上皇陛下のご近況について(お誕生日に際し)

令和元年12月23日:上皇職

上皇陛下は,上皇后さまと共に,天皇皇后両陛下の御即位に伴う一連の行事を静かにお見守りになり,すべての行事を滞りなくお済ませになったことに安堵され,お喜びのご様子でした。

秋には台風による風水害が次々と発生しましたが,御在位の時とお変わりなく,被災地の状況を伝える報道を注視されながら,被災者の様子を案じておられました。現在も避難生活を続けている人々がいることにお心を痛めていらっしゃいます。

今年は,両陛下がパラオご訪問の際にお会いになった激戦地からの生還者・倉田洋二さん,永井敬司さん,両陛下とお関わりのあった国際原子力機関の事務局長を務めた天野之弥さん,日本人初の国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さん,医療活動や灌漑事業を通してアフガニスタン支援に尽力された中村哲さんが亡くなり,両陛下にとりましてもお心淋しいことでいらしたと拝察します。上皇陛下は,上皇后さまと共に,上皇侍従長を通じてご遺族に御弔意をお伝えになりました。

ご譲位後は,ご移居に向けたご整理を日課として来られました。来年3月末までに高輪仙洞仮御所にご移居になる予定で準備を進めていらっしゃいます。

その合間の週2,3回,生物学研究所でハゼ科魚類の研究をなさっています。一つは,国内では南日本に生息するオキナワハゼ属に関する新たな論文作成に向けて,西表島等で採集された標本と海外の標本との比較研究を進められています。また,日本の河川に広く生息するチチブ類について,生物学研究所の職員と飼育観察を中心にチチブ類のうきぶくろの大きさと遊泳行動の関係を調べられています。

ご体調につきましては,現在,特にお変わりはありません。

早朝のご散策はもとより,差し支えのない日曜日には朝7時から上皇后さまと東御苑に行かれ,二の丸庭園,本丸を回られています。両陛下は,平成の早い時期から,ご朝食後お忙しいご日程が始まる前の短時間,お二人ご一緒に一冊の本を交互に音読されることを習慣とされてきましたが,今もお続けになっています。長い間大岡信さんの「折々のうた」を読まれ,また,パスカルの「パンセ」など外国の書物もお読みになってこられましたが,現在は山本健吉さんの「ことばの歳時記」がお机に置かれています。

また,日本各地のお祭りや美しい風景,そこに生きる人々の暮らしを紹介するテレビ番組を両陛下でよくご覧になっていらっしゃいます。お休み前の夜分,上皇后さまのピアノとご一緒にチェロをお楽しみになることもあります。

陛下は,86歳のご高齢を迎えられたことを穏やかにお受け止めになり,上皇后さまとお過ごしになる時間を大切にしていらっしゃいます。