主な式典におけるおことば(平成7年)

天皇陛下のおことば

第132回国会開会式
平成7年1月20日(金)(国会議事堂)

本日,第132回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の喜びとするところであります。

国会が,永年にわたり,国民生活の向上,世界の平和と安定のため,たゆみない努力を続けていることを,うれしく思います。

今次の地震による被害は,きわめて甚大であり,その速やかな救済と復興は現下の急務であります。

ここに,国会が,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,国権の最高機関として,その使命を十分果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

国賓 アイルランド大統領閣下及び御夫君のための宮中晩餐
平成7年2月22日(水)(宮殿)

このたびアイルランド国大統領ロビンソン閣下が国賓として御夫君と共に我が国を御訪問になり,ここに今夕を共に過ごしますことは誠にうれしく思います。心から歓迎の意を表します。

閣下には,1月17日,我が国を襲いました阪神・淡路大震災において多数の命が失われたことに対し,早速お見舞の書簡をいただき,また,貴国政府からも被災者のための資金援助をいただきましたことについて,深く感謝しております。このたびの震災は大都市の直下で起こった地震による災害であり,5,000人以上の人々がなくなり,一月(ひとつき)を超えた今なお20万人以上の人々が厳しい寒さの中で不自由な避難生活を続けております。被災地の人々は,全国民の協力の下ではかり知れない気丈さをもってこの状況をしのび,乗り越えようとしております。貴国を含む世界の人々の温かい気持ちは被災者を始めとする我が国民に大きな励ましとなることと心強く感じております。

貴国は我が国から大陸をへだてて遠く離れておりますが,我が国は貴国の人々から文化,教育など様々な面で影響を受けてまいりました。このたび閣下がお訪ねになります松江にゆかりのあるラフカディオ・ハーン,後の小泉八雲もアイルランド人を父として生まれ,その著書は100年近くを経た今日でも多くの日本人に親しまれております。一方,ウィリアム・バトラー・イェーツのように,我が国の文化に関心を持ち,その影響のある作品を表した人もあります。貴国の人々と我が国の人々とはこのような友好的な関係を続けてまいりましたが,近年になり,両国間の貿易や産業協力も大きな進展を遂げております。

私は10年前,皇太子の時,ヒラリー前大統領の御訪日にお応えして,皇太子妃と共に,昭和天皇の御名代として貴国を訪問し,前大統領を始めとする関係者から丁重なおもてなしをいただきました。この訪問において貴国民の温かい心に触れると共に,タラの丘を始めとする貴国の歴史,貴国民が苦難を乗り越えて育んだ文化,緑豊かな農業地帯やバレンの厳しい自然などに接し,貴国への理解を深めることができました。

閣下には人権問題を始めとする様々な社会の問題に深い関心をお寄せになり,ソマリアやルワンダなど各地を御訪問になって,和解の推進と世界の平和のために力を尽くしていらっしゃることに深く敬意を表したく思います。閣下の御訪問を機に,理想を共にする両国の相互理解と信頼がますます深まることを期待しております。

御滞在中,閣下には各地で多くの人々とお会いになり,親しく我が国の実情を御見聞になって,訪日が実り多いものとなるよう願っております。

ここに杯を挙げて,大統領閣下並びに御夫君の御健勝とアイルランド国民の幸せを祈ります。

商工会議所制度発祥120年記念式典
平成7年3月4日(土)(東京ドーム)

本日,商工会議所制度発祥120年記念式典が挙行されるに当たり,皆さんと一堂に会することを誠に喜ばしく思います。

東京商工会議所は,明治8年,東京会議所として設立されて以来,我が国産業の発展,とりわけ中堅・中小企業の振興と国民福祉の増進に大きく貢献してきました。特に,50年前の3月10日の東京大空襲により,8万人の人々が亡くなり,すべてが焼け野原になった当時を思い起こすとき,廃墟の中から復興に立ち上がり,今日の商工業を築いた先達の努力に深い感銘を覚えます。

このような国民の努力が実りを結び,平和のうちに繁栄が築かれつつあるときに,この度の阪神・淡路大震災が起こりました。5,400人以上の人命が失われ,いまだ10万人以上の人々が寒さの厳しい不自由な避難所生活を続けており,大変心の痛むことであります。このような状況に当たって,東京商工会議所を始めとする各地の商工会議所が,被災者のため様々な方面において力を尽くしていることは被災者の大きな励みになっていることと思います。皆さんの協力により,被災者の生活が少しでも早く立ち直り,阪神・淡路の地域にかつての活気が再びよみがえることを祈っております。

