皇后陛下お誕生日に際し(平成21年)

この1年を顧みて - お誕生日ご感想

皇后陛下のお写真
皇后陛下お誕生日に際してのご近影

丁度昨年の今頃,世界的な金融危機が生じ,日本においても経済の悪化に伴い,大勢の人々が困難な状況に置かれました。職や居住の場所を失ったり,進学の道を閉ざされ,あるいは就職の内定を取り消された人々も多く,この1年,最も案じられたことでした。また,今年前半に発生した新型インフルエンザが,世界規模で広がる可能性を見せており,寒い季節に入るこれから,少しでもこのことによる被害が小さく抑えられるよう願っています。

今年は裁判員制度の導入で,司法界に注目が集まると共に,政権交代という,政治上の大きな変化のあった年でもありました。米国においても政権が変わり,着任から程なく,オバマ大統領のプラハでの演説があり,その中で核兵器廃絶に向ける大統領の強い決意が表明されました。そして今月,ノーベル財団は他の要因も含め,この大統領のとった率先的役割に対し,今年度のノーベル平和賞を贈り,この行動に対する共感と同意を表しました。核兵器の恐ろしさは,その破壊力の大きさと共に,後々までも被爆者を苦しめる放射能の影響の大きさ,悲惨さにあり,被爆国である日本は,このことに対し,国際社会により広く,より深く理解を求めていくことが必要ではないかと考えています。

アフガニスタンで農業用水路を建設中,若い専門家がテロリストにより命を奪われてから1年が過ぎ,去る8月には故人が早くより携わっていたその工事が遂に終わり,アフガン東部に24キロに及ぶ用水路が開通したとの報に接しました。水路の周辺には緑が広がっているといい,1971年,陛下と御一緒にこの国を旅した時のことも思い合わせ,やがてここで農業を営む現地の人々の喜びを思いつつ,深い感慨を覚えました。

今年は陛下の御成婚50年と御即位20年の,それぞれ節目の年にあたり,4月には国内の大勢の方々に,又,7月に訪れたカナダやハワイでも,お会いした多くの方々に金婚を祝って頂き,うれしゅうございました。秋の御即位20年を,陛下がお元気にお迎えになり,御即位に関連する様々なお行事が,滞りなく行われますことを,家族の皆と共に願っています。



参考

従来,皇后陛下は,お誕生日に際して,宮内記者会から出された質問に対してご書面によってご回答なさっておられました。しかしながら,本年は,4月にご結婚満50年に際しての記者会見を両陛下でなさり,さらに来月早々には,天皇陛下ご即位20年に際しての記者会見を両陛下がなさる予定ですので,ご負担の軽減をお願いするという観点から,これら2つの記者会見に加えて,さらにお誕生日に際しても,記者会の質問に対するご書面でのご回答を皇后陛下にお願いすることは,差し控えることにいたし,その代わりに,皇后陛下に,この1年を顧みたご感想をお記しいただきました。

皇后陛下のお誕生日に際してのご近影


この1年のご動静及びお誕生日当日の行事

天皇皇后両陛下には今年4月にご結婚満50年を迎えられ,11月には陛下のご即位20年を迎えられます。また,7月には2年ぶりに外国ご訪問があり,2週間にわたる公的なご旅行をなさいました。例年の諸行事に加えこれらの関連行事が入り,例年にも増してお忙しい1年となりました。

皇后さまはこの1年,皇居内外で,また,国の内外で様々なお務めを果たされました。皇后さまのお立場でお務めになったお仕事は400件,そのほかにも献穀者,賢所勤労奉仕団及び皇居勤労奉仕団へのご会釈が55回あり,例年のようにご養蚕のお仕事も務められました。皇后さまは,多くの行事やご視察を陛下のお側でお務めになりましたが,単独では毎年恒例の全国赤十字大会並びに隔年ごとに行われているフローレンス・ナイチンゲール記章授与式及び茶話会にご臨席になったほか,社会貢献活動や文化・芸術に携わっている人々からの願い出にこたえ,チャリティー・コンサートを始め各種公演・展覧会などに足を運ばれました。御所では恒例の肢体不自由児関係の「ねむの木賞」受賞者のご接見があり,また日本赤十字社社長,副社長,国際看護師協会会長や日本看護協会会長等からそれぞれ,赤十字や看護の現状と活動状況につきご説明をお聞きになりました。

この1年間,公的な地方行幸啓は神奈川県(3回),奈良県・京都府,茨城県(2回),福井県,新潟県,千葉県と7府県,9回を数えました。国民体育大会開会式や植樹祭の式典にご臨席になったほか,各県への行幸啓の都度,多数の市町村を回られ,各地の文化,福祉を始めとする諸施設をご訪問になり,大勢の人々の歓迎におこたえになりました。なお,今年の豊かな海づくり大会は10月末に東京で開催の予定です。

この1年も,両陛下は多数の外国からの賓客にお会いになって,接遇されました。国賓としてスペイン国王王妃両陛下,シンガポール大統領閣下及び同令夫人を陛下と共にお迎えになったほか,外国の三権の長,王族,大学学長の夫妻等10回のご会見・ご引見があり,それに伴い6回の午餐・夕餐を催されました。また,皇后さまは2月に米国国務長官として来日したヒラリー・ロダム・クリントン女史を御所でお茶にお招きになり旧交を温められました。同女史は平成6年,両陛下米国ご訪問時の大統領夫人で,久しぶりの再会を共に喜ばれました。また在京の外交団とのつながりも大切にされ,この1年間に着任後間もない25か国の大使夫妻をお茶に,着任後3年経過した12か国の大使夫妻を午餐にお招きになっており,また,離任に際して,23か国の大使夫妻がご引見を賜りました。日本から外国に赴任する大使夫妻にも,陛下と共に全員にお会いになっており,この1年には55か国に赴任する大使夫妻に出発前にお会いになり,72か国から帰朝した大使夫妻を茶会に招かれて労をねぎらわれ,任地の話をお聞きになりました。

