかされている現場を見ることができたことも,うれしく,興味深いものでした。

それに加え,それぞれの史跡では,アユタヤやアンコールワットなど,日本との交流の歴史を示す足跡についても触れる機会もありました。更には,カンボジアの和平プロセスの中で,尊い命を落とした日本人の方々の慰霊碑に花を手向け,思いを寄せました。こうした一つ一つの日程を通じ,各国が今日ある姿に日本がその時代時代に関わってきたことを改めて確認できたことも,大変有意義でした。

第2に,友好親善の強化には,言わば各国の「過去」について十分理解した上で,各国が現在直面している課題について知り,そうした課題に各国がどう取り組み,また日本がどのような形で協力してきたかについて理解を深めることが大切であると感じました。一例を挙げれば,今回訪問した3か国は,国によって被害の規模は違いますが,いずれも昨年洪水に見舞われ,それぞれの国で犠牲者が発生し,経済活動にも大きな影響がありました。今回訪れた各国の王室や政府の方々にそれぞれお見舞いの気持ちをお伝えするとともに,タイでは,チャオプラヤ川を下りながら,政府の洪水対策責任者の方に今後の洪水に備えた対策につきお話を伺うことができました。

洪水対策への対応に限らず,各国政府の方々とお話しする中で,それぞれの国の開発に向け,日本がこれまで行ってきた様々な協力を高く評価し,感謝の気持ちを伝えていただいたことも記憶に残りました。私としても,そうした評価に対し大変ありがたく思うと同時に,こうした高い評価は,今回,タイ,カンボジア,ラオスそれぞれの国でお会いした教育,文化なども含めた様々な分野でその国との懸け橋として活躍する日本の方々の努力のたまものであるとの思いを強く抱きました。

第3に,各国の「過去」を学び,「現在」の課題への各国の取組を理解した上で,「将来」に向け,それぞれの国との友好関係を維持し,ひいては発展させていくには,これまでの人と人とのつながりを大切にしつつ,お互いの国に関心を持つ層を厚くすること,取り分け,若い世代の交流を深めていくことが大切であると改めて感じました。

相互理解という観点からは,今回訪問しました3か国のうち2か国に王室があり,各王室より心温まるおもてなしを頂いた中で,それぞれの国の王室と日本の皇室との交流関係が極めて大切であることを実感いたしました。特に,タイでは,ご入院中でいらっしゃるにもかかわらず,国王陛下に拝謁の機会を得ることができ,その際,国王王妃両陛下より心よりのおもてなしを賜ったことは,この上なく有り難いことでありました。これは,天皇皇后両陛下が国王王妃両陛下を始めとするタイ王室との関係を大切になさり,永年にわたりご親交を深めていらっしゃったがゆえに実現したものであろうと思います。また,カンボジアでは,シハモニ国王陛下が,2年前に国賓としてご訪問なさった際に,両陛下からおもてなし頂いたことを懐かしく語っていらっしゃったことや,王室との関係ではありませんが,ラオスにおいてチェンマリー国家主席が同様に2年前の訪日の際の両陛下によるご接遇に感謝していらっしゃったことも印象に残りました。今回の私の訪問を通じ,これまで多くの方々により築かれた交流の絆が更に深まったとすれば幸いです。

今回の3か国訪問では,それぞれの国で多くの若い人たちと話す機会がありました。具体的には,冒頭に触れたプノンペン大学の学生のほか,ラオスでは看護を学ぶ保健科学短期大学の学生たちと,また,タイでは世界でも最大規模の日本人学校で学ぶ小学生の授業を見学し,タイ語の勉強を熱心に行う姿を見ることができました。そうした若い世代がお互いの国のことに関心を持ち,一人一人が言わば外交官として,それぞれの国との交流を真剣に考える姿には心打たれるものがありました。同時に,日本の方々,取り分け若い世代にもこの地域への関心を持ってもらいたいと思います。

さらに,各国の沿道では老若男女を問わず数多くの方々が沿道や街中に集まり,私の訪問を歓迎してくださいました。今回の私の訪問をきっかけとして,各国の取り分け若い世代が日本のことに,あるいは日本とそれぞれの国の友好関係に関心を持ち,将来の交流の担い手の輪が広がっていくこととなれば,これに勝る喜びはありません。

最後に,今回訪問した各国において,王室,政府,民間の様々な方々に対し,昨年3月の東日本大震災の際に寄せられたお見舞いの気持ちや,募金やチャリティーコンサートなどの開催などにより支援を頂いたことに,私から感謝の気持ちを伝えました。また,今回各国政府の方々より,それぞれの国の,経済的に決して豊かとは言えない人々から,少額なりとも震災の復興に役立ててほしいとして,寄付金が集まった話を伺いました。こうした話を聞くにつけ,各国の国民一人一人の日本への連帯の気持ちを有り難く思うとともに,そうした気持ちを大切に受け止めていかなければと思いました。また,私自身,今後とも被災地の復興に長く心を寄せていきたいとの思いを改めて強く持ちました。

なお,今回の訪問に雅子が同行できなかったことは残念でした。本人も各国政府からのご招待をとても有り難く思っております。また,現地にてお目に掛かった方々からお見舞いと励ましの言葉を頂いたことにもお礼を申し上げます。