京都御苑の仙洞御所の池に生息するビワヨシノボリRhinogobius biwaensisとシマヒレヨシノボリRhinogobius sp. BFの野外交雑個体

天皇陛下が共著者と執筆されたハゼの交雑に関する論文「京都御苑の仙洞御所の池に生息するビワヨシノボリRhinogobius biwaensisとシマヒレヨシノボリRhinogobius sp. BFの野外交雑個体」が,2019年4月5日発行の魚類学雑誌オンライン版に掲載されましたので,お知らせします。

著者: 明仁(※1),藍澤正宏(※2,3),池田祐二(※2),岸田宗範(※2),林 公義(※2),中山耕至(※4),中坊徹次(※5)

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概要

京都御苑の仙洞御所の池で採集されたヨシノボリ属魚類は,形や模様などから当初は琵琶湖特産のビワヨシノボリ(Rhinogobius biwaensis)と思われた。しかし,詳しく観察すると,背鰭の前にある鱗の数や鰭の模様でビワヨシノボリとわずかに異なっているところが見つかった。仙洞御所産のヨシノボリ属魚類を遺伝的方法(ミトコンドリアDNA分析・マイクロサテライトDNA分析)で調べた結果,ビワヨシノボリとシマヒレヨシノボリ(Rhinogobius sp. BF)の間に生じた雑種ということが判明した。

一般的に,異なった種の間で生まれる雑種の個体は繁殖能力が無い場合が多く,交雑第一世代限りの一時的なことが多い。しかし,仙洞御所の池ではビワヨシノボリとシマヒレヨシノボリとの間に生じた交雑個体同士が繁殖し,交雑個体のみからなる雑種群として存続していることが判明した。

仙洞御所の池が位置する京都盆地北東部は,淀川水系鴨川の流域であるが,明治23(1890)年に完成した琵琶湖疏水によって琵琶湖南湖からの導水が行われている。琵琶湖疏水は仙洞御所の池をはじめ,平安神宮など京都市内の多くの園池の水源としても利用された経歴を持っている。ビワヨシノボリは琵琶湖に固有であるが,琵琶湖疏水を通じて京都盆地北東部の池沼に移り住んでいたと思われる。そして,仙洞御所産ヨシノボリ属魚類は,琵琶湖から移り住んだビワヨシノボリと,京都盆地北東部とその近隣域に元々分布していたと考えられる非回遊・湖沼性のシマヒレヨシノボリとが,交雑して生じたと考えられる。

詳細な遺伝的分析により、野外環境下でヨシノボリ属魚類の近年の種間交雑について確かな証拠を示したのは本研究が初めてである。本論文の結果は,ヨシノボリ属魚類では人為的な移植などにより交雑が生じ,結果として自然環境下で存続してきた種が失われる場合があることを示唆している。そのため,種の認識や命名を行う上では,包括的な調査研究を踏まえて慎重に行う必要があると考えられる。

掲載雑誌

オンライン公開:魚類学雑誌第66巻平成31(2019)年4月5日

                           J-STAGE早期公開DOI: 10.11369/jji.18-044

                           (紙媒体:魚類学雑誌第66巻1号に掲載予定)


●仙洞御所産ヨシノボリのお写真はこちら

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