スペインご訪問に際し(平成20年)

皇太子殿下の記者会見

ご訪問国:スペイン

ご訪問期間:平成20年7月16日~7月23日

会見年月日:平成20年7月11日

会見場所:東宮御所

記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
<宮内記者会代表質問>
問1 今回のスペイン訪問に当たっての抱負をお聞かせください。皇太子様は昨年,国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁に就任されるなど,熱心に水問題に取り組まれています。今回は「水と持続可能な開発」をテーマに開かれているサラゴサ国際博覧会に出席して特別講演もされるそうですが,博覧会では何を視察して,どのようなメッセージを伝えたいとお考えですか。水問題への今後の取組についても併せてお聞かせください。また5回目の訪問となるスペインという国に対する印象やスペイン王室との交流についてもお聞かせください。
皇太子殿下

ご質問にお答えする前に,先だっての岩手・宮城内陸地震により亡くなられた方々に心から哀悼の意を表しますとともに,ご遺族と被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げ,災害からの復旧や復興が一日も早く進むことを願っております。

2008年サラゴサ国際博覧会の開催に当たって,フアン・カルロス国王陛下及びスペイン国政府からのご招待を頂き,スペイン国を訪問できることを大変うれしく思います。ご招待頂いたカルロス国王陛下及びスペイン国政府に対して,心から感謝の意を表したいと思います。

今回の訪問においても,国王王妃両陛下,フェリペ皇太子同妃両殿下にお会いできることを楽しみにしております。両陛下にお会いするのは,前回,2004年にフェリペ皇太子殿下のご結婚式に出席のためスペインを訪れて以来のこととなります。また,フェリペ皇太子殿下ご夫妻とは,両殿下が2005年6月に,我が国で開催された「愛・地球博」をご視察になった際,東宮御所で夕食をご一緒して以来のこととなります。今回の訪問では,両陛下,両殿下からそれぞれ夕食へお招きを頂いており,こうした温かいお心遣いに心から感謝いたします。天皇皇后両陛下には,長年にわたり,スペイン王室との交流を深めてこられました。私もその恩恵にあずかっていることに感謝をしつつ,スペイン王室との友情を深めていかれればと考えております。

私のスペイン国への訪問は,今回が5度目になります。初めての訪問は,私が高校2年生のときでしたので,もう30年以上前になります。最初の訪問のときには,スペイン南部のグラナダに近い,当時のベルギー国ボードワン国王陛下のご別荘にお招きを頂き,ボードワン国王陛下やスペインのご出身でいらっしゃるファビオラ王妃陛下,そして,そのご親族方などとご一緒に大変楽しい数日間を過ごさせていただきました。その際,ファビオラ王妃様のご案内で,アルハンブラ宮殿を訪れたのですが,今回の訪問に当たって,当時写した写真を見返していると,そのときの思い出が大変懐かしくよみがえってきました。天国を想定した水の庭園の光景やライオンの中庭に響く噴水の音は,今でも鮮明に覚えています。厳しい乾燥地域で生み出されたイスラム文化の,水に対する強い思いを,このとき,初めて知ったように思います。

その後,イギリス留学中の1985年,1992年のセビリア万国博覧会・バルセロナオリンピック大会や2004年のフェリペ皇太子殿下のご結婚の際にスペインを訪問しましたが,その度に感じるのは,豊かな歴史と文化の多様性や人々の温かさや明るさ,そしてそうした人々が支える経済社会の目覚ましい発展振りでした。スペインの歴史をひもとけば,そこにはケルトの文化もあれば,セゴビアの水道橋に代表されるローマの文化,そして,アルハンブラ宮殿やコルドバのメスキータなどに象徴される,キリスト教とイスラム教の融合された見事な建築文化などがあります。ちなみに,スペインを代表する料理の一つであるパエージャもイスラム教徒によってもたらされた料理を起源とすると,あるとき教えられました。経済社会の面では,スペインの国内総生産は,現在世界第8位と世界経済の中でも重要な位置を占め,主要産業も食品加工,化学,自動車,観光など幅広い分野にわたっています。また,環境問題への取組にも力を入れており,再生可能エネルギーとして注目されている風力発電については,スペインはドイツ,アメリカに次いで発電の規模が世界第3位で,スペインの持つ高い技術が世界各国に供給されていると聞いています。

今回も様々な場所を訪れる予定ですが,そこで多くの人々と出会い,その土地の歴史や文化に触れるとともに,発展する新しいスペインの姿を実際に見ることを楽しみにしています。

今回のサラゴサ博覧会は,3年前に「自然の叡智(えいち)」をテーマとして我が国で開催された「愛・地球博」によって示された新しい国際博覧会の理念を継承して,「水と持続可能な開発」をテーマに開催されます。日本も,「水と共生する日本人~知恵と技~」をテーマに,古くから水を大事にしてきた日本人の生活と文化を紹介する日本館を設けて参加しています。私も,日本館やスペイン館など幾つかのパビリオンを訪れる予定ですが,人類や地球の未来にかかわるあらゆる課題の根底に横たわる水問題について,各館がどのような工夫をしながらメッセージを発しようとしているのか見ることを楽しみにしています。