今日,内外の経済社会情勢には厳しいものがありますが,商工会議所がその役割と責務に思いを致し,今後とも地域社会,国,そして国際社会の発展に寄与し,人々の福祉のために尽くしていくよう切に希望いたします。

国賓 エジプト大統領閣下及び令夫人のための宮中晩餐
平成7年3月14日(火)(宮殿)

このたび,エジプト・アラブ共和国大統領ムバラク閣下が,令夫人と共に国賓として我が国を再び御訪問になり,ここに今夕を共に過ごしますことを誠にうれしく思います。御来訪に対し,心から歓迎の意を表します。

閣下には去る1月の阪神・淡路大震災に際し,ただちにお見舞いの気持ちをお伝え下さり,有難うございました。また貴国政府からは,被災者の必要としていた救援物資を送って頂き,深く感謝しております。ほぼ二ヶ月を経た今日でも,なお多数の人々が不自由な避難所に生活しておりますが,全国民の協力と貴国を始めとする世界の人々の温かい援助により,被災者が災害から立ち直ろうと,気丈に復興へ向けて歩み始めておりますことをお伝えし,御厚意にお答えしたく思います。

エジプトは世界で最も早く文明の開けたところであり,この文明が人類の歴史に果たした役割にははかりしれないものがあります。我が国民もこの文明に深い関心を寄せ,これまで,各分野で研究者が貴国民の協力の下,研究を進めてまいりました。長年にわたりオリエントの歴史の研究に携わってきた私の叔父三笠宮の研究分野の中にも,古代エジプト史の研究が含まれており,今から20年前の貴国訪問時には貴国政府から丁重なもてなしを受け,実り多い研究の成果を得たことを聞き及んでおります。

貴国と我が国との間に交流が始まったのは,今世紀に入ってからでありますが,その交流は近年に至り,特に経済,文化の分野において著しい発展を遂げつつあります。12年前,今はなき昭和天皇と共に閣下を我が国にお迎えした頃より,両国の関係はさらに深まり,我が国が貴国に贈与したカイロの教育文化センターや小児病院などの施設が,両国民の心を結ぶ絆となっていることをうれしく思います。

現在,世界は中東の平和を強く願っています。この地域の平和実現のため,閣下はこれまで多くの努力を重ねて来られました。対話を通じて人々の心の垣根を取り払い,相互の信頼感の醸成に努められた閣下の真摯な御努力と,世界平和に対する強い思いに心から敬意を表します。

日本は今,春の季節に入り,早咲きの桜も少しずつ開き始めました。自然が再び活力を取り戻すこの希望の季節に,遠方の地より閣下御夫妻をお迎え出来たことをうれしく思っております。短い御滞在ではありますが,御夫妻がこの機会に多くの人々とお会いになり,御訪問が実り多いものとなりますよう希望しております。

ここに杯を挙げて,大統領閣下並びに令夫人の御健勝とエジプト・アラブ共和国国民の幸せを祈ります。

工業所有権制度110周年記念式典
平成7年4月18日(火)(帝国ホテル)

工業所有権制度110周年に当たり,皆さんと共に,この式典に臨むことを誠に喜ばしく思います。

明治18年に専売特許条例が公布されて以来今日まで,工業所有権制度は,我が国の産業の発展と国民生活の向上に大きく貢献してきました。ここに先人の熱意と努力に対し,深く敬意を表するものであります。

現在,我が国は様々な困難な問題を抱えております。特に,この度の阪神・淡路大震災の被害者のことを思うとき,安全な社会を築くための一層の努力が切に願われます。このような問題に(こた)えるためにも,人々の英知によって新しい産業技術が開発されるための基盤となる工業所有権制度はますます重要な役割を果たしていくものと思います。

国際社会もいよいよ緊密化の度を加えている今日,改めて工業所有権制度の使命に思いを致し,関係者の尽力により,本制度が一層発展することを願って記念式典に寄せる言葉といたします。

1995年(第11回)日本国際賞授賞式
平成7年4月27日(木)(国立劇場)

この度の日本国際賞の授賞式に当たり,材料プロセス技術分野におけるホロニアック博士,環境保全重視の農林水産科学・技術分野におけるニプリング博士の受賞を心からお祝いいたします。

