皇后陛下お誕生日に際し(平成10年)

宮内記者会の質問に対する文書ご回答

問1 ことしは平成になって10年目,そして,来年は結婚されてちょうど40年になろうとしています。この節目に当たって,これまでの道のりを振り返ってご感想,そして,今後のご公務をはじめとする日々の過ごされ方への抱負など,お聞かせください。
皇后陛下

<平成10年目の感想>

平成の10年間はあまりに慌ただしく過ぎ,まだゆっくりとふり返るゆとりを持つことが出来ません。少しでもお役に立てればと願いつゝ過ごしてまいりましたが,至らぬことが多かったと思います。この節目の年にあたり,御歴代の御仁慈に改めて深く思いをいたし,平成の御代のつつがなきをお祈りいたします。

<結婚40年の感想>

どのような時にもあるがままの私を受け入れて下さった陛下の寛い御心に包まれて,今日までの道を歩いてまいりました。又,常に仰ぎ見る御手本として先帝陛下と皇太后陛下がいらして下さったことは,私にとりこの上なく幸せなことでした。多くの方達に支えられ,助けて頂いて今日のあることを思います。

<これからの日々の過ごし方>

40年の間に少しずつ形を成して来た現在の生活に,これからも大きな変化があるとは思いません。これまでと変わることなく,陛下のお側で一つ一つ与えられた仕事を果たしていくつもりです。新しく展けて来る世紀には,家族の価値が見直されると共に,家族の枠組みを越えて社会が連帯し,人々が今まで以上に相互に助け合っていく時代が来るのではないでしょうか。この力強い連帯の中で,私も社会の出来事に心を寄せつゝ,人々と助け合って,同時代を生きたいと思います。

問2 紀宮さまは学問の研さんや日本舞踊の修練を積まれ,ますますお人柄を高められているお姿を拝見します。それにつれ,ご結婚への国民の関心が高まっているようです。来年30歳を迎える紀宮さまの結婚について,皇后さまのお考えをお聞かせください。何かアドバイスをなさっていますか。
皇后陛下

これまでお答えして来たことと変わりありません。その誕生から今日まで,紀宮はいつも私共家族の喜びでした。家族の皆が,紀宮の幸せを願っています。

問3 「妻」として「母」として「祖母」として,いま,喜びとしていること,気掛かりなことはなんですか。
皇后陛下

身内のことなので・・・ これからもそれぞれの立場で,私が役に立つことがあれば喜んでしていきたいと思います。

問4 皇后さまとして,国賓の接遇にはいつもお心を砕いていることと思います。今般来日した金大中韓国大統領夫妻をお迎えするに当たってのお心遣いや,お会いしての印象についてお聞かせください。
皇后陛下

<国賓の接遇について>

国賓は,陛下が国の象徴となさってお迎えになる方々ですので,大切に,心をこめてお迎えしております。まだ御所に上がってすぐの頃に,どの国も変わりなくお迎えすることが大切,と陛下が接遇の基本をお話し下さったことをいつも思い出しています。これは当然のことのようですが,実際にはその時々の日本とその国との関係,又,人々の関心のもち方の違いから,歓迎の人々の多さや,報道のされ方等にどうしても差が出ますので,皇室がこの原則に常に立ちもどることが,どんなに大切かを毎回心に留め,お一人ずつの国賓をお迎えしています。

<金大中大統領>

大統領が長い苦難の年月を通して貫かれた信念の強さと,その間に培われた穏やかで寛容なお心根に胸を打たれました。

問5 最後に,この一年間を振り返ってのご感想をお聞かせください。また,皇后さま御自身についてみれば,長野パラリンピックの会場でウェーブに加わったり,ニューデリーで開かれた国際児童図書評議会(IBBY)世界大会にビデオによる基調講演で参加するなど,公私にわたりお忙しい一年でした。それについてご感想をお聞かせください。
皇后陛下

経済状況につき案じられることが多く,又,夏の集中豪雨が,人命の損失を含む大きな被害を残したことは,心の痛むことでした。年間の明るい出来事の記憶としては,長野五輪,W杯,奥尻島の復興宣言などがあります。長野五輪に続くパラリンピックでは,まだ障害者スポーツの黎明期であった東京オリンピックの頃,手探るようにしてこの分野の開拓にカを尽くされた人々のことを思い出しておりました。五輪でもパラリンピックでも,日本選手が本当に見事に競い,勝った人も,不運だった人も,皆個性的で美しく,それぞれの選手の幾つもの場面を,今も折々に思い出しています。

世界の出来事としては,欧州通貨統合の態勢が整ったこと,北アイルランドの和平合意,パプアニューギニアの津波,クローン羊ドリーの誕生等が印象に残っています。又,学問や平和維持の分野で世界に貢献された福井謙一博士と秋野豊さん,音楽を通して世界の子供達に,自分を伸ばす喜びを与えられた鈴木鎮一さんの死が惜しまれます。

初夏には,陛下と御一緒に英国,デンマークを公式に訪問いたしました。英国では元捕虜の人達の抗議行動があり,一つの戦争がもたらす様々な苦しみに思いをめぐらせつゝ旅の日を過ごしました。先の戦争で,同様に捕虜として苦しみを経験した日本の人々のこともしきりに思われ,胸塞ぐ思いでした。傷ついた内外の人々のことをこれからも忘れることなく,平和を祈り続けていかなければと思います。

<ウエーブのこと>

ウエーブは,見るのもするのも始めてのことでした。不思議な波が,私たちの少し前で何回かとまり,左手の子供たちが,心配そうにこちらを見ておりましたので,どうかしてこれをつなげなければと思い,陛下のお許しを頂いて加わりました。私自身は,その後波が半周し,向かい側の吹奏楽団の生徒たちが,チューバやホルンをもってとびはねたのが面白く,もっと見たくて,次の何回かの波にも加わりました。

<IBBYの基調講演のこと>

大会の直前に訪問を中止せねばならなくなり,インド支部の方たちにご迷惑がかかってはと心配でたまりませんでした。幸いヴィデオに撮って頂くことが出来,参加を果たせて,ほっといたしました。