皇太子妃殿下のお誕生日に際し(平成10年)

皇太子妃殿下の記者会見

会見年月日:平成10年12月4日

会見場所:東宮御所

皇太子妃殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子妃殿下
(写真:宮内庁)
問1 この一年を振り返って,国内外の出来事やご自身のことで印象深かったことをお聞かせください。
皇太子妃殿下

今年も様々なことがあった一年だったと思います。

年の前半には長野でのオリンピック冬季大会,続いてパラリンピック大会,それから6月には,フランスでのサッカーワールドカップへの日本チームの出場などいろいろなスポーツのイベントで日本中が沸いて,そしてまた,選手たちの健闘に日本の多くの人が感動し,勇気づけられたような気がいたします。オリンピック,パラリンピックの折には,私も幸い,皇太子殿下とご一緒に長野を訪れ,競技を見ることができました。このような大会を実際に目の当たりにするということは,私にとって初めてのことでございましたが,選手一人一人が自己の限界に挑戦している姿が印象に残りますとともに,特にパラリンピックでは,世界から集まられた選手も含め,選手の皆さんが,そこに参加していること自体を喜びに感じているというそういう気持ちがこちらにまで伝わってくるようで,多くのことを乗り越えてこられた選手一人一人に,心からの拍手を贈りたい気持ちで一杯になりました。オリンピックでの日本選手団の活躍に引き続き,パラリンピックでも日本の選手が大変活躍を致しましたこともありまして,障害者スポーツに対しての関心や理解が広がったということを大変うれしく感じました。この二つの大会が関係者や,そしてまた,多くのボランティアの人々の協力によって成功のうちに幕を閉じることができたことは,大変よかったと思っております。

しかし,今年も残念ながら明るい出来事ばかりではございませんでした。昨年からの異常気象ということだと思いますが,8月には大変な集中豪雨がございまして,また,9月の台風によっても亡くなられた方々があり,各地でかなりの被害がございましたことは心の痛むことでございました。世界的に見ても,異常気象のために中国での大規模な洪水ですとか,中米諸国を襲ったハリケーンなどにより,日本では考えられないほどの数多くの人々が犠牲になり,また,被災したということ,それからまた,アフガニスタンやパプアニューギニアでは地震や,また,津波による被害も大きかったということなど大変痛ましいことだったと思います。

それから国内でもいろいろな事件がございましたが,国連のタジキスタンへの監視団に参加をしておられた秋野さんが,同僚の方々と共に武装集団に襲われて亡くなられたということは大変にお気の毒で,残念なことであったと思います。世界ではまだ幾つもの紛争地域がありますけれども,平和を築いていくということの大変さ,また,同時に大切さ,何と申したらよろしゅうございましょうか,平和の重みといったようなものについて改めて思いを深く致しました。またその時に,秋野さんののこされたご夫人が,「(秋野さんの)死を無駄にしないためにも,多くの若者が後に続いていくよう祈っています」ということを,悲しみの中で話されていた言葉が心に残りました。

今年は,両陛下がイギリス,デンマークなどのヨーロッパの国々をご訪問なさいましたが,特に,イギリスでは過去の難しい問題について,両陛下が大変にお心をお砕きになられたことによりまして,イギリスの多くの人の心を打つご訪問になられたことが印象に残っております。また,イギリスでは,陛下がロイヤルソサエティーでご自身のご研究について英語でスピーチをなさったことに多くの人が感銘を受けたと伺っております。

そして,9月には,国際児童図書評議会の世界大会のために皇后様がビデオによる基調講演をなさいまして,このご講演が世界の多くの人々に深い感銘をお与えになったということは永く心に残ることと思います。

そのほか,北海道の奥尻島の復興宣言,北アイルランドや中東の和平の進展,最近では,スペースシャトルディスカバリーの打ち上げにより向井さんが2度目の宇宙に行かれて,そして,手話や和歌などを織り交ぜながら交信をしてこられたこと,それと,アメリカのグレン上院議員が,77歳というお年で元気に宇宙に行ってこられたこと,それから,最近来日をされました中国の江沢民国家主席より,陛下に2羽のトキが贈られることになったというようなことが明るい話題として印象に残っております。

問2 先ほど妃殿下がおっしゃいましたように,皇后様のビデオ講演など皇室の方々の思いが直接国民に伝えられ,大きな反響を呼びました。雅子様は,このような現象をどのように分析し,どのようなご意見をお持ちですか。今後,雅子様から何かメッセージを伝えるお考えはございますか。
皇太子妃殿下

