主な式典におけるおことば(平成16年)

天皇陛下のおことば

第159回国会開会式
平成16年1月19日(月)(国会議事堂)

本日,第159回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の深く喜びとするところであります。

国会が,永年にわたり,国民生活の安定と向上,世界の平和と繁栄のため,たゆみない努力を続けていることを,うれしく思います。

ここに,国会が,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,国権の最高機関として,その使命を十分に果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

社会福祉法人恩賜財団母子愛育会創立70周年記念式典
平成16年3月18日(木)(明治神宮会館)

本日,母子愛育会創立70周年記念式典に臨み,関係者と一堂に会することを,誠に喜ばしく思います。

昭和9年に母子愛育会が創立された当時,我が国の母子保健の状況は極めて厳しく,約1割の乳児死亡率がありました。今日の乳児死亡率が0.3パーセントであることを考えると,隔世の感があります。このような状況下に誕生した母子愛育会は,以来今日まで,我が国における母と子の保健と福祉の向上のため,調査研究,医療の実践,愛育班の活動などを通じて大きく貢献してきました。ここに,三笠宮妃を始め,永年この会のために尽くされた関係者の努力に対し,深く敬意を表します。

近年,我が国の母子保健及び福祉のための制度や事業は著しく充実してきましたが,同時に,社会の変化に伴う新たな課題も増えてきており,母子愛育会の活動の内容も,時代の要請にこたえて,更に新たなものを加えつつあることを聞いております。私どもは皇太子,皇太子妃であった昭和52年以来,毎年愛育功労者として表彰を受けた人々に会い,それぞれの愛育班活動の状況について話を聞き,各地の愛育班が,高齢化や過疎化,核家族化などの進む社会の中で,それぞれ地域の人々のために力を尽くしている(さま)を大変心強く感じてきました。少子化が進む今日,母子の心身の健康を守ることは非常に大切なことであり,母子愛育会の活動には大きな期待が寄せられます。

母子愛育会が,創立70周年を契機として,その使命の達成のために,一層の発展を遂げていくことを願い,お祝いの言葉といたします。

2004年(20周年記念)日本国際賞授賞式
平成16年4月22日(木)(国立劇場)

第20回日本国際賞を記念する授賞式に当たり,「環境改善に貢献する化学技術」の分野において,本多健一博士と藤嶋昭博士が,「生態系の概念に基づく食料生産」の分野において,キース・セインズベリー博士が,さらに,「生物多様性保全の科学と技術」の分野において,ジョン・ロートン教授が,それぞれ受賞されたことを心からお祝いいたします。

本多,藤嶋両博士は,二酸化チタンに光を当てると,水が水素と酸素に分解することを発見され,水から水素というクリーンなエネルギーを作る可能性を示されました。さらに,両博士は,二酸化チタンの強い酸化力が環境汚染物質や微生物などを取り去ることを見いだされ,環境の改善に資する化学技術の発展に貢献されました。

セインズベリー博士は,底引きトロール漁業によって海底の生物などに変化がもたらされると,その海域の生態系が変化することを見いだされました。博士の御研究に基づいて,トロール漁業の場所や漁獲高を適切に管理すれば,生態系を保全して持続可能な漁業生産が可能であることが示され,多くの海域における水産資源の持続的利用に大きく貢献してきました。

また,ロートン教授は,ワラビと草食性昆虫の相互関係の研究を基礎として,鳥類やほ乳類にまで観察や実験の範囲を広げ,生物多様性の科学的理解につながる重要な研究成果をあげてこられました。さらに,教授は,生物の保護や環境政策に関する助言などの実践的な活動にも長年にわたって携わってこられました。

ここに4人の研究者の優れた業績に深く敬意を表します。

科学技術の進歩に大きく寄与し,人類の平和と繁栄に著しく貢献した人々に毎年贈られてきた日本国際賞は今回で20回を迎えました。日本国際賞が始められた当時の松下会長,横田理事長,そして今日の伊藤会長,近藤理事長を始め,この賞を支えてきた多くの関係者の努力を深く多とするものであります。

科学技術の進歩は誠に著しいものがあります。私どもは,その進歩のもたらした光と陰とともに歩んできた人類の過去を振り返り,さらに人類の幸せに資する科学技術の向上に努めていかなければならないと思います。