ホロニアック博士の御研究は,家庭電化製品に広く使用されている発光ダイオードやコンパクト・ディスク・プレーヤーに利用されている半導体レーザーの開発等,多岐にわたっており,人々の生活を豊かにすることに大きな役割を果たしてきました。また,ニプリング博士の御研究の中の大きな業績としては,不妊虫放飼法の確立が挙げられます。私も,かつて沖縄県訪問の折,ウリミバエの不妊虫放飼法を見ましたが,この方法により,2年前,沖縄県から,ついにウリミバエを根絶することが出来たことは沖縄県の農業に著しく寄与するものでありました。農薬の人類の健康や環境に対する影響が心配されている今日,悪影響のない害虫管理体系を発展させていくことは誠に意義あることであったと思います。ここに,両博士の優れた御業績に対し,深く敬意を表します。

科学技術の発達は,人類に様々な幸せをもたらしてきました。しかし,一方で,科学技術は,人々の意志如何(いかん)によって,人類に大きな不幸をもたらすものでもあります。科学技術の研究に携わるすべての関係者は研究の在り方に思いを致し,科学技術の発達が真に人類の平和と繁栄に貢献するよう努めていかなければならないと思います。

今日,科学技術は,世界の多くの,また様々な分野の人々協力により,国境を越えて目覚ましく進んでおりますが,日本国際賞がその振興に更に資することを願い,式典に寄せる言葉といたします。

第46回全国植樹祭
平成7年5月21日(日)(県立中央森林公園(広島県))

第46回全国植樹祭に臨み,ここ県立中央森林公園において,全国からの参加者と共に,植樹を行うことを誠に喜ばしく思います。

昨年の全国植樹祭は兵庫県で行われました。この度の阪神・淡路大震災は兵庫県の南部に多大な被害を与え,人々は今なお多くの苦難の中で復興に向かって努力しています。被災地に何時(いつ)の日か以前にも増して豊かな緑があふれ,人々の心をいやし,安らぎをもたらすよう願っております。

戦後50年を迎える本年,原子爆弾により多くの人命が失われた広島県において,「宇宙から平和が見える森づくり」をテーマとして全国植樹祭が行われることは意義深いことであります。ここに集う皆さんと共に,戦中戦後の荒廃から森林の回復に向けて,営々と努力された関係者の労苦をしのびつつ,平和への思いを新たにしたいと思います。

森林は,木材資源の供給を始め,災害の防止,水源の(かん)養等,人々の生活や環境に重要な役割を果たしています。我が国は山と水に恵まれ,美しい緑の風土を形づくっていますが,一方,集中豪雨や台風による自然災害の起こりやすい地形でもあります。したがって,森林を良い状態に保つことは極めて重要なことであり,戦後の植林は災害の防止に大きく貢献してきたと考えられます。

昨年は,全国的に猛暑と異常な水不足に見舞われ,一部の地域では,いまだに給水制限が行われているところもあります。こうした状況を考えるとき,森林の水源の(かん)養に果たす役割に対しても,今後一層の関心が寄せられていくことが必要であると思われます。

多くの県民の協力の下に行われるこの植樹祭が,森林の持つ多様な働きについての人々の理解を深め,緑豊かな国土を築く契機となるよう切に希望いたします。

こどもの国開園30周年記念式典
平成7年5月25日(木)(こどもの国皇太子殿下御結婚記念館)

「こどもの国」開園30周年記念式典を多数の参加者と共に祝うことを誠に喜ばしく思います。

建設が始まってから30有余年,多くの人々が力を尽くされ,今日の「こどもの国」が出来上がりました。ここに関係者のたゆみない努力を思い,深く感謝の意を表したく思います。

「こどもの国」が開園された当時,我が国は,産業活動や開発の進展に伴って,日ごとに国土の姿が変わり,人々の生活環境も著しく人工的なものになってきていました。自然の営みが身近にあり,自然の美しさを感じつつ育った私は,子供の育つ環境が人工的なものに偏らず,自然の営みに直接触れる機会の持たれることが望ましいと考えておりました。建設途上に訪れました「こどもの国」は,落葉樹林の中にあり,自然を取り入れた子供の施設が造られるには,誠にふさわしいところに思えました。

