主な式典におけるおことば(平成7年)

皇后陛下のおことば

国際大学婦人連盟第25回国際会議開会式
平成7年8月19日(土)(パシフィコ横浜(会議センター))

国際大学婦人連盟第25回総会の開催に当たり,皆様にお会いいたしますことを大変うれしく思います。本連盟の第18回総会が東京で開かれた折のことが,鮮明に,懐かしく思い出されます。皆様のうち何人かは,21年前,その場にいらしたことでしょう。今,この過ぎ去った21年間―世界が大きな前進とともに,多くの悲しみも経験した歳月―が深い感慨をもって思い起こされます。

日本でIFUWの総会が開かれた翌1975年,国連は「国際婦人年」を掲げ,この行事は直ちに「国連婦人の10年」という行動に引き継がれました。この10年を通し,世界的規模で,女性の人間としての権利と尊厳,及び女性をめぐる様々な問題が語り合われたことは,実に意義深いことであったと思われます。歴史,文化の相違はもとより,現在それぞれの国が置かれている状況の違いの中で,語らいは決して容易なものではなかったでしょう。相違を包容し,複雑さに耐えて連帯をはぐくんだ多くの女性の努力は,社会や家庭にあって,女性の自己発展を妨げる様々な原因に光を当てるとともに,改めて世界の各地で女性の持つ問題に対し,私どもの視野を広げました。この結果が,今回のIFUWの会議の標語に,また,専門者会議や,分科会の議題に反映されていると思われます。

この度の議題の幾つかに見られる,「女児」という言葉との出会いは新鮮でした。ここ日本で,また,旅する世界の各地で,私は,未来をその小さな体一杯にたたえ,輝くような女児たちと出会うことを,いつも大きな喜びとしておりました。しかし,今回,IFUWの会議が彼女たちの問題を取り上げ,また,北京で開かれる国連の第4回世界女性会議が,等しく同問題を取り上げていることから,私どもは現在,世界の多くの女児が生き抜いている,厳しい状況を読み取らねばならないでしょう。どうか彼女たちの一人一人が,一つの生命としても,一人の人間としても,決して暴力のもとに置かれず,愛され,尊重され,その持つ可能性を伸ばす機会を与えられますよう,心から願わずにはいられません。

今年は,第2次世界大戦が終結して,50年目の節目の年にあたります。世界的規模の戦争が回避されたこの50年間にも,多くの地域紛争が戦われており,皆様方の「平和」をテーマとする討論に,深い関心が持たれます。平和は,常に希求されながら,常に遠い目標にとどまるものなのでしょうか。平和の均衡を乱す憎しみの感情は,どのような状況から生まれ,どのようにして暴力に至るのでしょうか。長い歴史を負って現代を生きる私ども一人一人は,今を平和に生きる努力とともに,過去が残した様々な憎しみの本質を理解し,これを暴力や戦争に至らしめぬ努力を重ねていかなければならないと思います。同時に私どもが,平和への道のりの難(かた)さを,絶望や虚無感に至らせることなく,人類がこれまでにもたらした,喜ぶべき進歩を喜び,現代にも決して欠けることのない,各地,各国の良き報せを分かちあって,心を励ましていくことも大切に思われます。

冷戦構造が崩壊し,今,困難を持ちながらも,多くの国々が自由な国家として,再生の道を歩き始めています。南アフリカ共和国では,長い対立の歴史が和解への道を見いだしました。環境の問題は決して楽観を許しませんが,より多くの人が自覚を深め,行動を開始しています。遠い砂漠の緑化にでかけていくボランティアの青年たちを年毎に見送るとき,彼らの信念と,意志と勇気とが,私のイメージの中の砂漠に,わずかな緑を点じます。

暑い最中(さなか)の会議になりましたが,どうぞ十分健康に留意され,実り多い時をお過ごしになりますように。会議の後,皆様方が,またそれぞれの持ち場に帰り,それぞれの場所において,平和の道具として働かれるとき,この横浜会議で心を共にした思い出が,皆様を支える一助となることを,深く念願しております。