ガーナ及びケニアご訪問に際し(平成22年)

皇太子殿下の記者会見

ご訪問国:ガーナ及びケニア

ご訪問期間:平成22年3月6日~3月15日

会見年月日:平成22年3月3日

会見場所:東宮御所

記者会見をなさる皇太子殿下
<宮内記者会代表質問>
問1 今回のガーナ,ケニア訪問は,殿下にとってサハラ砂漠以南のアフリカへの初めての訪問となります。水関連施設や黄熱病の研究中に亡くなった野口英世博士ゆかりの施設の視察なども予定されていると伺っております。昨年,天皇陛下が中国国家副主席と特例的に引見されたことをきっかけに,皇室の国際親善の在り方が注目されました。改めてその意義と今後の方向性について,ご訪問に当たっての抱負とともにお聞かせください。
皇太子殿下

ガーナ国,ケニア国両国政府からご招待を頂き,この度,両国を訪問する機会が与えられたことを大変うれしく思っております。ご招待いただいた両国政府に対して心から感謝いたします。アフリカ大陸を訪れるのは,平成3年のモロッコ国訪問以来約20年ぶりになりますが,ご質問にあったとおり,サハラ砂漠以南のいわゆる「サブサハラ」のアフリカについては今回が初めての訪問となります。

アフリカについては,ちょうど私が生まれた昭和35年に,両親である天皇皇后両陛下がエチオピアを訪問されており,両陛下からエチオピアやほかのアフリカの国々の話を幼少時に伺ったことを記憶しています。また,昭和39年の東京オリンピックのマラソンでエチオピアのアベベ・ビキラ選手が優勝し,そしてまた4年後のメキシコオリンピックでは同じくエチオピアのマモ・ウォルデ選手がマラソンで優勝するなど小さいころの私のアフリカのイメージはマラソンが強いということでした。

その後,昭和45年に大阪で開催された万国博覧会で,私は,タンザニアやガーナ,ナイジェリアなどアフリカのパビリオンを幾つか見て回りましたが,これは,私にとってのアフリカとの出会いであったかも知れません。

また,昭和56年に国賓として日本を訪問された,タンザニアの初代大統領であるニエレレ大統領,翌年に同じく国賓として来日されたケニアのモイ大統領,平成5年に訪日された,ガーナのローリングス大統領を始め,アフリカ各国で指導的な立場にある方々にお会いしたり,アフリカに詳しい方々のお話を伺ったり,また,小さいころから野生動物やアフリカに関する映像を見たりして,私なりにアフリカに対するイメージはありますが,「百聞は一見に()かず」の言葉にあるように,今回,ガーナ,ケニア両国を自分自身の目でしっかりと見て,そしてそこに暮らす方々にお会いし,意義のある訪問にできればと思っております。

ところで,私も先日50歳の誕生日を迎えましたが,アフリカの国の中には,私が生まれた1960年に独立した国も多くあります。マダガスカル,ソマリア,コンゴ民主共和国,旧ザイールですが,ナイジェリア,セネガルなどがそうです。今回訪問するガーナは1957年,ケニアは1963年と時期は微妙に異なりますが,1960年前後に独立を実現し,その後約半世紀,国として歩みを重ねてきているという点では共通しています。このように,誕生の年を同じくしたり,また,その前後に誕生した国が多くあるという点でも,私は以前からアフリカの諸国に親しみを持ってきました。

この50年ほどの間で,アフリカ各国の中には,豊富な地下資源等により経済成長を遂げてきた国もありますが,依然として貧困問題や感染症,さらには紛争などの困難な問題を抱えている国も多いと承知しています。日本とアフリカ大陸との関係は,平成5年,1993年の第1回会合以来,過去4回開催されたアフリカ開発会議,TICADもあり,ここ20年ほどの間に深まっております。今回は2か国のみの訪問ですが,両国政府の協力の下,首都のみならず,それぞれ地方も訪れる機会が設けられており,今回の訪問を通じ,ガーナ,ケニア両国の社会,歴史,文化などへの理解を深めるとともに,アフリカ大陸の抱える様々な課題をよりよく知りたいと思います。そして,今回の訪問が,日本とガーナ,ケニア両国はもとより,日本とアフリカ全体の友好関係の増進に少しでもお役に立つようであれば幸いです。日本と両国,ひいてはアフリカ全体との関係を振り返る時,これまで多くの方々が,それぞれの立場でかかわってこられ,発展してきたと伺っており,今回の私の訪問も,そうした積み重ねの一つとなればと思っています。

