スイスご訪問に際し(平成26年)

皇太子殿下の記者会見

ご訪問国:スイス

ご訪問期間:平成26年6月17日~6月23日

会見年月日:平成26年6月13日

会見場所:東宮御所

記者会見をなさる皇太子殿下
<宮内記者会代表質問>
問1 スイスは150年前から日本と交流が続いてきた国であり,殿下にとっては英国留学中に3回訪問された思い出深い地でもあると思います。殿下のスイスに対する印象と,「日本・スイス国交樹立150周年」の日本側名誉総裁として公式訪問するに当たっての抱負をお聞かせください。
皇太子殿下

この度,スイス国からのご招待を頂き,「日本・スイス国交樹立150周年」名誉総裁として,同国を訪問できますことを大変うれしく思っております。ご招待いただいたブルカルテール大統領を始めとするスイス国政府に感謝いたします。私にとりましては,スイス国への訪問は,イギリス留学中以来のことですので,およそ30年ぶりになります。

今年2月には,スイス側の名誉総裁であるブルカルテール大統領の訪日の機会に,在京スイス大使館で,両国の国交樹立150周年の開幕をお祝いいたしました。本年の記念事業は,これまでのところ,両国で順調に行われてきているようですが,私自身,今回,スイスで行われる記念事業に出席することを楽しみにしております。

スイスについては,子どもの頃に,「アルプスの少女ハイジ」の物語にもあるように,雪をいただいた山々が美しく,チョコレートや時計を作り,スキーが盛んな所という印象を持っていました。山については,小学生の時から写真集を見たり,マッターホルンなどのスイスの山々に大叔父である秩父宮殿下が登頂されたことを両親である両陛下から伺ったり,また,中学1年生の時に国語の授業で,日本の登山家である今井通子さんなどがアイガーの北壁を登った話を読んだことなどによってより身近なものとなりました。スキーについては,昭和47年の冬季札幌オリンピック大会で,スイスのマリー=テレース・ナディッヒ選手が女子アルペン競技で二つの金メダルを取ったことを今でも鮮明に覚えています。ついでに言えば,音楽に関して,小学生の時に,エルネスト・アンセルメ指揮,スイス・ロマンド管弦楽団によるベートーベンの田園交響曲のレコードをよく聴いていたことを懐かしく思い出します。

留学中の思い出としては,訪問したのは,いずれも冬でしたが,グリンデルワルトから眺めた迫力あるアイガーの北壁やユングフラウの姿,首都ベルン旧市街の魅力ある街並みや美しく水をたたえたレマン湖,そして,リヒテンシュタインやルクセンブルクの王室の方々とご一緒にスキーを楽しんだことなどが楽しい思い出として残っています。

今回の訪問では,首都ベルンを始め,150年前に,スイスから日本に派遣された使節の団長として,日スイス修好通商条約に調印したエメ・アンベールの出身地であるヌーシャテル,美しい山岳を有するユングフラウ地域の玄関口であるインターラーケン,我が国との姉妹都市交流を進めるブリエンツ,スイスの主要都市の一つであるチューリッヒを訪問する予定です。スイスは,伝統的にカントンと呼ばれる各州が特色のある自治を行うなど,地方色の豊かな国ですので,各地の文化や伝統に接するのを楽しみにしています。

スイスの国としての成り立ちは,欧州でも他に例を見ないものであり,こうした歴史を背景に,スイスは,多くの分野で特色ある制度や仕組みを発展させてきました。また,スイスと我が国は,地理的,歴史的,文化的な背景が異なり,内陸国と島国といった違いがある一方で,我が国とスイスは,共に山岳を始め豊かな自然に恵まれていること,教育に力を入れてきたこと,産業・技術立国を目指してきたこと,特に,両国は,古くからの伝統を守りつつ,革新的なものを生み出してきたことなどの共通点を有しております。このような中で,両国は,150年にわたる交流を基礎として,友好を更に深め,文化,学術,経済,科学技術,登山やスキーといったスポーツなど幅広い分野で協力を深めてきました。今回の「日本・スイス国交樹立150周年」を契機に両国の関係が更に深まることを希望しております。

また,スイスは,内陸国でありながら,古くから我が国を始めアジアなど海外と積極的に交流するとともに,国連を始め様々な国際的組織の拠点ともなっております。「赤十字」に代表される国際人道主義の精神を生み出したスイスからは,東日本大震災直後の救助隊派遣を始め,官民から心温まる支援を頂きました。改めて心より感謝の意を表します。世界に開かれた視点や国際人道主義の精神を持つスイスと交流を深めることは大変意義あることと思います。

