メキシコご訪問に際し(平成18年)

皇太子殿下の記者会見

ご訪問国:メキシコ

ご訪問期間:平成18年3月15日~3月21日

会見年月日:平成18年3月10日

会見場所:東宮御所

記者会見をなさる皇太子殿下
(写真:宮内庁)
<宮内記者会代表質問>
問1 14年振りに訪問されるメキシコの印象と訪問に当たっての抱負をお聞かせください。水フォーラムに臨むお気持ち,環境問題への思いを併せてお示しください。
皇太子殿下

この度,フォックスメキシコ国大統領からメキシコ市で開催される,第4回世界水フォーラムへの参加のご招待を頂き,メキシコ国を訪問できることを大変うれしく思います。私のメキシコ国への訪問は,昭和57年,平成4年に続いて3回目になります。

私が初めてメキシコに触れる機会を持ったのは,昭和45年の大阪の万国博覧会の時で,メキシコのパビリオンを訪れた時だったと思います。事前に今の両陛下からメキシコの歴史・文化についてのお話を伺っていましたので,メキシコの歴史や文化に関する展示には殊に興味を持ったように思います。パビリオンには,紀元前1250年ごろから紀元前後にかけて栄えたオルメカ文明の有名な巨石人頭像や,マヤやテオティワカンの遺跡に関する展示もあり,メキシコの歴史が石の文化であるということを子どもなりに関心を持ったように記憶しています。また,パビリオンの入口では,メキシコの音楽も演奏され,その明るさが印象的でした。

実際にメキシコを過去2回にわたって訪れてみて,メキシコの持つ文化や歴史,社会の多様性,そして人々の持つ明るさとバイタリティーが強く印象に残りました。

また,多くの日系人の方々からも温かく迎えていただいたことや,メキシコ市郊外の保養地であるクエルナバカのカテドラルで発見された日本の長崎での26聖人殉教の壁画を目にしたことなどを通して,日本とメキシコとのつながりを目の当たりにしました。なお,私も幾度かお会いしましたが,日本のバイオリン奏者である黒沼ユリ子さんが長い年月にわたりメキシコの子どもたちへのバイオリンの教育に努めておられることはとてもすばらしいことだと思います。ここにも,日本とメキシコとの結び付きを感じます。全体にメキシコの人々の日本への関心の高さや期待のようなものを各所で感じました。

更に言えば,前回メキシコを訪れた際には,メキシコ料理を何種類か賞味しましたが,タコスを始めトウモロコシを使った料理が多かったのが印象的でした。いずれもとてもおいしく感じられました。食べ物は優れてその国の文化を表していると思いますが,メキシコは改めてトウモロコシの文化であるということを思いました。

今回の訪問は日数が限られていますが,できるだけ多くの方々とお会いし,相互に理解を深め,また,メキシコという国についても更に理解を深めていきたいと思っています。また,今回は特に水フォーラムへのご招待でもありますので,この機会にメキシコが取り組んでいる様々な水問題についても理解を深めたいと思います。併せて,以前から関心のあるマヤ文明についても,視察を通して多くのことを学びたいと考えています。

次に今回の水フォーラムについてですが,21世紀は水の世紀とも言われています。特に,人口の増加や土地利用の変化による水不足,洪水や水質汚染など世界的にも様々な水問題が深刻化しています。環境問題の中で水問題の占めるウエートは極めて高いと思います。平成15年に京都市を中心として開催された第3回世界水フォーラムでは,私は名誉総裁を務めさせていただきましたが,水に関する問題が実に多岐にわたっていることに驚かされました。中でも世界では約11億人が安全な水を飲むことができない,そして約26億人が改善された衛生施設を持っていないこと,水にかかわる病気のために約10秒から20秒に一人子どもの命が失われているという事実には,水は安全と思われがちな日本において大いに考えさせられるものがありました。また,途上国では浄水設備が整っていないことから,女性や子どもが遠く離れた場所まで水くみに行かなければならず,それが労働としても大変で,かつ多くの時間を取られるために,教育の機会を失う結果となっている事実も分かりました。また,私の専門分野の水運に関して言えば,地震などの災害で道路や鉄道が使用できないときには,水運が,救援物資の輸送やけが人の搬送に大きな役割を果たすこと,そして交通渋滞の緩和にも水運は役立つのではないかといった指摘も傾聴に値するものがありました。いずれにせよ,私自身公務としてこのようなフォーラムに関係することができたことを大変うれしく思います。

その後も国連のミレニアム開発目標に「水供給と衛生」の問題などが掲げられ,世界の多くの人々が努力をしていますが,なかなか改善は難しいようですし,最近発生したインド洋の大津波,あるいは大型のハリケーンや台風による被害などに対する取組も急がれます。

