主な式典におけるおことば(平成29年)

文仁親王妃殿下のおことば

第39回聴覚障害児を育てたお母さんをたたえる会
平成29年1月23日(月)(憲政記念館)

 「第39回聴覚障害児を育てたお母さんをたたえる会」の開催にあたり、皆さまにお会いできましたことを大変うれしく思います。

 本日は、最初に聴覚障害児を育てたお母さま方への表彰がございます。この表彰は、昭和53年に始まり、今日までに8400名以上の方々が受賞されました。今年も、全国から、お母さま方やご家族がここに集われています。

 近年、聴覚障害をもつ子どもたちの生活環境が、大きく改善されてきました。しかし、そうした子どもたちが、言葉を学び、円滑なコミュニケーションをとることには、難しい面もあると伺っております。お子さまを育てられる過程では、不安や困難にも直面され、はかりしれない努力をされてきたことでしょう。このような中でも、皆さまが強い勇気と希望を持ちながらお子さまをしっかりと立派に育てられましたことに、心から敬意を表します。

 続いて、聴覚障害者で社会貢献の著しい方への表彰がございます。この度受賞されるのは、聴覚障害者として昨年5月、初めて世界最高峰のエベレスト登頂に成功した登山家で、今までも幾つものことに挑戦し続けてきた方と伺っております。そのような彼の姿勢に、多くの人々が大きな勇気を得たことでしょう。

 そして、「第12回全国聾学校作文コンクール」金賞受賞者の表彰がおこなわれます。聴覚障害をもつ児童・生徒にとって、ことばを身につけコミュニケーション能力を高めることは、生活を豊かにする上で重要なことの一つだと思います。今年も小学生、中学生、高校生が自分の思いを言葉に載せて、数多くの素晴らしい作文を寄せられました。

 この度受賞される皆さまに、心からお祝い申し上げますとともに、今後の益々のご活躍を期待しております。

 聴覚障害に関わる分野で長年にわたり尽力されてきた方々に感謝の意を表しますとともに、聴覚障害者に対しての理解が一層深まり、皆さまが安心して豊かに暮らせる社会が築かれますことを願い、大会に寄せる言葉といたします。

公益社団法人日本助産師会創立90周年記念式典
平成29年6月2日(金)(品川区立総合区民会館)

 日本助産師会が創立90周年を迎え、本日、皆様とともにお祝いできますことを、誠にうれしく思います。また、この度、表彰を受けられる方々にお祝い申し上げますとともに、今までのご功績に深く敬意を表します。

 助産に携わる人々は、長い歴史の中で専門職として認められておりましたが、時を経て助産師として制度化されて、今日に至っております。それぞれの時代における様々な困難の中で最善を尽くしてこられた助産師の姿を思うとき、そのお仕事の尊さに、深い感慨を覚えます。


 「いのち」の誕生に寄り添い、生まれてきた子どもを育む家族を支えるために、知識を深め、そして技術を高め、豊かな人間性を築く努力を重ねてこられた助産師の皆様に、心から感謝いたします。

 助産師には、正常な分娩を支える自立的な実践力とともに、リスクの高い妊産婦や非常時には産科医師の下へ対応を迅速に移す、適切な判断力が求められます。また、妊娠から出産、育児にわたり、親子をあたたかく見守り、心身の健康を支え、困ったときに頼りになる存在であることも、期待されています。こうした状況のもと、日本助産師会は、「助産業務ガイドライン」をはじめ、様々なマニュアルや指針の作成、研修会の開催や認証事業の実施など、優れた助産師を育てていくことにも力を尽くしてこられました。

 現在、多くの出産がおこなわれる病院や診療所では、「院内助産システム」や「助産師外来」などが普及しています。助産院も含め、地域の産科施設が協力する周産期医療ネットワークの構築などの取り組みも、進んできております。このように助産師が、他の専門職とも連携しながら一層の役割を発揮する体制が築かれつつあることは、大変意義深いことと思います。

 少子化や核家族化、そして地域の変容が進む昨今、出産や乳幼児の子育てを身近に経験することがないまま親になる人、身の回りに相談できる相手がいない人の数も増えております。そうした状況の中で、日本助産師会が取り組んでいる「子育て・女性健康支援センター」や助産所の活用、助産師による電話相談によって、妊娠・出産・子育てをはじめ、思春期から更年期までの健康の疑問などについて、丁寧な対応がなされていることを、誠に心強く思います。小中学校や高等学校、大学で助産師がおこなう教育活動も、「いのち」の大切さを伝える上で、大事な役割を果たしています。また、東日本大震災や熊本地震を始め、災害時においても、地域の助産師は、妊婦や乳幼児とその家族の声に耳を傾け、困難な状況をすばやく理解し、細やかな心遣いで支えてこられました。

