皇后陛下お誕生日に際し(平成22年)

宮内記者会の質問に対する文書ご回答

皇后陛下のお写真
皇后陛下お誕生日に際してのご近影
問1 今年に入り,天皇陛下は2月に急性腸炎,6月には風邪を召され,皇后さまは9月に「咳喘息の可能性が高い」との診断結果が発表されました。両陛下は今夏のご静養から戻られて以来,連日の外国赴任大使の拝謁と大使夫妻とのご接見,千葉県,奈良県への行幸啓など,公務でお忙しい日々が続いています。ご高齢になられる両陛下の健康管理と,公務のあり方についてどのようにお考えでしょうか。お聞かせください。
皇后陛下

陛下や私の健康については,医務主管を始めとし,侍医たちが常に注意をし,また,専門性の高い分野のことについては,外部の専門家ともよく連絡を取り合ってくれていますので,この頃は,ささいなことも侍医に報告し,指示を受けるようにしています。

公務については,陛下が今は特に変更の必要はないと思うと仰せですので,私もその御方針のようにしてまいりたいと思います。同じ量の御公務でも,日程や時間の組み立て方などの工夫で,少しでもお体に無理なくお仕事がお出来になるよう願っています。

私自身は,これまで比較的健康に恵まれて来ましたが,この数年仕事をするのがとてものろくなり,また,探し物がなかなか見つからなかったりなど,加齢によるものらしい現象もよくあり,自分でもおかしがったり,少し心細がったりしています。

心身の衰えを自覚し,これを受け入れていくことと,これに過度に反応しすぎないこととのバランスをとっていくことは容易ではなく,自分が若かった頃,お年を召した方々が「この年になってみないと分からないことがいろいろあるのよ」とよく云っておられたことを,今にして本当にその通りだと思います。

問2 皇后さまは昨年,天皇陛下のご即位20年に際しての記者会見で,皇室の将来について「これからの世代の人々の手にゆだねたいと思います」とお答えになりました。次世代を担う皇太子ご夫妻,秋篠宮ご夫妻,その次の世代の4人のお孫さまとの交流を通じてのご感想や,それぞれの世代に期待されることをお聞かせください。皇太子家の愛子さまは,雅子さまに付き添われての通学が続き,両陛下もご心配されているとうかがっています。皇后さまは愛子さまの通学の現状をどのように受け止められていますか。
皇后陛下

3人の子どもが育つ過程で,ある日急に子どもが自分を越えていることに気付き,新鮮な喜びを味わった折々のことを今もよく思い出します。テニスコートで私にはとても出来ない上手なヴォレーやスマッシュをしていたり,一つの学問を急に深めていたり,私もこのような歌が詠めたらと思うよい和歌を作っていたり等-その一つ一つは,ごく小さなことであったかもしれませんが,親にとっては感慨深いものであり,未来への希望を与えてくれるものでした。悩むことも,難しいと思うことも多かった子育ての日々にも,こうした喜びを時々に授かりながら,私どもはやがて,それぞれの子どもの成年を祝い,結婚し独立していくのを見送りました。末の清子は民間に嫁いで皇室を離れ,上の二人も,もう私どもの手許にはおりませんが,東宮,秋篠宮二人ともが,あの幼い日や少年の日に見せてくれた可能性の芽を,今も大切に育て続けていることを信じています。

陛下はお若い頃から,「あり方」ということを大切にお考えになり,いつもご自分が「いかにあるべきだろうか」,とお考えになりつつ,そこから「何をするか」を紡ぎ出していらしたように思います。将来,二人の兄弟やその家族が,それぞれの立場で与えられた役割を果たしていく時,長い年月にわたり,皇室のあり方,ご自身のあり方を求めて歩まれた陛下のお姿が,きっと一つの指針となり,支えとなるのではないかと思っています。

この度東宮,秋篠宮それぞれの家族につき質問がありましたが,今,東宮一家が健康や通学の問題で苦しんでおり,身内の者は皆案じつつ,見守っています。東宮家,秋篠宮家の家族を私はこの上なく大切なものに思っており,その家族一人一人の平穏を心から祈っています。

問3 この1年,サッカーのワールドカップでの日本代表の活躍など明るい話題の一方で,相次ぐ子どもの虐待事件,高齢者の所在不明問題など,家族のきずなが失われてしまったことが背景にあるような出来事もありました。1年を振り返り,印象に残ったことについて,お聞かせください。
皇后陛下

今年も沢山の印象に残る出来事がありましたが,そのうちの幾つかを記します。

  1. 宮崎県の口蹄疫
    終息が宣言されるまでに29万頭に近い牛や豚が処分され,それまで家族のように大切にして来た動物たちを,あの様な形で葬らなければならなかった宮崎県の人々の強い悲しみに思いをいたしています。また,この度の事件を通し,口蹄疫を発見,確認し,それを報告する任務を負う人々の辛さや,ワクチン接種に始まり,動物たちの殺処分にたずさわる人々の心身の労苦についても深く考えさせられました。

