皇太子妃殿下のお誕生日に際し(平成14年)

皇太子妃殿下の記者会見

会見年月日:平成14年12月5日

会見場所:東宮御所

皇太子妃殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子妃殿下
(写真:宮内庁)
お誕生日に際してのご近影
(写真:宮内庁)
問1 それでは,質問させていただきます。妃殿下にお尋ねします。皇族になって10年目に入られ,人生の中で一つの大きな節目であろうと思います。殿下との出会いからご成婚,敬宮愛子さまのご誕生,そして満1歳のお誕生日に至るまで様々な喜びやご苦労もあり感慨も深いのではないでしょうか。これまでのご自身の歩みを振り返り,あわせて今後を展望して,抱負をお聞かせください。
皇太子妃殿下

はい。いま10年目と言われまして,ああ10年目なんだなというふうにまず思いました。自分の中では9年という気持ちが強かったものですから,10年目と言われて,10年と申しますと,十年一昔とも申しますし,十年一日のごとしとも申しますけれども,確かに考えてみますと,年が明けますと,1月19日に皇室会議を開いていただいて,そして婚約ということになったのがもう10年も前になるんだなあということを思い出しますと大変深い感慨がございます。その後,皇室に入らせていただいて,私なりにいろいろと努力をしてきたつもりではございますが,本当に力の至らない点が多かったのではないかしらというふうに思いますが,常に皇太子さまに温かく支えていただきまして,いつもいろいろとご相談に乗っていただいて,励ましていただいてここまで元気に過ごしてまいることができましたことを,本当に有り難いことと思っております。

殿下との出会いは,さかのぼってみますと昭和61年の秋でございますか,ちょうどこのお部屋で,両陛下がスペインのエレナ王女さまのためにレセプションをお開きになっていらしたところに私の両親と一緒にお招きを頂いて,伺った時が初めてお会いした時で,その後,いろいろな事がございましたけれども,私自身,まさか自分が皇室に入らせていただくことになろうとは夢にも思っておりませんでしたので,本当に何年かの後にそういうお話になりました時には,大変驚き,その時は本当に大きな選択であったと思います。また,分からないこともたくさんございましたし,心もとない気持ちでおりました中を皇太子さまにいろいろとお教えいただきながら,また,天皇皇后両陛下にいつも温かくお見守りいただきながらここまでまいりますことができましたこと,大変有り難く思っておりますし,そして昨年は子供が誕生いたしまして,国民の皆さんから本当に温かい祝福の気持ちを折に触れてお示しいただいてることを心から有り難く感謝しております。

そうでございますね,後は私たちの結婚に至るまでの過程の中で,高円宮さまにはとても心を砕いてくださってましたし,そしてまた,結婚後も本当にいつも優しく心を寄せてくださって,皇太子さまにとっては五つ年上のお兄さまのような存在でいらした方で,本当にいつも温かく私たちを励まし,いろいろアドバイスしてくださってましたので,今回本当に突然の事でお亡くなりになってしまわれたことを本当に寂しく,本当に心が痛んでおります。妃殿下の久子さま,3人のお子さま方,そしてご両親でいらっしゃる三笠宮両殿下にはどれほどかお力をお落としのことと本当にご心中お察しするに余りある思いでおりますけれども,ご生前に宮さまから頂いた本当にたくさんの温かいお励ましを有り難く思っておりまして,ご冥福をお祈りしたいと思います。

その意味で,一つとても思い出に残っておりますのは,結婚の日の私たちのパレードがございましたけれども,ずっと皇居を出て新宿通りから学習院の初等科前を通って,鮫が橋門から入門してこちらの赤坂御用地内に入ってまいりまして,そして当時は東宮仮御所でございましたので,後ほど,こちらと御用地の反対側になるわけですけれども,そちらに向かう途中,いつも園遊会が開かれております赤坂御苑の所を通りましたのですけれども,その時に思いがけず,高円宮両殿下がそのころまだ初等科の低学年でいらしゃった承子女王さまをお連れになって,お池の所でとても温かく優しい感じでお迎えくださったのが本当に予期していないことだったんでございますけれども,その光景が本当にうれしいこととして大変思い出に残っております。

この1年を振り返ってみますと,初めて親になりまして最初の何か月かは時間の流れがとてもゆっくりになったなあという感じがいたしました。それまでは公務を中心にして,そして,その公務に合わせたいろいろな準備ですとか,そういったことで殿下と私と2人でいろいろなことの生活のペースというのが決まっておりましたけれども,子供がおりますとやはり子供中心の生活になりまして,時間帯もいろいろ不規則になったり,きっと子供さんがおられる皆さんは皆さんご経験と思いますけれども,初めて親になってあたふたとしている日々で,初めの半年間は何だかそれまでよりも時間の流れがゆっくりだったような気がいたしました。その後,子供の方もだんだんと成長して活発に動くようになったりしまして,いろいろな表情も豊かになりましたし,活発に動き回るようになっておりますし,いろいろな反応が返ってくるようになって,それからはだんだんと時間が経つのがまた速くなって,あっという間にもう1歳の誕生日なんだわということで,先日1歳の誕生日を無事に迎えることができました。

