主な式典におけるおことば(平成28年)

文仁親王妃殿下のおことば

第38回聴覚障害児を育てたお母さんをたたえる会
平成28年1月18日(月)(憲政記念館)

 「第38回聴覚障害児を育てたお母さんをたたえる会」の開催にあたり、皆さまとお会いできましたことを大変うれしく思います。

 本日は、最初に聴覚障害児を育てたお母さま方への表彰がございます。この表彰は、特殊教育100年を迎えた昭和53年に始まり、今日までに8400名以上の方々が受賞されました。今年も、全国の各地から、お母さま方やご家族がここに集われています。
 皆さまがお子さまを育てられる過程では、幾つもの困難があったことでしょう。そのような中で、お子さまをしっかりと立派に育てられましたことに、心から敬意を表します。

 続いて、聴覚障害者で社会貢献の著しい方への表彰がございます。この度受賞されるのは、弁護士として、人々の抱える多様な問題に、取り組んでこられた方と伺っております。これまでのご活動に対して、深く感謝申しあげます。

 そして、「第11回全国聾学校作文コンクール」の金賞受賞者の表彰がおこなわれます。今年も、小学生、中学生、高校生が様々な思いや経験を作文に書いてくれました。ご自分の気持ちや体験を言葉にして書き表すことは、今後の人生を逞しく生きる上で、大切な力になることでしょう。

 この度受賞される皆さまに、心からお祝い申し上げます。

 聴覚障害に関わる分野で長年にわたり尽力された方々に感謝の意を表しますとともに、障害に対する理解がさらに深まり、皆が安心して豊かに暮らせる社会が築かれますことを願い、大会に寄せる言葉といたします。

「第63回産経児童出版文化賞」贈賞式
平成28年6月2日(木)(明治記念館)

 本日「第63回産経児童出版文化賞」贈賞式に出席し、皆さまにお会いできましたことを大変うれしく思います。
 また、この度受賞された皆さまに、心よりお祝い申し上げます。

 優れた本は、子どもたちの大切な心の糧となります。子どもたち一人一人に、よい本と出会う機会が与えられますようにという願いは、多くの人々が思い続けてきたことでしょう。

 このような中で63回目を迎えた「産経児童出版文化賞」では、8冊が選ばれました。

 今年も受賞作品を、大きく三つに分けて考えてみました。

 一つ目は、子どもたちが親しみやすい言葉や絵、写真などで、大事なことを表現した4冊の本です。

 大賞の『築地市場 絵でみる魚市場の一日』は、東京の築地市場の活気あふれる様子を描いた絵本です。市場を支える人々やお店、運搬用の車などが丁寧に描かれ、作者の絵やせりふからはユーモアを感じると同時に、市場の張りつめた空気や、働く人々の真剣さも伝わってきます。真夜中の市場に積み荷が降ろされてから、私たちの手に届くまでに、
どれほど多くの努力が夜通し続けられているかについて、思いを巡らしました。

 『理科好きな子に育つ ふしぎのお話365』は、どのお話も、興味深く、面白く読めるものでした。単に知識を覚えるのではなく、「こんなことがあったか」と驚き、「なぜだろう」と思う気持ちを自然に抱かせるよう、説明文や絵、写真が工夫されていました。大人にとっても、科学の世界について、不思議さを楽しみ、考え、理解を深めるきっかけになるのではないでしょうか。

 『すぐそこに、カヤネズミ』は、絶滅が危惧されているカヤネズミやその巣を研究してきた作者が、やさしく語りかける本です。カヤネズミが住み続けることができる環境を守るために、周りの人々がつながり合えるよう努力する中で、作者が感じた苦労や喜びが感じられます。この本は、草地などの身近な自然環境と私たちの暮らしとに目を向ける、よい機会になることでしょう。

 『いもうとガイドブック』は、イギリスの絵本を翻訳した作品です。主人公の女の子が感じる小さい妹との関係が、明るくきれいな色使いで描かれていました。姉妹が経験する様々な場面を語るユーモアあふれる言葉に、共感する人も多いのではないでしょうか。一日の終わりに、主人公が、「いろいろあるけど、いもうとがいてよかった」と言い、その後で二人が寄り添って眠る姿は、とてもほほえましいと思いました。

 二つ目は、重い事実をしっかりと書き表して深い印象を与える、2冊の本です。

 『トンネルの森 1945』は、子どものときに疎開などを経験した作者が、自らの戦争体験をもとにして綴った物語です。実感のこもった描写で、主人公とともに、森の中にたたずんでいるような気持ちになりました。戦後70年という節目を迎えた昨年は、多くの関連書籍が出版されました。この本も、戦争の体験を次の世代に伝える上で、大切な役割を果たしていると思います。