日本国際賞が,今後ますます,人々に真の幸せをもたらす科学技術の発展に寄与することを願い,お祝いの言葉といたします。

第55回全国植樹祭
平成16年4月25日(日)(特別史跡公園西都原古墳群)

第55回全国植樹祭に臨み,ここ西都市「特別史跡公園西都原古墳群」において,全国から集まった参加者と共に植樹を行うことを誠に喜ばしく思います。

我が国は急(しゅん)な地形が多く,国土を豊かに潤す水も,豪雨や台風のときには洪水や土砂崩れによって大きな災害をもたらします。そのような環境の下で,我が国の人々は長年にわたり,災害の防止や水資源の(かん)養のために,また,木材の供給のために森林を守り育ててきました。そして豊かな木の文化を生み出しました。

現在,我が国は国土の7割近くが森林に覆われています。ここ宮崎県の森林率も非常に高く,76パーセントに達し,スギの素材生産量は全国1位であります。

森林の造成には,忍耐強い努力が必要であります。森林を活力に満ちた状態に保つためには,間伐,保育などの管理を,絶え間なく続けることが大切であり,山村地域の過疎化,高齢化が進むにつれて,森林の恵みを受ける国民各層からの幅広い協力が求められます。今日,全国植樹祭を始めとする様々な活動を通して,森林や緑への関心が高まり,国の内外において,多くの人々が森づくりに参加していることを大変心強く思います。

今回の全国植樹祭を契機として,森林の大切さについての人々の理解が更に深まり,より多くの人々が森づくりに参加するようになることを願い,式典に寄せる言葉といたします。

大綬章等受章者拝謁
平成16年5月7日(金)(宮殿)

この度の受章を心からお祝いいたします。

長年,それぞれの務めに精励し,国や社会のために,また,人々のために尽くされてきたことを深く感謝しております。

どうか,くれぐれも体を大切にされ,今後とも元気に過ごされるよう願っております。

社団法人発明協会創立100周年記念式典並びに平成16年度全国発明表彰式
平成16年5月26日(水)(ホテルオークラ)

本日,発明協会創立100周年記念式典並びに平成16年度全国発明表彰式が,国の内外から多数の参加者を迎えて開催されることを,誠に喜ばしく思います。

発明協会は,明治37年,工業所有権保護協会として設立されました。当時,我が国が,列国に伍(ご)していくためには,独自の技術の開発によって産業の振興を図ることが不可欠であるとの考えに基づくものでありました。

以来100年の長きにわたって,協会は,発明の奨励とその実用化の促進や工業所有権制度の普及啓発などの活動を通じて,我が国の科学技術の振興に寄与し,ひいては,経済の発展に貢献してきました。ここに,様々な困難を乗り越えて協会の発展に力を尽くした多くの関係者の努力に深く敬意を表します。

今後,我が国が,人々の英知によって新しい産業技術を開発し,更なる発展を遂げていくためには,人々が創意工夫の精神を養い,それが生かされる社会を築き,知的財産を尊重する文化を普及させていくことが必要であると思われます。

発明協会が,創立100周年を契機に,国際的な協力と連携の下に,一層幅広い活動を進めていくことを願い,式典に寄せる言葉といたします。

第60回日本芸術院授賞式
平成16年6月7日(月)(日本芸術院会館)

本日,日本芸術院が,第60回の授賞式を迎えたことを喜ばしく思います。

ここに,受賞者に対し,心から祝意を表します。

日本芸術院は,昭和12年帝国芸術院として設立されて以来,戦争の最中にあっても芸術院賞を創設するなど,今日まで,芸術の発達,文化の向上に資する活動を行ってきたことを深く多とするところであります。

我が国の人々は,古くから文化を愛し,豊かな芸術文化を花開かせました。これらの永年にわたり(はぐく)まれた芸術文化の伝統を継承していくことは極めて大切なことであります。一方,個性豊かな芸術文化の創造も同様に大切にされなければなりません。日本芸術院が我が国の芸術文化の持つこの両面を共に支えていくよう切に願っております。

