皇太子殿下 ブラジルご訪問時のおことば

皇太子殿下のご感想

(平成20年6月25日)
ブラジルご訪問を終えて

この度,日本人のブラジル移住100周年及び日伯交流年の年に当たって,ブラジル国政府からのご招待により,私自身2度目となるブラジル国の訪問をいたしました。

まずは,ご招待を頂き,温かくおもてなしくださったルーラ大統領を始めブラジル国政府関係者に深く感謝の意を表します。

また,首都ブラジリアの外にも,サンパウロ州,パラナ州,ミナスジェライス州及びリオデジャネイロ州において州知事及び関係市長を始め地元の方々にとても温かくお迎えいただきましたことに御礼を申し上げたいと思います。加えて,各地で多くの日系人を始めブラジル国民の皆様や在留邦人にも大変温かい歓迎を頂いたことを心よりうれしく思っております。

ブラジリアにおいてルーラ大統領主催の記念式典や連邦議会主催の記念式典,サンパウロ州でのブラジル日本移民百周年記念式祭典,そしてパラナ州での日本人ブラジル移住百周年記念式典など多くの記念行事に出席し,参加をされた人たちの数の多さと関係者の方々がこの日のために長い間準備をされてきた様々な催しにとても感動をいたしました。また,各地で活躍をされている多くの日系人やたくさんのブラジルの方々とお会いをし,いろいろなお話をお伺いすることができました。日系人の皆さんの長年にわたる地道な努力や苦労について,さらにはブラジル社会の様々な分野での活躍や貢献の実情などもお聞きすることができました。同時に,日本人移住者を温かく受け入れてきたブラジル政府や国民の厚意も改めて認識いたしました。その一方で,多くの若い人たちとの話の中で,日本とブラジルが次の100年に向けて着実に関係を深めていることを実感いたしました。これからの両国の若い世代が,更に両国関係の発展のための礎となってくれることを希望しています。

ブラジル日本移民史料館では,天皇皇后両陛下より託されましたアーカイブ・プロジェクトの募金活動を支援するための御下賜金をお渡ししました。この度はブラジルをご訪問にならない両陛下がいつもブラジル日系人の方々に心を寄せておられることをお伝えできたらうれしく思います。

サンパウロ大学を訪問し,日本とブラジル両国の友好関係の将来を担う学生と懇談した後,続いてサンパウロ州立「ヒロシマ」学校を訪問し,州政府の主導で州内各地の学校で行われてきた「ビバ・ジャパン計画」を視察しました。これからのブラジルを担う若い世代が真摯(し)にかつ熱心に学ぶ姿に触れて,今後のブラジルの一層の発展と日伯両国の友好関係の進展を確信いたしました。

サラ・サンパウロでのカルドーゾ前大統領ご夫妻とご一緒したサンパウロ交響楽団の演奏会やリオデジャネイロ市立劇場での日伯音楽交流会ではすばらしい演奏を聴くことができました。また,サンパウロ州知事主催歓迎夕食会の会場であるバンデイランテス宮にて,カマルゴ・グアルネーリ弦楽四重奏団の皆さんと飛び入りでアイネ・クライネ・ナハトムジークの導入部の演奏に参加したことも忘れ得ぬ思い出となりました。昨晩はリオデジャネイロの総領事公邸にてショーロの美しい調べを聴くことができましたが,これはブラジルを代表するボサノバやサンバの源流となったと伺い,心に残るものとなりました。

サントス訪問も極めて印象的でした。4月28日には100年前最初の移民船である笠戸丸が出港した神戸での式典に臨み,友情の灯の送り出しをいたしましたが,今度はその上陸の地サントスを実際に訪れることができ,改めて当時の方々の不安と期待の入り混じった気持ちに思いをはせ,感慨深いものがありました。

ベロオリゾンテでの日伯経済関係者との懇談ではブラジルに進出している日本企業が同国の官民関係団体と一体となって,鉄鋼,自動車,林産業,さらには交通インフラ分野等で大変活発な日伯間の協力を進めている現状や,将来の展望について聞くことができたことも有意義で貴重な経験でした。

リオデジャネイロのブラジル銀行文化センターで著名文化人やスポーツ選手と懇談の機会を持つことができましたが,日伯間の交流が文化・スポーツ面でも活発であることやブラジル国の持つ教育,文化,スポーツの分野におけるダイナミズムや多様性も改めて認識させられました。

また,この訪問を通して,シュラスコ,ムケカやバレヤード等のブラジルを代表する料理を始め,多種多彩な野菜,マラクジャ,アサイーといったブラジルならではの豊富な果物など美味しい食事を楽しめたのも良い経験でした。野菜や果物の栽培の面でも日系人の方々がなされてきた貢献について改めて認識しました。

26年前の前回の訪問時と比べ,ブラジル経済の安定的成長による国力の増強と国際的な地位の向上に伴い,社会全体に力強さを感じることができました。同時に,ルーラ大統領を始め各州の知事にお会いした際の会話の中でも日本との更なる交流を進め,より積極的なパートナーシップを築いていきたいという日本への強い期待感を感じました。

今回の私のブラジル国訪問が,これまでに天皇皇后両陛下の三度にわたる御訪問を始めとする様々な交流により培われてきた日本とブラジル両国の長い友好と深い交流の歴史の絆(きずな)をより一層強固なものにすると同時に,これからの新しい100年へと踏み出そうとしている両国関係の更なる発展に少しでもお役に立てればうれしく思います。

なお,今回の訪問に雅子が同行することができなかったことは残念でしたが,本人もブラジル国政府からのご招待をとても有り難く思っており,私たち夫妻での訪問を願っておられたブラジルの方々,そして日系人の方々に心よりお祝いの気持ちをお伝えしたいと申しておりました。現地にてお目にかかった多くのブラジル及び日系人の方々から温かいお見舞いとお励ましの言葉を頂いたことも本当に有り難く思っております。