 『テンプル・グランディン 自閉症と生きる』は、アメリカのノンフィクションの翻訳作品です。主人公は、様々な辛い経験をしますが、あきらめることなく努力を続け、家畜が安心し快適に暮らせる施設の設計者として、活躍するようになりました。困難を乗り越えて成長していく主人公の姿は、私たちに、自分の可能性を信じて、難しく思えることにも取り組む、勇気を与えてくれるように感じました。

 三つ目は、繊細で少しふしぎな味わいを持つ、2冊の本です。

 『あの花火は消えない』は、ある少女の夏の物語です。彼女は、母親の入院を機に、小さな街で祖父母と暮らしはじめます。絵を描くことが好きな青年や、同級生との出会いが、手渡された透明なビー玉、庭で鳴いていたチャボ、夏草に囲まれた坂道などとともに、少女の心に刻まれていきます。かけがえのない思い出が、静かな海辺の風景の中に表現された作品でした。

 『宮沢賢治「旭川。」より』は、大正12年に旭川を訪れた宮沢賢治が書き記した、「旭川。」という詩に着想を得た絵本です。風景や鳥、街の様子が、独自の色使いと構図で描かれています。宮沢賢治が感じた旭川と、作者が自らの体験から想像を広げた大正時代の旭川とが、どのように重なっているのか、と思いながら、ページをめくりました。

 いずれも、それぞれが豊かな個性を持った、興味深い作品でした。

 本年もこのような児童書が紹介されますことを、大変よろこばしく思います。これまでこの児童出版の分野で、尽力してこられた皆さまのご努力に深く敬意を表しますとともに、未来を担う子どもたちのために優れた作品が、今後も発表されることを願い、式典に寄せる言葉といたします。

「2016イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」50回記念式典
平成28年6月30日(木)(板橋区立美術館)

 本日、「2016イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」50回記念式典に出席し、皆さまにお会いできましたことを大変うれしく思います。この展覧会のために、長年力を尽くしてこられた方々に、深く敬意を表します。また、入選された皆さまに、心からお祝い申し上げます。

 1967年から、児童書専門の見本市「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」にともなう催しとして始められた「ボローニャ国際絵本原画展」は、日本をはじめ、世界から多くのイラストレーターが集う、子どものための質の高い絵本の原画展として大きく発展して参りました。そして、絵本原画を審査されてきた著名なイラストレーターや編集者の皆さまのご努力とご協力により、すばらしい作品が選ばれてイラストレーターの才能が花開く機会となっておりますことを、誠によろこばしく思います。

 1978年に、日本の西宮市大谷記念美術館において、ボローニャで開かれた絵本原画コンクールの入選作品が初めて紹介され、次第に開催館が増えて参りました。最近は、板橋区立美術館と一般社団法人日本国際児童図書評議会の協力により、国内を巡回しております。

 日本とイタリアの絵本原画展の関係者が、力を合わせて実現した質の高い展覧会が、様々な分野の専門家の丁寧な仕事によって支えられていることを、大変心強く思っております。

 私も、毎年、この展覧会で、絵本原画を美術として鑑賞することを楽しんでおります。絵本のために描かれた一枚一枚の絵が、独自の世界を語ってくれているようで、絵本の新たな可能性について気づかされます。このような展示で見る絵本原画は、絵の好きな子どもには言葉の面白さを、言葉に興味がある子どもには絵の魅力をと、子どもたちの関心を広げてくれるのではないでしょうか。

 また、展覧会では、ご家族で心和む時間をすごしたり、椅子に座って想像の世界にひたったりするなど、思い思いの形で楽しんでいらっしゃることでしょう。

 このような意義深い展示が、ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアの貢献によって実現されています。関係者の皆さまに、心から感謝いたします。

 ここ板橋区立美術館では、展覧会に加え、入選されたイラストレーターの講演会や、子ども向けのワークショップなども開催されています。2004年には、ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアから寄贈された絵本を収蔵する「いたばしボローニャ子ども絵本館」が開館しました。そして、2005年には、ボローニャ市と板橋区との間に「友好都市交流協定」が締結され、国際交流がおこなわれています。

 今年は、イタリアと日本との国交樹立150周年にあたり、先月、宮様とご一緒にイタリアを訪問いたしました。ボローニャでは、ボローニャ大学などを訪れたほか、世界各国の児童書が並ぶ、サラボルサ図書館をご案内いただき、日本人のお母様方による読み聞かせの活動も拝見しました。また、ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアの関係者や、絵本作家、児童書の編集者などとお話をすることができました。

 これらのことを通して、こどもの本と関わる私たちは、次の世代をすこやかに、心豊かに育てたいという、共通の思いで結ばれていると感じました。

 これからも、日本の多くの人々が、世界の素晴らしい絵本原画にふれる機会を得られますよう願っております。そして、世界中の子どもたちが、質の高い絵本との、幸せな出会いに恵まれことを期待しております。

