ハゼ科魚類キヌバリとチャガラの核DNAとミトコンドリアDNAを用いた種分化の解析

<標題>

「日本周辺の沿岸に生息する2種のハゼのDNAによる種分化過程の解析」

論文のタイトル:「Speciation of two gobioid species, Pterogobius elapoides and Pterogobius zonoleucus revealed by multi-locus nuclear and mitochondrial DNA analyses(ハゼ科魚類キヌバリ(Pterogobius elapoides)とチャガラ(Pterogobius zonoleucus)の核DNAとミトコンドリアDNAを用いた種分化の解析)」(英文論文)

掲載雑誌:Gene (An International Journal of Functional and Evolutionary Genomes) , Vol. 576, Issue 2, Part 1 : 593-602.Elsevier, Amsterdam, The Netherlands. (「ジーン」,遺伝子・ゲノム・進化の国際学術雑誌,エルセヴィア出版社,オランダ・アムステルダム)2016年2月1日号

<論文に関する大まかな内容>

このたび天皇陛下は,日本周辺に生息する2種のハゼ科魚類,キヌバリとその近縁のチャガラの核DNAとミトコンドリアDNAを用いた種分化の解析に関する論文を,秋篠宮殿下,国立遺伝学研究所の五條堀孝特任教授, 復旦大学の長谷川政美教授,京都大学の中坊徹次名誉教授を始めとする共同研究者によりオランダ発行の国際遺伝学雑誌「Gene(ジーン)」に発表された。

この論文は,平成20年(2008年)に発表された「DNA分子と形態の解析に基づくハゼ科魚類,キヌバリとチャガラの太平洋側および日本海側の地域集団の進化」に引き続いて,核DNAとミトコンドリアDNA の両面からキヌバリとチャガラの種分化を解析し,その結果をまとめられたものである。

キヌバリは日本海側と太平洋側で横帯の数が異なり,東京帝国大学(当時)の田中茂穂博士が1931年に同じ種の地理的変異(基本的に同じ特徴を共有しながら,場所によってわずかに異なる特徴をもつもの)という考えを示して以来,そのように扱われてきた。

以前からキヌバリの地理的な形態的相違の形成過程に関心を抱いておられた陛下は,秋篠宮殿下,上記共同研究者らと共にキヌバリとその近縁のチャガラの形態的,遺伝的な差異を調べ,平成20年(2008年)に,キヌバリとチャガラのミトコンドリアDNAによる系統関係が形態的な特徴による分類と異なり,日本海のチャガラが太平洋のチャガラよりもキヌバリと近縁であることを解明し,国際遺伝学雑誌「Gene(ジーン)」に発表された。

ミトコンドリアDNAは系統関係を調べるために有用な指標である。しかし,核DNAとミトコンドリアDNAで推定された分子系統樹が異なっているとの報告が相次いでおり,ミトコンドリアDNAのみで推定した系統関係は必ずしも正しい系統関係を示しているとは限らない。このため,このたびの研究では,キヌバリとチャガラがどのような過程で太平洋と日本海の集団に分岐したかを調べるため,核DNAの塩基配列を解析した。この研究では,3箇所の核DNAを解析して,核DNAとミトコンドリアDNAの分子系統樹を比較し,キヌバリとチャガラの系統関係を明らかにすることを試みた。なお,核DNA解析で用いた試料は平成20年(2008年)に報告した個体から採取した。

解析の結果,2箇所の核DNA配列の分子系統樹は,形態的な特徴による分類と同様に,チャガラが単系統であることを示唆した。このことは,ミトコンドリアDNAによる系統関係を合わせて考えると,キヌバリとチャガラの種分化が先に起こり,その後日本海のチャガラとキヌバリとの間で交雑が起こったことを意味する。

研究結果は,種の系統関係を明らかにするためには核DNAとミトコンドリアDNAをあわせて解析し,加えて形態的特徴を精緻に解析することが重要であることを示した。

著者: 明仁,秋篠宮文仁(※1,2),池田祐二(※3),藍澤正宏(※3),中川草(※4, 5),梅原由美(※5),米澤隆弘(※6, 7),間野修平(※7),長谷川政美(※6, 7),中坊徹次(※8),五條堀孝(※5, 9)

  • 注記1 東京大学総合研究博物館
  • 注記2 東京農業大学
  • 注記3 宮内庁
  • 注記4 東海大学
  • 注記5 国立遺伝学研究所
  • 注記6 復旦大学
  • 注記7 統計数理研究所
  • 注記8 京都大学総合博物館
  • 注記9 アブドラ国王科学技術大学