天皇皇后両陛下 英国・デンマークご訪問(ポルトガルお立ち寄り)時の天皇陛下のおことば・ご感想

ポルトガル

平成10年5月24日(日)
ポルトガル大統領夫妻主催午餐会(アジューダ宮)における天皇陛下のおことば

サンパイオ大統領閣下,令夫人,並びに御列席の皆様

この度,サンパイオ大統領閣下の御招待により,再び貴国を訪れますことは,皇后と私の深く喜びとするところであります。ただ今の,大統領閣下の懇篤なお言葉に深く感謝いたします。

私どもは,明日,リスボン国際博覧会を訪れることになっております。この博覧会は,ヴァスコ・ダ・ガマのインド航海500周年を記念して開催されたものでありますが,貴国の人が,ヨーロッパ人として初めて我が国の土を踏んだのは,この歴史的な航海から45年を経た1543年のことでありました。この人々は,我が国に鉄砲の製法をもたらし,戦国時代から統一国家の形成に至る,当時の我が国の歴史の流れに大きく影響を及ぼすこととなりました。それに続いて我が国に渡来した貴国の宣教師などが,キリスト教や,医学,天文学を始めとする様々な欧州の文物を我が国にもたらしたことは,我が国民に世界に対する目を開かせ,その後の我が国の発展に少なからず寄与したことと考えられます。

海洋は,貴国にとっても,我が国にとっても,その歴史を左右する大きな役割を演じてきました。現在においても,両国は,共に海洋に大きな関心をもっております。「海洋ー未来への遺産」というリスボン国際博覧会の主題は,極めて時宜を得たものであり,博覧会の成功を心から祈っております。

私どもが,前回,貴国を訪問いたしましたのは13年前のことになりますが,当時のエアネス大統領閣下ならびにソアレス首相閣下から温かいおもてなしを頂きました。5年前には,日本ポルトガル友好450周年に当たり,ソアレス前大統領閣下が国賓として我が国を御訪問になり,貴国民が初めて我が国の土を踏んだ種子島にも足を延ばされました。本日,このお二人に再びお目にかかれたことは誠に喜ばしく,サンパイオ大統領閣下の御配慮に深く感謝いたします。

貴国は,私どもの先回の訪問の翌年,欧州共同体に加盟し,以来順調な経済発展を続けると同時に,国際社会においても,積極的な役割を果たしております。その中にあって,大統領閣下が,引き続き,我が国との関係の強化に意を用いておられることを誠に心強く思います。

貴国と我が国は,地理的な距離にもかかわらず,海を共有することによって早くから交流の歴史を開くことができました。私は,両国民が,今後とも古くからの友好の絆を重んじ,海を大切にし,より良い未来に向かって協力していくことを切に願っております。

ここに杯を挙げて,大統領閣下並びに令夫人の御健勝と,ポルトガル共和国国民の幸せを祈ります。

貴国と我が国は,地理的な距離にもかかわらず,海を共有することによって早くから交流の歴史を開くことができました。私は,両国民が,今後とも古くからの友好の絆を重んじ,海を大切にし,より良い未来に向かって協力していくことを切に願っております。

ここに杯を挙げて,大統領閣下並びに令夫人の御健勝と,ポルトガル共和国国民の幸せを祈ります。

英国

平成10年5月26日(火)
ウェストミンスター市歓迎式典(セント・ジェームズズ宮殿)における天皇陛下のおことば(ご答辞)

市長閣下並びにウェストミンスター市代表の皆さん

この度,女王陛下の御招待により,皇后と共に再び貴国を訪れた機会に,市長閣下を始めとするウェストミンスター市民から寄せられた温かい歓迎に深く感謝いたします。

私が初めて英国を訪問しましたのは,1953年,女王陛下の戴冠式に参列するためでありました。当時,ウェストミンスター寺院を始め,市内の各所を訪れ,様々な人々に接したことは,45年を経た今日,貴重な思い出として心に残っております。戴冠式のことは,市民の中にも懐かしく覚えている人々のあることと思います。

近年日英両国の間には様々な交流を通してより深い関係が結ばれるようになりました。最近我が国で開催されている英国祭においては,ウエストミンスター市内のテイトギャラリーから出品された展覧会が人々の関心を集め,私も皇后と共に興味深く見ることができました。長年にわたり,両国間の友好関係を深めるために努力を重ねてきた人々に深い敬意を表します。