皇后様がご講演をなさったのは,お初めてのことと伺いましたが,ご幼少のころから少女時代にかけてお読みになられた御本を中心に,いろいろとご経験をなさいましたこと,また,その時々にお感じになられたことなどを織り交ぜられながら,大変奥深い内容の素晴らしい講演をなさったと思います。

また,ご講演からは,何事におかれても一つ一つのことを大切になさり,深くお心にお留めになる皇后様のご誠実なお人柄と伺われました。折しも,心の豊かさということについて,その大切さが言われております今日,この度の皇后様のご講演は,私も含めて多くの人の心に深く響くものであったのではないかと思います。私自身,この度のご講演から,とてもたくさんのことをお教えいただきました。

そして,私自身から何かメッセージを伝えるかどうかということにつきましては,もし,そのような希望が寄せられることがございましたら,また,その時に,私なりに考えてみたいと思っております。それまでは,研鑽(さん)を積んでおかなくてはと思っています。

問3 結婚されて5年を過ぎましたが,夫婦円満の秘訣(けつ)は何でしょうか。夫婦喧嘩になったりした時は,どのように仲直りをされますか。できればエピソードを交えお聞かせください。
皇太子妃殿下

まず,何よりも,皇太子殿下がいつも大変に寛大なお心で,私のことを温かく見守ってくださるということに感謝申し上げたいと思います。幸い,公務なども含め,一日のうちで二人で共に過ごす時間というものが長いものですから,いろいろなことをご一緒に体験することができますことを大変幸せなことと思っております。そして,それぞれが関心を持っておりますことにお互いに関心を寄せて,何事についてもいろいろと話し合うという雰囲気ができているように思います。

それから,夫婦喧嘩につきましては,ご期待にそえないかも知れませんが,仲直りが必要なような喧嘩には余りなりません。ただ,相手に不快な思いをさせてしまったかしらと思うときには,素直に謝るということが大切なのかもしれないと思っております。それから,今,犬がおりますけれども,この,犬がいるというのも夫婦の仲にとって,とても良いように思います。よく「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」と申しますけれども,喧嘩の種は割とよく拾って食べてくれるような気がいたします。

問4 皇室に入られた当初と現在とで,皇室に対するお考えやイメージはどのように深められたでしょうか。両殿下の皇室での役割,若い世代の皇族として自分たちらしさをどんな面でいかしていきたいとお考えですか。
皇太子妃殿下

皇室に入りましてから,いろいろなことを経験する機会に恵まれ,大変有り難いことと思っております。お陰様で,初めのうちは右も左も分からず一つ一つのことを一から教えていただいておりました宮中の行事や,公務なども次第に慣れてまいりまして,だんだんと楽しく感じるゆとりも生まれてまいりました。その中で,皇室の中では両陛下お始めが国民の喜び,そして悲しみといったものを深くお心にお留めになり,そしてご自身のお喜び,ご自身のお悲しみとして日々をお過ごしになり,また,国民の幸せというものを常に願っていらっしゃるということを幾度となく実感いたします。それからまた,私は以前,普通の生活をしておりましたので,考えてみますと皇族の公務というものは一般の方の目に映るよりもかなりたくさんあって,そしてまた多岐に渡るのではないかという気がいたします。特に,陛下は皇居でのご公務も大変多くおありになり,毎日大変お忙しい日々を送っていらっしゃいます。その辺りのことが国民の皆さんにも広く理解されているとよろしいのですけどもその辺りいかがでございましょうか。

それから私たちの皇室での役割ということでございますが,やはり皇室での役割としては,両陛下を私たちの立場で,できる限りにおいてお助けしていくということが大切なことだと思っております。そして,若い世代の皇族としてということでは,皇太子殿下は,いつも私たちと同じ比較的若い世代の人々がどのようなことを考え,どのようなことに関心があり,また,皇室にどのようなことを期待しているのかということを常に視野に入れていきたいというふうにおっしゃっていらっしゃいまして,私もこのことをとても大切なことだと思っております。それから,殿下には,イギリスへのご留学のご経験がおありでいらっしゃいますが,その時に,大変多くのことを吸収なさっていらっしゃったように伺いますので,そのような視点も大切にしていきながら,世の中の様々なことに関心を持っていくことができたらと思います。昨年もお話ししたかもしれませんが,いろいろな新しい考え方ですとか,それから新しい技術,そういったものに触れていくということも大切なのではないかと思っています。

