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富士は,古くから霊峰として信仰の対象とされた山であり,今も日本を代表する名山です。また,和歌に詠まれ,名所絵の画題となるなど,文学や美術と深く関わってきた山としても知られています。その富士は,明治以降,日本の象徴としての意味合いを次第に深め,また皇室にふさわしい景物としてとらえられるようになりました。こうした様子は,御下命や献上を目的に制作された近代の作品に,この富士を主題としたものが数多く見られることにも表れています。 近代における富士図は,明治の半ばまでは実景に即した写実的表現を重視する意識が強くうかがえます。しかし,国のシンボルとしての存在感を次第に増し,あらためて聖山としての性格が付与された富士は,徐々に理想化され美しい姿に描かれるようになっていきました。 本展では,日本画,洋画,写真などの様々な作品から,近代における富士図の表現の特色を浮き彫りにしていくと同時に,横山大観を中心とした作家らの作品を通して,それぞれが富士に託した理想的な美や皇室への尊崇の念を考察していきます。 明治,大正,昭和と時代の移り変わりとともに表現の変遷を重ねながらも,日本人の心の拠り所であり続けた富士。その魅力に,あらためて接していただければ幸いです。 展覧会図録(PDF形式:57.7MB) |