皇太子妃殿下のお誕生日に際し(平成9年)

皇太子妃殿下の記者会見

会見年月日:平成9年12月5日

会見場所:東宮仮御所

皇太子妃殿下のお写真
記者会見をなさる皇太子妃殿下
(写真:宮内庁)
問1 この1年は国内外で様々な出来事がありました。こうした社会的なことも踏まえて,この1年を振り返っての感想や印象に残ったことなどをお聞かせください。
皇太子妃殿下

今年は,昨年末にペルーで起きた大使公邸占拠事件の人質の方々の安否が気遣われる中,重苦しい雰囲気の中で幕が開けたと思います。この事件も,4月に解決をみて,大多数の人質の方々が無事に救出されたことに大変安堵をいたしましたけれども,同時に犠牲となられた方々があったことに大変心が痛みました。人質となっておられた方々には,4か月もの間,どんなにか不安で,大変な日々でいらしたことか計り知れないものがおありだったこととお察しいたします。

1月には日本海でタンカーの重油流出事故というものがございまして,日本海沿岸の広い地域にわたり被害が及びました。この時,寒さの最も厳しい時期でございましたけれども,地元の方たちの外にも全国各地から大変大勢のボランティアの方が集まられて,重油の回収作業に当たっていらした姿が大変献身的で印象に残りました。この時の回収作業に当たっていらした方の中にも亡くなられた方もあったと聞きまして,本当に寒い中での作業は大変なものであったと思います。

9月には台風で九州などで大変大きな被害があり,ここでも犠牲となった方がございました。

また,最近ではエジプトに観光旅行にいらした方たちの中に,銃撃によって犠牲となった方々があったことは,本当に悲しいことでございました。

ほかにもいろいろな社会的な事件や,また,経済界でもいろいろな出来事があったと思いますけれども,毎年,誕生日を前にして1年を振り返ってみますと,自然による災害の被害ですとか,それからまた,いろいろな悲しい事件を抜きにして語ることができず,大変心が痛みます。来る年が,より平穏で,明るい年であることを願わずにはいられません。

その外には今世紀最大といわれるエルニーニョ現象の発生,また,その影響ともいわれますインドネシアで大規模に発生した森林火災,それからイギリスのダイアナ元皇太子妃が亡くなられたこと,そして,また,インドで多くの人々のために尽くされたマザー・テレサが亡くなられたということも心に残っております。

明るい話題といたしましては,夏のアテネでの世界陸上のマラソンですとか,また,最近日本中が注目していたと思いますけれどもサッカーのワールドカップアジア予選などですね。それから,最近のスペースシャトル「コロンビア」の打ち上げによる宇宙飛行士の土井さんの宇宙遊泳などが印象に残りました。

問2 ダイアナ元皇太子妃の事故死について伺います。英国留学のご経験がある雅子さまは,同じ世代の皇太子妃だったダイアナさんの死去についてはどのように感じられましたでしょうか。
皇太子妃殿下

イギリスのダイアナ元皇太子妃が今年の夏,突然の事故でお亡くなりになったことは大変お痛ましいことでございました。私も,ダイアナ妃が最後に日本にいらっしゃった折にお目にかかる機会がございましたので,この事故の知らせを伺って大変重苦しい気持ちでおりました。そして,また,私もイギリスに2年間留学しておりましたので,イギリスには大変懐かしい良い思い出がたくさんございますので,ご葬儀の日には,そのようなロンドンやイギリス各地の風景などを重ね合わせて思い出して,悲しい気持ちがいたしました。お若くして亡くなられたダイアナ妃のご冥福(めいふく)をお祈りいたしますとともに,遺(のこ)されたご遺族の方々のお悲しみを思い,そして,また,遺(のこ)されたお二人の王子様方がこの大きな悲しみをお乗り越えになって,そして,お健やかにご成長なさいますことをお祈りしたいと思います。

問3 昨年の記者会見で雅子さまは「古いものでも良いものは大切にしながら,新しい時代の要請というものを考慮に入れていくことが大切」と話されました。そこで改めてお伺いします。雅子さまは現代の「時代の要請」についてはどのようなものであるとお考えになり,また,日々のご活動の中でどのようにして「時代の要請」にこたえようとしていらっしゃるのでしょうか。
皇太子妃殿下

何か,私の答えが質問を招いてしまったような感じですけれども。

私が皇室に入りましてから4年半ほどになりますけれども,この4年半の間にも社会は目まぐるしく変化したのではないかという気がいたします。例えば,一つの例をあげますと,5年ぐらい前には一般の人の間にもそれほど普及していなかった携帯電話ですとか,それからまた,名前を耳にすることもなかったインターネット,電子メールといったものが大変な速さで普及し,そして,今では特に若い世代を中心に,多くの人々にとって日常欠かすことのできないものになっているというふうに聞いております。これはほんの一つの例ですけれども,ほかにも,社会的にも経済的にも世界の規模で見ても日本国内を見ても,いろいろな変化があったと思います。