  2. 小惑星探査機「はやぶさ」の無事の帰還

  3. 高齢者の所在不明問題

  4. 酷暑の夏

  5. 鈴木章,根岸英一両博士のノーベル化学賞受賞

国外の出来事としては,ハイチ,中国,パキスタン等で起きた大きな自然災害,チリ鉱山における落盤事故等。チリの事件では,日本でもかつてあった炭坑での悲しい事故を思い出し,地下作業の怖さと安全対策の重要性を思いました。この度,過酷な状況のもと,規律をもって長期の地下生活に耐え,何よりもその間,希望を捨てずに救出を待った作業員たちの精神力は素晴らしく,チリの人々はそのことをどんなに誇らしく思いつつ救出の成功を祝ったことでしょう。

井上ひさしさん,梅棹忠夫さん,河野裕子さん,森澄雄さん,日本で盲導犬第1号を育てられた塩屋賢一さん等今年も多くの方々が去っていかれ,改めてその方々の残していって下さったものに思いをいたしています。

梅棹さんには若い頃から度々にお会いし,いつもお話を楽しくうかがっておりました。河野さんの和歌は,歌壇の枠を越え,広く人々に読まれ,愛されていたと思います。すでに闘病中であったにもかかわらず,今年の歌会始で,ご自分の歌が披講されているあいだ凛として立っておられた姿を今も思い出します。

皇后陛下のお誕生日に際してのご近影

この1年のご動静及びお誕生日当日のご日程

皇后さまは例年どおり,この1年も,皇居内外で様々のお務めを果たされました。昨年は4月に両陛下ご結婚満50年,11月には陛下ご即位20年を祝われ,それら関連行事も加わり,皇后さまのお立場でお務めになったお仕事は335件,そのほかにも献穀者,賢所勤労奉仕団及び皇居勤労奉仕団へのご会釈が52回あり,例年のようにご養蚕のお仕事も務められました。皇后さまは,多くの行事やご視察を陛下のお側でお務めになりましたが,単独でも毎年恒例の全国赤十字大会へのご臨席のほか,社会貢献活動や文化・芸術に携わっている人々からの願い出にこたえ,チャリティー・コンサートを始め各種公演・レセプション・展覧会などに足を運ばれ,活動を励まされました。御所では恒例の肢体不自由児・重症心身障害児関係の「ねむの木賞」受賞者のご接見があり,また日本赤十字社社長,副社長より赤十字の活動状況や,厚生労働省医政局長及び日本看護連盟顧問より外国人看護師候補者受け入れなど日本の看護の現状につきご説明をお聞きになるなどして,日本社会や世界の問題への理解を深める努力を重ねておられます。

この1年間,公的な地方行幸啓は大阪府,京都府(2回),埼玉県(2回),神奈川県(8回),静岡県,岐阜県,愛知県,茨城県,千葉県,奈良県と10府県,31市5町1村を数えました。国民体育大会総合開会式,豊かな海づくり大会や植樹祭の式典にご臨席になったほか,各県への行幸啓の都度,多数の市町村を回られ,各地の文化,福祉を始めとする諸施設をご訪問になり,ご訪問先や沿道,沿線でお迎えする大勢の人々の歓迎におこたえになりました。

本年は,外国のご訪問はありませんでしたが,この1年も,両陛下は多数の外国からの賓客を接遇されました。国賓として迎えられたカンボジア国国王陛下を含め元首・元首夫妻,外国の三権の長,王族等15回のご会見・ご引見があり,それに伴い10回の午餐・夕餐などを催されました。また在京の外交団とのつながりも大切にされ,この1年間に着任後間もない30か国の大使夫妻をお茶に,着任後3年経過した28か国の大使夫妻を午餐にお招きになっており,また,離任に際して,14か国の大使夫妻がご引見を賜りました。日本から外国に赴任する大使夫妻にも,陛下と共にお会いになっており,この1年には49か国に赴任する大使夫妻に出発前にお会いになり,34か国から帰国した大使夫妻をお茶に招かれて労をねぎらわれ,任地の話をお聞きになりました。

皇后さまは昨年2月に左膝の靱帯を損傷されたため,昨年3月以降は祭祀を差し控えていただいておりましたが,リハビリを続けられ,完治には至っていませんが,今年の春季皇霊祭・春季神殿祭の儀からは應神天皇千七百年式年祭の儀,先日の神嘗祭等を除くほぼ全ての祭祀にお出ましになり,これまでに,神武天皇祭皇霊殿の儀,香淳皇后十年式年祭の儀,明治天皇例祭の儀,秋季皇霊祭・秋季神殿祭の儀にご参拝になっています。尚,今年も陛下とご一緒に昭和天皇,香淳皇后の御陵に参られたほか,特に平城遷都1300年に当たり,その最初と最後の天皇である元明,光仁両天皇の御陵に参られました。