ウェストミンスター市民と我が国民との交流が今後ますます盛んになることを願い,ウェストミンスター市のますますの繁栄と市民の幸せを祈ります。

平成10年5月26日(火)
英国女王陛下及び王配殿下主催晩餐会(バッキンガム宮殿)における天皇陛下のご答辞

女王陛下,エジンバラ公フィリップ殿下並びに御列席の皆様

ただ今は,女王陛下から懇篤なお言葉を頂き厚く御礼申し上げます。また,今回の貴国訪問に当たり貴国より示された様々な配慮に深く感謝いたします。

貴国と我が国との交流は,1600年,貴国の水先案内人ウィリアム・アダムスを乗せたオランダ船リーフデ号が我が国に漂着したことに始まります。アダムスは将軍徳川家康に仕え,その関係から国王ジェームズ一世と徳川家康の親書の交換が行われ,貿易活動も始まりました。しかし間もなく,我が国の鎖国政策により,両国関係は長い中断の時期を迎えます。

両国の間に再び交流が始まるのは,外国の圧力により,鎖国政策を遂行することができなくなった19世紀半ばのことであり,以後我が国民は,国を近代化してこれを守っていくために,欧米の文物を熱心に学びました。

1871年,政府を率いる中心的人々によって構成された使節団が,1年半以上にわたり,欧米各地を巡察しました。この使節団は,4カ月余,貴国に滞在し,産業経済,科学技術,教育文化など,多くの分野にわたって熱心な視察と学習を重ねました。帰国後に刊行された使節団の報告書は,訪れた国の中で最も多くの頁を貴国に割いております。また,多数の教師や技術者が外国から招聘されましたが,そのほぼ半数は貴国人であったと言われており,我が国からも,多数の留学生が貴国に渡りました。

19世紀後半の,このような関係を基礎として,今世紀の初頭には,両国は同盟国としての提携の道を歩み始めるに至りました。

1971年,女王陛下の御招待により,貴国を訪問した私の父昭和天皇は,晩餐の答辞の中で,50年前日英同盟時代に英国を訪問し,祖父君ジョージ五世のおもてなしを受け,爾来祖父君に対し敬意を持ち続けていたことをお話ししております。

しかし,こうして育まれた両国の関係が,第二次世界大戦によって損なわれたことは誠に悲しむべきことでありました。この戦いにより,様々な形で苦難を経験した大勢の人々のあったことは,私どもにとっても忘れられない記憶となって,今日に至っております。戦争により人々の受けた傷を思う時,深い心の痛みを覚えますが,この度の訪問に当たっても,私どもはこうしたことを心にとどめ,滞在の日々を過ごしたいと思っています。両国の間に二度とこのような歴史の刻まれぬことを衷心より願うとともに,このような過去の苦しみを経ながらも,その後計り知れぬ努力をもって,両国の未来の友好のために力を尽くしてこられた人々に,深い敬意と感謝の念を表したく思います。

私自身が貴国の土を初めて踏みましたのは,戦後平和条約が発効してちょうど1年後のことであり,我が国に対する貴国の国民感情の厳しい時でありましたが,戴冠式に参列するまでのほぼ一月の間に,女王陛下並びにエジンバラ公殿下にもお目にかかり,貴国の各地を訪れ,有意義な滞在をすることができました。その陰には日英の友好の絆を強めたいと願う人々の努力があったことを忘れることはできません。45年を経たこの度の訪問で,その時私の心に温かい思い出を残してくれた人々の多くと最早再びお会いすることのできないことを誠に残念に思います。

1975年,女王陛下が国賓としてエジンバラ公殿下と共に我が国を御訪問になりました機会にいただいた御招待により,翌年皇后と共にウインザー城に泊めていただきましたことも深く心に残っております。このほど,私どもにとっても懐かしい思い出のあるウインザー城が修復されたことを聞き,心よりお喜び申し上げたく思っております。