その後,周辺の開発が進み,当時この地域を広く覆っていた林も,「こどもの国」の周辺にはほとんどなくなりました。各地で人里近くの身近な自然が消失していることを考えるとき,「こどもの国」の中に残された林が関係者の手により大切に守られ,子供たちに様々な発見をもたらし,心の成長を(はぐく)む場となっていることは,大変意義深いことと思います。

今,「こどもの国」で遊ぶ子供達の中には,その親もここで遊んだ経験のある人が多くなってきていることと思います。「こどもの国」が親から子へ,楽しい思い出,そして豊かな経験と共に引き継がれ,子供の施設として,更に有意義なものとなっていくことを願い,お祝いの言葉といたします。

国賓 南アフリカ共和国大統領閣下のための宮中晩餐
平成7年7月4日(火)(宮殿)

このたび南アフリカ共和国大統領閣下が国賓として初めて我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに今夕を共に過ごしますことを誠に喜ばしく思います。

貴国が人種・部族対立の過去を乗り越えて,平和的,民主的に国内の改革を推し進めてきたことは,人々に強い感動を与えました。長年にわたる苦難と試練に耐え,貴国の国民に自由をもたらされた閣下の信念と勇気ある行動に,深く敬意を表するものであります。

今日,世界には様々な対立によって起きる紛争が絶えず,その中で多くの人命が失われております。人々が互いの立場を理解し,共に平和を目指して歩んでいくことが,切に求められていることを感じます。和解の精神と対話により国内の融和を促進しておられる閣下の御尽力は,このような世界に明るい希望をもたらしました。

貴国と我が国との関係は,1910年に我が国がイエップ・ジュリアス氏をケープタウンの名誉領事に任命したことに始まります。爾来貿易の発展を背景に,1918年にはアフリカにおける我が国初の領事館がケープタウンに設置され,さらに1926年には,神戸とダーバンの間で定期航路が開設されるまでになりました。両国関係はその後多くの変遷を経ましたが,今から3年前,50年振りに外交関係が再開されました。そして,昨年貴国が新たな民主国家として生まれ変わって以来,両国関係は急速に緊密なものとなり,政治・経済面での協力関係のみならず,文化・スポーツ面での交流も活発化してきたことを誠に喜ばしく思います。

この度の閣下の御来訪により,両国間の理解と信頼が一層深まり,貴国と我が国とが共に平和と繁栄に向けて更に協力を重ねることを願っております。

閣下には,短い御滞在ではありますが,広く我が国各界の人々と交流を深められ,今回の御訪問が実り多いものとなりますよう希望いたします。

ここに杯を挙げて,マンデラ大統領閣下の御健勝と御多幸,そして南アフリカ共和国国民の幸せを祈りたいと思います。

第133回国会開会式
平成7年8月4日(金)(国会議事堂)

本日,第133回国会の開会式に臨み,参議院議員通常選挙による新議員を迎え,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の深く喜びとするところであります。

ここに,国会が,国権の最高機関として,現下の内外の諸情勢に対処するに当たり,その使命を遺憾なく果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

全国戦没者追悼式
平成7年8月15日(火)(日本武道館)

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,尊い命を失った数多くの人々やその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来すでに50年,国民のたゆみない努力によって,今日の平和と繁栄が築き上げられましたが,苦難に満ちた往時を思い,感慨は誠に尽きるところを知りません。

ここに歴史を顧み,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民とともに,戦陣に散り,戦禍にたおれた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の発展を祈ります。

世界獣医学大会(横浜)開会式
平成7年9月3日(日)(パシフィコ横浜(国立大ホール))

世界獣医学大会(横浜)が世界の各地から獣医学の専門家を迎え,本日より7日間,我が国で開催されることを誠に喜ばしく思います。この度の大会は,世界獣医学協会と世界小動物獣医師会が合同で開催する大会になりましたが,この大会により,獣医学に携わる広い範囲の人々がここに集うことは,大変有意義なことと思います。関係者の尽力に対し深く敬意を表します。

人類は古くから動物を飼養し,これを伴(りょ)として,また食料や衣料として,さらには学術の発展のために役立てるなど,動物と密接なかかわりを持ってきました。獣医学はこのような目的に沿って発達しましたが,今日その研究対象は医療という領域を超えて人と動物がかかわる様々な分野に広がってきています。獣医学に携わる人々の動物に対する深い理解と豊かな経験は,人間と動物の関係がどのようにあるのが望ましいかということについて,多くの示唆を与えることでありましょう。