今年のご養蚕は4月末から始められ,ご給桑,上蔟,わら蔟作り,繭掻き等のため,恒例の行事のほかにもご公務の合間に20回余りにわたり御養蚕所においでになり,蚕の飼育に当たられました。今年は約153キロの収穫があり,すでに昨年までで,16年に及ぶ正倉院の宝物復元のための小石丸の繭献納を終えられましたので,今年は収穫のうち小石丸の繭10キロを邦楽器弦の研究の材料としてシルク弦の開発研究会へ賜りました。

皇后さまは週日のほぼ連日のお仕事に加え,土日や祝日にもしばしばお仕事に携わられます。これまでも,度々ではありませんが,めまいを感じられたり発熱されるなど「お体からの警告」との診断があり,ご健康には日ごろから気をつけていらっしゃいますが,前述のとおり,昨年2月,テニスのプレイ中につまずかれ,左膝を強打し,後十字靱帯に切断に近い損傷を受けられました。その後,リハビリに励まれ,最近ではテニスもなされるようになりました。今では,日常生活の支障はかなり少なくなりましたが,まだ,正座のための膝の屈伸にご不自由があり,また,祭祀に当たり,跪いたまま神前に進まれる膝行はお難しく,本年3月まで祭祀をお控えでしたが,現在はリハビリを続けつつ,ほとんどの祭祀に列せられています。9月初め,咳喘息風のお咳に加え,血圧上昇の症状がおありになったため,専門医の診察をお受けになった結果,咳喘息の可能性が高いとの診断で,今も吸入や薬による治療が続いています。10月に入り,結膜下出血のため3回ほど行事・祭祀への出席を止められましたが,快方にむかい,18日にはご公務にもどられました。また,皇后さまはいつも陛下のご健康をお案じになり,毎日の早朝のご散策や,お時間の許す範囲でテニスなどのご運動もご一緒になさるよう心掛けておられます。また,ご公務の合間に読書をされたり,ピアノのご練習も少しずつ続けておられ,8月には草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルにも参加され,アンサンブルを学ばれました。

10月20日,皇后さまの76回目のお誕生日のご日程は,午前10時半から12時まで,皇族方始め内閣総理大臣,衆参両院議長,最高裁判所長官,閣僚,宮内庁職員等による祝賀6回,正午,皇族方始めとのご祝宴,午後,旧奉仕者による祝賀,元側近奉仕者等との茶会,母校の先生方やご進講者等との茶会,非公式日程として夕刻から敬宮さま始め未成年の内親王,親王殿下方のご挨拶があり,最後にお子さま方ご夫妻とお祝御膳を囲まれます。

皇后陛下お誕生日行事

平成22年10月20日(水)
時刻 出御 行事 事項 場所
午前10:30 両陛下 祝賀及びお祝酒 侍従長始め侍従職職員 御所
同 11:00 天皇陛下 祝賀 長官,次長(総代),参与 鳳凰の間
同 11:10 皇后陛下 祝賀 長官始め課長相当以上の者,参与及び御用掛 鳳凰の間
同 11:20 皇后陛下 祝賀 宮内庁職員及び皇宮警察本部職員 北溜
同 11:40 皇后陛下 祝賀 内閣総理大臣,国務大臣,内閣官房副長官及び内閣法制局長官,
衆議院・参議院の議長及び副議長,
最高裁判所の長官及び判事(長官代行),
会計検査院長,人事院総裁,検事総長及び公正取引委員会委員長,
並びに以上の者の配偶者
梅の間
同 11:50 両陛下 祝賀 皇太子同妃両殿下お始め皇族各殿下 梅の間
正午 両陛下 ご祝宴 皇太子同妃両殿下お始め皇族各殿下,元皇族,御親族 連翠
午後 1:20 皇后陛下 祝賀 旧奉仕者会会員
(元宮内庁職員及び元皇宮警察本部職員)
北溜
同 1:40 両陛下 茶会 元長官等,元参与,元側近奉仕者,元御用掛,松栄会会員 連翠南
同 4:30 両陛下 茶会 御進講者始め御関係者 御所
同 6:30 両陛下 祝賀 愛子内親王殿下
眞子内親王殿下,佳子内親王殿下,悠仁親王殿下
御所
同 7:00 両陛下 お祝御膳 皇太子同妃両殿下
秋篠宮同妃両殿下
黒田様御夫妻
御所