今日,日英両国は,世界の平和と繁栄のために緊密な協力を重ね,それぞれが投資や貿易を通じて,相手国の経済に貢献し,学術,文化の面での交流も着実な広がりを見せております。それに伴い,両国の間には,夥しい数の人々の往来の機会がもたれるようになりました。日英両国民は,古きものを受け継ぎ,新しきものへの挑戦と順応の力を失わず,それぞれの文化と社会を築き上げてきています。私は,両国民が,真にお互いを理解し合う努力を続け,今後の世界の平和と繁栄のために,手を携えて貢献していくことを切に念願いたします。

今回の訪問において,これまでの貴国訪問の思い出を振り返りつつ,活力に満ちて力強く未来に進もうとしている貴国の姿に触れることを楽しみにしております。ここに杯を挙げて,女王陛下並びにエジンバラ公フィリップ殿下の御健勝と英国国民の幸せを祈ります。

平成10年5月27日(水)
ロンドン市長主催晩餐会(ギルドホール)における天皇陛下のご答辞

市長閣下,グロスター公同妃両殿下

この度の英国訪問に当たり,古くローマ時代から常に英国の中心であったロンドン市において,今夕,市長閣下を始め大勢の皆さんにお会いすることを誠に喜ばしく思います。市長閣下の丁重な歓迎の辞に深く感謝いたします。

私が初めて貴国を訪問いたしましたのは,1953年,女王陛下の戴冠式に参列した時でありましたが,ロンドン到着後程なく,マンション・ハウスに当時のロンドン市長を訪問し,また,英蘭銀行,ロイズなどを訪れました。日英両国間の経済金融関係が,再開の緒に就いたばかりの時代でありました。

その後,時を経て,今日,日英両国間の関係は,経済金融面のみならず,他の様々な分野で,当時は予想もし得なかったほどに,重要かつ緊密なものとなり,両国民に多くの恩恵を与える関係となっております。大勢の日本人が,ロンドン市を仕事と生活の本拠とし,また,我が国で勉学に,あるいは仕事に勤しむ英国人の数も増えてきております。両国民の間に,様々な形で,善意と友好の交流が進められ,特に,若い世代の人々の間の交流が盛んになってきていることを誠に喜ばしく思います。

ロンドン市は,何世紀にもわたって,確固たる自治の伝統を守りながら,国際的な経済金融関係の一大中心地として,揺るぎない地位を保ってきました。このギルド・ホールも,その長い歴史の中で,1666年の大火と,第二次世界大戦による破壊という大きな試練を克服してきました。

今日まで,歴史の試練を経つつも,多くの人々の絶え間ない努力によって築き上げられてきた日英両国民の間の友好親善関係が,今後とも,確固たる基礎の上に一層発展していくことを切に望みます。私どもの今回の訪問が,そのために役立つものとなることを心から願っております。

ここに杯を挙げて,ロンドン市長閣下の御健勝とロンドン市の今後ますますの発展,さらに,日英両国民の末長い友好と親善を祈ります。

平成10年5月28日(木)
英国首相夫妻主催午餐会(首相官邸)における天皇陛下のご答辞

首相閣下,令夫人

この度,女王陛下の御招待によって,貴国を再び訪れることができましたことを誠に喜ばしく思います。私どもの訪問に当たり,英国政府の示された様々な配慮に深く感謝いたします。私がこの前に首相官邸を訪問しましたのは45年前,女王陛下の戴冠式に出席するために訪英した時のことでありました。チャーチル首相が温かく迎えてくださり,また,アトリー前首相にもお会いしたことが懐かしく思い起こされます。

次に貴国を訪問いたしましたのは1976年,女王陛下より皇后と共にウインザー城にお招きいただいた時でありました。この機会に貴国各地を自由に見るようにという貴国政府の配慮により,スコットランド,ウェールズをも訪れ,貴国への理解を深めることができました。

貴首相御夫妻とは,本年1月,雪景色の東京でお会いする機会を得ましたが,半年を置かずして,緑の美しいこの季節に,ロンドンで再びお会いすることを誠に喜ばしく思います。

この機会に,貴首相が,新たな活力に満ちた英国の更なる発展のために,また,国際平和の維持のために,更には,日英友好関係の増進のために日夜払っておられる御努力に敬意を表したく思います。

