皇太子殿下お誕生日に際し(平成15年)

皇太子殿下の記者会見

会見年月日:平成15年2月20日

会見場所:東宮御所

皇太子殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
問1 この1年間,取り分け殿下の心に留まりました出来事につきまして,印象や感想をお聞かせいただけますでしょうか。
皇太子殿下

この1年間を振り返ってみますと,実に様々なことがあったと思います。国内的には経済の状況が思わしくなく,苦労されている方々が多いことが心配です。

昨年の大きな出来事としては,サッカーのワールドカップが日本と韓国と共同開催で行われたことが挙げられます。ワールドカップとしては,史上初めての2国での共同開催となったわけですけれども,共催によって日本と韓国との相互理解が進む,又とない良い機会となったと思います。もちろん日本,韓国共に決勝トーナメントに進んだこともすばらしいことでした。その関連で言えば,最近韓国で残念ながら大邱(テグ)市において列車の火災があり,多くの方々が亡くなられ日本の国民も心を痛めていると思いますが,私からも心から哀悼の意を表したいと思います。

また,日本人の拉致問題についても,小泉総理の初めての訪朝を機に表面化して,5人の方々が日本に戻ってこられたことは良いことでした。しかし,多くの方々が,大変な思いをされたということに,改めて思いを致しました。いまだに行方が分からない方々のご家族のお気持ちはいかばかりかと拝察いたします。この拉致問題が少しでも良い方向に進むことを心から願わずにはいられません。その他,小柴昌俊氏と田中耕一氏のお二方がそろってノーベル賞を受賞されたことも忘れられないニュースでした。

一方,目を世界に向けてみますと,冷戦が終結して平和がもたらされたかと思ったのも束(つか)の間,今度は,世界の各地で民族問題が噴出してきました。それに加えて,一昨年の9月11日のアメリカでの同時多発テロ以降,世界の各地でのテロ行為に見られるように,身近な所で何が起きるか分からないという安全というものに対する人々の不安は増幅してきています。また,世界の各地で飢餓で苦しんでいる人々もいますし,中東情勢も先がなかなか見えてきていません。今,世界ではイラクをめぐる様々な動きが出ていますが,人々がお互いを理解し合い,人々が安心して暮らせる,そのような世界が早く訪れることを心から願わずにはいられません。

また,近年の科学技術の進歩には著しいものがあります。ヒトゲノムの解読など,専門的なことは私にはよく分かりませんが,人類にとって有益な技術も開発されているでしょうが,クローン技術を始め人間がどこまで科学技術をどのように使っていくべきなのか,また,その安全性はどうなのか,技術の発展とこの倫理の問題をめぐって,人々の叡知が科学技術の分野でも求められるようになってきていると思います。

最後になりますけれども,この1年で,昨年,高円宮殿下が亡くなられたことは本当に残念なことでした。

問2 天皇陛下が,昨年暮れがんの告知を受けられまして,国民に事実を公表された上で手術に臨まれまして,その間,殿下はおよそ1か月にわたりまして,国事行為の臨時代行をなされました。一連の陛下のご行動と「天皇の職務」につきまして,陛下の負担を減らすための「公務の分担」へのお考えも含めて,殿下の感想をお聞かせいただけますでしょうか。
皇太子殿下

天皇陛下が手術を受けられ,無事に退院なさったことを大変有り難く,また,うれしく思っております。先日,御所でお会いしたときもとてもお元気そうで,お早いご快復ぶりに安堵(ど)しております。陛下にはご手術以降大変なこともいろいろおありだったと思いますが,快復に向けてのご努力は大変なものがあったのではないでしょうか。また,皇后陛下がお近くで献身的に陛下の看病に当たられたことも,どれほど陛下にとってお力添えとなったことかと思います。陛下には,ご病気の状態について医師から説明を受けられ,その内容を正しく国民に伝えようとなさったことに対して,これは本当に勇気のいることだったのではないかと心から敬意を表します。

また,私も約1か月にわたり臨時代行として,陛下のご公務の代行をさせていただきました。陛下のご公務の一端を知る機会となりましたが,陛下がご公務でご多忙なことを改めてよく分かったように思います。それでいて,公務では陛下でなければなされない,つまり,他の皇族方ではお代わりすることができない公務もおありになることも事実です。公務の分担については,私がとやかく申し上げることではありませんが,私の立場でお役に立つ事があればお手伝いしたいと思います。ご病気後の陛下にご無理が重ならないように,周囲がよく気を付けておくことが大切なことなのではないでしょうか。

問3 敬宮さまが順調に成長されております。現在は東宮御所でのお暮らしが中心ですけれども,同年代の子供たちとはどのようなかかわりを持たせながらお育てになりたいか,殿下のお考えをお聞かせください。また,二人目のお子さまについては,いかがお考えになっていらっしゃいますでしょうか。その辺も含めてお願いいたします。
皇太子殿下

お陰さまで,愛子も病気もせずに順調に育っています。子供にとって同年代の子供たちとかかわりを持つことは,とても大切なことだと考えています。率直に言って外とのかかわりが持ちにくい環境にあって,この問題をどうしていくかは大きな課題であると思います。しかし,折に触れてそのような機会を今までも設けてきましたし,これから先も設けていきたいというふうに考えています。私たちが見ていましても,愛子が同世代の,あるいは少し上の子供さんと接しているときの表情や仕草は何とも言えなく良く,これは相手のお子さんについてもそうなのですけれども,子供同士分かり合うものがあるのかなということを思ってしまいます。なお,東宮職の中でも,この点を重視してくれているということは有り難いことです。