今後とも日本芸術院が,我が国の芸術文化のますますの発展に力を尽くし,ひいては世界の文化を豊かにすることを期待し,お祝いの言葉といたします。

社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会創立40周年記念大会
平成16年6月13日(日)(明治神宮会館)

全国重症心身障害児(者)を守る会が創立40周年を迎え,ここに記念式典が催されることを誠に喜ばしく思います。

この会は,心身に重い障害を持つ子供の,人間としての尊厳と命を守りたいという親たちの切実な願いによって,昭和39年に発足しました。戦後20年近くを経た当時の我が国は,経済面では豊かになりつつありましたが,福祉面に対する多くの人々の関心はまだ低く,重症心身障害児を持つ親たちの苦労は今日からは計り知れないものがあったと思います。苦悩を共にする親たちが,厳しい状況の中で,この会を結成し,互いに手を携えて子供たちの命を大切に(はぐく)んできた努力に対し,心から敬意を表します。また困難に立ち向かう親たちを励まし,重い心身障害の人々を介護する関係者の献身的な活動には深く心を打たれるものがあります。

この大会に,重い心身障害の人たちが親の愛に支えられて参加していることをうれしく思います。最も弱いものを,一人も漏れなく守る,という理念に基づいて始められたこの会が,重い心身障害の人々に対する社会の理解を更に深め,それぞれの生きる道について,様々な可能性を引き出していくことを期待しております。

今後とも,多くの人々の理解と協力により,この会の活動がますます発展し,重症心身障害者の福祉が一層充実していくことを願い,式典に寄せる言葉といたします。

現行警察法施行50周年記念式典
平成16年7月26日(月)(グランドアーク半蔵門)

本日,現行警察法施行50周年記念式典が挙行されるに当たり,関係者と一堂に会することを,誠に喜ばしく思います。

個人の権利と自由を保護し,公共の安全と秩序を維持するため,民主的かつ能率的な警察組織を作ることを目的として現行警察法が施行されたのは,昭和29年7月1日のことであります。平和条約が発効して2年,戦前及び戦後占領下の警察の在り方を十分に考察し,現行警察法を制定するために尽くした当時の警察関係者の苦労は大変なものであったことと察せられます。

爾来(じらい)今日に至るまで,我が国の警察は,現行警察法の下,日夜職務に精励し,治安の維持のために極めて大きな役割を果たしてきました。ここに関係者の多年にわたる努力に対し,改めて深く敬意を表します。

警察の任務は,厳しく,危険を伴うものであります。これまでにも治安の維持や人命の救助などの任務を遂行する中,多くの職員が傷つき生命を失ってきています。不幸にも殉職した職員,並びにその遺族に対し,深く哀悼の意を表し,また,任務の遂行中,負傷し,あるいは病を得た人々の上に少しでも安らぎが訪れるよう祈っております。

近年,国内における犯罪の増加に加え,国際的なテロの脅威もあり,国民の生命,身体,財産の保護をめぐる環境は厳しさを増しております。その中で,警察に対する国民の期待は極めて大きく,任務の重要性は,今後ますます高まるものと思われます。

全国の警察関係者が,国民の協力の下,今後とも,現行警察法の理念に従い,国際協調に意を用いつつ,国民が安心して暮らせる社会を実現するため,一層尽力されることを願い,式典に寄せる言葉といたします。

第160回国会開会式
平成16年7月30日(金)(国会議事堂)

本日,第160回国会の開会式に臨み,参議院議員通常選挙による新議員を迎え,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の深く喜びとするところであります。

ここに,国会が,国権の最高機関として,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,国民の信託にこたえ,その使命を十分に果たされることを切に希望します。

全国戦没者追悼式
平成16年8月15日(日)(日本武道館)

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来既に59年,国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,苦難に満ちた往時をしのぶとき,感慨は今なお尽きることがありません。

ここに歴史を顧み,戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

第16回国際解剖学会議開会式
平成16年8月22日(日)(国立京都国際会館)