私どもの今回の訪問が,日英両国民の間の相互理解と親善の増進に役立つものとなることを,切に願っております。

ここに杯を挙げて,首相閣下の御健勝,並びに,貴国政府の更なる成功を祈ります。

平成10年5月28日(木)
ロイヤル・ソサエティにおけるチャールズ二世メダル受賞に際する天皇陛下のおことば

ロイヤル・ソサイエティーからチャールズ二世メダルを授与されたことに深く感謝いたします。

ロイヤル・ソサエティーはチャールズ二世によって創設されて以来300年以上になりますが,その間世界の科学の発展に絶えず寄与してきたことに,深く敬意を表します。そのモットーとするところは,「何人の言も鵜呑みにしない」というものであり,この言葉は今日まで多くの研究者によりかみしめられてきた言葉と思われます。私自身もこの言葉に深い共感を覚えます。

私がハゼ類の研究を始めました1960年代には,その分野の研究者も少なく,文献もあまり新しいものはありませんでした。研究を進める上でお世話になった方々の中には,この分野の研究で学位を取られた冨山一郎博士と高木和徳博士があります。冨山一郎博士は1930年代に日本のハゼ科魚類の分類をまとめ上げられた方であり,その論文は,種類を調べる上で,また,種の再検討を行う上で,大きな助けとなりました。高木和徳博士は,ハゼ亜目魚類の比較形態,特にこれまで日本で扱われていなかった頭部感覚器官について研究されております。私は頭部感覚器官の中の孔器の配列が種の特徴を表しており,この特徴を中心にしてこれまでの分類では疑問を持たれた種類について種を判然と区別することが出来ることを見出だしました。振り返ってみると来る日も来る日も顕微鏡をのぞきながら,一つ一つの種類の孔器の配列の特徴を明らかにすることが出来た喜びが思い起されてきます。

この頃には骨をアリザリンで染色して調べることが行われるようになっていましたが,まだ日も浅く多くのハゼ類の骨についてはほとんど調べられていない状態でした。私がハゼ類の骨で最初に調べたのは肩胛骨でした。それには大英自然史博物館のリーガン氏が1911年に発表した論文が一つの動機になっています。リーガン氏の論文ではハゼ亜目の中のカワアナゴ科とハゼ科を区別する特徴の一つとして肩胛骨の有無があげられています。一方骨を染色して調べたハワイ大学のゴスライン博士は1955年の論文でこの見解に疑問を提出していました。私は多数の種類で肩胛骨を詳細に調べた結果,大体において肩胛骨の形態は科を区別する特徴とはならないが,属の中ではほぼ一定しており,属の特徴にはなりうるという結論を得ました。その後も骨学的研究を進め,ハゼ類の中で最も骨の退化が進んでいない種類を見出すことが出来ました。ハゼ類は日本だけでも三百種以上あり,様々な分化を遂げていますが,いずれも骨の退化や消失の傾向を示しています。したがって骨の退化が最も進んでいない種類は最も祖先に近い種類と考えられるわけです。今後生物学の新しい手法によってさらに系統,類縁関係がつまびらかになっていくのが楽しみです。

このような私のこれまでの研究を通して,ブリストル大学教授ミラー博士を始め,内外の多くの魚類の研究者との交流,大英自然史博物館を始め,各地の博物館などからの貴重な標本の貸与や寄贈に対して深い感謝の気持ちをいだいております。

私が皇太子のとき,リンネ協会の外国会員に選ばれました。会員50人の中の一人というこの栄誉は私の研究には過ぎるものとは思いつつも研究者としてふさわしくありたいと研究に励んだことが懐かしく思い起されます。

即位後のいそがしい日々は私をすっかり研究から遠ざけてしまいました。論文も10年前皇太子時代にほとんど書き上げた論文を出版したのが,唯一の即位後の論文です。しかし,研究のともしびは決して消したくはありません。チャールズ二世メダルをいただきましたことを念頭に置き,研究を進めていきたいと思っております。

我が国の科学の歴史を振り返るとき,その発展に英国の科学者を始め,多くの外国の人々の国境を越えた協力があったことを忘れることは出来ません。科学における真理は常に普遍的でなければなりません。今後ともますます日英の科学者の交流が盛んになり,世界の科学の進歩に貢献することを願い,私の感謝の言葉といたします。