国外では,両陛下はカナダを国賓として7月3日から14日までご訪問になりました。昨年以来,日加外交関係樹立80周年を記念する諸行事が両国で開催されており,節目を迎えてのご訪問でした。オタワ,トロント,ビクトリア,バンクーバーの4都市を訪れられ,総督夫妻を始め政府及び州の要人等から歓迎を受けられたほか,大学や福祉施設をお訪ねになり関係者にお会いになりました。トロントでは小児病院を訪れられ,入院している子どもたち及び関係者を励まされました。ご訪問に当たり,皇后さまから子どもたちに読み聞かせをお願いできないかと内々打診があり,また,短い時間の制約の中でどのようにして子どもたちを励まそうかとお考えのところ,読書室から全病室に院内テレビを通じてメッセージを伝えることができることをお知りになり,ご自身が3人のお子さまに歌われた「揺籠のうた」をお歌いになり,陛下とご自身のお見舞いの気持ちをお伝えになりました。各地で日系人を含む多数の市民とのご交流がありましたが,日系一世の人々の集まりには努めて和服で臨まれ,長く母国を離れている人々を慰められました。また,帰路ハワイを訪れ,両陛下のご成婚を記念して設立された皇太子明仁親王奨学金財団50周年記念行事に出席され,約1,600名の参会者と席を共にされましたが,その折,これまで毎年御所でお会いになっている奨学生多数との再会の時も持たれ,17日に帰国されました。

皇后さまは後述のとおり今年2月に左膝の靱帯を損傷され,宮中祭祀での膝行が難しい状態がお続きになっているため,祭祀を差し控えていただいております。

今年のご養蚕は4月末から始められ,ご給桑,上蔟,わら蔟作り,まゆ掻き等のため,恒例の行事のほかにもご公務の合間に20回以上にわたり御養蚕所においでになり,蚕の飼育に当たられました。今年は172キロの収穫があり,このうち約65キロの小石丸のまゆの中から40キロを宝物復元のため正倉院へ賜りました。

皇后さまは週日のほぼ連日のお仕事に加え,土日や祝日にもしばしばお仕事に携わられます。昨年初め,めまいを感じられたり発熱されるなど「お体からの警告」との診断があり,ご健康には日ごろから気をつけていらっしゃいますが,今年2月テニスのプレイ中につまずかれ,左膝を強打し,後十字靱帯に切断に近い損傷を受けられました。その後,リハビリに励まれ最近では失われた筋肉の回復に向け,少しずつテニスもされるようになりました。今では,日常生活の支障はかなり少なくなりましたが,まだ,正座のための膝の屈伸にご不自由があり,また,祭祀に当たり,跪いたまま神前に進まれる膝行はご無理で,少なくとも今年一杯は大事をとって祭祀をお控えいただき,その後の経過により,明年の祭祀へのご出席を検討したく考えている旨,皇室医務主管より発表がありました。また,皇后さまはいつも陛下のご健康をお案じになり,毎日の早朝のご散策や,お時間の許す範囲でテニスなどご運動もご一緒になさるよう心掛けておられます。また,ご公務の合間に読書をされたり,ピアノも少しずつ続けておられます。

10月20日,皇后さまの75回目のお誕生日のご日程は,午前10時半から12時まで,皇族方始め内閣総理大臣,衆参両院議長,最高裁判所長官,閣僚,宮内庁職員等による祝賀6回,正午,皇族方始めとのご祝宴,午後,旧奉仕者による祝賀2回,母校の先生方やご進講者等との茶会,非公式日程として夕刻から敬宮さま始め未成年の内親王,親王殿下方のご挨拶があり,最後にお子さま方ご夫妻とのお祝御膳を囲まれます。

皇后陛下お誕生日行事

平成21年10月20日(火)
時刻 出御 行事 事項 場所
午前10:30 両陛下 祝賀及びお祝酒 侍従長始め侍従職職員 御所
同    11:00 天皇陛下 祝賀 長官,次長(総代),参与 鳳凰の間
同    11:10 皇后陛下 祝賀 長官始め課長相当以上の者,参与及び御用掛 鳳凰の間
同    11:20 皇后陛下 祝賀 宮内庁職員及び皇宮警察本部職員 北溜
同    11:40 皇后陛下 祝賀 内閣総理大臣,国務大臣,内閣官房副長官及び内閣法制局長官,
衆議院・参議院の議長及び副議長,
最高裁判所の長官及び判事(長官代行),
会計検査院長,人事院総裁,検事総長及び公正取引委員会委員長,
並びに以上の者の配偶者
梅の間
同    11:50 両陛下 祝賀 皇太子同妃両殿下お始め皇族各殿下 梅の間
正午 両陛下 ご祝宴 皇太子同妃お始め皇族各殿下,元皇族,御親族 連翠
午後 1:40 皇后陛下 祝賀 旧奉仕者会会員
(元宮内庁職員及び元皇宮警察本部職員)
北溜
同     2:00 両陛下 祝賀及びお祝酒 元長官等,元参与,元側近奉仕者,元御用掛,松栄会会員 連翠南
同     4:10 両陛下 祝賀 愛子内親王殿下
眞子内親王殿下,佳子内親王殿下,悠仁親王殿下
御所
同     4:30 両陛下 茶会 御進講者始め御関係者 御所
同     7:00 両陛下 お祝御膳 皇太子同妃両殿下
秋篠宮同妃両殿下
黒田様御夫妻
御所