 国際協力の分野でも、意義深い取り組みがおこなわれています。平成27年7月には、「ICMアジア・太平洋地域会議・学術大会」が横浜市で開催され、私も出席して、世界各地の母子保健活動の現状にふれることができました。以前より、日本助産師会とベトナムの助産師会との交流・協力がおこなわれてきたこと、そして現在では、モンゴル助産師会との協力活動も始まっていることを伺い、大変喜ばしく思います。

 これからも、助産師の皆さまがさらに研鑚を積まれ、幅広い専門職種の人々と協力しながら、私たちの社会の未来を築くために欠かせない、大切なお仕事に力を尽くしてくださいますよう、願っております。

 この記念式典が、健やかな次の世代をもたらす助産師の献身的なお務めが一層広く理解されるよい機会となりますよう希望するとともに、皆さまのご健康と一層のご活躍、お幸せをお祈りし、私のお祝いの言葉といたします。

「第64回産経児童出版文化賞」贈賞式
平成29年6月9日(金)(明治記念館)

 本日「第64回産経児童出版文化賞」贈賞式に出席し、皆さまにお会いできましたことを、大変うれしく思います。
 また、この度受賞された方々に、心よりお祝い申し上げます。

 良質の本は、読む人へ、これまで経験したことのない事柄や、生まれる前の出来事、自分にはない視点などを伝えてくれます。そして、それらのことに思いを巡らしてみたり、共感したりするなど、読者の思考に幅を持たせてくれるように思います。このことは、特に、成長過程にいる子供たちにとって、大切なことではないでしょうか。

 今回の「産経児童出版文化賞」では、8冊が選ばれました。

 大賞の『世界のともだち』は、全36巻の写真絵本です。写真家の方々が、世界各地の子どもたちの所に滞在し、日々の暮らしや家族とのひととき、学校生活、食事や年中行事の様子などを、丹念に写しています。子どもたちが見せる様々な表情には、きっと共感する部分もあれば、驚くこともあります。またもっと知りたい気持ちを抱くこともあるでしょう。何冊も読み続けていくうちに、それぞれの子どもと家族の今やこれからについて、豊かな想像が膨らんでいくと思います。

 このほかに、現代の子どもを描いた本が4冊あり、いずれも、他の存在を受け入れていく過程が描かれているように思いました。

 『ぼくたちのリアル』は、小学5年生の男の子の深まる友情を、こまやかに、いきいきと描いた物語です。3人の男の子、リアルとアスカとサジがかわす言葉や、それぞれの行動、そして繊細な心の動きが、読み手をひきつけきます。

 『トンチンさんはそばにいる』も、舞台は小学校です。不思議さをもつ男の子を、同級生の2人が温かく見守っている作品です。感受性豊かな子どもたちが、お互いの考えに心を寄せ、ゆっくりと気持ちを通わせていく様子が感じられました。

 『わたしのこねこ』は、女の子が、家に新しくやってきた子ねことやりとりをする様子を描いた、可愛らしい絵本です。ねこと一緒に暮らし、距離が近づく中で見せる女の子の優しい眼差しや、ねこの表情やしぐさを、独特の技法を使って穏やかに描写しています。

 翻訳されたアメリカの絵本『おばあちゃんとバスにのって』は、おばあちゃんと一緒にバスに乗り、ボランティア食堂でお手伝いをする男の子のお話です。様々な人と出会い、率直な意見を述べる男の子に、おばあちゃんが明るく優しい言葉で答えるやりとりが、心に響きます。

 これらと少し趣の異なるものとして、昔のことを、今の子どもたちが興味を持てるように工夫して表現した本が、3冊ありました。

 『ちゃあちゃんのむかしばなし』は、高知県の四万十川流域に伝わる昔話の豊かな世界が、他の地域の人々にもわかりやすく綴られた作品です。読み聞かせをする子どもたちが昔話に親しみ、また、各章に添えられた説明にも、興味が湧いてくるのではないでしょうか。

 『アイヌのむかしばなし ひまなこなべ』は、アイヌの文化の保存・継承に力を尽された萱野茂氏の志を大切にしつつ、長い歳月をかけて創作されたお話です。語り手であり神であるクマが伝えるこの物語を通して、アイヌの人々が大事にしている考えや世界感が、子どもたちの心に届くことでしょう。

 『奇想天外発明百科』は、ポーランドの美術史家と、ユニークな作風で知られる画家との夫妻による絵本です。古代から現代まで、世界の人々が考えた面白い発明を集めた本。子どもたちが、わくわくしながらページをめくる姿が思い浮かびます。

 このような児童書が紹介されますことを、大変よろこばしく思います。関係する皆さまのご努力に深く敬意を表しますとともに、未来を担う子どもたちのために優れた作品が、今後も発表され、広く読まれることを願い、式典に寄せる言葉といたします。

第21回国際疫学会総会
平成29年8月19日(土)(大宮ソニックシティ)

It is a great pleasure for me to meet all of you from various parts of the world at this opening ceremony of the International Epidemiological Association’s “Twenty-First World Congress of Epidemiology”. I would like to extend my special welcome to participants from abroad. I very much hope you will have a memorable stay in Japan.