平成10年5月29日(金)
日英関係4団体共催レセプション(グロヴナー・ハウス)における天皇陛下のおことば

本日は,様々な形で日英関係に深くかかわってこられた皆さんにお会いすることを誠に喜ばしく思います。

私が初めて英国の土を踏みましたのは45年前,女王陛下の戴冠式に参列した時でありました。4月の末から6月の初めまで英国に滞在し,スコットランドを含む各地を訪れ,多くの英国の人々と接し,英国への理解を深めることが出来ました。

当時は平和条約が発効してちょうど1年後のことであり,英国民の日本に対する感情の厳しいときでもありました。しかしその中にあってサー・ロバート・クレイギー・日本協会会長,サー・エドワード・クロウ・ジャパン・アソシエーション会長始め会員の温かいおもてなしを受けたことは心に残るものでありました。日英関係の断たれた絆を修復するために力を尽くされた人々の努力を忘れることは出来ません。

その後も英国を訪問する機会がありましたが,その折,4団体の人々の歓迎を受けたことを,当時の日英関係の進展ぶりとともに,懐かしく思い起します。

今日,戦争の傷を癒し,新たな協力の関係を打ち立てるための,多くの人々の絶えざる努力によって,両国間に良好で緊密な関係がもたらされていることを誠に心強く思います。皆さんが,今後とも,日英両国民の間の相互理解と友好関係の増進のためにさらに力を尽くしていかれることを願ってやみません。

皆さんの一層の御活躍と幸せを祈ります。

デンマーク

平成10年6月2日(火)
デンマーク女王陛下及び王配殿下主催晩餐会(フレーデンスボー宮殿)における天皇陛下のご答辞

マルグレーテ女王陛下,ヘンリック王配殿下

今夕は,私どものために晩餐会を催してくださり,また,ただ今は,女王陛下から懇篤なお言葉を頂き,厚くお礼を申し上げます。

私どもが,前回,昭和天皇の御名代として貴国を訪問いたしましてから,13年余りが経ちました。しかし,当時女王陛下並びに王配殿下から頂いたおもてなしの数々は,なお,昨日のことのように私どもの記憶に残っております。更に遡って,私が最初に貴国の土を踏みましたのは,今から45年前のことになります。その時,グロステン城において父君フレデリック九世陛下,イングリッド皇太后陛下並びに女王陛下,お二人の妹君と御一緒に写した写真が,今も,私のアルバムに残っております。この度,女王陛下の御招待によって,再びデンマークを訪れますことは,私どもにとって大きな喜びであります。この度の貴国訪問に当たって,女王陛下に手厚い御配慮をいただいたことに深く感謝いたします。

日本とデンマークは,19世紀後半に国交を開いて以来,絶えることなく穏やかな友好関係を保ち続けてまいりました。1871年,政府は我が国の独立を維持し,近代化を進める一助として,当時の政府の中心的立場にある人々によって構成された使節団を欧米に派遣いたしました。この使節団は,貴国に1週間滞在し,詳細な視察報告をまとめておりますが,そこには「デンマークの国人文武に秀で,質素にして生業に惰弱ならず,交際に信義あり風俗質素なり」と記されております。

我が国民は,デンマークに対して,高い福祉水準を達成し,優れた教育制度を持ち,豊かな農業を営む国として敬意を抱いてきました。また,ハンス・クリスチャン・アンデルセンの文学を始めとする多彩な文化や,学術面ではかつて私がデンマークでお会いしたことのある理論物理学者ニールス・ボーア教授を生んだ国として親しみをもってまいりました。教授のところには量子論を学びに世界から学者が集まり,その中には我が国の理論物理学を育てた仁科芳雄博士も含まれておりました。

貴国と我が国とは異なる面も様々ありますが,それと共に社会的共通課題も多く,両国民がさらに交流を深め,よりよい道を見いだしていくことが大切と思われます。さらに,世界の平和と安定を希求するという共通の目標をもつ両国が,両国民の幸せのみならず,世界の平和と繁栄のために貢献していくよう願っております。