日進月歩の発展をしている獣医学の各分野の専門家が,この大会に海外から多数参集し,我が国の専門家と一堂に会し,広い視野に立って意見を交換することは,獣医学の一層の進展とその成果の普及のために大きく貢献することと思います。本大会が実り多いものとなり,参加者の今後の研究や活動にいかされることを願い,開会式に寄せる言葉といたします。

第134回国会開会式
平成7年9月29日(金)(国会議事堂)

本日,第134回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の大きな喜びであります。

国会が,永年にわたり,国民生活の向上,国際社会の平和と安定のため,たゆみない努力を続けていることを,うれしく思います。

ここに,国会が,国権の最高機関として,その使命を遺憾なく果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

平成7年度(第50回記念)芸術祭祝典
平成7年10月1日(日)(国立劇場)

我が国の芸術の発展に大きな役割を果たしてきた芸術祭が,ここに50回目を迎え,記念祝典が執り行われることは,誠に喜ばしいことであります。

戦後の荒廃が我が国を覆っていた昭和21年秋,「文化国家」としての新たな出発を象徴するものとして,第1回の芸術祭が開催されました。今日からは想像し難い,苦労の多い,しかし意欲に満ちた門出であったと思われます。()来,芸術祭は伝統的な舞台芸術を始め,映画,放送なども含む幅広い分野において,常に創造的な活動を進め,また優れた芸術家を世に送り出すなど,我が国の芸術活動に貢献してきました。ここに,これまでの芸術祭に携わってこられた多くの関係者の努力に対し,深く敬意を表します。

時代の流れとともに,芸術活動も過去におけると同様,様々な変遷を経ていくことと思われます。50回目を迎える節目に当たり,この催しが今後とも伝統文化を(はぐく)むとともに,新しい試みを通して,より豊かな芸術を築き上げていくことを願い,お祝いの言葉といたします。

国民参政105周年・普選70周年・婦人参政50周年記念式典
平成7年10月6日(金)(日比谷公会堂)

本日,国民参政に関する記念式典に臨み,皆さんと一堂に会することを誠に喜ばしく思います。

本年は国民が初めて選挙により国政に参与してから105年,25歳以上の男子による普通選挙制度,婦人参政権がそれぞれ確立してから70年と50年という節目に当たる極めて意義深い年であります。

選挙は国民が投票を通じ国政に参与するという民主政治の基礎でありますが,我が国では,105年前,制限選挙により衆議院の選挙が行われてから,選挙権が成年に達した全国民に及ぶに至るには,先の戦争を挾み,50年以上の歳月の経過を見ました。ここに,選挙制度の歩みを顧み,長年にわたり,より民主的な選挙制度の確立を求めて努力を重ねた先人の苦労をしのび,深い敬意を表します。

本日の記念式典に当たり,全国民が選挙制度の重要な意義を改めて認識し,公正な選挙を通じて民主国家の健全な発展のために一層努力することを,切に希望いたします。

第50回国民体育大会秋季大会開会式
平成7年10月14日(土)(県営あづま陸上競技場(福島県))

第50回国民体育大会秋季大会が,冬季,夏季に引き続き,ここ福島県で開催されるに当たり,全国から参加された選手,役員を迎え,多くの県民と共に,開会式に臨むことを誠に喜ばしく思います。

戦後の厳しい状況下で,我が国のスポーツの再建を願って始められた第1回の大会以来,国民体育大会は,開催地を始め各地でスポーツの普及と振興に大きな役割を果してきました。50回という節目の大会に当たり,大会のために力を尽くされた先人の努力に改めて深い敬意を表したく思います。

選手の皆さんには雄大に広がる美しい自然の中で日(ごろ)鍛えた力と技を十分に発揮されるとともに,お互いの,そして福島県民との交流を深められるよう願っております。

福島県民の熱意ある協力に支えられた「ふくしま国体」が実り多く,長く心に残る大会となることを期待して,開会式に寄せる言葉といたします。

国連50周年記念の集い
平成7年10月24日(火)(日本武道館)

