天皇皇后両陛下東南アジア諸国ご訪問時のおことば

タイ

平成3年9月26日(木)
タイ国王王妃両陛下主催晩餐会(チャクリ宮殿)における天皇陛下のおことば

今夕は,私どものためにこのような宴を催していただき,また,ただ今は国王陛下より丁重なお言葉をいただき,厚く御礼を申し上げます。

本日は,日タイ両国が,くしくも104年前,「日タイ修好通商宣言」に調印し,正式に国交を樹立した日に当っております。当時は両国とも,独立を守るため,国の近代化を進めていた時期であり,40年以上の長きにわたって治世の時期を同じくした国王陛下の御祖父チュラーロンコーン大王と私の曾祖父明治天皇,並びに当時の両国の人々の苦労,努力は計り知れないものがあったことと察せられます。4年前,皇太子であった私は,ワチラロンコーン皇太子殿下と共に,東京で催されたこの修好100年の記念式典に出席し,それを祝うとともに,交流の歴史を振り返りました。

日タイ交流の歴史は古く,タイがアユタヤに都していたときに始まりますが,近年は様々な分野で幅広く交流が行われるようになりました。両国の理解と友好の懸け橋となる留学生の数も多くなり,タイ語でタイのことを話し合える日本の研究者も育ってきたと聞いております。国と国との友好関係の増進にはお互いの理解とそれぞれの立場の尊重が重要であり,両国の関係がこのように広く,深いものとなってきたことを誠に喜ばしく思います。

タイの王室と日本の皇室との交流も頻繁に行われ,昭和天皇の大喪の礼に続いて,昨年は即位の礼にワチラロンコーン皇太子殿下が御参列くださり,また,タイの研究者の協力の下に研究の場として貴国を度々訪れております秋篠宮の結婚式には,シリントーン王女殿下が御参列くださいました。御好意に対して,深く感謝しております。今年に入ってからは,東京農業大学創立百周年記念式典において,日本の大学や研究所で講義や研究にいそしんでいらっしゃるチュラポーン王女殿下にお目にかかりました。

国王王妃両陛下には,国賓として,昭和38年,我が国を御訪問になりましたが,その翌年,昭和天皇の御名代として,私は,皇太子妃と共に貴国を訪問いたしました。その時の両陛下の温かいおもてなしや多くの人々から寄せられました心のこもった歓迎は,私どもの心に深く残るものでありました。

その後も,外国訪問の途次,バンコックやチェンマイに立ち寄り,両陛下にお目にかかっておりますが,その度に,各地をお巡りになって地域の人々の暮らしをお考えになりながら,国の発展や国民の幸福を願う両陛下のお気持を感銘深く伺っております。現在,タイは安定して豊かに発展していますが,タイ国民のたゆみない努力が英邁な国王陛下の御指導の下に花開いたものと考えております。

日本は,先の誠に不幸な戦争の惨禍を再び繰り返すことのないよう平和国家として生きることを決意し,この新たな決意の上に立って,戦後一貫して東南アジア諸国との新たな友好関係を築くよう努力してきました。その中で,今日,日本と東南アジアとの関係が著しい進展を見せ,様々な面での交流がますます盛んになり,特に,アセアン地域の経済が極めて力強い発展を見せていることは,誠に喜ばしいことであります。中でも,貴国はインドシナ地域の中心に位置する国として,将来の繁栄への大きな可能性を秘めたこの地域の発展に重要な役割を担っておられると思います。

この度,御招待により再び貴国を訪問できることは誠に喜ばしく,発展しつつあるタイの現在の姿に接するとともに,多くの人々と交わり,お互いの理解を深めるよう努めたいと思います。さらに,かつてバンコックの博物館で見たラームカムヘン大王の碑を思い起こしつつ,「水に魚あり,田に米あり,‥‥人々の顔は明るく輝いている。」と描かれたスコータイの古都を訪れ,貴国の歴史に触れるのも楽しみにしております。

ここに杯を挙げて,国王王妃両陛下の御健康とタイ王国の繁栄,国民の幸せを祈りたいと思います。


マレーシア

平成3年9月30日(月)
マレーシア国王王妃両陛下主催晩餐会(イスタナ・ネガラ王宮)における天皇陛下のおことば

今夕は,私どものためにこのような歓迎の宴を催していただき,また,ただ今は国王陛下より丁重なお言葉をいただき,厚く御礼を申し上げます。

国王陛下には,王妃陛下と共に,昭和天皇の大喪の礼に続き,即位の礼にも御参列いただき,その御好意に深く感謝しております。

マレーシアから国王王妃両陛下を国賓としてお迎えしたのは,昭和39年のことであり,その6年後,昭和45年に,御招待により,昭和天皇の御名代として,皇太子妃と共にマレーシアを訪問しました。美しいクアラ・ルンプールや打ち続くゴム林などとともに,貴国の多くの方々から温かい歓迎とおもてなしをいただいたことが懐かしく思い起こされます。