また,自分たちらしさをいかしていくということについては,皇室で長い間培われてまいりました伝統というものを大切にすることも大切なことでございますし,また,新しいものを取り入れていくということ,それから,また,自分たちらしさを大切にするということ,それぞれが大切なことだと思います。そして,そのような違ったいろいろな要素をその時々でどのようにバランスよく取り入れていくのかということについて,常に考えながら若い世代の皇族としてどのようなことができるのか,殿下とご一緒にご相談しながら常に考えていきたいと思っております。

問5 最近,公務を離れてご興味を持って取り組んでおられること,それから楽しみにしておられることがありましたら,教えてください。
皇太子妃殿下

楽しみにしていることはいろいろとございますが,以前にお話ししたこととも重複するかもしれませんが,一年に何回か自然の豊かな所を訪れる機会に恵まれました折には,そこで美しい景色を眺め,そして,きれいな空気を吸って,そしてまた,山歩きなどをしながら植物などについていろいろと教えていただくこと,それからまた,そういう空気のきれいな所では,夜には天体観測をしたりすることも大きな楽しみになっております。それから,日々の生活では,先ほどもお話しに出しましたが,犬たちとの散歩ですとか,いろいろな触れ合いを通じてたくさんの楽しみや喜びを見いだしております。

それと,今年の夏に,クワガタ,昆虫のクワガタですけれども,クワガタがここの御所の窓の外の所で弱っているのを見付けました。私自身,ここにクワガタがいるということ自体驚きだったんでございますけれども,皇太子殿下がお小さいころには,クワガタや,カブトムシもここにたくさんいたとかということで,殿下も大変久しぶりにご覧になられたということでしたけれども,そのクワガタが弱っておりましたので,保護いたしまして飼育いたしました。そして,その後,雌を加えて一緒に飼育してみましたところ,繁殖いたしまして,卵を産んで,今は幼虫を飼育しております。幼虫の飼育というのは取り掛かってみて分かったのですけれども,クワガタの場合,成虫になるまでは3年ぐらい掛かるということで,割と長い3年掛かりの仕事になるかしらと思っております。子供のころに親しんだ昆虫に,また触れることができて,そのことによって,いろいろな,例えば虫ですとか,そういった小さな命一つ一つが大変いとおしく思えてくるものでございまして,そのようなことから,現代の子供たちにもそういう体験をすることというのはとても大切なことなんではないかしらと感じております。

それから,一つ新しいことといたしましては,皇太子殿下や,それから,ご家族のほかの皆様とも音楽を何か,アンサンブルでも演奏をご一緒できたら楽しいかしらと思いまして,フルートを始めたということがございます。これは,上達するまでには長い道のりだと思いますけれども,少しずつ,楽しく,練習していかれたらと思っております。

また,ほかには,もちろん皇室の伝統でございます和歌,書道は,引き続き,楽しく学ばせていただいておりますけれども,たまに,殿下とご一緒に絵を描くこともございます。絵と申しましても,大体草花の写生なんでございますけれども,そうやって,写生をしてみますと,写真とはまた違いまして植物の細かいところをいろいろ見ることになって,新しい発見がたくさんございまして,世界が広がるような気がいたします。

このようにして,いろいろと新しいことを試してみますと,楽しい発見がございますので大変幸せなことと思っております。

<関連質問>
問 先ほど,若い皇族としての殿下方らしさということについてのお話をお伺いしたのですけれども,それに関連してお尋ねいたしますが,我が国としての諸外国との交際というか国際友好親善において皇太子殿下,又は,皇太子妃殿下が果たすべき役割とはどのようなものかということについてのお考えがもしございましたら,先ほど,皇太子様とご相談しながらというお話がございましたけれども,皇太子妃殿下のお立場でお考えなどがございましたら教えてください。
皇太子妃殿下

国際親善は,皇室の担っている役割の中でも一つ大切な事だと思っております。外国への訪問ということにつきましては,皆様もご存知のとおり,政府の決定によって参ることでございますので,もし,そのような機会が与えられることがございましたら,私のできる限りで務めを果たしたいと思っております。

また,日本におりましても大変たくさんの外国のお客様がこちらにお見えになりますので,そういう時には,心を込めて,お一人お一人の方といろいろとお話をしたり,心を込めてご接待をするように心掛けたいと思っております。