First of all, I would like to express my deep respect to all of you for your continuous efforts on epidemiology over many years.

The theme of this Congress is “Global / Regional / Local Health and Epidemiology in a Changing World.” People in many areas of the world are experiencing socio-economic and environmental changes, and those changes affect people’s health on various levels. Epidemiology explores the distribution of people’s health conditions and factors related to them, and its role is becoming increasingly important in this changing world.

I have been involved in the prevention of tuberculosis and the continuum of care for expectant and nursing mothers and children, and thinking about various challenges to our health. For example, a large number of people, especially those with socio-economic difficulties, are suffering from infectious diseases such as tuberculosis, malaria and HIV/AIDS, which are preventable and treatable. As for maternal and child health, it has been pointed out that problems in social circumstances and the environment, as well as family issues such as maltreatment, are affecting the mental and physical health of children.

Our experience with tuberculosis in Japan might be an interesting case for you. Japan has succeeded in reducing tuberculosis dramatically in the 20th century. However, tuberculosis patients currently include a sizable proportion of elderly people, which increases the difficulties of treatment. Among younger tuberculosis patients, the proportion of those born overseas has been increasing.

I believe that it is very important to implement necessary and appropriate measures fully taking into account the reliable and scientific results of epidemiology, accumulated by ethical research that respects the people being studied and their families. Also, I hope that wider public understanding of the trustworthy work carried out by epidemiologists will enable us to cooperate with health professionals, to avoid misleading information, and to better protect our own health.

I understand that quite an impressive program has been prepared for this Congress including symposiums, lectures, and presentations. I would like to express my sincere gratitude to those who have worked so hard on the preparations for the Congress. I hope that this Congress will be a good opportunity to facilitate communication among participants from diverse backgrounds, and that it will be fruitful for all of you.

In closing my address, I wish you all good health and success, and hope that your work on epidemiology will make a valuable contribution to the well-being of all of us, and of our future generations.

第40回聴覚障害児を育てたお母さんをたたえる会
平成29年12月18日(月)(憲政記念館)

 第四十回聴覚障害児を育てたお母さんをたたえる会の開催に当たり、全国からお集まりの皆さまとお会いできましたことを大変うれしく思います。

 本日は、最初に、聴覚障害児を育てたお母様方への表彰がございます。この表彰は、昭和53年に始まり、今日までに8500名以上の方々が受賞されました。

 聴覚に障害を持つ子どもたちが、コミュニケーションの能力と、社会で生きていく力を身につけるまでには、幾つもの難しい課題があると伺っております。皆さまは、お子様が言葉を学び、興味や関心を広げ、学校などの集団生活での多様な経験を通して、社会の中で自分らしく生きていくために、はかり知れない努力や工夫を重ねてこられたと思います。また、不安や難問に直面されたこともおありだったでしょう。そのような中で、周囲の支えや、新たなうれしい発見、出会いなどに勇気づけられながら、希望を持って、お子さまを立派に育てられましたことに、心から敬意を表します。

 続いて、社会貢献の著しい聴覚障害者への表彰がございます。今回の受賞者は、青年海外協力隊員としてドミニカ共和国のろう学校で教鞭を執るなど、途上国の障害者支援に貢献されました。国際的なご活躍をされていることを心強く思います。

 そして、「第13回全国聾学校作文コンクール」の金賞受賞者の表彰がございます。今年も小学生、中学生、高校生が、考えていることや経験したことなどを、自分の言葉で書き表してくれました。この度、受賞される方々を始め、作品を寄せてくださった小学生、中学生、高校生一人一人が、今後もますますことばの力をのばしていくことを期待しております。
 これから表彰を受けられる皆さまに、心からお祝いを申し上げます。

 むすびに、聴覚障害者に関わる分野でご尽力された方々に感謝の意を表しますと共に、聴覚障害に対する理解がさらに深まり、皆が安心して豊かに暮らせる社会が築かれますことを願い、大会に寄せる言葉といたします。