本日,国際連合の創立50周年を迎え,ここに,その記念の集いが開催されることを,深く喜びとするものであります。

私は,昭和28年,初めてニュー・ヨークの国際連合本部を訪れました。当時,戦後日の浅い我が国は,まだ国際連合の一員としての立場を有していませんでした。それから41年を経,昨年,再び国際連合本部を訪問いたしました折,私は,そこで活躍する数多くの邦人に接し,また,日本から贈られた「平和の鐘」の音に耳を傾け,世界と我が国の戦後の歩みに改めて思いを巡らせました。ここに,国際連合が,創設以来半世紀にわたり,世界の平和と繁栄のためにたゆまぬ努力を重ね,世界唯一の普遍的国際機関として,掛け替えのない役割を果たしてきたことに深く敬意を表します。

国際連合は現在,冷戦後の国際社会において新たな役割を果たすべく改革の方途を模索しているといわれております。今後,加盟諸国の一層の努力により,国際連合が友好()に共存し得る国際社会の実現に向け,その機能を余すところなく発揮し,恒久平和の実現と人類社会の福祉の増進に十分に資するよう期待しています。

世界各国との平和的な協力関係を求める我が国は,国際連合の加盟国として,その多岐にわたる活動に,今後とも積極的に寄与していくことになることと思われます。日本国民が,国際連合憲章にうたわれた崇高な理想の下に,平和を願う諸国民と相携えて,一層の力を尽くすよう切に念願してやみません。

青年海外協力隊発足30周年記念式典
平成7年10月26日(木)(国立オリンピック記念青少年総合センター国際交流館)

本日ここに,青年海外協力隊創立30周年の記念式典を多数の関係者と共に祝うことを心よりうれしく思います。

顧みますと,私どもが協力隊と初めての接触を持ちましたのは,昭和40年12月,ラオス,カンボジアに派遣される第1次隊の9名の協力隊員の出発を東宮御所において見送った時でありました。その年の第1次隊は,後に出発したマレーシア,フィリピンへの派遣隊員を合わせ,総勢26名であり,今日からみると,実にささやかな門出でありました。任地の状況が十分に分からず,国内の協力隊に対する理解も十分とはいえなかった初期の協力隊員や関係者の苦労は,誠に大きなものであったと察しております。

30年を経た今日,年間に出発する協力隊隊員数は千名を超え,派遣国も55か国に達しました。このような協力隊の発展は,ひとえにそれぞれの協力隊員が任地の社会に溶け込み,現地の人々と相携えて活動し,その地域において高い信頼を得ていることによるものと,誠に頼もしく感じております。我が国とは気候,風土,文化の異なる厳しい環境の下,それぞれの隊員が,健康の問題や,言葉の壁を始めとする様々な困難を乗り越えてきた不断の努力に思いを致すとともに,協力隊が今日の発展に至る過程にあって,絶えずこの活動に力強い支援を与え続けた関係者に対し深く敬意を表します。

また,この機会に,協力隊員としての活動の途次,惜しくも若い命を失われた49名の隊員に対し,心より哀悼の意を表するものであります。

近年,この事業に参加しようという青年が増加していることは,未来への明るい希望を感じさせます。この30年の節目に当たり,協力隊の活動が更に意義深いものとなるよう切に願い,お祝いの言葉といたします。

第15回全国豊かな海づくり大会
平成7年11月12日(日)(宮崎県日南市)

第15回全国豊かな海づくり大会が,ここ宮崎県日南市において,関係者多数の参加の下に開催されることを,誠に喜ばしく思います。

我が国は暖流と寒流の流れる海に囲まれ,人々は古くから豊かな海の幸を享受してきました。この海域も黒潮に乗って来(ゆう)するクロマグロやカツオの良き漁場であり,沿岸は魚影に満ちていたといわれています。

戦後の我が国の経済発展は人々の暮らしを豊かにしましたが,一方で海の環境を大きく変(ぼう)させました。松の生い茂る海辺も,人口の構築物で覆われ,海は汚染されました。それに伴い,(なぎさ)や藻場が消失した所も多く,海の浄化力は弱まり,稚魚の生育水域は減少しました。水産資源の維持のためにも海の環境の悪化を防ぐことは,今,極めて大切であります。

幸い近年に至り,多くの人々が海の豊かさを取り戻すために海の環境改善に力を尽くすようになり,人口(なぎさ)の造成や海の環境を良好に保つための植林等も行われるようになりました。昨年各地で行われた海と(なぎさ)をきれいにしようという運動には,42万人が参加したとのことであり,この問題に対する人々の関心の高まりを,心強く感じています。