それから21年,マレーシアでは,産業が著しく進み,人々が一丸となって努力し,国が豊かに発展していると聞いております。この度,御招待により再び貴国を訪問できることは誠に喜ばしく,このような現在のマレーシアの姿に接し,理解を深めていきたいと思います。

顧みれば,日本は,先の誠に不幸な戦争の惨禍を再び繰り返すことのないよう平和国家として生きることを決意し,この新たな決意の上に立って,戦後一貫して東南アジア諸国との新たな友好関係を築くよう努力してきました。今日,我が国と東南アジアとの間において,政治,経済といった分野はもちろんのこと,学術,文化等広範な分野にわたる友好関係が進展をみせていることをうれしく思います。特に,アセアン諸国との協力関係の深まりは著しく,その将来は,洋々たる可能性に富んでいるといっても過言ではありません。

マレーシアと日本の関係は,極めて良好に推移してまいりましたが,特に,近年,英邁な国王陛下の下に,マハディール首相閣下が卓越した指導力をもって東方政策を推進され,両国間の幅広い交流が著しく進展を見せております。今日,東方政策の下で何百・何千という数の貴国の若者が日本語の勉学に励んでおり,また,マレーシア国内においては,海外青年協力隊員を含め6千名にも及ぶ我が国の人々が種々の分野で活動していると聞いております。このような両国の関係が更に安定したものとなるよう,両国民がお互いの理解を深め,お互いの立場を尊重して,友好関係を増進していくことを切に望んでやみません。

私どもは,明日以降,由緒ある王都クアラ・カンサーを始め,教育・研究施設あるいは福祉施設を訪問いたしますが,今回の訪問が,このように発展を続けるマレーシアと日本との友好関係の一層の飛躍に資するよう念じております。

ここに杯を挙げて,国王王妃両陛下の御健康とマレーシアの発展,国民の幸せを祈りたいと思います。

インドネシア

平成3年10月3日(木)
インドネシア大統領夫妻主催晩餐会(ヌガラ宮殿)における天皇陛下のおことば

今夕は,私どものためにこのような宴を催していただき,また,ただ今は大統領閣下より丁重な歓迎のお言葉をいただき,厚く御礼を申し上げます。

大統領閣下には,昭和43年国賓として御訪問になったのを始め,幾度か我が国を御訪問いただいておりますが,昭和天皇の大喪の礼に続いて,昨年は即位の礼にも,令夫人と共においでくださいましたことを深く感謝しております。

私がこの前インドネシアを訪問いたしましたのは29年前のことになりますが,その時,貴国の人々から心温まるおもてなしをいただきましたことが今でも懐かしく思い起こされます。また,歴史の中で育まれた文化と南国の美しい風景に接したことも深く印象に残っております。

この度,御招待により再び貴国を訪問できることを誠に喜ばしく思います。様々な文化に彩られ,広大な国土に無数の島々と多数の人口を持つインドネシアは,近年,スハルト大統領閣下の卓越した御指導の下,多様性の中の統一を目指して,大きな発展を続けておりますが,私はこのような現在のインドネシアへの理解を更に深めていきたいと思います。

インドネシアと日本の間には古い昔からのつながりがあります。日本は,先の誠に不幸な戦争の惨禍を再び繰り返すことのないよう平和国家として生きることを決意し,この新たな決意の上に立って,戦後一貫して東南アジア諸国との新たな友好関係を築くよう努力してきました。今日,日本と東南アジアとの間において,幅広い分野の様々な交流が花開いていることは,喜ばしい限りであります。特に,我が国とアセアン諸国の協力関係は顕著な進展を見せ,これらの諸国が世界的に注目される発展を続けていることをうれしく思います。その中で,インドネシアと日本の関係は,インドネシア共和国の独立以後,お互いになくてはならない協力者として,誠に順調に進展を見せていることは喜ばしいことであります。

私どもは明日,閣下の御出身地に近いジョグジャカルタを訪問します。ジョグジャカルタ地域は古くから文化が栄えた所で,この訪問により,インドネシアの歴史的文化への理解を深めたいと思います。かつて機上から見た巨大なボロブドゥールの遺跡を間近に見るのは楽しみです。今回のインドネシア訪問を通じ,貴国と我が国の間の交流が更に進み,両国の友好関係がアジアの平和と繁栄の重要な礎として今後とも発展することを念願いたします。

ここに杯を挙げて,大統領閣下並びに令夫人の御健康とインドネシアの発展,国民の幸せを祈りたいと思います。

このページのトップへ