主な式典におけるおことば(平成19年)

皇太子殿下のおことば(仮訳)

第40回アジア開発銀行年次総会財務大臣主催昼食会
平成19年5月7日 (月)(国立京都国際会館)

昼食会主催者,
総裁,
各国総務各位,
御列席の皆様,

記念すべき第40回アジア開発銀行年次総会が,ここ京都において,世界各国から多くの参加者を迎え,開催されたことを大変喜ばしく思います。今から10年前の福岡総会には私自身も参加の機会を得ましたが,また本日このように皆様と親しく歓談する機会が得られましたことを,心よりうれしく思います。

アジア開発銀行は,その設立以来,アジア・太平洋地域の国々の自立的な開発 を支援してこられました。その間,アジア開発銀行の域内加盟諸国は,多くの困難を克服し,目覚ましい経済成長を成し遂げてこられました。ここに,域内加盟諸国の努力並びにアジア開発銀行がこれまで果たしてきた多大なる貢献に改めて敬意を表します。

しかしながら,この地域においては,依然として約6億人もの貧しい人々が生活しており,貧困の削減はこれからも重要な課題です。さらに,気候変動を始めとする環境問題への対応など,この地域の今後の経済発展を脅かす新たな課題も明らかになっています。

この総会においては,私たちが直面するこうした課題やこの地域の未来につい て様々な形で議論がなされていると聞いております。

日本は,環境問題への取組,伝統文化と先進性の両立,自然との共生などにつ き長い経験を有しています。特に京都は,千年以上もの長い古都の歴史を持っております。

ここ京都でのこの度の年次総会が,アジア開発銀行の加盟国並びに参加された皆様にとり実りの多いものとなることを願い,私のあいさつといたします。

「DIOXIN2007」開会式
平成19年9月3日 (月)(ホテルオークラ)

今回「DIOXIN2007」が,環境と人々の健康に関心を持った,国内外からの多くの参加者を迎え,開催されることをうれしく思います。

これまでの産業の発展によって,私たちは豊かで便利な生活ができるようになりましたが,同時に地球温暖化と環境の汚染を始めとする,環境の劣化という新たな問題に直面してきています。環境化学物質の,人の健康や野生生物への悪影響については,1962年に出版されたレイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」の中で最初に警告が発せられています。その後も様々な研究が進んだ結果,毒性や分解されにくい性質を有し,地球規模で自然や生物等の生態系に蓄積するという特性を有する環境化学物質の危険性が,ますます問題視されてきています。

ダイオキシン国際会議では,1980年の第1回の会議より,このような物質に焦点を当て,最新の研究成果を中心に,情報や意見の交換を行ってきたと聞いております。環境化学物質のリスクを低減させることの必要性は,今では国際社会で広く認識されるようになり,国連を基盤とした枠組みの下でも真剣な取組がなされています。

その対策の基礎として,多分野にわたる学際的な研究を進めることが不可欠であり,今回の会議には,様々な分野の科学者と技術者が集まっていると伺っております。

この東京での国際会議が,参加された科学者・技術者の皆様にとり,実りの多いものとなるとともに,今後この分野での一層幅広い国際的な協力が進んでいくことを願い,私のあいさつといたします。

第1回アジア・太平洋水サミット開会式
平成19年12月3日 (月)(大分県・ビーコンプラザ フィルハーモニアホール)

第1回アジア・太平洋水サミットが,アジア太平洋地域はもとより,世界各国から多くの参加者を迎え,ここ大分県別府市で開催されることをうれしく思います。

水は,地球上のあらゆる生命にとって欠くことのできないものです。しかし,それは,地域的・時間的な偏在性が非常に大きい資源であるがゆえに,世界人口の急激な増加や経済発展,さらには地球温暖化などにより,様々な問題も生じさせております。

このため,国連を始めとして,あらゆるレベルでの国際的な取組が求められています。私も,第3回及び第4回の世界水フォーラムに参加し,人類が抱える多様な水問題について,数多くの参加者が熱心に議論を行い,その解決に向けた具体的行動が取りまとめられていく姿を目の当たりにして心打たれたことを記憶しています。

今回の水サミットは,第4回世界水フォーラムに向けた準備の中から生まれたものだと伺っています。水問題に関心を抱き続けてきた者として,今日この場に出席できることに,ひとしおの感慨を覚えます。

しかし,水問題は,その解決に向けて順調に進展しているわけでは決してありません。衛生問題のように立ち後れが際立ってきている課題もあります。

アジア太平洋地域の状況も楽観視できるものではありません。世界の人口の約6割を占めるアジア太平洋地域には世界の水資源の約4割しか存在せず,2004年現在でも,安全な飲料水を利用できない人がおよそ7億人,基本的な衛生施設を利用できない人がおよそ19億人にも上っています。殊に衛生問題については世界で最も深刻な地域と言えるでしょう。また,もう一つの重要な水問題である水災害について見ると,世界における死者数の8割以上がアジア太平洋地域に集中していることが分かります。

先日も,バングラデシュを襲ったサイクロンにより多くの人命が失われるとともに,家屋や家畜・農作物なども大きな被害を受けました。亡くなられた方々に心から哀悼の意を表しますとともに,御遺族と被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げ,災害からの復旧が一日も早く進むことを願っております。

水問題は,女性の地位向上や初等教育の普及といった多様な課題とも関連しており,それぞれの国の在り方そのものにも大きな影響を与える重要な問題です。こうした中で,各国首脳や政府代表,国際機関,市民団体,産業界や学会の各代表が一堂に会して,アジア太平洋地域に共通する水と衛生の問題について真剣に議論し,解決策を探ることは大きな意義を持つものと考えます。

私はこの度,潘基文国連事務総長からの要請を受けて,国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁に就任しました。大変名誉なことであると同時に,身の引き締まる思いです。諮問委員会は,故橋本龍太郎前議長のリーダーシップの下で「橋本アクションプラン」を取りまとめ,国連「ミレニアム開発目標」の達成に向けて積極的な活動を展開しているところです。この機会に,世界の水と衛生の問題について更に理解を深めるとともに,現議長のアレキサンダー皇太子殿下や委員の方々と協力しながら,名誉総裁の立場から,諮問委員会の活動に貢献してまいりたいと考えています。

終わりに,このサミットが大きな成果を上げ,アジア太平洋地域,さらには世界の水問題の解決に向けた大きな一歩となることを心から願い,私のあいさつといたします。