天皇陛下お誕生日に際し(平成11年)

宮内記者会の質問に対する文書ご回答

問1 今年は,御即位十年にあたり,さまざまな行事もありました。こうしたことを含めて1年を振り返ってのご感想をお聞かせ下さい。
天皇陛下

今年1年,経済状況の厳しさが依然として続き,国民生活に様々な苦労があったことを案じています。

さらに地域によっては大雨と台風による災害がありました。6月には広島県で大雨による災害のため30人以上の人が亡くなり,9月には熊本県を中心に各地で台風の被害を受け,やはり30人以上の人が亡くなりました。今年1年で100人以上の命が自然災害で失われています。しかし治山治水と防災に関する努力は着実に実ってきており,昭和62年以降自然災害による1年間の死者が100人以下だった年が何回か見られるようになりました。それ以前にはこのような年は戦後から数えて1回しかありません。それにしても毎年100人前後の命が自然災害で失われることは残念なことであり,日本の自然は美しくもあるが厳しいものであることを十分に認識することが必要に思われます。

このような大雨や台風,その他もろもろの気象条件により,地域によっては,農作物に大きな被害が出た所もありましたが,全国的に見ると,豊作の地域が昨年に比べ多かったことは喜ばしいことでした。

8月には平成5年北海道南西沖地震で200人以上の死者,行方不明者を出した奥尻島とその対岸の災害地を訪れました。災害直後に訪れた時は誠に痛ましい状況にありましたが,この度は防災に十分配慮し,美しく復興している姿を見ることができました。被災者が様々な心の痛みに耐え,多くの人々の協力を得て,今日を築き上げたことをうれしく思っています。

阪神・淡路大震災が起こってから間もなく5年になります。災害を受けた人々にとって様々な心身の苦労に耐えた5年間であったと思いますが,被災者とそれを支えた人々の努力により,復興が進んでいることを心強く思っています。仮設住宅の入居者は今年中になくなるということですが,新たな生活に入った人々の暮らしが少しでも幸せなものとなるよう願っています。

今年の経済状況の厳しさから,即位十年に当たってのお祝いの行事が行われることを心苦しく思っていましたが,多くの人々から祝意を寄せられ,また,11月12日にはお祝いの行事が行われたことに対し,深く感謝しています。皇居前広場で行われた国民祭典ではYOSHIKIさんの作曲によるお祝いの曲が演奏され,提灯(ちょうちん)を持つ参加者一同とその曲を聴いたことが感謝の気持ちと共に思い起こされます。

この10年を振り返るとき,昭和の初めの10年間の昭和天皇の御苦労に思いが及びます。昭和天皇は,常に平和を大切にし,国際的に正しくありたいとお考えでしたが,この時期に張作霖爆殺事件や二・二六事件を始め,様々な暴力を伴う事件が起こり,やがて昭和20年まで続く戦争へとつながっていきました。当時を顧みると,この平成の10年が多くの困難や課題を抱えつつも平穏に過ぎたことを幸いに思います。

今年も間もなく終わろうとしています。この10年を振り返り,40年苦楽を共に過ごしてきた皇后を始め,多くの人々に支えられてきたことを深く感謝し,これからの日々を国民の期待にこたえるよう務めていきたいと思います。

問2 今年になって日の丸を国旗,君が代を国歌とする法律が制定されました。陛下は日の丸,君が代について,どのようなお気持ちを抱いていらっしゃいますか。
天皇陛下

国旗,国歌については法律で制定されたものであり,私の気持ちを言うことは差し控えます。

問3 ご結婚40周年を迎え,お子さま方もそれぞれ独立されています。現在の陛下にとりまして「家族」とはどういう存在になっていらっしゃいますか。また,父親としてのお立場から,皇太子ご夫妻,秋篠宮ご夫妻,紀宮さまに対し,最近感じられていることをお話ください。
天皇陛下

現在,皇太子と秋篠宮はそれぞれ結婚して皇居と離れた赤坂御用地に住まい,紀宮が私と皇后と共に皇居に住んでいます。

私にとって家庭は心の平安を覚える場であり,務めを果たすための新たな力を与えてくれる場でありました。また,実際に家族と生活を共にすることによって,幾らかでも人々やその家族に対する理解を深めることができたと思います。

私と皇后は,子供を手元で育てるという,前の時代には考えられなかった恵まれた機会を持つことができました。皇后は,常に,このような形で家庭を築き子供を育てることをお許しになった昭和天皇,皇太后様への感謝を抱きつつ,多くの外国訪問を含む多忙さの中で子育てと公務の一つ一つを一生懸命に果たしてきました。

私どもは,日常生活においても,何よりも公の立場を重んじ,その責務を優先して果たしていきたいと考えていますが,子供たちがそのことをよく理解し,現在もそれぞれの立場で皇族としての務めを果たしながら私どもを助けてくれていることをうれしく思っています。