また,今回の万博では,各参加国による展示,行事等とは別に,「水」についてシンポジウム形式で議論を行う「水の論壇」が開催されます。私も7月21日の「ジャパンデー」に開催されるシンポジウムで講演を行う機会を与えていただき,有り難く思っております。今回の講演では,昨年の12月の第1回アジア・太平洋水サミットでの講演に引き続き,「人と水」を基本テーマに,特に日本において人々が水の脅威から自分たちの暮らしを守る一方で,水を利用するために努力や工夫を続けてきた歴史について,お話ししたいと考えています。先人の知恵や工夫には,今なお私たちが学ぶべき点が多くあると思いますし,地域地域で先人たちが培ってきた経験は,今後,人類が国境を越えて持続可能な発展を遂げていく上でも役に立ち,大切なものであると考えます。そうした思いを少しでもお伝えすることができればと思っています。

私も,国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁として,今回のスペイン訪問の経験も踏まえて,世界の水と衛生の問題について更に理解を深める努力を続けていきたいと考えています。これまで,水や水管理に関係のある幾つかの施設や場所の視察を行いましたが,日本の知恵や技術が,世界の人々の役に立つことを願っています。そして,私自身,世界の水と衛生の問題の解決に向けて少しでもお役に立てるよう,名誉総裁の立場で考えていきたいと思います。

最後になりますが,今回の私のスペインへの訪問が,スペインと日本の相互理解と友好関係の増進に少しでもお役に立てればと思っております。

問2 2問目に移らせていただきます。皇太子様は2004年のスペイン訪問後,文書で「いつの日か二人で訪れることができれば幸いです」と感想を述べられましたが,今回も残念ながら雅子様の同行は見送られました。この結果に関する皇太子様,雅子様の率直なお気持ちをお聞かせください。また今回見送りが決まるまでのいきさつや背景,今後の海外訪問を含めた公務への復帰の見通しについても,改めてお聞かせください。
皇太子殿下

今回,フアン・カルロス国王陛下及びスペイン国政府からのご招待を頂いたことを雅子も大変有り難く思っており,お伺いできないことを,本人はもとより,私も残念に思っております。外国訪問は,日本と諸外国との相互理解と友好親善を増進する上でも大切なものであると考えておりますし,「いつの日か,二人で訪れることができれば幸いです」との気持ちは今でも変わりません。同時に,雅子は,依然として病気治療中であり,外国訪問については,移動距離,訪問期間,訪問中の行事などの観点から,慎重な判断をする必要があります。今回の訪問についても,お医者様とも相談の上で総合的に判断して私一人で訪問することにいたしました。お招き頂いた国王陛下を始めスペインの方々のご厚意におこたえできないことを申し訳なく思っておりますが,ご理解を頂きたく思います。

雅子の公務への復帰についてのご質問ですが,これまでもできることを一つずつ積み重ねてきており,このような積み重ねで,徐々に復帰していくことになると思います。雅子が周囲からの助けを得ながら一生懸命努力を続けていることをご理解頂き,引き続き長い目で温かく見守っていただきたくお願いいたします。

<在日外国報道協会代表質問>
問3 この度,スペインにて行われる2008年サラゴサ国際博覧会の開催に関し,同国へご訪問されますが,今回の国際博覧会は,世界の水に関する現状と照らし合わせてどういう意義があると思われますでしょうか。
そして,また,日本で2005年に愛知国際博覧会が開催された折,スペインより皇太子同妃両殿下が日本をご訪問されましたが,そのときの何か心に残るエピソードがございましたら教えていただきたいと存じます。
皇太子殿下

水は,人類の生存にとって欠かすことのできないものです。しかし,その現状は決して楽観視できるものではありません。これまで度々会見の折にも触れてきましたように,世界の人口の6分の1に当たる約11億人の人々が安全な水を利用できず,また,5分の2に当たる約26億人の人々が基本的な衛生施設を利用できないという深刻な状況を,私たちはまず認識し,何ができるか,何をしなければいけないのかを考えなければなりません。また,各地で渇水や水災害が頻発するなど,気候変動や人口の急激な増加に伴い,水問題が一層深刻化していることにも,きちんと目を向けることが必要だと考えています。ご承知のように,今年は「国際衛生年」です。今なお大きな問題を抱える水と衛生の問題への取組と啓発が一層進められることが望まれます。

こうした中で,先ほどもお話ししましたように,サラゴサ国際博覧会が,「愛・地球博」によって示された新しい国際博覧会の理念を継承し,「水と持続可能な開発」をテーマに,各国,各地域の知恵や技術を結集して開催されることには,大きな意義があるものと考えています。この博覧会が,世界の人々が水とのかかわりを見つめ直す新たな機会となることを期待いたします。

フェリペ皇太子殿下ご夫妻とは,両殿下が「愛・地球博」をご視察になった際,東宮御所で夕食をご一緒したことは先ほどお話ししましたが,そのとき,両殿下は,前年の5月に結婚されたばかりで,日本館やスペイン館を一緒にご覧になった感想を楽しそうに話されておりました。いろいろとお話しができ,私たち二人にとっても楽しい一時でした。