今回,私はガーナにおいて,今から80年以上前に野口英世博士が実際に研究された研究室を訪れ,博士がアフリカ,ひいては世界の医療活動に果たそうとした思いをしのびたいと思います。その野口英世博士の功績をたたえ平成20年に両陛下のご臨席の下で第1回授賞式が行われた「野口英世アフリカ賞」を記念したシンポジウムがガーナにおいて開催されますので,私は,それに出席し,両国を始めとするアフリカの医療問題に取り組む方々のお話を伺い,それぞれの活動を応援していきたいというふうに思います。私自身,小学生の時でしたが,野口博士の業績について書かれたものを読み,そして,6年生の時に,福島県の猪苗代湖の湖畔に建つ野口博士ゆかりの野口記念館を訪れたことを懐かしく思い出します。

また,ガーナ,ケニア両国においては,青年海外協力隊を始めとする国際協力に携わっておられる方々,経済活動等を通じ両国関係に深くかかわっておられる現地に住む日本人の方々,さらには日本への元留学生など,日本と深いかかわりを持ってこられたガーナ,ケニアの方々とお会いすることが予定されています。特に,青年海外協力隊については,これまで,現地赴任前の隊員の皆さんに,都合のつく限り直接お会いしてきましたが,今回,その各隊員の活動の様子について,現地で直接伺うことを楽しみにしております。

私は,ガーナ,ケニア両国で活躍する日本人,日本のことに関心を持ちかかわりを持つガーナ,ケニアの方々が,それぞれの活動を通じはぐくんでこられた(きずな)こそが,両国関係を強固なものとしていく礎だと思います。私の訪問が,そうした方々が今後それぞれの活動を行っていく上での励みとなればうれしく思います。

ケニアは,天皇陛下がくしくも50歳を迎えられる時に訪問された地と伺っており,感慨深いものがあります。ご訪問時のお話はいろいろと伺っていますし,また,その時のアルバムも両陛下から見せていただきました。今回両陛下がその際視察された,ナイロビ国立博物館を訪問することを楽しみにしています。また,ケニアでは郊外視察の中で,アフリカの雄大な自然に触れることも楽しみにしています。

また,今回の訪問は,私がかねてより取り組んできている水をめぐる問題について,より深く考える契機にできればとも考えています。最初に申し上げたとおり,私はサハラ砂漠以南のアフリカ訪問は今回が初めてですが,私自身,国連の「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁の立場から,アフリカ諸国が抱える水に関する諸問題にかねてから大きな関心を持ってまいりました。今回両国において,ダムや灌漑(かんがい)施設といった,両国の水にかかわる場所を視察することが予定されております。水にかかわる問題は(すそ)野が広く,また今回はアフリカの中でガーナ,ケニア2か国のみの訪問であり,これをもって多くを語るわけにはいかないとは思いますが,それぞれの施設は,両国における水をめぐる「成功例」と聞いており,関係者のお話を伺いながら,水問題への理解を一層深めていきたいと思っています。

問2 ガーナ,ケニア両国からは皇太子同妃両殿下に招請がありましたが,妃殿下の同行は見送られました。妃殿下は,今年1月に国連大学でアフリカなどの衛生問題に関する講演を聴講され,皇太子さまの訪問前のご進講にも同席されるなど,アフリカへの関心が深いと伺っております。同行を見送られた経緯について,妃殿下のお気持ちを含めてお聞かせください。また,先月,公表された東宮職医師団の見解では,妃殿下にとって海外への公式訪問は,負担が大き過ぎるため,まず私的なご訪問が望ましく,治療の面でも効果的であると指摘しています。妃殿下にとって,どのような海外訪問が良いと思われるか,今後の見通しを含めて,お聞かせください。
皇太子殿下