第16回国際解剖学会議が,国の内外から多数の参加者を迎え,ここ京都において開催されることを誠に喜ばしく思います。

日本で開催される国際解剖学会議は,1975年東京で行われた第10回に続いて2度目のことになりますが,この京都は日本の解剖学の歴史にゆかりが深く,今からちょうど250年前,官許の下に医官山脇東洋らが立会い,初めて解剖が行われたところであります。山脇東洋は5年後,解剖の結果をまとめた「蔵志」を刊行しています。それまで日本の医師が学んできた中国や日本の医学に疑問を持っていた山脇東洋は,オランダから輸入された医書が,今まで学んできた医書と余りに違うので,その真偽を確かめるために,当時禁止されていた解剖を官許の下に行ったのであり,「蔵志」は日本人が著した最初の解剖記録であります。医師が立会う解剖は,これ以後しばしば行われるようになり,1771年には,杉田玄白を始めとする医師達が,実際に解剖を見て,人体がオランダの解剖学書の図と少しも違っていないことに驚き,人体構造の真理をわきまえた上で医業に携わろうと考え,このオランダ語の解剖学書を翻訳しようと思い立ちました。当時の日本は鎖国中であり,日本人の海外渡航は禁止され,欧州諸国の中ではオランダ人のみが長崎の出島に商館を持ち,そこに居住していましたが,オランダ人と日本人との交流は厳しく制限されていました。このような状況下,オランダ人もオランダ語の通訳も居ない江戸,今の東京で,オランダ語の知識の十分にない医師達によって行われた翻訳作業には大変な苦労が伴いました。3年を経て,この翻訳書は「解体新書」として刊行されましたが,これに携わった日本の医師達は,事実に基づく欧州の進んだ医学に対する認識を深め,日本の医学の発展に大きく貢献しました。鎖国下の先人達の努力を思うにつけても,学術の発達に,国際交流がいかに大切かを深く感じさせられます。

医学はこの100年余りの間に,飛躍的な発展を遂げ,人類の健康と幸せに大きく貢献してきました。解剖学は,「解体新書」の例にも見られるように,医学の基礎をなすものであり,多くの解剖の成果が,今日の医学の進歩に寄与していることを忘れることはできません。ここに,医学の進歩のため,死後その身をささげた人々やその家族に,深く敬意を表します。

今日解剖学は,先進的な科学技術を駆使して,肉眼的なレベルから分子レベルにわたる広い領域で研究が行われております。この度の会議においても,世界の各地から集まられた解剖学者が,それぞれの新しい研究成果を持ち寄り,活発な討議が行われるものと期待しております。

「21世紀の新しい生命科学の基礎としての形態科学」をメインテーマに開催されるこの度の国際解剖学会議が実り多い成果を挙げ,世界の医学の進歩と人類の福祉のために貢献することを切に願って,開会式に寄せる言葉といたします。

第24回全国豊かな海づくり大会
平成16年10月3日(日)(サンポート高松(香川県))

第24回全国豊かな海づくり大会が,瀬戸内海を望む,ここ高松市において開催されることを,誠に喜ばしく思います。

本年は台風が多く,各地で大きな被害が生じましたが,ここ香川県においても,8月以来の台風で人命が失われ,家屋や産業なども大きな被害を受けました。亡くなった人々の遺族や災害を受けた人々の悲しみや苦労に深く思いを致しております。皆が協力して災害から順調に復興することを願っております。

我が国の人々は昔から海と深く関わり,海からの恵みを受けてきました。この香川県が面する瀬戸内海も,多くの河川が海に注ぎ,魚介類の産卵場,育成場となる藻場が良く発達し,古くから豊かな海の幸を人々に与えてきました。10世紀に編さんされた延喜式には鯛の貢納国10カ国の一つとして讃岐が挙げられており,当時,この海域が優れた漁場であったことが知られています。

しかし,人口も多く,産業活動の盛んな地域に囲まれた瀬戸内海を昔のような環境に保つことは難しく,今日,海は海岸の埋立て,海砂利の採取,汚水の流入などにより,汚染が進み,様々な生物の生活にとって厳しい状況になりました。その上,漁船や漁具の近代化による過剰な漁獲もあって,種類によっては,資源の減少が見られます。瀬戸内海の環境を良好に保ち,資源の適切な管理を行い,資源を持続的に利用していくことが強く求められるゆえんであります。このような状況下,多くの関係者が,連帯感を持って,瀬戸内海の再生に向けて努力を重ねていることは非常に心強いことであります。一時著しく減少したサワラの漁獲量が,近年,国や瀬戸内海11府県の関係者による種苗放流や漁獲制限など資源回復の取組により,着実に増加していることはこの努力を示すもので誠にうれしく感じております。今後関係者の協力により,多くの魚介類の資源が増加していくことを期待しております。