お陰さまで,とても今のところ身体が丈夫で,そしてまた,おおらかな性格といいますか,皇太子さまに似ましたのか,何ていうのかしら,ゆったりと,どっしりとしておりますので,その点健康に恵まれた子供を持っているということは,そうでない方もたくさんいらっしゃるわけなので,本当に恵まれたことだと思って有り難いことと思っておりますし,また,こちらでは子供の世話を手伝ってくれる職員も配慮していただいて,手配していただいておりますので,公務などとのことで私自身が面倒を見ることができない時も,そういった職員がよく面倒をみてくれていることもとても有り難いことと思っております。

今後につきましては,子供を通してまた世の中のいろいろな新しい面も見えてくるのではないかしらと思っておりますので,一つ一つ新しい経験になりますけれども,その時その時できることを考えて,そして皇太子さまのお力にもなれるように努力しながら,子供の成長も見守りながら,私のできることをしていきたいと思っております。

問2 妃殿下にお尋ねします。この1年を振り返り,印象的な出来事や心に留まったことなど,身近なことも交えてお聞かせください。
皇太子妃殿下

この1年も本当にいろいろなことがあったと思います。年の前半の方ではソルトレークでの冬季オリンピックもございましたし,その後,6月にはサッカーのワールドカップということで,これは史上初めて日本と韓国と2か国で共同開催をするということで,関係者も大変に力を尽くして準備を進めたことと思いますけれども,これが大変な成功のうちに終わって本当に良かったと思いましたし,また,その成功の陰には,高円宮同妃両殿下の,皇族としての初めての韓国へのご訪問,これもとてもきっと気をお遣いになることが多いご訪問でいらっしゃいましたと存じますが,本当に素晴らしい成果をお上げになっていらっしゃって,ワールドカップそのものの成功のためにも,宮さまは大変にお力をお尽くしになられていらっしゃいましたので,本当に成功のうちに終わって良かったなという印象でございます。

それからまた,秋にはノーベル賞の受賞者が国内から,同時に物理学賞と化学賞でございますか,小柴名誉教授と田中さんとお二人出られて,ダブル受賞という言葉もはやったようでございますけれども,そういったことも初めてございましたり,そういううれしいニュースも幾つかございましたと思います。

他方で,やはり日本の国内にあっては北朝鮮の拉致の問題でございますね,こちらが明るみに出て,そしてその被害に遭われた方のうちの何名かが帰国されたというようなこともございまして,また亡くなられてしまったと言われている方々もいらっしゃるわけで,本当にその被害に遭われた方々,そしてまた,そのご家族のお気持ちを思うと,本当にこれは胸が痛むことで,本当にお気持ちを察するに余りあることであったのではないかと思います。

世界的に見ても,中東の情勢がやはり緊張が続いておりますし,また,テロの事件があちこちで起こっているといった,大変心配される事態もあります。というのは,私は昨年の誕生日の記者会見を出産後で控えさせていただきましたので,それ以前からの話になりますが,やはり昨年の9月のアメリカにおけるテロが起きて以降,何か世界の枠組みといいますか,世の中の情勢,流れが大きく変わったのではないかというのが,率直な印象でございます。

それまでも,冷戦の構造の崩壊ということによって,地域紛争ですとか,内戦ですとか,世界のあちこちの地域でそういう問題が起きていましたけれども,今度はまた,テロという形で相手が見えない脅威が一般の市民に降りかかってくるということで,こういった問題の背後にあるいろいろな貧困の問題ですとか,格差の問題,いろいろな問題について,これから世界の人々が手を取り合って,知恵を出し合って,対処していかなければいけないのではないかというふうに思っております。そのような中にあって,アフガニスタンの復興に向けていろいろ支援がなされていますけれども,長いこと内戦で傷ついた国がだんだんといい形で復興してまいりますことを,本当に祈らずにはいられない気持ちでおります。

身近なことは,やはり1問目でお答えした子供の成長ということと,それからやはり最近の高円宮殿下の急なご逝去というのは,本当に大きなことでございまして,私も高円宮さまに大変お世話になっておりましたので,とても,なかなかその悲しみをまだ乗り越えることができずにおります。

問3 妃殿下にお尋ねします。皇后さまもライフワークの児童文学の分野で初めて単身,スイス訪問をされました。誕生日の文書回答では女性皇族の在り方について「ご自分の求める女性像を,時と思いをかけて完成していっていただくことが望ましいのではないでしょうか」とお答えになっています。妃殿下ご自身は将来取り組んでみたいライフワークなどについてどのようにお考えでしょうか。これまでの皇族としての経験を踏まえ,今後の公務への抱負,子育てとのバランスの取り方などを含めお聞かせください。
皇太子妃殿下

