日本から得られたオキナワハゼ属Callogobiusの2新種の記載
(原文:Descriptions of two new species of Callogobius (Gobiidae) found in Japan)

著者: 明仁・池田祐二(※1)

  • 注記1 宮内庁上皇職生物学研究所

概要

このたび上皇陛下と共著者による「Descriptions of two new species of Callogobius (Gobiidae) found in Japan」(日本から得られたオキナワハゼ属Callogobiusの2新種の記載)と題する論文が,日本魚類学会の英文誌(Ichthyological Research)オンライン版に掲載された。

今回ご発表になった日本産オキナワハゼ属の2新種は,2001年から2008年にかけて生物学研究所職員等が座間味島や西表島等で採集したもので,学名と和名はそれぞれCallogobius albipunctatus(アワユキフタスジハゼ),Callogobius dorsomaculatus(セボシフタスジハゼ)と命名された。これら2新種は尾柄部基底付近に棘の長い櫛鱗を持つこと,メスの生殖泌尿突起の両側に小突起を持つこと,および前鰓蓋孔器列(Row 20)があること等の特徴から,オキナワハゼ属でインド-太平洋域に分布する「sclateri group」(フタスジハゼ種群)に属する。この種群は,今回の2種を含めて8種となった。

Callogobius albipunctatus(アワユキフタスジハゼ)は,腹鰭には低い膜蓋があり,後縁は湾入する;頭部感覚管開孔はB’D(s)FH’;体側縦列鱗数は25–29;体側横列鱗数は8–10;背鰭前方鱗数は7–11;下顎横列孔器列(Row 16)が10横列孔器と最上部の単一孔器からなることにより同属他種から明瞭に区別できる。

一方,Callogobius dorsomaculatus(セボシフタスジハゼ)は,腹鰭には膜蓋がなく,後縁は湾入する;頭部感覚管開孔はB'C(s)D(s)EFH'かB'C(s)D(s)EFGH';縦列鱗数は20–26;横列鱗数は7–9;背鰭前方鱗数は6–10;下顎横列孔器列(Row 16)が11横列孔器と最上部の単一孔器からなることにより同属他種から明瞭に区別できる。

成魚の記載に加えて,アワユキフタスジハゼ幼魚の頭部感覚系の成長段階(体長)における発達程度を明らかにした。本種は体長12mmほどで成魚とほぼ同じ段階まで形成されていることがわかった。幼魚の成長に伴う頭部感覚系の発達についての記載はオキナワハゼ属の種では初めてである。

陛下は「日本で採集されたオキナワハゼ属5種及びその類縁関係」(1977年)では,日本産オキナワハゼ属にはシュンカンハゼの系統,フタスジハゼの系統及びオキナワハゼ・ナメラハゼ・タネハゼの系統の3つの系統があることを示された。フタスジハゼの系統は現在のところフタスジハゼ種群(sclateri group)として認められているが,この種群の下顎横列孔器列(Row 16)を詳細に検討された結果,これを従来の横列孔器列だけでなくその後端に位置する単一孔器を含めた孔器群として一体的に把握することによって,フタスジハゼ種群(sclateri group)の特徴をより明確に捉えることができるようになった。これはシュンカンハゼの系統でも同様である。

また,上述の1977年論文でフタスジハゼとして用いた標本を再同定した結果も示されている。

最後にフタスジハゼ種群(sclateri group)の8種を識別するための検索表が示されており,これはそれぞれの種を識別するために有効な形質として認められる鰭や鱗の計数値,腹鰭の形状,頭部の孔器列や感覚管開孔の違い,体側や鰭の模様等を用いている。

掲載雑誌

オンライン公開:Ichthyological Research 令和3(2021)年5月20日
         DOI: https://doi.org/10.1007/s10228-021-00817-2
 紙媒体発行:Ichthyological Research Vol.69 No.1令和4(2022)年1月27日