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上皇后陛下のご近況について(お誕生日に際し)(令和7年)

令和7年10月20日:上皇職

上皇后さまは、今年、91歳をお迎えになります。

この一年は、昨年10月の右大腿骨骨折からの回復に努められ、また、今年5月及び7月に陛下が東京大学医学部附属病院ご入院になった折には連日お見舞いになり、その後も心臓の状態を侍医が注意深くお看守りする陛下のご日常を細やかに支えられるなど、陛下とご自身のご体調と向き合う日々が多くなりました。

現在、大腿骨のお怪我は、ほぼ骨折前の状態まで回復されましたが、陛下を早くお支えできるようにとのお気持ちから、ご退院後は仙洞御所で毎日リハビリテーション訓練に励まれ、今年1月1日の新年行事及び翌日の新年一般参賀へのお出ましを果たされました。その後2月末に、社会復帰を兼ねて陛下とスイセンの咲く東京都立葛西臨海公園をお訪ねになり、4月末には願い出により霞会館記念学習院ミュージアムで開催された「学習院コレクション 華族文化 美の玉手箱―芸術と伝統文化のパトロネージュ―」をご覧になりました。8月後半には陛下と長野県軽井沢町大日向でご静養になりましたが、東京大学医学部附属病院ご入院中の陛下のお見舞い、宮内庁病院へのご通院を除き、今年のお出ましは数えるほどでした。

御所では、新聞に目を通され、お食事時のテレビニュースや侍従とのお話等を通して社会の出来事に触れていらっしゃいます。1月の能登半島地震・奥能登豪雨犠牲者追悼式、発生から30年を迎えた阪神淡路大震災及び3月の東日本大震災の発生日並びに沖縄県慰霊の日、広島・長崎原爆の日、終戦記念日には、陛下と黙祷され、終日、静かにお過ごしになりました。特に、今年は戦後80年を迎えたことから、硫黄島、沖縄、広島、長崎を巡られる天皇皇后両陛下の慰霊の旅を見守られ、戦後50年の折に同じ場所をお訪ねになった往時のことを陛下とお話しになっていました。8月の軽井沢大日向でのご静養は、陛下のご病状との関係でその実施が慎重に検討されましたが、節目の年に満蒙開拓の歴史を伝えるこの地を再び訪問できたことに安堵されたご様子でした。

今年、昭和34年の両陛下ご成婚に際し、国民から寄せられたお祝い金を基に建設され、昭和40年5月に開園した「こどもの国」が60周年を迎えました。この施設は、当時、都市化により緑が失われつつある中で、子供たちに自然に親しめる場所を残したいと願われた両陛下のお気持ちを踏まえて計画が進められました。両陛下は、6月、「こどもの国」の理事長、園長、副園長から、御所でこれまでの歩みと現状について説明を受けられ、今でも多くの人々に親しまれていることをお喜びになるとともに、関係者の長年にわたる尽力に改めて感謝のお気持ちをお伝えになりました。

5月には、昭和43年から昭和58年までの夏、両陛下がご家族でお過ごしになった奥浜名湖畔の細江町に上皇后さまの御歌碑が建立され、除幕式が行われました。この細江公園には、陛下が昭和57年の歌会始で詠まれた「車窓よりはるけく望む奧浜名湖東名の橋清(さや)かに浮かぶ」の御製碑が既に設置されていますが、ご一家との交流の思い出を大切にする地元の人々の願い出を入れ、上皇后さまが平成2年にお詠みになった「われら若く子らの幼く浜名湖の水辺に蛍追ひし思ほゆ」の御歌碑も建てられました。

なお、今年1月、永田和宏宮内庁御用掛の手に成る上皇后さまの未発表の御歌466首を収めた歌集「ゆふすげ」が上梓されました。上皇后さまはご遠慮気味でしたが、永田御用掛へのご信頼からすべてお任せになることになさいました。

昨年11月15日、崇仁親王妃百合子殿下が薨去されました。

両陛下は、ご入院中から度々にご様子を案じられ、永井皇室医務主管にお尋ねになってきましたが、敬愛と親しみをもって接してこられた百合子殿下のご訃報に深いお悲しみを滲ませられました。上皇后さまは、お御足のお怪我から間もない時でしたが、陛下のお支えと杖を頼りに、薨去当日に三笠宮邸をご弔問になり、その後も御舟入、正寝移柩の儀、霊代安置の儀の折に宮邸をお訪ねになってご拝礼なさいました。

今年9月6日、悠仁親王殿下の成年式が執り行われましたが、両陛下は、一連の儀式を終えて仙洞御所にお見えになった悠仁親王殿下のご挨拶をお受けになり、夕刻からのご内宴に出席されました。加冠の儀の様子を伝えるテレビ中継もご覧になり、悠仁親王殿下のご立派な成長を頼もしく嬉しく思われたご様子でした。

上皇后さまの午後に少し熱が上がる以前からのご症状は今も続き、心不全の診断指標であるBNP値も正常値を超える高い状態で推移しています。深部静脈血栓症については引き続き経過観察中ですが、再発予防のため水分を十分にお取りいただいています。脚力低下による転倒を防止するため、侍医の介助を受けながら、午前は御所内を、午後はご体調がよろしければ天候により御所内か御用地内を、ご休憩を挟みながらお歩きになり、その後に軽い運動をなさっています。

上皇后さまは、お疲れやすくなり、体力も少しずつ低下されているように感じられます。それでも、陛下のお側で毎日を静かに穏やかにお過ごしになれることにお心の安らぎを覚えていらっしゃるようで、上皇后さまの細やかなお支えに度々に「ありがとう」と微笑まれる陛下に、いつも優しく頷かれながら微笑み返されています。ご成婚から66年の歳月を経た今もなお、両陛下の互いにお寄せになる信頼と感謝のお気持ちに些かの変わりもないとお見受けしています。

ご朝食後の陛下との本の音読は今もなさっており、現在、田中貴子さんの「いちにち、古典」をお読みです。また、上皇后さまお一方でも読書をお続けで、最近では、ワファー・タルノーフスカの「シリアの秘密の図書館」をお求めになり、お読みになっています。

お誕生日行事は、別紙(PDF形式:51KB)のとおり、概ね昨年と同様の簡素な形で、天皇皇后両陛下を始め皇族各殿下、元皇族及びご親族、宮内庁長官始め職員代表、参与、元長官始め旧奉仕者等の祝賀をお受けになる予定です。