この大会に集う人々が海に対する認識を更に深め,美しい豊かな海づくりに力を尽くされるよう願い,大会に寄せる言葉といたします。

第161回国会開会式
平成16年10月12日(火)(国会議事堂)

本日,第161回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の深く喜びとするところであります。

ここに,国会が,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,国権の最高機関として,国民の信託にこたえ,その使命を十分に果たされることを切に希望します。

第59回国民体育大会秋季大会開会式
平成16年10月23日(土)(熊谷スポーツ文化公園陸上競技場)

第59回国民体育大会秋季大会が埼玉県で開催されるに当たり,全国から参加された選手,役員並びに多くの県民と共に,開会式に臨むことを誠にうれしく思います。

国民体育大会は,終戦の翌年,戦後の荒廃の中にあって,スポーツの復興を願う人々の熱意により,第1回大会が開催され,以来,各地におけるスポーツの普及と振興に大きな役割を果たしてきました。永年にわたって大会を支えてきた関係者のたゆみない努力に対し,深く敬意を表します。

埼玉県で国民体育大会が開催されるのは,昭和42年の第22回大会以来37年ぶりのことになります。前大会の折には,私どもは,皇太子,皇太子妃として,川口市営プールで行われた夏季大会の開会式に臨み,戸田市と川口市において漕艇及び水泳競技を見ております。さらに秋季大会後に開催された第3回全国身体障害者スポーツ大会のために,再び埼玉県を訪れましたが,当時始められて日も浅かったこの大会が滞りなく行われるよう,関係者始め県民が協力し力を尽くしている姿に接し,深い喜びを感じたことが思い起こされます。

本年は,多くの台風が我が国を襲い,各地で大きな災害が生じたことに心を痛めています。特に,最近の台風第23号は広い範囲に被害を及ぼしましたが,これまでの台風によって亡くなった人々の遺族や災害を受けた人々に,改めて心からの弔意と同情の意を表します。また,ここに集まられた皆さんの中にも,台風のために様々な苦労を経験した人があったのではないかと案じています。

今日から始まる大会において,選手の皆さんには,これまでに身につけた力を十分に発揮するとともに,選手間の,また,地元埼玉県民との交流を深められるよう願っています。

大勢の県民に支えられて開催されるこの大会が,選手にとり,また埼玉県民にとり,心に残る,実り多いものとなることを期待し,開会式に寄せる言葉といたします。

国賓 デンマーク女王陛下及び王配殿下のための宮中晩餐
平成16年11月16日(火)(宮殿)

この度,デンマーク王国マルグレーテ二世女王陛下が,ヘンリック王配殿下と共に,国賓として我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに,今夕を共に過ごしますことを,誠に喜ばしく思います。

女王陛下が初めて我が国をお訪ねになりましたのは,まだ王女殿下でいらした1963年,その後再び1970年の大阪における万国博覧会の賓客として,この時はヘンリック殿下と御一緒にいらっしゃいました。御即位後の女王陛下と王配殿下を国賓として日本にお迎えしたのは1981年,お元気でいらした昭和天皇と共にこの同じ豊明殿において一夕を御一緒いたしました。近年では私の即位の礼に御列席いただいたことを今も深い感謝とともに記憶しております。このように我が国に親しく接していらっしゃる女王陛下をここに再び国賓としてお迎えすることを誠にうれしく思います。

女王陛下に初めてお目にかかりましたのは今から51年前,私が英国女王陛下の(たい)冠式に参列した後,欧州諸国を巡り,貴国を訪れた時のことであります。コペンハーゲンからフュン島に渡って一泊し,翌日ユトランド半島のグロステン城に陛下の父君,母君をお訪ねし,温かいおもてなしを頂きました。当時私どもは共に十代であり,陛下は今の私の一番上の孫と同じ年でいらっしゃいました。

