皇太子殿下 マレーシアご訪問時のおことば(一覧)

マレーシア

平成29年4月14日(金)
マラヤ大学での皇太子殿下のおことば
【実際のおことばは,英語で述べられています。こちらのページでは,和訳したものを掲載しています】

ナズリン・シャー殿下
ご列席の皆様

Selamat Petang (こんにちは。)

日・マレーシア外交関係樹立60周年の記念の年にマレーシアへの訪問が実現し,本日,マレーシアの最高学府の一つであるマラヤ大学を訪問できたことを誠に嬉しく思います。マレーシア最古の由緒ある大学として,多くの政治家,外交官,科学者,医者,技術者などを輩出し,社会の進歩,国の発展,そしてASEANの興隆などに貢献してきたことに敬意を表したいと思います。

1970年,当時の皇太子同妃両殿下であられた天皇皇后両陛下が貴大学を訪問され,この講堂の近くで記念植樹をなさいました。その際に植えられた樹がしっかりと大地に根を張り,大きく枝を広げ,この大学とともに日本とマレーシア両国の友好の象徴となっていることを感慨深く感じております。

日本を出る前の会見でもお話ししたのですが,私が初めてマレーシアという国に接したのも,まさに今申し上げた1970年の,当時皇太子,皇太子妃であった天皇皇后両陛下によるマレーシアご訪問ではなかったかと思います。その時,両親からマレーシアについてどのような話があったかは,はっきり記憶していませんが,子供心に,王様がいる国「マレーシア」を意識したことは確かです。また,私は,子供の頃,日本や外国の切手を集めることが好きで,その中に,MALAYAという文字と,人の顔と虎がデザインされたものがありました。これはどこの国の切手だろうかと思い,両親に尋ねたところ,それはマレーシアとなる前のマラヤ連邦の切手であることが分かり,興味を覚えたことも記憶しています。今回,マレーシアを訪問することが決まり,切手帳をもう一度めくってみたところ,その切手は,私が生まれた1960年の6月10日に発行され,切手に描かれた方は,マラヤ連邦ジョホール州のスルタン・イスマイルであることを知りました。そのほかにも,パハン州やスランゴール州のものもありましたが,残念ながら,本日ここにおられるナズリン・シャー殿下のご出身地,ペラ州のものは見つかりませんでした。

ナズリン・シャー殿下の父君,故アズラン・シャー殿下は,1991年に両陛下がマレーシアをご訪問になられた際に国王陛下としてお迎え頂きました。その折に,予定されていたペラ州ご訪問が叶わなかった両陛下は,そのことをとても残念に思っておられましたので,2006年にペラ州でナズリン・シャー殿下とともにお会いになることができて,安堵されておられました。また,両陛下は,これまで貴大学を2度ご訪問なさいましたが,その時のことをとても懐かしく思っておられます。私も,両陛下から,その当時のことや国王陛下,ナズリン殿下のことをとても楽しそうにお話しされているのを伺った記憶がありますので,皇室と貴大学,そしてマレーシア王室の交流の歴史を振り返る意味でも,本日この場に立てたことをとても嬉しく思います。

日本とマレーシアの外交関係は,1957年8月31日,マラヤ連邦が独立を宣言したまさにその日に樹立され,以後60年にわたりたゆみない友好と協力の関係が続いています。マレーシアにとって,我が国は最も長年にわたる二国間関係の歴史を持つ国の一つだと承知しています。ただ,歴史を紐解きますと,両国の人々の交流はさらに古くから行われており,16世紀の琉球王国とマラッカ王国との間の交易や17世紀の朱印船による交易などの記録が残っております。また,20世紀初頭には,多くの日本人がゴム栽培や鉄鉱石の採掘,漁業などに関連してマレーシアを訪れ,生活の基盤を移した方もおられたと承知しています。

今日,両国の関係は,政治,経済のみならず,科学技術や文化など様々な分野で緊密なものとなっていますが,その背景にはマレーシアが1982年からとられた「東方政策」,そしてその原点となった貴大学の「予備学部・日本留学特別コース」の存在を無くして語ることはできないと思います。

1984年に初めて日本に留学した学生はわずか39名でしたが,今日までの間に4,000人を超える学生がここマラヤ大学から日本の大学に巣立っていきました。マレーシア国全体からは,これまでに1万6千人もの優秀なマレーシアの若者が留学生や研修生として我が国に派遣されました。これらの人々が我が国で多くの人々と友情を育み,帰国後様々な分野において活躍されておられることは,誠に心強く,今後の両国間の相互理解や友好関係の増進に大きく寄与いただけるものと確信しております。

また,現在では,日本人のマレーシア留学者数も非常に増加していると伺っています。2014年には約1,600人もの日本の若者がマレーシアに留学しているとのことです。これらの学生は,自らの勉学に励むとともに,いろいろな民族や文化,宗教が共生するマレーシアの多様性を尊重する社会のあり方から学べる点も大きいと思います。

私の専門である「水」問題や防災・減災についても,両国がお互いの経験から学ぶことは大きいと思います。私は,一昨年,国連本部で開催された「国連水と災害に関する特別会合」で行った基調講演の中で,クアラルンプールにあるSMARTトンネルに言及しましたが,このトンネルを今回視察する予定です。これは,交通渋滞の緩和と洪水時の排水という二つの課題に同時に対処するという,世界的にもとても珍しい施設だと承知しており,今回の視察を楽しみにしております。