このようにいろいろなことが目まぐるしく変化する時代ではありますが,そのようないろいろな変化の中には,一時的な現象というものもあると思います。また,同時に,例えば戦後間もない時期をとってみましたり,それから,私どもの世代が生まれた時代というものをとってみましても,それ以来,日本が大きく変わったということも言えると思います。ですから,常にどのようなことが本質的なことであって,何が大切な価値であり,そしてまた,どのような方向に向かって日本,あるいは世界というものが動いていっているのかということを常に意識し,考え,そしてまた,そういうことを敏感に感じ取っていくということが大切なのではないかと思っています。そして,そのような中で,なるべく広くいろいろなことに触れ,例えばその先端的な技術や,いろいろなものですとか,それから先駆的な考え方といったことに触れることも大切にしていきたいと思いますし,また同時に,こうしていろいろなことが変化する時代の中にあって,大変難しい境遇に置かれている人々に対しても,心を寄せていきたいというふうに思っています。

そして,そのような難しい境遇に置かれている人々が,何か将来に向けての希望ですとか,新しい力を見いだすことのお手伝いが少しでもできるようであれば幸せに思います。ことに,現代のいろいろなことが複雑化している社会において,いろいろな意味で難しい状況に置かれている子供たちには心を寄せていきたいと思っております。また,社会的に弱い立場にある人々にとって何が必要かを考え,そして,できるだけ多くの人が,その人その人の幸せなり可能性といったものを見いだしていくことのできる社会であることを常に願っています。そして,なるべく多くの人々と自然な形で触れ合うことができて,そして,人々が何を考え,どういうことを感じているかということに耳を傾けていくことができればと思います。やはり,若い世代の皇族として何をするのが望ましいのかということについては,皇太子殿下とご相談しながらご一緒に考えていかれたらというふうに思います。

また,現代は国際化の時代でもあると思いますけれども,世界の様々な問題や,また,将来にわたって人類にとっての問題となってくるような問題について,世界各国の人々が,手を携えて取り組んでいかなければならない時代にあると思いますので,そのためにも各国の人々との相互理解が進んでいくことが大切ではないかと思っております。ですから,もしもそのような面でお役に立つことがあれば,与えていただく機会というものは大切にしていきたいと思っております。また,同時に,外国から日本に対して寄せられている関心も大変高いものがございますし,また,日本の皇室に対しても,関心が寄せられているというふうに感じる時もありますので,海外に向けても正しく情報が発信されて伝達されていくということも大切なのではないかというふうに感じます。

問4 日ごろ多くの海外の賓客と接する中でどのようなことを感じられていらっしゃいますか。また,皇室の一員として海外の方にはどういうことを感じ取ってもらおうとお考えでしょうか。
皇太子妃殿下

確かに公務の中で,外国からお見えのお客様にお目にかかる機会というのが結構多くございまして,そのような時にはいつも,そのお客様のいらした国の様々なことを伺ったり,また,その方が持たれた日本についての印象というものを伺うことを大変楽しみにしております。外国からのお客様にお会いしていて感じることが多いのは,多分日本に対しての期待の高さというものと,それと同時に,日本が近代化の中でどのようにして日本の伝統や日本固有の文化といったものを守ってきたかということに対しての関心が大変に高いということかもしれません。日本についてお客様から様々なご質問を受けることもございますので,そのような時には日本の姿をなるべく正しくお伝えすることができるように努めたいと思っております。そしてまた,そのような外国からのお客様には,なるべく日本のいろいろな面に触れていただいて,新しいもの古いものを含め,なるべくたくさんのところをご覧いただければうれしく思います。また,皇居などで外国からのお客様にお目にかからせていただきます機会もございますけれども,そのような時には,お客様大勢の方が皆さん両陛下の大変ご誠実なお人柄に深く感銘をお受けになったというふうにおっしゃることが多くて,そのことが深く心に残ります。両陛下がこれまで外国との友好親善の上でお築きになっていらっしゃったものというものを,私も大切にしていきたいと思います。その意味でも,お客様お一人お一人との,人と人としてのつながりというものを大切にできたらというふうに思っております。

問5 週末は殿下とサイクリングや散策を楽しまれているとお聞きしているんですけれども,最近公務が無い時にはどのようにお過ごしでしょうか。また,両殿下が興味を持っていらっしゃること,何かございましたら教えてください。
皇太子妃殿下