その後,皇后と私は,2度にわたって貴国をお訪ねする機会を得ております。最初は皇太子の時,女王陛下の国賓としての我が国御訪問に対する答訪として昭和天皇の名代の立場で訪問し,2度目は即位後,国賓として訪問しております。いずれの時も女王陛下並びに王配殿下から,心のこもった手厚いおもてなしを頂き,深く感謝しております。このことは,貴国の国民から温かい歓迎を受けたこととともに,私どもにとって,忘れ得ない思い出となっております。

貴国と我が国の間の国交は,1867年,徳川将軍によって締結された最後の修好通商航海条約によって開かれました。以来,第二次世界大戦から平和条約発効までの一時期の中断を除いて,今日までたゆみなく友好関係が続いております。

この間には両国民の間に様々な交流があり,我が国の人々は貴国に親しみ,また貴国から学んできました。来年生誕200周年を迎えるハンス・クリスチャン・アンデルセンは永年にわたって我が国で親しまれてきた作家であり,先年貴国を訪問したときにはオーデンセにあるアンデルセンの幼少時代の家を,ビルン空港まで私どもを迎えにいらしてくださった皇太子殿下の御案内で見てまいりました。

私は先に申しましたように,1953年国王王妃両陛下をお訪ねするためにコペンハーゲンからユトランド半島まで貴国の農業地帯を通ってまいりましたが,その美しいたたずまいは,戦争によって荒廃した国から来たものとして深く印象に残っております。その陰にはプロシア,オーストリアとの戦いに敗れ,国土の三分の一を失った貴国民が「剣を持って失ったものを(すき)を持って取り返さん」として努力した苦難の歴史があることに思いを致すのであります。

私は,それぞれの過去を克服した両国の国民が,今後とも,互いの交流を通じて相互理解を一層深めるとともに,ますます緊密な友好関係を築き,両国のためのみならず,世界の平和と繁栄のために貢献していくことを願っております。

我が国は,今,秋も深まっておりますが,この度の御滞在が,実り多く,思い出深いものとなりますよう,期待してやみません。

ここに杯を挙げて,女王陛下並びに王配殿下の御健勝とデンマーク国民の幸せを祈ります。

第20回国際生物学賞授賞式
平成16年11月29日(月)(日本学士院会館)

トーマス・キャバリエ-スミス博士が第20回国際生物学賞を受賞されたことを心からお祝いいたします。

今回の授賞分野は系統・分類を中心とする生物学でありますが,博士は,生物学の様々な領域の最新の知識を網羅して,生物界全体を(ざん)新な観点から詳細に分類してこられました。中でも,1981年から86年にかけて,生物界全体を6つに大別する「6界説」を提唱されました。当時は生物界全体をモネラ界,原生生物界,植物界,菌界,動物界の5つに大別する学説が広く受け入れられていましたが,細胞内共生により葉緑体を獲得した生物群についての研究から,新たにクロミスタ界を加えることを提唱されたのであります。この6界説はこれまでの説よりはるかに系統関係を反映したものと考えられ,多くの研究者の支持を得ていると聞いております。

私どもの年代は生物界を動物界と植物界に2分する分類に親しんできましたが,この分類には多くの人々が疑問を抱いてきたことと思われます。この度博士の提唱された分類大系を知り,若き日の昭和天皇の研究対象であった変形菌について,かつて昭和天皇から変形菌はアメーバのように動く動物の面があることを伺ったことが改めて思い起されました。

今日生物学の様々な分野の進歩により,それぞれの生物がたどってきた道筋をより正確にとらえ,その道筋に沿って分類大系が構築されるようになってきたことは本当にうれしいことです。今後,博士の御研究がますます発展していくことを切に願っております。

昭和天皇御在位60年に当たり創設され,毎年1人の研究者に贈られてきた国際生物学賞の授賞式も第20回を迎えました。ここに,生物学の発展に寄与された過去の受賞者の業績に思いを致すとともに,この賞をこれまで支えてきた国際生物学賞委員を始めとする多くの人々の労をねぎらいたく思います。

終わりに,国際生物学賞が,今後とも生物学の発展に寄与していくことを念じ,お祝いの言葉といたします。