ここに杯を挙げて,女王陛下並びに王配殿下の御健康と,デンマーク国民の幸せを祈ります。

平成10年6月3日(水)
コペンハーゲン市主催午餐会(同市庁舎)における天皇陛下のご答辞

女王陛下,王族各殿下,市長閣下

このたび女王陛下に貴国へ御招待頂き,本日コペンハーゲン市庁舎において,みなさんにお会いしたことを誠に喜ばしく思います。ただ今のミッケルセン市長の歓迎の辞に対し,深く感謝いたします。

私がコペンハーゲンを訪れましたのは今回が3度目になります。45年前,英国女王陛下の戴冠式に参列の機会に,コペンハーゲンを訪れたのが最初であります。戦争の痛手を大きく受けた日本からきて,コペンハーゲンの美しさに深く心をひかれたことが思い起されます。その後は,1985年,女王陛下が我が国を国賓として御訪問になったことに対する答訪として昭和天皇の御名代として皇后と共に貴国を訪れ,女王陛下,ヘンリック王配殿下と共にコペンハーゲン市庁舎を訪問いたしました。

それから13年,一昨日私共は人魚像を見ながら海からコペンハーゲンに入りました。変わらぬ美しいたたずまいを示す市中で連日市民から受けた温かい歓迎は,日本の人々に対する親しみの表れとして,誠にうれしく感じております。

コペンハーゲン市民と日本国民の間の友好が末長く続くことを願いつつ,コペンハーゲン市民の幸せを祈ります。

平成10年6月5日(金)
英国・デンマークご訪問を終えての天皇陛下のご感想(宮内記者会からの質問に対し)

このたび訪れたポルトガル,英国,デンマークでは,それぞれ,大統領閣下,両女王陛下を始め,多くの人々から,心のこもったおもてなしをいただき,深く感謝しています。

我が国とこの三か国との間には,それぞれ異なる,長い交流の歴史があります。今日,そのような歴史を背景としながら,いずれの国とも,緊密な友好関係が築き上げられてきていることを感じ,喜ばしく思いました。これまで,これらの国々との関係の増進のために力を尽くしてきた多くの人々の努力にあらためて思いを致します。

ポルトガルとは,最も古くからの交流がありましたが,リスボン国際博覧会のポルトガル館の展示にも,そのことが示され,ポルトガルの人々が,この歴史を大切にし,我が国の人々に親しみをもっていることをうれしく思いました。日本館の展示も,解説部分をフロイスの語りで構成するなど工夫がなされており,興味深いものでした。

英国においては,女王陛下を始め,王室の方々,政府を始めとする関係者がこの訪問のために手厚い配慮をされたことに感謝しています。また,訪れた先々や沿道で迎えてくれた多くの人々が,我が国と日本国民に対して,温かい,友好的な気持ちを示したことが,深く心に残りました。そして,日英間の交流がますます盛んになり,両国民間の相互理解が深まり友好の絆が強まってきていることを心強く思いました。元戦争捕虜の人たちについては,出発前の記者会見や,公式晩餐会で私どもの気持ちを率直に述べました。その気持ちを深く心に止めて英国滞在の日々を過ごしました。戦争の残す傷跡の深さを思い,二度と,このような辛い経験が繰り返されないことを祈ります。

デンマークでは,ビルン,オーデンセ,コペンハーゲンなど各地で大勢の人々から,善意にあふれる歓迎を受け,我が国に対する親しみの気持ちを感じたのは,うれしいことでした。アンデルセンの童話や現代絵画などを通じて,両国民の間の交流が広がっていることも,喜ばしいことと思います。また,女王陛下を始め,王室の方々からは連日にわたり誠に心のこもったおもてなしをいただきました。女王陛下,王配殿下,若い世代の方々と共に,デンマークの文化や社会の様々な面に触れながらくつろいだ時を過ごすことができ,深く感謝しています。訪問した先々で出会ったデンマークの人々の明るく温かい笑顔に長かった旅の疲れを癒されたことでした。

それぞれの国で,豊かな新緑と美しい花々の中に,天候にも恵まれて過ごした日々を,これからも懐かしく思い起すことと思います。

この度の訪問が,日本国民と,それぞれの国の国民との間の相互理解と友好関係の増進に役立つものであったことを切に望みます。将来に向かってより良い友好と親善の関係がさらに進められていくよう,人々が心を合わせて努力していくことを願っています。