また,以前にも申しましたけれども,幼少時において親がしっかりした愛情を子供に注ぐということは,その子のその後にとっても,とても大切なことだと思います。今しばらくは,その点を大切にして兄弟については今後考えていくことになるかと思います。

この機会にちょっとお話したいのですけれども,私自身子供をお風呂に入れたり,散歩に連れて行ったり,あるいは,離乳食をあげることなどを通じて子供との一体感を強く感じます。国内でも広く母親の育児の負担の軽減についての議論がなされているようですけれども,父親もできるだけ育児に参加することは,母親の育児の負担を軽くすることのみならず,子供との触れ合いを深める上でもとても良いことだと思います。また,制度的に母親の負担を軽くするようないろいろな試みがあるようですけれども,それが子供にとっても幸せなものとなることを願っております。

問4 昨年12月,約8年ぶりにお二人そろって外国親善訪問をされました。「外国訪問は政府が決めること。要請があれば」と常々おっしゃっていた殿下ですが,今回の訪問前には「今後はより頻繁に二人で外国訪問を」とのご発言もありました。妃殿下が「外国訪問をすることが難しい状況に適応するには大きな努力が要った」と話されたことへの感想も含め,外国訪問についてのお考えを改めてお聞かせください。
皇太子殿下

私は外国への親善訪問は,皇族の大切な仕事の一つと考えております。以前に,国民が皇室に望むことの中に国際親善が大きな位置を占めていることを知りました。交通機関の発達によって世界はますます小さくなってきておりまして,それに伴って人と人との交流もより密になってきています。一人一人の交流がやがて国と国との親善に発展すると思いますけれども,そのような中で世界を知るということは,極めて大切なことです。そしてまた,これは一朝一夕にできることではなくて,外国訪問を重ねることによって,自分の中に蓄積されていくことだと思います。

昨年末には,二人でニュージーランドとオーストラリアの両国を訪問することができましたが,見聞を広める意味でもとても良い機会となりました。そういった意味でも,若いうちにできるだけそのような機会があればと,そういう気持ちです。もちろん私たちの訪問については,これは政府が決めることであるという前提に立っての話であります。雅子についても外交官として国際的な仕事を志していたことから考えて,何年もの間,外国への親善訪問ができなかったということは辛いことだったと思います。その意味でもとてもよく辛抱したと思います。

問5 最後に5問目の質問になります。ご結婚されてから間もなく10周年を迎えます。どのような10年だったでしょうか。これから先,将来の皇室像について,日ごろご夫妻ではどのようなお話をされていますか。
皇太子殿下

もう10年になるのかという気持ちもありますし,まだ10年かというそういう気持ちもあります。私としては,結婚というそれまで経験のなかったことを通して,自分自身を見つめて,そして,自分自身を成長させることができた10年だったと思います。10年目に近づいて,大切な授かりものをしたことも有り難いことでした。雅子にはこの間,様々なことで私を助けてもらい,力になってくれていることに感謝します。二人で様々なことを経験し,分かち合い,そして支え合って,最近では三人での生活を通して,いろいろな楽しみや喜びのあった月日だったと思います。

皇室像については,かねてからお話していることですが,天皇陛下をお助けしつつ,自分に何ができるかを考えながら仕事に励んでいこうと思っています。昔から引き継がれているものを大切にしながら,時代の空気を感じ取って,そして若い世代の皇族として,まだ若い世代に属すると思うのですけれど,若い世代の皇族としての望ましい姿を常に模索して,21世紀の皇室にふさわしい活動ができればと思っております。様々な課題があると思うのですけれども,世界の平和を希求していく上で,大切なこととなる他の国の人々との相互理解の増進や環境問題,国民や,広く人類の幸せを願っていく上で,子供たちが健やかに育つことのできる社会の形成などについて,私たち二人でかかわっていくことができればと思っています。

<関連質問>
3問目の関連質問なんですが,ちょっと関連ではないかもしれませんが,愛子さまが歩かれる映像を私たち見させていただいたんですが,それに対する率直なご感想をもう一度。それから先ほど折に触れて他の子供たちとの交流する機会を設けていきたいとおっしゃいましたけれども,これ具体的にどんなことを考えられていらっしゃるのか,差し障りのない範囲で教えていただければと思います。
皇太子殿下

昨年の暮れぐらいから,本当に少しばかり歩くようになって,それで今年に入ってからある程度の距離を歩けるようになって,本当に見ていて子供の成長がとても速いというのをつくづく感じました。一例を挙げますと,この前子供が大体3,4メートルぐらい歩けるようになったということを発表したと思うのですけれども,もうその日の夕方には,その3倍ぐらい歩くようになっておりまして,私自身も今お話したように,子供の成長が非常に速いということに改めて驚いております。また,歩くようになりますと,自分の行動範囲も広がってきまして,今いろいろ机の引き出しを開けるようになったりとか,今までは届かなかったような所の物に触ってみたいと思うようになったり,非常に好奇心も旺(おう)盛ですので,だんだん目が離せない状況になってきております。それだけに,子供の成長を日々見ていくということは,親である私たちにとってとてもうれしいことです。子供の今後の健やかな成長を心から願っております。

それからまた2問目の質問についてですけれども,これはなかなか難しいことだと思うのですけれども,できるだけいろいろな機会を見つけて,同世代の子供さんたちと触れ合う機会というものを作っていきたいと思います。もちろんそれは,ここの東宮御所の中でもそうですけれども,外に出て行ってそういうふうに触れ合うという,そういうことは,とても子供にとっても大切だと思いますし,また中では得られない刺激というのが,外では得られると思います。そういう面で,具体的にどのようにそういうことをやっていったらいいかは,これから考えていくことですけれども,何らかの方法で,そのようなことを実現していきたいと考えております。