 皆さまのますますのご活躍を祈念して、式典に寄せる言葉といたします。

「第50回全日本聾教育研究大会(附属大会)」開会式
平成28年10月13日(木)(和洋女子大学講堂)

 「第50回全日本聾教育研究大会」の開会式にあたり、全国からお集まりの皆さまにお会いできましたことを大変うれしく思います。

 この全日本聾教育研究大会は、昭和42年に、名古屋において初めて開催されました。それ以来、毎年開かれているこの全国大会では、授業研究のほか、各分科会に分かれて、会員それぞれの研究や教育実践報告と熱心な議論がおこなわれてきました。長年にわたり、聴覚障害教育の専門性を高めるために、皆さまが、たゆまぬ努力をされてきましたことに対して、深く敬意を表します。

 近年、聴覚障害者を取り巻く環境は、大きく変わってきています。社会における手話の広がり、技術の進展と普及などは、多様なコミュニケーション手段の選択と活用の向上をもたらしています。更に、高等教育機関への進学者が増え、様々な分野での活動に積極的に参加し、就労が可能な職種が拡大しています。これらは、大変よろこばしいことです。

 この度の大会の主題は、「聴覚障害教育の専門性の更なる追求と共有」であります。ここにご参加の皆さまは、聾学校やその他の学校に勤める方、大学や研究所に勤める方など、多様な方々がおられると伺っております。こうした皆さまが、社会や時代の変化に伴い見えてきた聴覚障害教育の課題や新たな役割について考え、学びを深めていくこと、そして、それぞれが積み重ねてきた教育実践や経験を共有し、多面的な意見交換をおこなっていくことは、意義深いことだと思います。

 今までに、学校を訪れて、きこえない子どもたち、きこえにくい子どもたち、聴覚障害の他にも障害をもつ子どもたちと会う機会がありました。そこでは、先生が、児童・生徒の気持ちや興味、関心に寄り添いながら、心の動きや生活に根ざした、言語指導をはじめとする教育活動をおこなっていました。また、教員が、授業の組み立て方や発問を検討し、教材の工夫をしつつ、聴覚障害児一人一人の教育的ニーズに対応した教育の実現に取り組んでいることを知りました。子どもたちが、よりよい環境の中でそれぞれのもつ可能性を大きく伸ばし、積極的に社会参加へとつなげていくことを願っております。

 木々の葉が色づきはじめ、秋の深まりを感じる季節となりました。この大会が実り多いものとなるよう、そして、皆さまがご健康を大切にされ、聴覚障害教育の一層の発展のために力を尽くされますよう心から願い、式典に寄せる言葉といたします。

「第6回アジア・オセアニア・キャンプ大会」開会式
平成28年10月29日(土)(国立オリンピック記念青少年総合センター)

It is a great pleasure for me to meet you here today, at the opening ceremony of “the 6th Asia Oceania Camping Congress”. As I cherish my memories of camps since my childhood, both as a participant and as a volunteer, I have been looking forward to attending this congress with you, who have such wide experience of camps.

I would like to extend my special welcome to participants from abroad. I very much hope you will have a memorable stay in Japan, which is blessed with beautiful nature and culture.

I understand that your organized camps provide opportunities for participants to build relations with others, foster resilience, and improve their self-esteem, as they experience something different from their ordinary lives. I feel that activities to appreciate nature and diverse cultures are helpful for participants to extend their capabilities. Such camps have been realized by the cooperation of many hard working people including well trained and experienced staff with the necessary skills. I would like to express my sincere respect to all of you who have been making efforts to bring about high-quality camps.

For example, it is very encouraging that “special needs camps” have been organized, and there are some camp sites with universal design. I am delighted to find that handicapped children have been able to relate to nature, stretch their abilities, and experience a sense of achievement and success in these camps. Also, I feel grateful to hear that children with serious illnesses and their families have been spending precious time in camps specially designed for them.

I am very impressed that “grief camps” have been assisting children who are living in difficult conditions with heartbreaking experiences. I believe that grief camps, in which children can share their feelings with others and learn that they are not alone, are valuable gifts to those suffering pain in their hearts as a result of the loss of loved ones. I would like to take this opportunity to express my gratitude to those who have kindly extended their support for carrying out camps after the Great East Japan Earthquake in 2011.

I imagine that each one of you has been building up your own camping history. There might have been camps filled with joy, or camps with difficult challenges, but I am sure that each camp has contributed to your ability to organize better camps in future. I hope that this congress will allow you to spend a fruitful time, sharing experiences and ideas, and holding discussions to explore further possibilities for camps. I also hope this conference will offer a good chance to raise awareness of the important roles played by organized camps.

In closing my address, I wish you all good health and success, and hope that organized camps will bring valuable experience to people.