まず今公務ということがございましたので,公務の関係で今日ここにお集まりの記者会の皆様はよくご存じだと思うんですけれども,公務というのも外に出かけて行く公務はよく報道などもされて知られているかと思いますけれども,そういう出掛けて行く公務の外に,ここの御所の中でいろいろな方とお会いするという公務の方がむしろたくさんございまして,そのような御所の中で行う公務が幾つか入っているという日が結構多くございます。そして,余談になりますけれども,そのように正式な形でお客様とお会いすることを,こちらでは接するの接に見ると書いて「接見」というふうに言っているのでございますけれども,ある時,ここの御所の中でではなかったのですけれども,ある所である方とお会いすることになった時に,その方が宮内庁の者から「後ほど両殿下からご接見を賜ります。」というふうに説明をされて,その方が両殿下のセッケンというのはいったい何で石鹸(せっけん)を頂くんだろうと,手を洗う方の石鹸(せっけん)だと思うのですけれども,そういうふうに勘違いされて,首を大分傾げられたというようなことも聞いております。それで,そのような公務の外にその公務の準備のために充てる時間,これの中には先に予定されている公務について職員といろいろ相談したり,決めたりといったこともありますけれども,そのような時間以外の時にはいろいろな方にこちらにいらしていただいてお話を伺ったりということも多くございます。そしてまた,殿下はそういうお時間を大変お上手にお使いになって,少しの時間でもおありになると研究を進めていらっしゃるということがよくおありでいらっしゃるようにお見受けいたします。

そうですね,先ほどおっしゃったサイクリングと散策ですけれども,サイクリングと散策は大変健康を維持する上でも役に立ちますし,今,幸い,犬が2頭おりまして,この犬たちというのはある時ここの赤坂御用地の中に犬が入ってきて,そして出産をいたしまして10匹の子犬を産んだのですけれども,その10匹の子犬のうち8匹は希望していた職員に分けまして,そして一番小さかった雄と雌の子を1匹ずつ手元に残したものなのですけれども,その犬たちも,もうすっかり成犬になりまして運動もかなり必要ですので,公務などに支障がない限り,なるべく日々の日課として,自転車で,又は歩いて連れ出すようにしております。この犬たちのことは皇太子殿下も大変可愛がっていらっしゃいまして,犬たちがいることで毎日の生活が和やかなものになっているような気もいたします。それから,その外週末には殿下が時々ジョギングをなさいますので,このジョギングのお供をして自転車で伴走をすることもありまして,これも実は犬の方がより良くお供をして犬はちゃんと走ってお供をするのですけれども,私は自転車でお供をしたり,それから,たまにテニスなどもご一緒にしたりすることがあります。その外,関心を持っていることといえば,殿下と共通のといいますか,ご一緒の関心事項としては,音楽ですとか,後は絵画などの美術にも関心がございますし,それから東京でもたまに機会がございますけれども,特に那須の御用邸に参りました時には晴れた晩にとても星空が素晴らしいので,ご一緒に天体観測をさせていただくのも大きな楽しみになっています。

その外は,皆さんもよくご存じの,今年の夏も山に一緒にいらした方もこの中にいらっしゃると思いますけれども,登山ですとか,それから写真などもありますし,それから後は御料牧場に参ります時には,以前に中東を訪問しました時にオマーンの国王陛下から皇太子殿下がお頂きになられた馬のアハージージュという名の馬がおりますけれども,この馬,そしてこの馬が今年の春に出産をして,今,子馬がいますので,先ほどの映像にも出てきたかもしれませんけれども,この馬たちの元気な姿を見ることも楽しみにしております。それから今年はちょっとできなかったのですけれども,御料牧場では乗馬をする時もありまして,これも楽しみにしております。そのこととも関連いたしますけれども,私自身は大変動物とか自然などが好きですので,人と動物のかかわり,あるいは人と自然とのかかわりといったことについて,そのような良い関係から生まれ得るものということにも関心を持っております。

<関連質問>
問 先ほどワールドカップのサッカーのことを明るい話題として取り上げていらっしゃいましたけれども,試合の方は観戦されていたのでしょうか。
皇太子妃殿下

私はちょっとほかの用をしながら,たまにちらっ,ちらっと見ておりました。最後の,あの時ですね。

記者

最後のゴールのシーンは。

皇太子妃殿下

ゴール,その時見ていたのかしら。予選の試合ずっと,そこに,最後の試合に至るまでのをずっと見ていたわけではないですけれども,最後の試合の時は。

記者

その時の感想としては。

皇太子妃殿下

そうですね。難しいのですけれども。とにかく何か日本中がそのことで熱狂しているというのが大変印象に残りました。