この度の第4回世界水フォーラムを契機として,水の問題が少しでも解決の方向に向かうことを願っております。私としては,今後も日本そして世界における水をめぐる様々な問題について理解を深めていきたいと思っていますし,この問題に今後とも何らかの形でかかわることができれば幸いと思っています。

なお,今回の水フォーラムでは,水フォーラム側からのお話もあり,江戸と水運というテーマでお話をさせていただこうと思っています。メキシコ市は東京と並ぶ世界でも有数の大都市ですが,東京の前身の江戸の発展に水運や上水道の整備がいかに重要な役割を果たしたかということを,先日訪れた埼玉県さいたま市にある見沼通船堀や玉川上水を例にお話してみたいと考えています。

最後になりますが,今回の私のメキシコ訪問がメキシコと日本との友好親善関係の増進に少しでもお役に立つのであれば幸いです。

問2 今回,雅子様が訪問を見送られたことや,殿下の訪問の準備について,ご夫妻でどのようなことを話されましたか。また,今後のご夫妻での外国訪問についての考えをお聞かせください。
皇太子殿下

今回の訪問に当たって,メキシコ国政府から私たち二人へのご招待を頂きながらそれにおこたえすることができなかったことはとても残念です。雅子自身も伺えないことを大変残念に思っています。大統領にお会いした折には雅子からもよろしくということをお伝えするつもりです。

雅子は徐々にではありますけれども順調に回復してきており,確かに,最近では足慣らしの意味での公務も,幾つか行えるようになりました。ただ,まだ,外国訪問のような遠距離を移動し,長い期間にわたる公務を果たすまでには十分回復しておりません。今回のメキシコ国への私の単独での訪問は,お医者様とのご相談の上で決めたことです。

今回の訪問に当たっては,以前に私がメキシコを訪問した折のアルバムを雅子に見せて,当時の思い出を話したりしています。また,雅子にはアメリカの大学時代の親しい友人にプエルトリコ出身の人がおり,一度,プエルトリコに行ったことがあるようです。それ以外のラテンアメリカには行ったことがないようですが,ラテンアメリカの文化などについて,経験していることなどを思い出し,話し合うこともあります。

今後,雅子と一緒に外国に行けるようになる機会が早く来ることを心から願っております。

<在日外国報道協会代表質問>
問3 皇太子殿下は,2004年5月,欧州3か国ご訪問前の記者会見の際に,皇太子妃殿下の”キャリアや,そのことに基づいた雅子様の人格を否定されるような動きがあった”とのご発言をなさいました。今回のメキシコご訪問も,妃殿下が通常のご公務に復帰なさるまでにはもう少しお時間が必要とされる中で,皇太子殿下お一人でのご訪問となるわけですが,先のご発言以来,皇室典範改正の議論などございますが,皇太子殿下は,妃殿下のご様子や周りの環境,望まれるご公務及び皇室内での役割などについてどのような変化があったとお考えでしょうか。
皇太子殿下

雅子の体調については,先日の誕生日の記者会見の折にもお話しましたように,お医者様の治療方針に従って,回復のために努力をしており,最近では,お医者様から勧められている私的な外出や運動の機会も増えて,また少しずつ公務を行うなど,順調に回復してきております。また,雅子は,愛子の幼稚園の入園を前に,様々な準備に気を配っていますが,愛子が1年間「こどもの城」に通うことなどを通して,成長してきていることを大変喜び,有り難く思っています。

お医者様から指摘されている環境面での課題については,東宮職を始め関係者がいろいろと努力し,また協力をしてきてくれていることを大変有り難く思っていますし,今後も更なる理解と協力をお願いできればと思っています。

公務のことや皇族としての役割などについては,昨年及び今年の誕生日の記者会見でお話しているように,今までの公務を大切にしながら,一方で,今の時代に則した,そして,私たちの世代だからできる公務を見いだし,務めていきたいと思っています。

<関連質問>
問1 今度のご訪問についてですね,ご長女の愛子様はどのように受け止められておられますか。何かお話されたようなことがありましたら,お聞かせください。
皇太子殿下

そうですね,私,今回来週からメキシコに,それからカナダに,合わせて約1週間にわたって旅行するというようなことを愛子にも一応話はしてはありますけれども,まだ恐らく,1週間,海を隔てた国に行くということは,まだ十分認識はできていないと思いますけれども,ともかく日本から離れて1週間どこか違う国に行くということは,子どもなりに何となくこう理解できているのではないかというふうに思います。そうですね,これからまだ数日ありますので,また,少しメキシコのことなんかについても子どもに分かるような形でもって少し話をしていきたいなと思っております。