今回の私のマラヤ大学訪問が,両国と国民の間の長年にわたる強固な関係をさらに促進する一つの機会となることを願っております。次の60年とその先を見据え,学識者間の交流が進み,研究者,学生の皆さんが学問を一層向上させ,また,学界・産業界,公共部門・民間部門,若者と壮年,男女といったすべての人々が,友好と協力を一層深め,豊かにしていくことが期待されています。

そして,そのためにも、今後両国が,二国間協力のみならず,共に位置する東アジアの地域において地域協力をさらに進め,東アジア,さらには世界の平和と繁栄のために貢献していくこと,さらに,日本とマレーシアの両国の国民,とりわけ若い人々が互いの交流を通じてともに学び合い,相互理解をいっそう深め,協力していくことを強く期待いたします。

両国の外交関係樹立60周年という機会に,これまでの両国の「人と人」の交流の基盤がさらに強固なものとなり,両国の友好親善が一層深まることを祈念して,私の挨拶といたします。

Terima Kasih (ありがとうございました。)

皇太子殿下のご感想

平成29年4月17日(月)
マレーシアご訪問を終えて

この度,マレーシア国からのご招待を受けて,「日・マレーシア外交関係樹立60周年」の機会に,私にとって初めてとなるマレーシア国訪問を行いましたことを大変うれしく思います。今回の訪問を通じ,何世紀にもわたり交流の歴史があるマレーシアとの親善友好関係がとても強固であることを実感しました。

まず,今回の訪問中,ムハマド5世国王陛下をはじめ,ナズリン・シャー副国王殿下,ナジブ首相ご夫妻など,マレーシアの王室,政府の関係者の皆様から心のこもった,温かいおもてなしを頂いたことに,深く感謝いたします。国王陛下には,王宮にて盛大な晩餐会を催していただき,楽しくまた有意義な時間を過ごさせていただきました。また,両陛下もご親交のあるナズリン・シャー殿下には,今回の訪問中,2度にわたりお会いすることができ,両陛下から伺っていた思い出話を含め,日本の皇室とマレーシアの王室の緊密なつながりについても触れることができました。両陛下が培われてこられた交流の歴史を踏まえ,これからも世代を超えてマレーシア王室との親交を深めていくことができればと思います。さらに,今回の訪問に際し,訪問先の施設関係者をはじめ,受け入れに当たって尽力いただいた方々に,改めて感謝申し上げます。

今回の訪問で最も印象深かったことは,マレーシアという国が,多様性に富み,同時に寛容の精神からそれぞれの特徴を生かして,共存・共生しながら国の発展を進めてきたという点です。国立博物館では,マラッカ王国の誕生から,現在のマレーシア成立までについて,日本人ボランティアの方から詳細な説明を伺いましたが,様々な民族的,宗教的,文化的背景を有する人々がマレーシアという一つの国を形作る過程で,そうした多様性と寛容性が極めて重要な役割を果たしたということを改めて強く認識しました。

また,今回の訪問は,若者たちの交流がいかに重要であるかを考えるよい機会にもなりました。マラヤ大学では,かつて日本に留学をしていたマレーシア人などから話を伺い,また,日マレーシア関係にゆかりのある日系人のご家族ともお会いしましたが,こうした方々の多大なご努力とご苦労が,今の両国間のきわめて良好な関係の礎となり,この基礎の上に今の私たちがあるのだと感じました。そして,そうした良好な関係を維持・強化していくためにも,今後とも若い方々が交流を通じて相互に理解を深めていくことを期待しています。

今回視察したプルマタ・ピンターやマラヤ大学,高校生弁論大会などにおいて,マレーシアの若者たちが発想も豊かに勉学に励んでいる様子をこの目で見て,この子供たちはきっと将来大きく羽ばたくであろう,そして日本とマレーシアとの懸け橋となってくれるであろうことを確信し,とても心強く思いました。また,マラヤ大学では,陛下が植えられた樹が深く根を張り大きく枝を伸ばした姿を拝見し,まさしく現在の日マレーシア関係の発展を象徴するようで,感銘を受けました。今回,私も陛下のお隣に植樹をしましたが,その樹が50年後,同じように根を張り,枝を広げ,日マレーシア関係の象徴となることを期待しています。

さらに,今回の訪問で個人的に楽しみにしていたSMARTトンネルは,実際にこの目で見,関係者の説明を聞かせていただきましたが,期待に違わず素晴らしい施設であり,自分の研究テーマである「水」問題の観点から大変参考になりました。こうした各国の優れた知見を皆が共有し,お互いに学びあうことで,世界が直面する課題を解決していくことが重要であり,私も可能な貢献を続けていきたいと思います。

最後になりますが,今回の訪問をきっかけとして,両国の「人と人」の交流の基盤がさらに強固なものとなり,中でも若い世代の人たちが,お互いの交流を通じて共に学び合い,相互理解を深め,協力していくこと,そして,それによって両国の友好親善が一層深まることを強く期待しています。

なお、今回の訪問に雅子が同行することができなかったことは残念でしたが,本人もマレーシア国よりのご招待を大変ありがたく思っております。ムハマド5世国王陛下,ナズリン・シャー副国王兼マラヤ大学学長はもとより,現地でお目にかかった多くのマレーシアの方々から雅子に対し,温かいお言葉を頂いたことに厚くお礼申しあげます。