今回,ガーナ,ケニア両国政府からご招待を頂いたことを雅子も大変有り難く思っており,お伺いできないことを,本人はもとより,私も残念に思っております。確かに,雅子はアフリカに関心があり,国連大学のアフリカ関係のシンポジウムなどに積極的に参加してきています。ただ,訪問となりますと,移動距離,訪問期間,訪問中の諸行事などを勘案する必要があり,お医者様とも相談した結果,私一人で訪問することとなりました。今後の雅子の外国訪問については,先日の私の誕生日に際しての記者会見でも述べましたとおり,東宮職医師団の見解を踏まえてどのような機会があり得るのか,周囲の人たちとも相談しながら,雅子と共に考えてみたいと思います。

<在日外国報道協会代表質問>
問3 ガーナやケニアなど海外ご訪問は皇室の重要なご公務の一つですが,日本や世界が大きく変化する中で,皇太子殿下は皇室にどのような変化が求められているとお考えでしょうか。殿下ご自身はご公務の在り方にどのようなビジョンをお持ちですか。また将来,雅子妃殿下が海外訪問などのご公務に同行されることを希望なさいますでしょうか,お聞かせください。
皇太子殿下

将来の日本と世界の変化の中にあって,国際親善などを目的とする外国訪問については,私は重要な公務であり続けると思います。また,昨年3月にイスタンブールでの第5回世界水フォーラムに出席して基調講演を行いましたが,このような国際会議に対しても,私の出席が適当であると判断される場合には,考えてまいりたいと思います。今,世界は速い速度で大きく変わっていっていると思います。そのような中にあって,日本の,そして世界の人々の幸せを祈りつつ,今の自分に何ができるかということを常に真剣に考えていきたいと思っております。

なお,雅子の外国訪問については,先ほど述べたとおりです。

<関連質問>
問1 今お話しの中にもありましたけれども,今回訪問される地域というのは,殿下がライフワークにされている水問題はもちろんですし,衛生の問題だとか,環境の問題,それから食料問題とか,世界が今解決しなければいけない問題の多くを抱えている地域だと思うんですね。それで殿下は国連の諮問委員会の名誉総裁というお立場でもありますけれども,こうした問題というのは,先ほどおっしゃったように水にかかわる問題は(すそ)野が広いとおっしゃいましたけれども,それと関連してくると思うんですけれども,こうした問題を抱えているこれらの地域について,これらの問題について,今の時点ではどういった認識をお持ちになっていらっしゃるのか。それから今回実際見てみてですね,どういったことを感じ取りたいというふうに思っていらっしゃるのか,その辺をもう少しお聞かせいただけますでしょうか。
皇太子殿下

先日,国連大学で国際衛生年フォローアップ会議というものがありまして,私もそちらに出席しましたけれども,そこでは世界の衛生問題の現状であるとか,そしてまた,その中でもアフリカの抱えている様々な問題について私自身が理解を深めることができたと思います。まずアフリカでは,安全な水の確保ということ,そしてまた衛生施設へのアクセスという,こういった点でもって,ほかの地域に比べて立ち後れている地域であるという認識を私も持っており,こういったことに対しては,国際社会全体として取り組んでいく必要があるという,そういった認識を改めてその時持ちました。先ほどもお話ししたように,今回のガーナ,ケニア2か国の訪問でアフリカ全体での問題を理解するということは難しいとは思いますけれども,この問題に取り組んでいるガーナ,ケニアの方々,そしてまた日本人で現地で様々な活動をされている方々,そういった方々のお話を伺って,そして国際社会で一体どのような取組が必要であるかということについての私自身の理解を深めていきたいというふうに思っています。そしてまた,ガーナで行われる野口英世のアフリカ記念シンポジウムに出席しますけれども,そこではアフリカの医療問題にかかわってこられた方々からいろいろお話を伺って,衛生問題と密接に関連のある医療問題についても,理解を深めていきたいというふうに考えております。

問2 殿下の先ほどのお話の中で,妃殿下もアフリカに関心がおありと伺いました。国連のフォローアップ会議も一緒に出席されておりましたけれども,妃殿下のアフリカに対する関心,殿下からご覧になって,どういった部分に特におありでしょうか,お聞かせください。
皇太子殿下

そうですね,アフリカが抱えている様々な問題,全体に対してあると思いますし,具体的にどの問題というのはなかなか難しいかもしれないのですけれども,もちろん貧困の問題ですとか,それから教育の問題,さらには環境問題なども含めて,非常に幅広くアフリカの問題に対して関心を寄せているというふうに,私には感じられます。