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19世紀中頃,写真技術がわが国に初めてもたらされてから,わずか20年ほどの間に写真は急速に普及し,各地に写真師が登場しました。新たな明治という時代を迎え,その記録性が重視された写真は,明治天皇の御巡幸や全国の古器旧物の記録など,公的な活動にも用いられました。そうした中,明治11年(1878)に大蔵省印刷局に写真撮影所が設けられ,公の機関としての活動が開始されました。 本展で紹介する「人物写真帖」の制作は,明治12年,明治天皇が深く親愛する群臣の肖像写真を座右に備えようと,その蒐集を宮内卿に命じられたことに始まります。そして,宮内省主導のもと,大蔵省印刷局が撮影や写真帖の制作を担当し,この事業は進められました。現存するこの写真帖の総冊数は39冊,有栖川宮幟仁親王を始め皇族15方,諸官省の高等官ら4531名が収められており,そこには,幕末から明治維新にかけて,改革に奔走し,新政府の成立に尽力した人物に加え,各分野で日本の近代化を担った人々の姿があります。また,このうちの15冊には,肖像写真とともに小色紙に記された621名分の詠進歌が収められており,本作品制作の特殊性を示しています。 自らの姿を撮影する機会の少なかった時代,この写真帖のための肖像撮影が,初めての体験であった人も少なくなかったでしょう。多くの高等官がその関心の有無にかかわらず写真撮影を経験したことは,日本国内において,その普及を格段に進めることにつながったと考えられます。 今回の展覧会では,わが国の写真の歴史において,重要な役割を果たした事業として位置づけられる本作品の全容と共に,若き明治天皇を支え,日本の近代化の礎を築いた人々の姿を紹介いたします。 展覧会図録(PDF形式:98.4MB) |