今年,初めて,皇后さまが単身でスイスにいらっしゃって,児童文学の分野で会議に出席なさいまして,大変素晴らしいスピーチをなさいましたことを,本当にたくさんの方の心を打ったことと思いますし,本当に素晴らしい成果をお上げになって,素晴らしかったと存じます。これも,皇后さまが本当に長年,努力を積み重ねていらっしゃった結果だと,深く敬意の念をもってそのご様子を拝見しておりました。皇后さまから,今お話のあったように,お誕生日の御回答で,「自分の求める女性像を」ということをおっしゃっていただいていることは,とても有り難いことで,私自身まだ自分の求める女性像というものがどのようなものなのか,まだ本当に模索中でございますので,これから時間をかけて,まずそれが何であるのかということを考えていきながら,自分のライフワークとすべきことが何なのか,考えていきたいと思っております。今の時点で,やはり母親になりましたので子供の成長を見守り,そしてやはり子供が幸せな人になってくれるように,それをいろいろな形で手助けしていくということが大切であると思っておりますし,それと同時に,公務という形で国民の皆さまと接したり,国民の皆さまが何を望んでおられるのかということを感じながら,いろいろと努力をしていかなければいけないなというふうに考えております。そして,ライフワークというか,課題として幾つか自分の心の中に漠然とあるものは,何となくはありますけれども,そういうことをどういう形で良い形でかかわっていくなり,自分が理解を深めていったらいいのかということは,またいろいろと周りの人とも相談しつつ考えていきたいと思います。

一つ申し上げるとすれば,以前の会見でも申し上げましたけれども,やはり難しい境遇に置かれている子供たちには心を寄せていきたいと思っておりまして,これは国内でもそうでございますし,また,これは世界的に見てもそういう子供がたくさんおりますので,そういう大変難しい状況に置かれて,いろいろな形でそれはあると思いますけれども,そういう子供たちに心を寄せて,自分に何ができるのかということを考えていきたいというふうに思っております。

この間11月には―何年間かに一度は児童養護施設などの子供たちの文化祭というのには伺っておりますけれども―初めて児童養護施設そのものを訪れることができて,本当にいろいろな背景を抱えた子供さんたちだと思うので,心に傷を負っていると思いますけれども,ゲームなんかを通してとても親しく一緒にさせていただいたということをとてもうれしく感じましたし,そういう子供さんたちが1人でも多く,早く家庭に帰ることができて,そして幸せに,もちろん施設でも幸せに育っていって欲しいと思いますし,それにしても1人でも多くの子供が幸せであることができるようにといつも願っております。

<関連質問>
問4ー1 先ほど愛子さまのことについて,おおらかなご性格であるようなお話を。
皇太子妃殿下

の,ような気がしておりますけれども・・・

問4-2 これはどういったところから,そういうふうに思われたのかということを。
皇太子妃殿下

おおらかというか,明るいというのか,私驚きましたのは,赤ちゃんでも,本当に2か月,3か月でもユーモアのセンスというのがあるんだなというのがビックリしたことだったのですけれども。殿下が,今までもお話したことがございますけれども,本当にとても子育てを手伝ってくださって,本当に大きな力になってくださってますけれども,例えば,殿下が何かで,ちょっとガーゼを落としておしまいになった時に,私が「あっ」という顔してみますと,子供が「にやっ」とこう笑ったり,それが本当に2,3か月のころからそういうことがあって,こんなに小さな子供なんかにもユーモアの感覚というのがあるんだなと思いました。余り細かい,余りやっぱり神経質な感じは余りないかしらという思いがするのと,大勢の方に迎えていただいて,例えば,那須の駅ですとか,いろいろな所に出掛けましたときに,とてもたくさんの方に迎えていただきますけれども,何か皆さんの喜んでくださっているというのを,感じますのか,自分から一所懸命手を振ったりというのも,私たちが全く教えたわけではなくて,きっと皆さんのうれしそうにしている様子というのを感じ取って,それを素直に自分なりに表現しているのかしらと考えるのですけれども,おおらかというのが適切な言葉なのか分かりませんけれども,何となく日々の様子を見ておりますと,今のところそんな感じかしらという感じがいたします。でも,子供は小さい時にこうでも,大きくなってそのままということはやはり少ないこともありますし,小さい時にいろいろな難しいことがあっても,大人になるととても朗らかでおおらかな人になるという場合もあると思いますし,今がどうだからどういう性格と決められないと思うのですけれども,何となく面白いなと思っております。

何か,取り留めもないお話になってしまいました。