このような背景の下,今回のスイス訪問で,特に関心を払いたいと考えている点についてお話ししたいと思います。

まず,スイス訪問を通じて,両国関係の基礎となった150年に及ぶ両国の交流の歴史を振り返りたいと考えます。両国の修好通商条約を締結したエメ・アンベールは,日本滞在中に多数の絵や写真などを収集し,帰国後,邦訳「幕末日本図絵」を刊行し,私自身,歴史を研究している者としても当時の日本を伝える貴重な資料をヌーシャテルで見るのを楽しみにしております。我が国からは,1873年に岩倉具視を大使とする使節団がスイスを訪れました。岩倉使節団は,時計や紡績などの高度な技術を見聞したほか,国情をつぶさに観察し,「教育がよく普及し,国民が礼儀正しく学問があり,仕事に熱心なことでは,スイスが一番だという」とした上で,「国中が互いに仲が良く,他国の人への応接が親切」であることなど好印象を得て帰国しております。こうした古くからの交流に思いをはせながら,今回の訪問を通じ,更に両国の親善に努めたいと思います。

第二に,今回の訪問では,インターラーケンでの日本現代美術展のオープニング行事に出席しますが,様々な協力事業を通じ,両国の交流の機運が高まることを期待します。また,今回の訪問先の多くが,日本の姉妹都市であるほか,登山鉄道や高山植物園を含め様々な姉妹交流が行われております。「日本スイス青少年交流プログラム」のスイス側参加者とも交流しますが,両国間の地方や草の根の交流のお役に立てれば幸いです。

第三に,スイスでは,個人や民間のイニシアティブが大切にされるとともに,コミュニティーの連帯感が強く,相互扶助の仕組みが根付いていると聞いております。防災や減災を含め我が国も参考にできることが多いのではないかと思います。ベルンでは,山岳救助を含め医療チームを即時に派遣するための緊急ヘリ部隊の拠点を視察し,ブリエンツでは,水害対策施設を視察しますが,私が関心を持っております「防災と水」の視点からも,スイスの経験はいろいろと参考になると思います。

今回,私は,話の冒頭にも申し上げましたが,30年ぶりにスイスを訪れることとなります。当時見た,スイスの雄大な自然や美しい歴史的な街並みは大変強い印象を残しました。また,お会いしたスイスの方々は,大変親切で親しみやすく,今回スイスの方々と再びお会いするのを楽しみにしております。私の訪問により,両国の親善や交流が深まることを心から願っております。

問2 今回,雅子さまは同行されませんが,同行を見送られた理由とそれについての両殿下のご心境,雅子さまの現在のご様子についてお聞かせください。殿下は今年の誕生日に際しての記者会見で,ご一家での私的な海外訪問について「いろいろ考えていく必要がある」と答えられました。今後の両殿下,またはご一家での私的旅行を含めた海外訪問の見通しについてもあわせてお願いいたします。
皇太子殿下

今回のスイス訪問については,訪問中の諸行事やスイス国内の移動を含む日程を勘案し,また,お医者様とも相談した結果,私一人で訪問することとなりました。今回,スイス政府からご招待を頂いたことを雅子も大変有り難く思っており,お伺いできないことを,私はもとより,幼少の頃から何度かスイスを訪れたことのある雅子も残念に思っております。

これまでも申し上げたとおり,雅子は,病気の治療を続ける中で,体調をその都度整えながら,可能な範囲で国内での行事への出席や訪問,また,海外訪問などを行ってきました。雅子は,少しずつ快方に向かっておりますが,すぐに活動の幅が広がるわけではなく,お医者様からもご助言を頂いているように,体調を整えながら,まずは,できることから少しずつ時間を掛けて行っていってほしいと考えております。

また,愛子は,この春から学習院女子中等科に進学いたしました。愛子は,元気に通学しておりますが,これまでと全く異なる新しい環境で通学しており,その環境に徐々に慣れつつあるところであります。こうした中で,雅子も,新しい中等科生活を始めた愛子をいろいろな面で支えており,その中で気を遣うことも多いので,お医者様からも,今は余り無理をしないようにとの助言を頂いております。

したがって,現時点において,雅子,さらには愛子と一緒に海外訪問を行う見通しについてお答えすることは難しいと思います。

両陛下には,雅子の体調をお気遣いいただき,そして,愛子の成長を温かくお見守りいただいていることに心より感謝を申し上げております。また,国民の皆様に温かく心を寄せていただいておりますことに心より感謝しております。

<在日外国報道協会代表質問>
問3 この度名誉総裁としてスイスをご訪問になりますが,これまでも皇室の内外でのお仕事は,世界における日本の立場に大いなる貢献があったと思います。将来の皇室を担うお立場として,お伺いします。将来,どのような皇室の姿を目指していかれますか。具体的に,ご公務において,変えていきたいところ,あるいは引き続き大事にしていきたい部分はありますか。日本にとって,皇室はどのような存在であるべきだとお考えでしょうか。
皇太子殿下

以前にも申しましたけれども,過去の天皇が歩んでこられた道と,天皇は日本国,そして国民統合の象徴であるとの日本国憲法の規定に思いを致し,国民の幸せを願い,国民と苦楽を共にしながら,象徴とはどうあるべきか,その望ましい在り方を求め続けるということが大切であると思います。