また,水産資源の培養による持続可能な水産業の振興についても,関係者の努力が続けられていますが,ここ宮崎県においては,全国に先駆けて種苗生産に成功した,オオニベを始め,マダイ,ヒラメ等の放流を行うとともに,漁場の環境整備を行い,栽培漁業を積極的に推進していると聞き,今後,これらの事業が,より一層の成果をあげることを期待しています。

黒潮の洗うこの地において行われる今大会が,美しく,豊かな海をつくるため,多くの人々が協力し合う契機となることを願い,大会に寄せる言葉といたします。

第11回国際生物学賞授賞式
平成7年11月27日(月)(日本学士院会館)

イアン・リード・ギボンス博士が第11回国際生物学賞を受賞されたことを心からお祝いいたします。

今回の受賞分野は細胞生物学でありますが,博士は,(べん)毛や繊毛の運動に関係する(たん)白質を新たに見いだされたほか,生理学的,生化学的研究によって,その機構を解明され,また,細胞分裂,神経の軸索輸送,細胞内物質輸送など,細胞生物学の広範囲な分野に大きな貢献をされました。さらに最近は,細胞運動に関与する(たん)白質について,分子生物学的手法も取り入れた研究を進められているとのことであります。このような博士の長年にわたる細胞生物学上の成果は,生物学全般に対する重要な貢献であり,深く敬意を表します。博士の御研究には生化学者としての夫人の御協力も大きな力となっていると伺い,ここにお祝いの言葉を夫人にもお送りいたしたく思います。

博士御夫妻の研究が一層豊かに発展していくことを願い,お祝いのあいさつといたします。

緊急消防援助隊合同訓練
平成7年11月29日(水)(緊急消防援助隊合同訓練会場(東京都江東区豊洲))

先の阪神・淡路大震災においては,5,000を超える人命が失われ,また多くの人々が負傷し,家を失いました。被災者,遺族の上を思うと,誠に心が痛みます。大震災発生後,消防関係者は災害の最前線にあって,危険を冒して,消火活動に,救助活動に,昼夜を分かたず尽くされました。ここに関係者の労苦を深くねぎらいたいと思います。

この度の大震災を契機として,今後の大災害に備えるため,全国の消防職員の相互協力の下に緊急消防援助隊が結成され,本日ここに,その第1回の合同訓練が実施されることを大変心強く思います。

日本は地震帯に位置している上,台風や豪雨など,災害の多い国であります。さらに最近は,建物の高層化,巨大化などが進み,消火活動を始めとする消防の諸活動は,一層困難と危険を伴うものになってきていると思われます。

このような状況の中で,国民の生命,財産の安全のために日々精進を重ねている消防職員の努力に対し,心から敬意を表します。

阪神・淡路大震災の経験にかんがみ,昨今,国民の安全への関心はますます高まってきております。合同訓練が実りあるものとなり,国民生活の安寧に資することを切に希望いたします。

戦後50年を記念する集い
平成7年12月18日(月)(国立劇場)

本日の戦後50年を記念する集いに臨み,改めて,先の大戦においてかけがえのない命を失ったすべての人々を追悼し,今なお癒(い)えることのない遺族の悲しみに深く思いを致します。

戦後,我が国は,再び戦争の惨禍を繰り返すことなく,平和国家として生きることを固く決意し,この決意の上に立って,国の再建と諸外国との友好関係の確立に努力を重ねてきました。

()来50年,国民の努力により,我が国は平和で豊かな社会を築き,また,諸外国との信頼関係も次第に深めつつ,人類の平和と繁栄の達成という理想に向けてたゆまぬ歩みを進めています。

戦時,戦後の日々を顧みるとき,今日の平和と繁栄をもたらす礎となった多くの人々をしのび,この平和を意義あるものとしていかしていくことの大切さを改めて思うものであります。

戦後50年という節目の年に当たり,過去の歴史に多くを学ぶとともに,これまで日本を支えてきた国民の力と英知に深く思いを巡らせつつ,これからの道を正しく歩いていきたいものと思います。

今日,我が国が享受する尊い自由と平和の中にあって,国民の創造性が伸び伸びと発揮され,国の繁栄が国民一人一人の幸せにつながっていくことを期待するとともに,日本国民が国内にあっても世界の中にあっても,常に他と共存する精神を失うことなく,慎みと品位ある国民性を培っていくことを,心から念願しております。

ここに,今後の我が国のよき発展と,世界の平和を祈り,今日の集いに寄せる言葉といたします。