同時に,これまで行われてきた公務を踏まえつつ,将来にわたり生じる日本社会の変化に応じて,公務に対する社会の要請に応えていくことが,重要であると思います。

天皇皇后両陛下には,これまで,毎年,こどもの日,敬老の日及び障害者週間の前後には,関連施設をご訪問になり,入所者に心を寄せられ,また,多くの関係者をねぎらってこられました。来年からは,このうち,こどもの日及び敬老の日については,施設訪問を受け継がせていただくことになっていますが,こうした施設訪問に限らず,天皇皇后両陛下は,国民の幸せを願い,国民と苦楽を共にしながら,公務を行っておられます。このような両陛下のお気持ちを体して,私たちも心を込めて公務を行っていきたいと考えております。

我が国社会は,少子高齢化,地方の活性化,環境・エネルギー問題や防災対策を始め様々な課題に直面しております。私としては,高齢者や障害者の方々,子どもたちを取り巻く環境や日本が直面してきた災害の歴史やそれに対する対応などを始めとして日本社会が抱える諸課題やそれに応じた社会の変化を知り,国民の皆さんが日々どのような苦労をし,また,それを克服するためにどのように取り組んでいるかを理解するように心掛けております。その際,そうした多くの方々の苦労を心にとどめるとともに,課題を抱えながらも前向きに努力されている方々を少しでも励ますことができればと思っております。

同時に,世界各国との相互理解を深めていくことも大切だと思いますので,文化交流や国際親善の面でもお役に立てればと思っております。その意味でも今回のスイスへの親善訪問は大変に重要であると思います。スイスとの間では,150年の長きにわたり,様々な分野で様々なレベルで交流が行われていますが,今回の訪問により更に交流が進むようにお手伝いができればと思っております。また,先ほど述べましたとおり,我が国とスイスの間には共通点も多く,スイスでは多くの分野で民間のイニシアティブを含め特色ある制度や仕組みが生み出されています。今回も緊急ヘリ部隊の拠点や水害対策施設を視察しますが,それ以外にも多くの方々とお会いし,スイスの皆様から学ばせていただきたいと思います。

一昨年に訪問したタイ国で,プミポン国王陛下にお会いした際に,「私は,今でも様々なことを学んでいる」と国王陛下がおっしゃったことが忘れられません。今後とも,常に学ぶ姿勢を忘れずに,世の中のためにできることを心掛けてやっていきたいと思います。

<関連質問>
問1 先ほど殿下は,妃殿下も幼少の頃スイスを何度か訪れたことがあるとご紹介くださいましたけれども,当時の妃殿下のスイス訪問地の思い出について,妃殿下から何かお話をお聞きになったことはございますでしょうか。また,今回の殿下の訪問先に関して,両殿下でどのようなお話をされているか,ご紹介いただけるものがあればお願いしたいと思います。
皇太子殿下

雅子については,妹がジュネーブで生まれていますので,2歳半の時にジュネーブにしばらくいたことがあるようですし,その当時の話もいろいろ聞きます。また,アメリカの高校に通っていた時の同級生がチューリッヒに住んでおり,その関係もあって,大学時代,夏休みにチューリッヒを訪れ,チューリッヒを始め,スイスの様々な場所を訪れたということを聞いています。いずれにしても,スイスの雄大な景色ですとか,スイスでの様々な楽しい思い出などを本人から聞くことがあります。

記者

今回のご訪問先についてもお話しされていますか。

皇太子殿下

今回の訪問先についても,例えば,インターラーケンやチューリッヒなどは雅子も訪れたことがあるようですので,そういった二人とも訪れたことのある場所については,いろいろと本人からも話を聞くことがあります。

問2 先ほど殿下には,来年,今両陛下が行っていらっしゃる,子どもの施設や高齢者の施設訪問について,引き継がせていただくというような話がありましたけれども,両陛下にとっては,例えば子どもであれば孫の世代であり,高齢者であれば同じような高齢者のお立場でいらっしゃいます。殿下のお立場になりますと,正に愛子さまと同じか,あるいは少し下のお子様方ですとか,お年寄りの方ということで,少し公務の内容を変えられるようなことはお考えなのか,また,そのご訪問の際には妃殿下もご一緒に行かれることを考えていらっしゃるかどうか,というのをお聞かせいただけますでしょうか。
皇太子殿下

これは,今まで両陛下がなさってきたことですので,両陛下が今までどのようになさってこられたかということをいろいろと両陛下からも伺っていきたいと思いますし,また,その上で,私なりにどのようにやっていくかということも,いろいろと考えていければと思っております。実際にそうした施設に行ってみて,様々なことを私自身発見することも,見いだすこともあると思いますし,またその機会に様々なことを学べるのではないかと思います。そういった点でも非常に楽しみにしております。雅子が同行するかどうかについては,やはり本人の体調のこともありますので,今からは何とも申し上げられませんが,ただ本人もそのようなことに大変関心を持っておりますので,そういうことができれば良いとは思っております。

皇太子殿下

先ほどの質問について付け加えたいと思いますが,雅子本人からもスイスに行った時の写真を見せてもらったことがあり,マッターホルンの近くの非常にきれいな湖で撮った写真があり,ツェルマットの辺りの景観などもとてもきれいだったというような話を聞いております。